キロの森、再び
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四人仲良くお家に帰ってきた。
とりあえず、二人ずつシャワーを浴びることになり、私はリステルと二人で最初に入ることになった。
シャワーを浴びていると、背中からぎゅっと抱きしめられた。
裸同士だから、ちょっと、いや、すっごく恥ずかしい!
「瑪瑙、ごめんね。無理ばっかりさせて」
「いきなりどうしたの? 私がするって決めた事なんだから、リステルもルーリも気に病む必要なんてないんだよ?」
「……。ねぇ瑪瑙。あなたとずっと一緒にいたいって言ったら困る?」
リステルの抱きしめる力が強くなった。
「私ね。もう、一人旅できなくなっちゃった。二人と離れたくないよ……」
じゃあ一緒に日本に来る?
そんなことは、絶対に口に出せない。
じゃあ帰るのは諦めるね。
そんなこと心にも思ってない。
でも、私も一緒にいたいって思ってしまっているのは事実だ。
私はリステルに抱きしめられたままクルンと回転して、正面からリステルを抱きしめ返した。
お互いの頬をぴったり引っ付けて、
「ありがとう。ごめんなさい」
私がそう言うと、リステルの体がビクっと硬直した。
抱きしめる力がもっと強くなった。
少し痛い。
「リステル……。痛いよ……」
「ごめんね。もうちょっとこのままでいさせて……」
「うん」
私も抱きしめる力を強めて、リステルの肩にかぷっと嚙みついた。
「んっ!」
リステルの顔が耳まで一気に赤くなった。
私はぐっと、顎に力を入れた。
「痛っ! 何してるの?」
「私が一緒にいた噛み跡をつけただけー」
「だったら、そんなに軽く噛まないで、一生消えないように噛み跡をつけてよ……」
「だめ。きれいな肌を傷物にしたくないもん。また今度つけてあげる」
そういって、リステルからも噛み跡をつけてもらった。
「そろそろ出ないと、二人が待ってるよ」
私がそう言うと、
「そうだね。二人がシャワー浴びてる間に、先にお夕飯の準備はじめちゃおっか。色々教えてね?」
「はーい」
脱衣所にでると、ルーリとハルルが服を脱ぎだしていた。
「遅ーい! ゆっくりし過ぎ!ハルルがお腹すかせてるんだから、もっと早く出てほしかったなー?」
「まだ大丈夫。メノウお姉ちゃんのお夕飯楽しみ」
「はーい。先に作り始めてるね」
そう言って、タオルで体をふいていると、ルーリが、
「後で、私にもつけてね?」
っと、顔を赤くしてニマーっと笑っていた。
ぼっと火が付くように顔が熱くなった。
リステルも顔が茹蛸みたいになっていた。
私達は、いそいそと着替えて、キッチンで夕飯の準備を始める。
シャワールームからは、キャッキャッと楽しそうな声が聞こえてきた。
ハルルがどれだけ食べるかわからないから、かなり多めに作らないと!
残っても良いように、メニューを考えて……。
よし、具だくさんのミネストローネにしよう!
これなら量を作れるし、残っても明日の朝ご飯にもまわせる。
お鍋いっぱいに作って、みんなでいただきますをした。
……残らなかった……。
ハルルが目をキラキラさせながら、
「美味しい! すごく美味しい!」
って言いながら、全部平らげていった。
私ビックリだ!
パンもがっつり食べられた。
これは明日は買い物だなー。
そんなこんなで、食後のお茶を飲みながら、ハルルに私の事情を説明する。
この世界のどこでもない、異世界の日本と言う場所から来た事。
キロの森にある遺跡で二人に出会ったこと。
帰る方法を探していて、また遺跡に調査をしに行きたいこと。
ハルルは信じてくれるかなって思ったら、あっさり信じてくれた。
「メノウお姉ちゃん、心が少し幼い感じがした。ちょっと不自然だとハルル思ってた。平和な場所から来たのなら、わかる気がする」
とのこと。
「内緒ね?」
「ん」
ハルルはコクンと頷いた。
今日は、ハルルは家でお泊りすることになっている。
ハルルの宿泊している宿屋には、帰りしなにそう伝えてある。
いつもの三つ引っ付けたベットに、私とハルルが真ん中になって一緒に寝ることになった。
……ルーリにもつけたよ!
朝、いつもより少し早めに起きた。
ハルルが思った以上にいっぱい食べるから、朝ご飯もいっぱい作らないといけないと思ったからだ。
「メノウお姉ちゃんおはよう。ハルルも手伝っていい?」
「うん。お願いしよっかな?」
「メノウお姉ちゃんのご飯、食べるとなんだか幸せな気分になる」
「えへへー。ありがとーハルルー」
そう言ってハルルの頭を撫でた。
……ぜぇぜぇ。
おかしいな……。
こんな……はずじゃ……なかったのに……。
どうしてこうなった?
どうして?!
どうしてっ?!
甘く見ていたのだ。
まだ大丈夫だと。
そんなことはなかったのに……。
食材のほとんどがなくなりました。
夕飯よりいっぱい食べてるよこの子!
「美味しかった! 朝はいっぱい食べないと、元気でない」
作れば作るだけ、胃袋に消えていった。
私の十倍は食べる。
朝食をわんこそばみたいに、作り続けて私は早々にノックダウンされそうだった。
二人は引きつった笑顔で見つめていた。
流石に悪いと思ったのか、お金を渡すって言ってきたけど、断った。
そんなこんなで、げっそりとした私を引っ張って、冒険者ギルドに今日もやってきました。
セレンさんに別室に案内されて、常設依頼の報酬と、売却分のお金を渡してもらった。
セレンさんもなんだかげっそりしている気がする。
報酬は金貨二百枚になった。
今回はちゃんと四等分してもらった。
その後、もし可能だったら、東の草原の魔物討伐を、しばらく続けてほしいと言われた。
「フルールの警備隊からも討伐報酬が出ることになったんです。ここ最近、東の街道での魔物被害が増えていて、警備隊にも、多くの被害が出ているんです。ただ、生半可なパーティーでは討伐ができなくて、挑んだ冒険者のパーティーも、大怪我をして帰ってくるパターンばかりなんですよ。それに一度に狩れる魔物の数も、リステルさん達が桁違いに多いですからね」
「常設依頼と同じと考えていいんですか?」
リステルが質問をする。
「一応同じなんですが、東門の警備の人に、出入書を書いてもらわないとだめなんです」
「東の草原限定ってことですね。いつまでですか?」
「今の所、無期限になっています。被害の減少傾向を確認してから、取り下げるのを決めるそうです。まだ大規模討伐も終わっていないので、よろしくお願いします。大規模討伐依頼の取り下げが決定しましたら、すぐにお伝えしますので」
「「「わかりました!」」」
「ん!」
そんなこんなで、お肉と魔石をもらって、買い物に行く。
途中、ハルルの拠点を宿屋から、ルーリの家に移すことになった。
居候三人目である。
ハルルははじめ、遠慮していたけど、ルーリに押し切られることになった。
「ありがと」
それでもやっぱり嬉しかったのか、可愛らしい笑みを浮かべて受け入れた。
私のご飯の準備がとても危険なことになるのだけど、そこはみんなで作ろうっという話で落ち着いた。
食材を大量に買い込んだ後、ハルルを私が連れていかれた服屋さんにつれていった。
着せ替え人形の刑の始まりだった。
またまた靴屋まで乱入し、お昼前まで試着が続いた。
最初、ハルルは街にいる人たちと、あまり変わらない恰好をしていた。
今は、襟とチェーンがついたケープに中はブラウス。
少しふわっとした、可愛らしいスカートを穿いている。
どうもルーリとリステルは、マントというか外套の類が好きな気がする。
でも可愛いからいいや!
流石の冒険者と言ったところか、ハルルは嬉しそうに、最後まで着せ替えられるのを楽しんでいた。
お昼ごはんは珍しく外食をしたけど、やっぱりハルルは十倍ぐらい食べるね!
小さな体のどこにそんなに入るのか、とても謎だ。
次の日から、朝食後に、東の草原に向かい、魔物の討伐を行い始めた。
ほとんどが突撃狼だったが、中には、一角猪と呼ばれる、体高二メートル以上はあるんじゃないかと思うほど巨大で、額に一本の大きな角の生えた猪が襲ってくることもあった。
一角猪が襲って来た時の、三人のテンションが異常だった。
なんでもお肉はとても美味らしく、角も高価らしい。
私が足止めしている間に、すっごく丁寧に、止めを刺していた。
そんな感じで、一週間討伐を続けた。
二日に一回は、買い物をするようにしているので、買い物の日は、昼食を食べ終わってから討伐を行った。
途中二回ほど、アミールさんと復帰したスティレスさんが、狩りの様子を見学にきた。
その時はギルド職員の服ではなくて、しっかりとした装備を整えて来ていた。
基本見ているだけだったのだが、私達の戦い方と、倒す魔物の数に、開いた口が塞がらないという感じだった。
大体一回で金貨四百枚ほどを稼いでいた。
私達が持ち込む魔物の死体の査定のせいで、ギルドが大忙しなのだが、それはまた別のお話。
そんなある日、今日も大量の死体の持ち込みをセレンさんに報告しようとしたら、別室に案内された。
案内された先には、知らない人が一人、既に座っていた。
「はじめまして。ガレーナと申します。フルールの街の冒険者ギルドのギルドマスターをしております。報告はセレンから聞いております。素晴らしいパーティーですわね」
立ち上がり、優雅にお辞儀をするガレーナさん。
「ギルドマスター直々に、私達に何か御用ですか?」
少しリステルが警戒気味に聞く。
こういう時のリステルは頼もしい。
「まずはお座りくださいまし」
そう言って、私達をソファーに座らせる。
「セレンにお願いしても良かったのですが、一度みなさんの顔を見ておきたかったこともありまして、顔を出した次第です。お話通り、とても素敵な方たちですわね」
そう言って、セレンさんが給仕をして、出された飲み物を飲んでいる。
「いきなりですが、本題に入りたいと思いますわ」
ティーカップを置き、それまで浮かべていた笑顔から真面目な顔つきに変わった。
「明日、大規模討伐の依頼が取り下げられることになりました。そして、同時に、キロの森への大規模調査の依頼が発表されます。出発は、発表から五日後、行程の目安は一週間になっております」
「キロの森へ行くのに一日あれば行けるのに、往復一週間もですか? 長くないですか?」
ルーリが聞くと、
「今なお東側の魔物被害が減っていないことが大きな原因ですわね。みなさんがかなり間引いていくださっているはずなのに、一向に減っておりませんの。そして、もちろんキロの森の奥まで調査に行く予定もしているのです。人数は三十人募集する予定になっていますわ。足並みを揃えるのが大変なことと、道中に魔物との戦闘を加味したうえでの、日程ですの」
「メンバーの選定はどうするのですか?」
私は調査の依頼を受けられるのかな?
「この話はまだ、ギルド職員しか知りませんの。あなた方にお話したのは、調査に参加していただきたいと思い、先んじて声をかけさせてもらった次第です。アミールさんとスティレスさんからもこの四人なら大丈夫と、お墨付きをいただいておりますわ。後は何人か、セレンが目をかけているパーティーいくつかに声をかけたいと思っています」
「瑪瑙やったね!」
「うん!」
「メノウお姉ちゃん頑張った!」
「あまりこういった、一部の冒険者を贔屓するような真似は良くないのですが、危険度を考えると、どうしても信用できる人たちが一定数は欲しいので、私が直接、お声掛けをしている次第ですわ」
私達は、調査依頼の参加に同意し、部屋を後にした。
そしてセレンさんに魔物の引き渡しをお願いする。
今回は虐殺狼が率いてた群も襲ってきたので、持ち込みの死体の数が多かった。
セレンさんが涙目になっている。
次の日に、大規模討伐の依頼が取り下げられた。
それと同時に、キロの森への大規模調査依頼の募集がはじまった。
私達は、すぐに参加する旨を伝え、了承された。
出発の二日前までは、狩りを続け、残りの日は準備と休養にあてた。
食料を大量に買い込み、生ものには状態維持をかけて、空間収納にしまった。
これで一週間、ハルルのお腹も満たせる分の食料の準備は大丈夫だろう。
調査隊出発当日。
東門を出てすぐのところに集合する。
そこには、アミールさんとスティレスさんもいた。
構成メンバーは、ギルド職員であるアミールさんとスティレスさんを除いて、女性十人、男性二十人。
女性の内訳は、私達四人と、ハルルの元パーティーメンバーの三人と知らない人が三人。
元メンバーはばつの悪そうな顔で、少し距離を取っていたが、急にこちらへ来た。
私達が身構えると、
「まっ待ってください。預かっていたものを、渡しに来ただけです! できるだけ離れて行動するので、大目に見てください!」
そう言って、ローブの女性は空間収納から、ハルルから預かっていた、着替えや薬などを渡してきた。
「諍いを起こさないのなら、今回は大目に見る。だからわざわざ離れて危険な位置取りをする必要はない」
「ありがとうございます!」
そう言って女性は嬉しそうに二人の所へ戻っていった。
「では皆さん。これより、キロの森へ向けて出発します! 道中、かなり危険を伴いますので、お互いに協力し合って、行動してください」
アミールさんが大きな声で言う。
「これはフルールの街と冒険者ギルドの共同依頼になっている。あたし達二人は観察役だ! 問題行動を起こしたものには、あたし達が報告し、後々厳罰を下されることになる。それを忘れるな!」
おースティレスさんカッコいい!
そうして私達は、キロの森へ向かって草原を歩き始めるのであった。
はじめは問題なく進んでいた。
私達は、前衛を任されている。
ここしばらくの間に、大量に魔物を狩っていたことで、ちょっとした有名人になっていた。
魔物の襲ってくる数が少数の時は、何の問題もなかった。
私達がすぐに狩ってしまうからだ。
そして、数が増えだして、私とルーリが行動阻害の魔法を使い始めた時に、それは起こった。
「フローズンアルコーブ」
「アースバインド」
私とルーリで足を凍らせ、石の枷でしっかりと行動不能にした時だった。
「いただきっ!」
っと、知らない男性が横から飛び出してきて、突撃狼を切り刻んだ。
それを皮切りに、
わらわらと、行動不能になった突撃狼に冒険者たちが群がった。
「お前たち! それは横取りだぞ! やめろ!」
慌ててスティレスさんが止めに入る。
「そいつらが全部倒しちまうじゃねーか! 俺たちも獲物が欲しいんだ!」
「この調査は魔物の討伐がメインではありません! キロの森の調査がメインです! それ相応の報酬も用意しているはずです! だからそのような真似はやめなさい! 冒険者としての名折れですよ!」
アミールさんが言う。
そんなことはお構いなしとばかりに、仕留めた獲物に何やら布を巻きつけている。
「まー私達は別にいいかな? ここまででニ十匹くらいは確保したし。魔力も体力も温存できるし」
っと、リステルが言う。
ルーリが、
「ではあなた達が、前衛を頑張ってくださいね」
っと言って後衛へ下がろうとした時だった。
「待てよ。これを空間収納にいれてくれ。お前ら魔法使いだろ? それぐらいやれよ」
男が一人そう言ったことをきっかけに、横取りしていった人たちも、
「俺のも入れろ!」
っと次々に言い出した。
どうやら布を巻きつけていたのは、自分のものである証明のためにつけていて、はなから私達の空間収納を利用する気だったらしい。
「「「お断りします」」」
「自分で仕留めたなら、自分で責任をもって運んでください」
私達がそう言った瞬間、男たちから怒声が飛んできた。
「ふざけんな! こんなでかい魔物をどうやって運べばいいってんだ! 魔法使いならそれぐらいやれよ!」
なんとも自分勝手な理屈である。
「自分で責任を持て」
ハルルが、冷たい声で言い放つと、
「ガキが! 大人しく言う事を聞け!」
何人かが武器をこちらに向けた。
「リステルちゃんたち。かまわないから痛めつけてあげなさい。流石にこれは目に余るわ」
「っち。ふざけんなよこいつら。いけしゃあしゃあと。リステル、かまわないからやっちまえ。ギルドにはちゃんと伝えてやる」
アミールさんとスティレスさんが私達に言う。
「いいの? そんなことして」
ハルルが聞き返す。
「救いようのない馬鹿どもだ。ボコボコにしてやれ。あ、四肢切断は勘弁してくれ。それは流石に面倒すぎる。手加減はすまんがしてやってくれ」
スティレスさんが物凄いことを言ってる!
でも正直気分が悪くなったのは確かだ。
「なめるな!」
そう言った瞬間に、男六人ほどがこちらに向かって走り出してきた。
そして、同時に六人とも吹っ飛んだ。
空気の塊と石の塊と氷の塊をお腹に受けて。
一気に周りが静かになった。
「そもそもお前たちとは強さの次元が違うんだよ。この四人は。お前らも腕はいいかもしれないが、相手をちゃんと見るんだな。手加減されてなかったら、お前たちどうなってるかわかるか? メノウ。悪いが強めのを一発そこの地面に放ってくれないか?」
「はーい」
そう言って、ロックバレットをほんのちょっとの手加減で撃ちだす。
ドゴォォォォン!
直径三メートルくらいのクレーターが出来上がった。
「骨すら残らんぞ?」
クレーターを親指で指さしたスティレスさんが、そう言った。
そこから文句を言う物はいなくなった。
ただ、私達が後衛に回ったせいで、魔物に襲われても倒す速度が遅くなったため、草原の突破に二日ほどかかってしまった。
後衛は、女性陣が受け持つことになった。
あれやこれやと話しているうちに、女性たちとは仲良くなった。
最初こそ、距離を置いていたハルルの元パーティーメンバーだったが、向こうからの謝罪をきっかけに、打ち解けることになった。
「ハルルさんは男が苦手だから、気をつけてくださいね」
っと長身の女性が教えてくれた。
「私達のパーティーって男嫌いの集まりみたいになってない?」
リステルが笑いながらそう言って、
「ホント、運命みたいな巡りあわせね!」
とルーリが言って笑いあった。
そして、いよいよキロの森へ、到着することになった。
少し森に踏み入れたところで、少しだけキラキラ光る粒子が見えるようになった。
マナだ。
「ここから先は、未確認の魔物や強力な種の魔物が確認されています。草原みたいにふざけたことをしていると、真っ先に死ぬと思ってくださいね! 常に周囲に気を配って、奇襲されないように! 目標地点は遺跡です。気を引き締めていきますよ!」
アミールさんの注意を聞き、私達は森へ入った。
森の中は、私が以前に通った時よりも、様子が様変わりしていた。
虐殺狼をはじめ、手に鋭いかぎ爪持った巨大な鉤爪熊や、固い甲殻を持った全長三メートルはありそうな甲殻蜥蜴。
他にも巨大な鳥などと言った、突撃狼とは比べ物にならない程の強さの魔物が襲ってくるようになった。
虫系もいたけど……私達はみてないよ……。
流石に奥へ入っていくほど、襲ってくる頻度が高くなってきた。
私達が積極的に戦闘に参加して、何とか順調とはいかないものも、確実に歩を進めている。
「暗くなる前に、ある程度開けたところを探して、野営の準備を始めます!」
アミールさんがみんなに伝える。
重傷者はいないが、けが人はそれなりに出ている。
私とルーリは治癒魔法を使えるが、関わりあいたくないので、女性陣にだけ治療に回った。
実は私達と、アミールさんとスティレスさんを除いた人員の中で、ハルルの元パーティーメンバーが一番強かったりする。
相変わらず、協調性のない男性パーティーが勝手に行動し、返り討ちにあって、戻ってくると言う事が頻繁に起こった。
「治せよ!」
っと命令口調で怒鳴って来たのを、スティレスさんがボコボコにしてくれた。
かなり頭に来ているようだった。
こっちはこっちで、ハルルの機嫌が物凄く悪くなっていった。
隙を見つけて、私達に言い寄ってくる男が増えたのだ。
やんわりと断るのだが、それが気に入らないのか、最終的に悪態をついて離れていく。
ちゃんとした男性冒険者のパーティーもいるにはいるんだけど、素行が悪い男性達がひどく目立っているので、印象は最悪だった。
正直な話、ここがギルド内だったら、お構いなしに魔法を叩きこんでいたくらいに、目に余った。
奥に入るほど、マナの光は増していくのは、以前と変わらない。
私の場合は逆かな?
遠ざかるほどに光は少なくなっていってたってところか。
「違う森に来たみたい。前は魔物には全然襲われなかったのにね」
私がそう言うと、
「あの時は、マナの流れが不安定になっていたせいで、一時的に森の魔物はいなくなっていたのよ。そして、マナの密度と濃度が高くなった挙句に、安定したせいで、あちこちから、濃いマナに引き寄せられて、強力な魔物が集まってしまったってところね」
「ルーリがあの時気づいてなかったら、森を抜けだす前に、大量の魔物に襲われてた可能性が高かったんだね」
開けた場所をみつけ、野営の準備を始めながら、話している。
女性陣はみんな固まって、男性陣営より少し離れた場所に、まとまってテントを張っている。
勿論、アミールさんとスティレスさんも一緒。
「まさかこんな形で、冒険者をするとは思わなかったわ。自信なんてなくなってたのに」
「正直あたしもだ。ガレーナとセレンから頼まれなかったら、断ってたところだ。まぁリステル達がいてくれて助かってるよ」
私達は、お夕飯の準備を始めている。
私とリステルでお料理、ルーリが設営、ハルルが見張りと言った分担だ。
「それにしても、馬鹿な男どもが多いのが頭が痛い。腕は良いほうなんだろうが、人格に問題ありだ」
「……ところでメノウちゃん。どうしてそんなに大量にお肉を焼いてるの?」
私は大きな石窯を作って、そこに大きな網を敷き、お肉を何枚も焼いている。
味付けは塩コショウとハーブ少々。
「ハルルが私の十倍は食べないとダメな子ですからね。それに、しっかり食べて元気をつけないと!」
「美味しそうねー。私達の分も作ってくれない? 材料はもってないから、お金で良かったら払うわ!」
「んー。いっぱい持ってきてるから、大丈夫ですよ」
「ありがとう! いただきまーす!」
「アミール……」
「スティレスさんもどうぞ」
「ん、すまんな。お言葉に甘えていただくとするよ」
「「美味しいー!」」
あの、塩コショウとちょっとのハーブを使った、簡単な味付けしかしてないんですけど……。
「ここ二日ほど、保存食を食べていたけど、やっぱり干し肉より、焼いたお肉よねー」
「塩加減もこのハーブも絶妙な味付けだな。冒険中にこういう上手いものを食えるのは、魔法使いの特権だな!」
そんなことを話していると、見張りをルーリと交代したハルルがふらふらと現れた。
「お疲れ様ハルル。お肉いっぱい焼いておいたから、いっぱい食べてね?」
そう言った瞬間、ハルルの目がキラキラと輝いた。
「いただきます!」
物凄い勢いでお肉を食べている。
アミールさんもスティレスさんも、目を点にしてハルルの食べる姿を見ている。
「凄い食べっぷりね……」
「あっあぁ……」
「んー。美味しい!」
とても幸せそうに、次から次へとお肉を消し飛ばしていくハルルの食べっぷりに、私達は苦笑するのであった。
「明日の午前中には、遺跡につくはずだから、しっかり休んでいてね。後、見張りはしっかりね?」
「「はーい」」
「ん」
見張りをルーリと交代して、私とリステルが見張りをする。
流石に見張りとか、私は慣れてないからね。
「そういえば、森の奥になってから急に魔物の数が減ったね」
リステルが思いついたように言う。
「そういえばそうね?どうしてかな?」
「んー。私はルーリ程詳しくないからなー……。中心部のマナがまだ不安定なのかな?」
「後でルーリに聞いてみよう」
「そうだね」
しばらく見張りを続けて、四人全員の食事が終わったことを、ルーリが教えに来てくれた。
「うん。私もそれは気になってた」
見張り途中に、私とリステルが疑問に思ったことをルーリに話した。
今は焚き火を囲んで紅茶を飲んでいる。
「でも思い出してみて? マナが安定したのに気づいたのは、遺跡にいた時よ? だからマナが不安定って言う事は無いと思うの」
「じゃあ他に原因があるってこと?」
「ハルル、嫌な予感がする」
「どういうこと?」
私が聞き返す。
「強い魔物の縄張り」
「私もそう思うわ。っと言うか、その可能性が高いわね」
「つまり?」
リステルが答えを促す。
「一番マナの強い場所に、他の魔物を寄せ付けない程の強力な魔物が住み着いて、周辺を縄張りにしている可能性があるってこと。今いるこの場所は、ギリギリ縄張りに入ってないか、ギリギリ外側で、他の魔物は寄り付いていないってこと」
「どんな魔物なのかは、行ってみないとわからないってことだね。はぁ」
リステルが紅茶を一飲みし、ため息をついた。
夜、二人ペアで三時間ずつ睡眠をとることになっている。
今日は、私とルーリが先発組だ。
暗い森の中、焚き火の明かりがいくつか見えている。
焚き火を見ながら、私とルーリは隣り合って座る。
「ねぇ瑪瑙?今度の調査でね。帰る方法がわかったら、すぐ帰っちゃうの?」
「……うん」
帰るって決めているんだ。
決めて……いるの。
「私も連れて行って……」
「だめだよ」
「……どうして?」
「私がこの知らない世界で、どれだけ困惑してきたか、ルーリは見て来たでしょう?」
「いっぱい我慢して、いっぱい辛い思いをしたよね」
「今度は、ルーリが同じ目に合うんだよ? そんなの私は嫌よ」
「でもっ平和なんでしょっ?! 魔物なんていないんでしょっ?! だったら……」
「やっぱりだめ」
住む世界が違いすぎるのよ。
向こうの世界では私は未成年で、親の庇護下にある。
この世界みたいに、お金を稼ぐことなんてできない。
二人に手を貸して、手助けできることなんて何もないのよ。
「やだっ!」
ルーリが私の胸の中に飛び込んできた。
「やだやだっ! 瑪瑙がいなくなるなんてやだ!」
「ずっと一緒にいてよ! 四人で一緒にいようよ! ハルルだって仲間になったばっかりじゃない!」
ルーリをぎゅっと抱きしめ返す。
この世界で初めて野宿した時と、逆になっちゃった。
「……っく。ひっく」
思いっきり抱きしめて、リステルにも言った言葉を言う。
「ありがとう。ごめんなさい」
「ううっ。うううっ」
必死で声を出さないように、泣いている。
ガブっとマントの上から肩を思い切り噛まれた。
「んんんん! んんんんんん!!」
決して周りに泣き声を聞かれないように、必死に肩に噛みついて、声を押さえている。
しばらくルーリの好きなように身を任せる。
落ち着いたのを見計らって、紅茶を淹れてあげる。
「ごめんなさい。こんなこと言われても困るだけよね」
ルーリは、私の肩に頭を乗せる。
「ううん。凄く嬉しいよ。そんなになるまで思ってもらえて、私は幸せ者ね」
「そんなこと言うと、また泣いちゃうわよ?ぐすっ」
「ねぇルーリ」
私は、私の肩に乗せているルーリの頭に、私の頭を乗せた。
「なーに?」
「リステルと一緒にいてあげてね」
「おんなじこと言われたんでしょ?」
「ルーリみたいに大泣きはしなかったけどね」
そう言うと、ルーリは頬をぷーっと膨らませた。
指で膨れた頬をぷしゅっとつついた。
「ねぇ瑪瑙?」
「うん?」
「大好きよ。どこにいても、ずっとずっと大好きよ」
「私も大好きよ。ルーリもリステルもハルルも大好きよ」
「ううっく。ううう」
嗚咽を漏らして泣くルーリの頭を撫でながら、私達の見張りをする時間は過ぎていくのだった。




