私を支えてくれる言葉
三日間の休日は、のんびりと過ごしました!
一日目の朝は、冒険者ギルドへ行って、査定してもらっていた、魔物の常設依頼の達成報酬と売却報酬をもらった。
相変わらず別室でのやり取り。
ただ、キロの森の中の状態はあまり芳しくないらしい。
持ち帰った魔物の死体が、今までキロの森で確認された魔物とは全く異なり、なおかつ強力な種が増えているようだった。
それが終わればお買い物!
これはほぼいつも通り。
ハルルが来てから、食材の消費量がとてつもなく跳ね上がったので、大量に買い込む。
相変わらず、四人一緒に仲良くバザールやお店を回った。
もうすっかり顔なじみと言った感じになったなー。
いっぱい買うから、おまけしてくれるのは嬉しい。
次は服屋。
今回は私の切られた服とマントの補充が目的。
着せ替え人形の刑にはされませんでした!
よかった……。
次はどこかに遊びに行ったりするのかな? って思ってたんだけど、特に出かけることもなく、家でのんびりまったり過ごした。
私の文字の勉強はまだ続いているけどね!
簡単な本くらいだったら読めるようにはなったよ!
折角だから、お料理を楽しむことにした。
電子レンジと温度調整をスイッチ一つでできるオーブンが、どれだけ便利だったのか、思い知らされる。
実はルーリの家には、オーブンもどきみたいな魔導具がある。
普通の家庭は、石窯を使うんだって。
文明の利器に囲まれて生きてきた私に、石窯は難易度が高すぎる!
ただ、温度調節は勘頼り。
とりあえず、簡単なクッキーを作ってみて、大体の温度加減は把握できた。
遺跡調査に持って行ってたクッキーは、オーブンもどきを試行錯誤して作った結果だった。
スコーンとか、パイとか沢山お菓子を作った。
美味しそうに食べてくれるみんなの顔は、やっぱり私に元気をくれた。
特にこれと言った問題もなく、休養は終了。
三人がずっとそばにいてくれたのは、嬉しかった。
そして、私達は今、東の草原にいる。
今回から、私、リステル、ルーリ、ハルルの四人に加えて、コルトさん、シルヴァさん、カルハさんが同行している。
「とりあえず、お嬢様達はいつも通り討伐をしてみてください。私達は見学していますので」
「「「はーい!」」」
「ん」
ルーリが、空間収納から赤黒い液体の入った瓶を取り出し、中身をばらまく。
「ルーリさん、それは血か?」
「そうです。ただ歩き回って探すもの効率が悪いので、血抜きをしたときに、ある程度確保しておくんです」
「だが、その程度だと、あまり効果が無いと思うんだが?」
「そこは瑪瑙の出番です。瑪瑙、お願い」
「はいはーい。メロウウィンド」
私は魔法を発動し、広範囲に匂いをばらまく。
この、血の生臭さは慣れないなー。
「メロウウィンドでも、そこまで遠くには、匂いを運べないだろう?」
シルヴァさんは何やら考えている様子だけど、
「シルヴァ。ぼーっとしてると危ないよ」
リステルが注意する。
しばらくすると、
「来た」
ハルルが大鎌をかまえた。
一角猪がこちらに突進してくるのが見えた。
「おっと。アタリが来た! エンゲージ! いつも通りに綺麗に行こう」
リステルの号令に、
「「了解!」」
「ん!」
と返事をし、
「フローズンアルコーブ」
地面と足を凍らせて突進を止めて、
「アースバインド」
ルーリが地面にしっかり固定して、暴れられなくする。
リステルが剣を抜いて近づいて、一気に目を貫く。
動かなくなることを確認して、リステルが空間収納にしまう。
「あらー。あっさり倒しちゃったわねー」
カルハさんがのほほ~んと言った。
「流れるような連携でしたね。魔法の扱いも上手かったですが、ハルルさんの気配を感じ取る能力もかなりのもののようです」
コルトさんはふむふむと言った感じで、感想を述べる。
「メロウウィンドも、私の想定を超える範囲にいきわたっているようだ」
「いっぱい来てる。突撃狼」
ハルルが注意を促す。
突撃狼七匹の群れもあっさり倒し、狩りは順調に進む。
「……これはいけませんね。相手が弱すぎますね。お嬢様、良ければ近接戦で戦ってもらえませんか?」
「んー。瑪瑙いけそう?」
「むー。頑張ってみる」
あんまりしたくないんだけど、稽古をつけてもらえるといった手前、断りづらかった。
「私中央、瑪瑙左、ハルル右でいくよー!ルーリはフォローお願いね!」
スーハ―スーハ―。
深呼吸をする。
よし!
今度は突撃狼十匹の群れ。
一回り大きな個体はリーダーだろう。
駆けてくる狼の群れに向かって走り出す。
相手の動きをよく見て、落ち着いて、すれ違いざまに一匹の首を斬り上げる。
次に、振り返りこっちに向きなおそうとした狼の前足を刎ね、行動不能にする。
「メノウちゃーん! アブソリュートエンド使ってみてー!」
いきなりそんなことを言われた。
残っていたのは、リーダーのみだった。
剣の血を振り払い、剣を鞘に納めて、一閃。
突撃狼程度なら詠唱なんていらない。
剣が届く必要もない。
一瞬青白い輝きが漏れた瞬間、突撃狼の頭部だけが凍り付き、絶命する。
「間違いなくアブソリュートエンドだったな。しかも無詠唱か。頭部だけを凍らせる程度に手加減もしているみたいだな。」
「あの鞘から一気に抜き放つのにも驚いたけどー、しっかり魔法が剣に纏っていたわねー」
「お嬢様が教えたと言っていただけあって、動きの基本は良く似ていますね」
そこからは、もう自由にしていいと言われ、いつも通りのスタイルに戻して、狩りを続けた。
いつも通り夕方頃には冒険者ギルドへ向かい、倒した魔物の査定をしてもらいに行く。
「お嬢様。明日も同じような感じで討伐をするんですか?」
「ん? 明日は午前中はお買い物だよ。昼食を食べてからまた東の草原予定だけど」
「では、明日のお昼からの時間を少しいただけませんか?」
「こう言ってるけど、みんなはどう?」
「私は別に構わないわ」
「ん。ハルルもいい」
「瑪瑙は?」
「私も大丈夫」
次の日のお昼。
私達はまた東の草原にいる。
「お嬢様はまずは私と手合わせをお願いします。メノウさんとルーリさんはシルヴァについてもらって、魔法の教育を受けてください。ハルルさんは、私とお嬢様の手合わせをしっかりみておいてください」
そういって、私達の訓練が始まった。
「まずは、どれほどの魔力を操作できるのかを見せてもらいたい。ルーリさんはロックバレット、メノウさんは……なんでもいい。下位下級の魔法を無詠唱で、できる限り最大出力で出してみてくれ」
そう言うと、ルーリの周囲にこぶし大の岩が数百、浮遊する。
「これは、思ってた以上だな。今でもそこらの魔法使いとは比べ物にならない程、能力は高いな。次はメノウさんだ」
私は少し悩んでいた。
火はこの草原を丸焼けにしてしまう。
土は膨大な量が、草原に残ってしまう。
氷の魔法は、中位下級からの魔法だから、だめ。
風は周りを吹き飛ばしてしまう。
すっと両手を上げて、ウォーターボールを発動する。
人の頭位の大きさの水球が、空を覆いつくすほど、上空に浮かぶ。
その数は、私も良くわからない。
でも本気は出していない。
「なんだこれは……。ありえないぞ……。メノウさん、疲労感はないのか?」
「あらあらー。これは想像以上って言葉すら霞むわねー」
剣の打ち合いをしていた、コルトさんもリステルも、見学していたハルルも空を見上げていた。
「青いフレアキャノンを無数に上空に作ったのを見てたから知っていたけど、瑪瑙は凄まじいわね」
ルーリが話す。
「よし、消していいぞ」
私の魔法は、行使の終了と共に魔力となって霧散しない。
このまま解き放ったら、大洪水だ。
流石にそれはまずい。
私は全ての水球を凍り付かせ、粉々に砕けさせた。
砕け散った氷片が、太陽の光に照らされて、キラキラと舞い散った。
「ははっ。ここまでされると、笑いしかでないな」
シルヴァさんが呆然と言った感じでつぶやいた。
こうして、私達の稽古が始まったのであった。
シルヴァさんの教えもあって、私は四属性を上位上級まで習得することができた。
シルヴァさん自身は、風属性が上位上級まで使え、他が中位下級まで使えるほどの腕前だった。
ただ、他の魔法にも対応できるようにと、全属性の上位上級までの魔法を覚えているそうだ。
私は早々に、
「後はこの本を読んでしっかり覚えることだ」
と、一冊のぶ厚い本を渡されて、コルトさんとの訓練に参加しろと言われてしまった。
本の中身は、いわゆる魔導教本で、様々な攻撃魔法の他にも、防御魔法、補助魔法が書かれていた。
コルトさんの剣術の稽古は、リステルから教わっていたのとほぼ変わりなかった。
まずは型をしっかり覚えて、その後打ち合い。
木剣での打ち合いはまだ何とかなった。
刃がない模造剣での訓練になってくると、実戦形式になっていき、私は怖くて動けなくなってしまった。
真剣だと、剣を振ることすら、できなくなった。
「メノウさん。魔物相手には戦えるんですから、しっかりしてください。そんなことだと、この先何かあったら殺されてしまいますよ?」
この世界では、討伐対象が「人」になる場合がある。
盗賊などのならず者。
そう言った、犯罪行為を行う連中を生死関係なく、討伐する依頼があるのだと言う。
依頼ではなくても、護衛途中に、人に襲われる場合もある。
そう言った場合、捕縛するのではなく、確実に殺してしまうそうだ。
人を傷つけてはいけません、殺してはいけませんっと言う、私の世界の常識では考えられない世界だった。
確かに、日本でも、傷害事件や殺人事件は普通に起こっていた。
でも、それはほんの一部で、殺したり殺されたりが当たり前の世界ではなかったはず。
怖かった。
魔物は、何とか殺せた。
まだモヤモヤするけど、何とか殺せるようになった。
完全に割り切れたわけじゃないけど、日本でも狩猟は行われていたし、牛や豚のお肉だって、私達は食べている。
そう言ってこじつけて、魔物を殺している。
じゃあ人は?
無理に決まっているじゃない。
それでも、訓練は続く。
何とか少しずつ、体は動くようになっていった。
相手はリステルの師匠だ。
私なんかがどうこうできるはずもなかった。
止められ、躱され、受け流される。
そんなことがしばらく続いたとき、 コルトさんの右肩をざっくりと切ってしまった。
その瞬間、私は剣を放り出し、治癒魔法をかけようと近づいた。
「あっ! こらっ!」
コルトさんの剣が私の左肩に突き刺ささる寸前で、止められた。
「メノウさん! 危ないじゃないですか! 何をしようとしているんですか!」
厳しい口調で怒られる。
私はそんなことお構いなしに、今も血が流れている、コルトさんの右肩に治癒魔法をかけた。
「ごめんなさい! すぐに治します!」
「メノウさん。あなた、人を斬るのが怖いんですね?」
「……はい。コルトさんは怖くないんですか?」
「んー。怖いですよ? 正直、魔物なんかよりずっと怖いです」
「魔物よりですか?」
「魔物なんかより、ずっと知性があるぶん、人間は厄介です。魔物にできることは、大抵人間も真似できますし、それ以上の事もしてきます。油断していると、あっという間に殺されてしまいます。……殺されるだけなら、まだましかもしれませんね。何しろ私達は、女ですから」
背筋が寒くなる。
言わんとしていることがわかってしまったから。
「メノウさん。シルヴァが無責任なことを言ったことは、謝罪します。変に期待を持たせてしまいました。オルケストゥーラへは、行かないことをお勧めします。今のあなたでは、きっとどこかで死んでしまうでしょう。あなたでなくとも、お嬢様やルーリさん、それにハルルさんが、あなたのせいで死んでしまうかもしれません」
ビクッと体が震える。
私が死ぬ?
私のせいで誰かが死ぬ?
「フルールで、生きていけばいいじゃないですか。剣はもう置いておきましょう。魔法だって使わなくていい。お嬢様もルーリさんもハルルさんも、きっと喜んでくれますよ?料理がとてもお上手らしいですね。お嬢様が嬉しそうに話してましたよ?そうやって、安全に生きていけばいいじゃないですか」
諦める?
確かに考えたことはある。
遺跡を吹っ飛ばしたあの時から、もう帰る方法は見つからないんだと思っていたから。
諦める?
四人で一緒に暮らすことも考えた。
みんなで楽しんで食事の準備をして、私が料理したのを、美味しそうに食べてくれる三人の顔を思い出す。
諦める?
オルケストゥーラと言うところに行っても、帰る方法が確実にあるとは限らない。
無かったらどうするの?
ピシッ
またどこかで、何かにヒビが入る音が聞こえた気がした。
「わかりま――」
そう言いかけたところで、コルトさんが真横に吹き飛んだ。
「何勝手なことを言っているの? コルト。前にシルヴァに言ったよね? それ以上言うと怒るよって。コルトは瑪瑙の何を知っているの? 瑪瑙がどれだけ苦しんでいるか、知ってて言ってるの? 何も知らないくせに! 無責任なことばかり言うなっ!」
「ゴホッゴホッ。容赦ありませんね。ウィンドショットを横っ腹に叩き込んで、吹っ飛ばすなんて」
「私が本気だったら、コルトは今頃真っ二つよ」
「クリスティリアお嬢様。メノウさんは戦闘には向いていません。能力は確かに凄いです。ハッキリ言って、クリスティリアお嬢様以上です。シルヴァもカルハも言っていました。化け物だと。私もそう思います。でもそれとこれとは別です。見てたでしょう? 私を少しばかり切ってしまったくらいで、あの狼狽えようを。優しすぎるんです。純粋すぎると言ってもいいです。旅に出ると、絶対に人間との争いは避けられません! それでメノウさんが死んだらどうするんですかっ! メノウさんの目の前で、メノウさんのせいで誰かが死んだら! メノウさんがどうなるかとか考えましたかっ!」
よろけながらも立ち上がり、声を張り上げるコルトさん。
「そんなこと、考えてないわけないじゃない」
「ならどうして……」
「このままフルールに根ついて、四人で暮らしたら。そんなことを私は何度も考えた。きっとルーリもハルルも。でもね。フルールにいても、瑪瑙は死んじゃうのよ! ずっと諦めきれない思いを引きずって! 心が死んじゃうのよ! 私はそんな瑪瑙なんて見たくない! 瑪瑙は私が守るわ。絶対誰も死なせたりなんかしない!」
「メノウさんを苦しめることになってもですか? オルケストゥーラへ行っても、元の世界に戻る方法があるとは限らないんですよ? むしろ、そんなものがあれば奇跡でしょう」
「それでも私は行く。そこになくても、次を探す!」
「どうしてそこまで」
「瑪瑙が好きだから! 大好きだから! 笑ってる顔が好き! 料理が好き! 嬉し泣きなら見たっていい。でも諦めて笑っている顔なんて見たくない!」
涙が止まらなかった。
気が付けば、私は嗚咽を漏らして泣いていた。
一緒にいたいって言ってくれたリステルにも、私も一緒に連れて行ってと、私にお願いしたルーリにもごめんなさいって言ったのに。
それでも一緒にいることを選んでくれたことを、私は凄く嬉しく思った。
「もし見つけてしまったら、メノウさんはクリスティリアお嬢様達の前から消えてしまうんですよ!」
「それでも、瑪瑙には笑ってて欲しいから」
「はぁ……。メノウさん。あなたはいったい何者なんですか……。魔法や剣の腕もそうですが、クリスティリアお嬢様がこんなに執着心をむき出しにするなんて、見たことありませんよ」
コルトさんは、ため息をつきながら、私に問いかける。
「日本って言う国から来た、ただの一般人ですよ」
「メノウさん。いいえ、もう"さん"をつけるのはやめましょう。メノウ。覚悟を決めなさい。苦しむのなら、今ここで盛大に苦しんでしまいなさい! クリスティリアお嬢様の気持ちを無駄にしないためにも、ここでしっかり戦い方を学んでいきなさい!」
真っすぐに見つめられて、言われる。
気圧されそうになったけど、ぐっと力を込めて見つめ返す。
覚悟しよう。
あそこまでリステルに言われたんだ、言ってもらえたんだ。
頑張るって決めたのは私だ!
「お願いします!」
大きな声で言い放つ。
「むー。私は瑪瑙に無理はしてほしくないんだけどなー」
「クリスティリアお嬢様。ハルモニカ王国内ならいざ知らず、他国への長旅になります。どうせ、冒険者としての活動をしながら、旅を続けなければいけなくなるでしょう。何かあってからでは遅いのです。メノウが大好きなんでしょう? クリスティリアお嬢様も、甘ったれたことを言ってないで、覚悟なさいっ!」
「っ! コルト先生。わかりました」
「久々に、先生って呼ばれましたね。徹底的に教えます。ルーリさんにもハルルさんにも、徹底的に」
「まずはメノウ。私が少々傷ついても、気にする必要はありません。あなたも自分が傷つくことを恐れてはいけません。あなたには治癒魔法があります。終わったら治せばいいんです。死んでしまっては治せません。しっかりついて来なさい」
「はいっ!」
その日から、稽古は、修行と言ったほうがいいくらいに、苛烈になった。
シルヴァさんとの訓練も再開された。
今度は、魔法使いとしての立ち回りと、戦闘の仕方を徹底的に教え込まれた。
今は、魔法使い同士の戦い方、魔法の撃ち合いをしている。
「メノウ! まだ躊躇いがあるぞ! お前は四属性を巧みに操ることができる。できるだけ先手必勝を狙っていけ! 後手に回っても、落ち着いて対処しろ! お前なら小手先のテクニックを使うこともできるし、力任せにぶっ飛ばすこともできる! 魔法の引き出しをしっかり増やしておけ!」
「はいっ!」
カルハさんとの訓練も始まった。
魔法剣士の戦い方は、剣や体に魔法を纏わせ、自身を強化して戦うだけではない。
剣で戦いながら、常に周辺の状態を意識し、瞬時に判断して、適切な魔法も使う。
そんな一瞬の状況判断能力が必要なのだ。
「メノウちゃんも大変なことになったわねー。この世界で生まれた子なら、こんなに辛い思いなんてしなくてよかったのにねー」
炎を纏った剣を振りながら、カルハさんはのほほ~んと話す。
ただし、話し方からは全然想像できないくらいに、剣戟は激しかった。
「もしこの世界の人間だったら! っつ! リステルにも! ルーリにも! ハルルにもっおっとっと。きっと出会えてませんよ!」
氷を纏った剣で対抗しながら話す。
話す余裕があるのは、コルトさんから剣術を叩きこまれているおかげだ。
「メノウちゃん、剣に纏ってる属性の魔法と、放出する魔法の属性を別けられるようになりなさーい」
「はいっ!」
一日交代で、討伐依頼と、修行を交互に行った。
勿論、二日に一回の買い物も休んでいない。
討伐は、七人で、規模を広げて狩るようになった。
流石にコルトさん達も、生活費が必要になってきているそうで、一緒に討伐依頼を受けることにした。
沢山狩ったつもりだったんだけど、一向に東の街道の魔物被害は減らないらしい。
これは別に原因があるのでは?っと思ったのだが、魔物は繁殖力と成長力が異常に高いらしく、一度増えた魔物は、そう簡単には減らないとのこと。
最初はみんなぐったりするぐらいにしごかれた。
事情を話したら、ルーリもハルルも嫌な顔一つせず、納得してくれた。
「私だって、瑪瑙の事大好きなんだから! 瑪瑙が頑張ってる時に、私だけ頑張ってないのはヤダ!」
「ハルルも瑪瑙お姉ちゃんの事大好きだもん! 負けないもん!」
ただ、困ったことも起こった。
一つは、ハルルの食べる量が増えました!
私の十五倍くらい食べるようになっちゃった。
最初はみんなぐったりしながら食事の準備をしていた。
何度かは、外食で済ましたが、
「「「瑪瑙(お姉ちゃん)の料理が良い!」」」
そんなことを三人に言われた。
っということで、食事は全部自宅ですることになった。
討伐依頼を受ける日は、朝早くからお弁当を作って持っていく。
昼食は、ハルルはそんなに食べない……と言っても私の五倍くらいは食べてるけど。
二つ目は、私達四人と、コルトさん達三人の仲が非常に悪く、諍いを頻繁に起こしていると勘違いされたこと。
理由は、私達とは別に、東の草原の討伐依頼を受けてきた冒険者パーティーが、修行をしている私達の姿を何度も見かけたせいである。
噂を聞き、不安に思ったセレンさんのお願いで、こっそりアミールさんとスティレスさんが見に来ていたそうだ。
いつもの別室で報酬を受け取る際に、ちゃんと誤解を解いておいた。
言い訳するのが難しかった。
私のためなんて言えないし、コルトさん達が、リステルの教育係だったことも言えない。
そんなわけで、以前にリステルとパーティーを組んでいた人達が、私達を鍛え直してくれていると言うことになった。
はてさて、セレンさんにはどこまで通用するのやら。
半月ほどが経ち、戦闘訓練が少し落ち着きだした頃に、コルトさん達は、家で一緒に昼食を食べるようになった。
細かなレクチャーや、その日の課題を貰いながら、昼食をとり、東の草原へ修行にでかける。
「メノウの料理を食べたら、外食じゃ満足できなくなりますね……」
「正直、メノウに金を払ってでもいいから、せめて夕飯だけでも食べさせてくれないかって思ってるぞ」
「ほんとメノウちゃんの料理は美味しいけど、準備をリステルちゃんが手伝っているっていうのも驚きよねー」
「お夕飯食べに来るのは良いですけど、その分手伝ってもらいますよ?」
「いやー、私達料理できないんですよね……」
「カルハが作ってしまうから、それにまかせっきりだな」
「うふふふー。二人は料理なんて覚えなくてもいいのよー? 二人の料理は私が作ってあげるんだからー」
まーたカルハさんから黒いオーラが溢れてる。
カルハさんって二人の事、物凄く好きみたいで、嫉妬深くて、独占欲も強いみたい。
……私はここまで酷くはないよね?
唯一許されてるのが、私達って感じ。
そしてまた、半月が経った。
ここに来て、ようやく東の街道の魔物被害が減り始めた。
だけど、まだ多いことには変わりないらしく、当分は警備隊からの依頼は取り下げられないそうだ。
私達七人は、討伐者と呼ばれ、私達が狩りを行っている間は、獲物が自分たちの所に来なくなることで有名になっていた。
そして、とある日。
今日も早朝から、ギルドに報酬を貰いにいくと、いつも通り、セレンさんに別室に案内された。
ただ、今回はガレーナさんが、部屋にいた。
「いつもご苦労様ですわ。警備隊からも、お礼を言って欲しいと頼まれてしまいました」
ガレーナさんが話し始める。
「さて、私がここにいることに疑問を抱いている方の方が多いと思いますので、先に事情を説明してしまいますわね」
「リステルさん、メノウさん、ルーリさん、ハルルさんの叙勲が正式に決まりましたわ。決定までに日数がかかったのは、災害級の魔物である風竜を討伐するという、前代未聞のことで、決議はかなりもめたそうですの。それも二体も倒してしまったのですから、荒れに荒れたそうですわ」
「叙勲を辞退ってできるんですか?」
何となく聞いてみた。
「……。できるわけがありませんわ。叙勲式は、首都ハルモニカにある王城で行われますわ。叙勲を正式に決めたと言うことは、国王が、その功績を認め、わざわざ式典の準備もすると言う事です。それを辞退するとなると、国王の顔に泥を塗る行為に当たりますわ。国外逃亡を考えても無駄でしょうね。残念ながら、周辺国家との関係は非常に友好的で、罪人を引き渡す条約も結ばれていますの」
叙勲式が首都の王城で開かれると聞いて、私達七人全員が嫌な顔をしたらしい。
リステルの事情を知っていると、そんなところに行きたくないと、思ってしまうのは当たり前だろう。
「そこまであからさまに嫌な顔を全員にされると、こちらも悪いことをしているような気分になるので、やめていただけませんか……」
ガレーナさんの笑顔がピクピク引きつっている。
「詳しい事情まではわかりませんが、リステルさんが関係していることは、わかりますよ。っというかリステルさんが、王家から出奔された、クリスティリア様だとわかった時は、どうしたものかと頭を抱えましたよ……」
セレンさんがすっごいしかめっ面をしている。
「あーバレちゃいましたか。まあ、セレンさんには隠し事をしても、無駄なのは重々承知してましたけど。あ、これからもリステルと呼んでください。クリスティリアと呼ばれるのは正直、嫌なので」
リステルが開き直る。
「バレちゃいましたかじゃないですよ! コルト様にシルヴァ様、それにカルハ様が親しげに話せる人って考えたら、すぐにリステルさんの正体に思い至りますよ!」
セレンさんが声を大きくして言う。
「ちょっと! コルト達のせいじゃない! せめて私みたいに偽名を使うとかしておきなさいよ!」
リステルがコルトさん達に怒る。
「あー。その辺りの事はまったく考えてませんでしたね。それに私達は、騎士団務めでもありませんでしたし、名前なんて知っている人なんていないと思っていました」
「だな。良く調べたものだ。感心する。」
「そうねー。様をつけて呼ばれたのは初めてかもー?」
「良く言いますよ! クオーラ様の守護騎士なんて呼ばれているのに!」
あ、この三人って結構凄い人だったんだ……。
「セレン、少し落ち着きなさいな。話しが逸れていってますわよ」
「うう。ごめんなさいガレーナ」
「そう言うわけでして、首都へ出向してもらうことになると思いますが、その前に、以前お話した、領主が会ってお話しをしたいそうなので、明後日、四人には領主の館に出向いてもらうことになりますが、かまいませんか?」
「私の事は知っているんですか?」
「安心してくださいまし。伝えていませんわ。ただ、領主がどこまで知っているのかは流石に知りませんわ」
と言う事で、私達はフルールの街の一番偉い人に会いに行くことになりました。
……用事があるのなら、向こうから出向くのが礼儀じゃないのかなーって思ったのは内緒です。
ガレーナさんから封蝋のついた手紙を貰い、一度家に戻ることにした。
お偉いさんに会うときの礼儀作法とか、私とルーリとハルルは、全く知らなかったからだ。
慌ててレクチャーを受ける。
正直、すっごく面倒くさかった……。




