首都へ
「それじゃあ、いくよ」
ヘッケルの外壁の外、九人が見守る中、リステルが再び遺物に魔力を流す。ぼんやりと少しずつ遺物に紫の光が流れていくのが、私の目には映っている。しばらくするとみんなにも紫色の光が見えるようになり、見守っている全員が息を飲む。
遺物の中央に小さな七色に光る渦が現れ、少しずつ大きくなる。大きくなった七色の渦は一筋に纏まって、遺物の底部へと吸い込まれるようにして消えていく。そして光が吸い込まれて消えた同じ位置から、今度は上へと向かって幾重にも光が伸びていき、幾何学模様が描かれた扉が出現する。
「凄い……」
その不可思議な光景を初めて目にした人達から声が漏れる。
光の扉が開く。開いて見えた先の光景は、この世界とはまた別の、私達の知らない世界が広がっていた。
「よかった。この間見た所と全く同じ場所に繋がったみたい。ルーリが言っていた通り、この遺物には場所を選んだりする機能はないみたいね」
扉の向こう側の景色を見て、メラーナはほっと息をつく。
「メラーナ! 気をつけてね」
「うん! ありがとう! みんなと出会えたお陰で魔界に帰れるよ! メノウ!」
「なに?」
「無理はしちゃだめよ? それと、あんまりみんなに心配させちゃだめだからね?」
「うん、わかってる。メラーナ、あなたのおかげで、私はまたみんなと一緒にいることができる。本当にありがとう」
「えへへ。どういたしまして! 料理すっごく美味しかったよ」
出会って数日しか経っていないが、それでもメラーナが居なくなることに寂しさを感じてしまうほどに、私達は仲良くなれたと思う。
「メラーナ!」
メイド服のグレースさんがメラーナに駆け寄る。
「メラーナ! 私、何の役にも立てなかったわ……」
涙を流すグレースさんの手を、メラーナはそっと握る。
「そんな事ないわ。グレースがいたから、私はこの世界を知る事も、楽しむこともできた。この世界で私の最初の友達で一番の友達。それがグレースなんだから!」
「――っ! わ、私の事、忘れないでね……。元気でね?」
「うん! 忘れないよ。グレースも元気でね?」
メラーナはつないだ手をゆっくり離すと、扉の向こうへと足を踏み入れた。
「それじゃー! みんな! 元気でね!!」
光の扉の向こう側から手を振るメラーナ。少しずつ扉が閉じていき、やがて光の扉は、揺らめいて消えてしまった。
「……行っちゃったね」
私達はしばらくの間、遺物を黙って見ているのだった。
「……」
「あ、メラーナ。やっほー」
「やっほー! じゃなーい! なんで扉がまた開いてるの?! びっくりしちゃったじゃない!」
「いやー、私が遺物を使ったら、元の世界に繋がらないかなーって」
目の前の美少女が、高い位置で結った髪を揺らしながらテヘヘと笑っている。
「あー……なるほど。それで試したって訳?」
「うん」
「寂しい気持ちが吹っ飛んじゃった!」
私は少し頬膨らませて拗ねて見せる。
「ごめーん」
彼女は両手を合わせて笑っている。
「もう!」
「……えへへ」
「……あはは」
「それじゃあね。メラーナ」
「うん、またね! メノウ」
「――! またねっ!」
私の言葉に、彼女はぱあっと顔を明るく綻ばせる。そして、再び私の目の前で光の扉は揺らめき、消えてしまった。
「そっか……。また会うと思えば、会えるんだ……」
少しだけ眼の前がぼやける。何も考えないで自然と出た言葉だったけれど、その事実に気づけて、さっきまで寂しさいっぱいだった私の心は、どうやらどこかへいってしまったようだ。
「んー! さ、まずは帰還して、先生と連絡とらなくちゃ!」
一つ大きく伸びをして、私は帰って来たこの地をゆっくりと歩き出す。いつか、きっとまたみんなとまた会える。そんな予感を感じながら。
「繋がらなかったのう……」
サフィーアが私を心配そうに見ている。
「……うん。こればっかりは仕方ない……か……」
「瑪瑙お姉ちゃん……」
少し俯いていると、背中からハルルがきゅっと抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ」
ハルルの腕の中をくるんと半回転してハルルをぎゅっと抱きしめ返す。
「瑪瑙。今日はゆっくりして明後日くらいにヘッケルをでようか?」
「私はそれでいいよ。みんなは?」
みんなはそっと私に寄り添って、静かに頷いた。
メラーナが持って帰る事が出来なかった遺物は、私が貰う事になった。ガネット達が、できれば自分達に譲ってくれないかと言っていたけれど、私の事情を知っているメラーナは、私が帰還するための何かの手掛かりや、研究材料になればと言って、ガネット達の申し出を断ってくれた。ガネット達もメラーナの意を汲んでしつこく頼むことはせず、
「遺跡の中にあったものなら持ち主は王家ってことになるんだけど、これはメラーナの所有物だからね」
と、あっさりと引き下がってくれた。
「そうだ! みんなはこのまま首都に向かうんだよね?」
「確かスケール街道の真ん中って、首都なんだっけ?」
「そうだよ。もうすぐ首都だけど、私達三人も一緒に行っていいかな?」
「おっ! いいねそれ! 一緒に行こう!」
私達は、ガネットの申し出を快く受けいれた。
色々なことが、目まぐるしささえ感じられぬほど一度に起きた。
私は人を殺した。せっかく仲良くなって、一緒に旅をしようと話した女の子を、頼まれてそうする他無かったとはいえ、……殺した。この事を私はずっと、私が死ぬその瞬間まで忘れないのだろう。
そのことがあったからと言っていいのかわからないけれど、新しい出会いと嬉しい再会もあった。
見えない何かが繋がって、交わって、私達はここにいる。これからも誰かと出会って別れてを繰り返して、私は旅を続けるんだ。元の世界に戻るために……。
「メノウの料理が食べられる!」
アンデが嬉しそうに笑っている。
「あ! 野菜切ったりとかは手伝ってもらうからね!」
「まっかせて! それぐらいいくらでもするする!」
「それならよし!」
「ねえメノウ。ガネットが食べたって言うガラク料理を私も食べてみたいんだけど、今度作ってくれない?」
「いいよ? 色々作りたいものいっぱいあるし」
「鶏のなんだっけ? ガネットが凄く美味しかったって言ってたの。あれが食べてみたいのよ」
「照り焼きチキン?」
「そー! それそれっ!」
アンデと料理談義に花を咲かせる。アンデ自身は料理をしないそうなのだが、色々と食べ歩くのが好きで、色々と料理には詳しいようだった。各地の名産品なんかを教えてもらう事が出来た。ガネットが一応料理をするそうなのだけれど、街から街への移動中に仕方なくする程度らしく、あまり得意ではないらしい。
「それだったら簡単に作れるから……。って、あれ? 私、ガネットにレシピ渡したよね?」
「それがね? ガラクの諸々は全部、ヴェノーラでメノウに売っちゃったんだって。だから私とリュベラは食べてないの!」
「なるほど。じゃあ、今晩はガラク料理フルコースで行こう!」
「ほんとに?! やーん! メノウ大好きー!」
アンデがぎゅっと私を抱きしめる。
「もう大袈裟だなー。あはは」
そうやってアンデとじゃれていると、背中が妙に冷たくなる。振り返ってみてみると、じとーっとした目で私とアンデを見ている視線が四つ。
「ぷー!」
ハルルちゃんが頬をぷくっと膨らませて、私とアンデを引き剥がそうとする。
「えーなに? ハルルってば嫉妬してるの? 可愛い奴め―!」
そんなハルルを見て、アンデは今度はハルルを抱きしめて頬ずりしている。むすっと膨れていたハルルの表情が少しずつ笑顔に変わって行く。
ガネット・アルマンディン、アンデ・フェルドスパー、リュベラ・トルマリン。この三人は、古くから王族を支えてきた、御三家と呼ばれる由緒ある貴族の子女なのだそうだ。王女様とも年齢が同じで、小さな頃から王女様共々仲が良かった。
王女様にセージナイト商会の代表が引き継がれた時、一番の親友であるガネット、アンデ、リュベラの三人も、セージナイト商会のメンバーになることになった。三人の両親からは、この国を良く見て知って、将来王女様のお役に立てるようになりなさいと言われて、商いをしながら国を見て回っていた。お城を出られない王族の親友のために、見聞きした物を手紙で伝えると言う事も、今までずっとしてきたんだそうだ。
ガネットは魔法が使える女の子。火の魔法を中位下級まで使える。ちなみに、魔法剣士ではないけれど、剣も扱う事が出来るそうだ。
セージナイト商会待望の魔法が使える人材だったのだけれど、王女達ての希望でガネット達三人は、自由に商いをしながら国内を渡り歩いているのだとか。
自称ものすごく運がいいガネットさん。他称、運だけが凄く良いガネットさん。元々私達とは再会するつもりでいたとはっきりと言ったことを考えると、本当に運がいい子なのだろう。ちょっと思い切りが良すぎる点があり、アンデとリュベラは良く振り回されているそうだ。
「運だけはいいよね」
「ねー」
「だけって言うな!」
アンデは器用な女の子。やろうと思ったことは大抵何でもできるのだそうだ。情報収集を兼ねて食べ歩きをするのが好きで、街ごとの美味しい食材や料理だけでなく、いいお店もたくさん知っている食通さんでもある。
三人の頭脳担当。ただし、突拍子もないことをするガネットのフォローでそれどころじゃない事も多いらしい。苦労人ポジションってやつだよね……。
ちなみに、戦闘技術は三人の中で一番上。剣術、槍術、弓術と、大抵の事は何でもできると豪語しているだけはあり、臨機応変に立ち回れるのだそうだ。
「私が居なかったら今頃どうなってるか……」
「何とかなるって! 大丈夫大丈夫!」
「そうそう!」
「……メノウ、変わってくんない……?」
「むり!」
マイペースで賑やか担当リュベラ。底抜けに明るい、いつもニコニコ笑顔の女の子。笑いの沸点がもの凄く低くて、ちょっとしたことでも爆笑している。辛い時大変な時でも笑顔が絶えないお陰で、ガネットとアンデは頑張れるんだそうだ。ただ、マイペースすぎる性格故に、畏まった場でもかまわず大爆笑する時があるので、そう言う場にはガネットが一人で赴いて、リュベラはアンデとお留守番している事が多いそうだ。
身のこなしが非常に軽く、まるで猫のよう。二振りの短剣を扱い、素早い動きで敵を翻弄する戦闘スタイル。
「稽古してる時さー。リュベラが笑いながらかかってくるのよ」
「……えー?」
「実際の戦闘ではそんな事ないんだけどさ。怖くて夢に出てきたことがあるよ……」
「うわー……」
色々言い合ってはいるけれど、とても仲がいい三人。しばらくの間、賑やかになりそうだと、私達は思ったのだった。
ガネット達の都合に合わせて三日ほどヘッケルでのんびりと過ごした。私達がのんびりしている間、ガネット達は何やら領主のお屋敷に出入りを繰り返して、少し忙しそうにはしていたけれど、本人達はとても楽しそうだった。労いもかねて、夕食を日本の料理の献立にしてあげたら、とても喜んでもらえた。
ゆっくりした三日は特に何かをするわけでもなく、私達五人はずーっと引っ付くようにずっと一緒にいた。ハルルが少し甘えたさんになっていたのは、私のせいなんだろう。
ヘッケルを発つ日、残念ながらあいにくの雨模様。少し気温が高めの陽が続いて汗をかきそうになっていたのが雨のせいか一気に気温が下がり、少し肌寒いくらいになっていた。
パタパタと帆馬車の屋根に雨が当たる音が聞こえる。ヘッケルを出た時に比べると雨脚は弱まってはいるけれど、それでも馬車を引く音に掻き消されないだけの音は聞こえてくる。
「そういえば、梅雨……。雨期? っていうのかな? そう言うのはあるの?」
「あるある。もうちょっとしたら本格的に雨期になるんじゃないかなー? 黒い雲がびかーって光って、どーんって光が落ちて、雨がざばーって振ったら雨期の始まりだよ」
なんとも楽しそうに話すリュベラ。
「ほらメノウ。ちょうどあんな風に、くろーい雲があるでしょ?」
ガネットが帆馬車の後ろから空を指をさすと、ゴロゴロと空から音が響いてきた。
「……げ」
空が一瞬光ったかと思うと、しばらくしてからバリバリズドオオンという音が聞こえてきた。
「キャァァァァ!!!!」
「おー、結構遠いね」
「遠いって、何が?」
悲鳴を上げてみんなのいる所へ引っ込んだガネットと入れ替わるように、リュベラが私と一緒に空を見上げる。
「雷が起こった所から、ここまでの距離?」
「どうしてわかるの?」
「ピカって光ってから、音が聞こえてくるまでに時間差があったでしょう? その時間差が長いほど、私達の場所から離れているって事。光と音の伝達速度が違うからわかる事なんだよ」
「ほえー。メノウってそんな事も知ってるんだ? じゃあどれだけ離れてるとかわかったりするの?」
「ううん。わかんない! たぶん計算する方法はあると思うんだけど」
話しているうちに、空がまたピカリと光る。
「ほら、いーち、にーい、さーん」
私が数え始めると、リュベラも楽しそうに空を眺めながら一緒に数え始める。
「――じゅうよん」
ゴロゴロゴロ……。
「おー。結構楽しい」
リュベラと話していると、くいくいとマントが引っ張られる。引っ張った主をみると、ハルルちゃんが珍しく怯えた表情で私を見ていた。
「瑪瑙お姉ちゃん……怖くないの?」
「遠いからね。そんなに怖くないよ。ハルルも一緒に数えてみよっか?」
「……うん」
「あっ! メノウ、ハルル、光ったよ!」
「いーち、にーい……」
おっかなびっくりと言った感じで数を一緒に数えるハルルだったけれど、次第に余裕が出てきたようで、一緒に空を眺めるようになった。
「じゅうご」
ゴロゴロゴロ……。
「さっきより遅くなったってことは、遠ざかってるって事がわかるよね?」
「うん! ハルル、もう怖くないよ?」
怯えた表情は何処かへ行き、可愛らしくにぱっと笑って見せるハルル。
「私も数えてみようかな……」
次にリステルが仲間に入ると、雷に怯えていた全員が一斉に仲間に加わり、雷が収まるまでの間、馬車からは数を数える楽し気な声が響いたのだった。
フラストハルン王国首都、フラストハルン。首都なので当然と言えば当然なんだけれど、今まで通ってきた街々と比べ物にならないほどの賑わいを見せている。それは街に入る前、外壁の外からでもその賑わい具合がわかってしまうほど。
私達は馬車でそのまま外壁の大門を通り、徒歩の時とは違う出入管理所へ向かい、そこで身分照会を行う。流石に首都だけあって、他の街よりはずっと厳重に行われている。
「……」
まじまじと係りの女性に私の顔が見られている。どうしてかはわからないけれど、居心地が悪い。
「……あのー。メノウ・ハツキヅキさんでお間違いは……ないんですよね……?」
「……? はい、そうですが」
「ハルモニカ王国から、来られたという事ですが。態々何をしに……?」
こんなことを聞かれたのは初めてだった。慎重に確認をしていると言えば聞こえはいいけれど、私より前に通ったリステルとサフィーアは、別にこんなことを聞かれていなかった。何故かこの係りの女性は、私だけに聞いて来たのだ。
「あー! 待って待って! この子は別人だよ!」
話を聞いていたガネットが、自分の身分証を出しながら話に割って入ってくれた。
「……え? ですが……。――っ! あなた様は……」
「ガネット・アルマンディンの名に誓い、この子は別人だと保証します」
「わかりました」
「うん、ありがとう」
少しいざこざはあったものの、私達はフラストハルン王国の首都に入る事が出来た。
「ありがとうございました!」
「またのご利用をお待ちしています」
馬車を降りて、八人で街の中を歩く。雨模様なのが嘘のように、人が沢山出歩いていて、活気を感じた。
私達がいる今歩いている場所は、石造りのお店が立ち並ぶ大通り。屋根の色が朱に統一されていて、とてもきれいな街並みだった。
「さて、宿を取らなくちゃ。ガネット、宿がある場所って知ってる?」
いつも通り私達は宿を探そうと考え、この街の出身だと言うガネット達に宿がある場所を聞くと、
「あ、うちのお屋敷おいでよ。お金はいらないし、厨房も使いたい放題だよ? どのみち私達は一度帰るつもりだったから、一緒に行こうよ!」
と、ガネットが嬉しそうに私達を誘う。
「突然お邪魔して、迷惑になったりしない?」
私がそう聞くと、三人はきょとんとする。
「あははは! 来客用の部屋なんて山ほどあるんだから、五人十人増えた所で困らないよ! どうせアンデとリュベラもうちに泊まるんだし」
「あら、そうなの? お家には顔を出さないの?」
ルーリが不思議そうに二人を見る。
「顔は出すわよ? でも、どうせまた一緒に街を出るんだから、一緒に寝泊まりしてた方が連絡とる時面倒臭くならないじゃない?」
「そう言う事―!」
楽し気に手をつないでいる三人。
「本当に仲がいいのね」
思わず私がそう言うと、
『当然!』
と、三人は得意げに頷いたのだった。
三人を先頭に、アルマンディン邸へ向かう。雨でも賑やかだった街並みが、少しずつ静かになっていく。やがて大きな門が見えて、そこにいる鎧を着た人にガネットが身分証を見せて、中に入る許可を得る。
そこからは街の様相がガラッと変わる。建物一つ一つの広さが全然違うのだ。建物も豪勢になり、いかにも貴族という身分の人が住んでいそうな建物ばかりだった。
ゴーン、ゴーンと鐘の音が聞こえてくる。音のする方を見ると、さらに大きな建物が、遠く向こう側に見えた。
「あそこが王城?」
周りと比べ物にならないほど高く大きな建物だったので、私は三人に聞いてみる。
「違う違う。王城はもっと奥。あそこはフォルツァート総合学園。王侯貴族が通う、由緒ある学園なんだから」
「へー! あれがフォルツァート総合学園なんだ! 言われてみれば確かにフォルティシモ学園に趣が似てるかも!」
「あれ? メノウ、フォルティシモ学園知ってるんだ?」
「あー。冒険者ギルドの依頼でちょっと学校に潜入してたから……」
「えっ?!」
その時の事を、みんなで話しながら歩いていると……。
どんっ!
「きゃっ!」
「ひゃんっ!」
角から突然走って出てきた人とぶつかって、転んでしまう。
ずっと雨が降っていたせいで石畳の道はしっかり濡れて、所々には水たまりもある。そんなところで盛大に尻もちをついてしまった。
「うえー……。お尻びしょびしょ……」
下着もぐっちょりだ。
被っていた皮のコートのフードも取れて、髪まで濡れてしまった。どうやら私とぶつかった人も同じ状態らしく、
「いたたたた。……おもらししたみたいになってる……」
と言って立ち上がり、濡れたお尻を抑えている。
「ごめんなさい。焦っていたもので、前を見ていませんでした……え?」
「いえいえ、私も友人との会話に夢中で、注意がおろそかになってました……あれ?」
ぺこぺことお互い頭を下げて謝り、顔を上げる。
すると、目の前には私が居た。いや、私そっくりの女の子がいた。
「瑪瑙が二人いる―!!!!」
「オニキス様、どうしてここにっ?!」




