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終わりと始まりは突然に  作者: 水無月 真珠
フラストハルン王国編
110/168

熱にうなされて

 ハルルの名前は、ハルルを捨てたという、顔すら覚えていないお母さんがつけてくれた名前らしい。

 そう院長先生に教えられた。


 物心がついた時にはもう、ハルルはクラネットの孤児院で暮らしていた。

 ……それより前の事は覚えていない。

 思い出したいとも思わないけれど。


「おいハルル! そのパン貰うぜ!」


「……や」


「はっ! お前の言い分なんて知るかよ!」


 ハルルのお皿に乗せられていたパンが奪われる。

 年上でハルルより遥かに力持ちな男の子に碌に抵抗すらできず、ハルルのパンは奪って行った男の子のお口の中へ消えていった。


 これがハルルの日常だった。


 勿論、院長先生や他の先生に訴えた。

 そのたびに、


「ハルル。あの子はご両親に名前すらもらえなかった可哀そうな子なの。だから、少しぐらい恵んであげなさい」


 と、そんな事を言って取り合ってもらえなかった。


 そんな事が何度も続き、ハルルは急いで食べるようになった。

 ハルルの食べ物が奪われる前に。


 でも、今度はそんな事をするハルルを周りが白い目で見始めた。


 いじきたない。

 恵んでやる心も無いのか。

 名持ちのくせに。


 そんな言葉をひそひそと言い合っていた。

 孤児院の他の子供も、大人も、誰もハルルを助けてくれなかった。

 仲良しだと思っていた女の子が、ハルルに隠れて悪口を言っていたことを知った時は辛かった。


 ハルルは、人の表情を良く見るようになった。

 ハルルと話している時の表情を見ていると、何となくだけど、ハルルの事をどう思っているのかわかる事に気づいたから。

 いつの間にか、嘘をついている顔もわかるようになった。


 それができるようになったからと言って、ハルルの日常が変わることは無かったのだけれど。

 奪われるときは、あっけなく奪われていく。


 ある日、孤児院にある畑の雑草を抜いている時だった。

 それまで引っこ抜くのにかなり力が必要だったのに、簡単に抜けるようになって作業を頑張っていると、先生の一人がハルルを褒めてくれるようになった。


 ……嫌がらせが酷くなった。


 最初は嫌味や陰口が酷くなっただけだった。

 それが、足をかけられたり肩をぶつけられたりするようになった。


 そして……。


「お前生意気なんだよ!」


「今度は先生を独り占めするつもりなんでしょっ!!」


「ハルルそんなことしてないもん!」


 男の子二人女の子一人に、誰もいな物置小屋に無理やり連れてこられた。


「嘘つけ! 先生が優しいからっていい気になって!」


 髪を掴まれ服を引っ張られ、物置の壁に何度も叩きつけられる。

 言われたことを否定すると、三人は余計に腹を立てたのか、暴力がどんどんエスカレートしていった。


「やめ……やめてっ!!!!」


 堪らず、引っ張りまわされる髪を何とかしようと、思い切り手で振り払った。


「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 ハルルの手が、男の子の右腕に当たった瞬間、男の子は悲鳴を上げて蹲った。


「痛いっ! 痛いよう!! 痛い痛い痛い痛い!!」


 のたうち回る男の子の右腕の肘から先が、おかしな方向を向いていた。

 それを見た二人もへたり込んで、顔を青くしている。


 叫び声が聞こえたのか、慌てた様子で駆けつけた先生達が、目の前に広がる光景に唖然としていた。


 事情を聞かれ、ハルルは説明をする。

 ハルルをいじめた三人は何も言わなかった。

 結局、いじめて来た三人は怒られることになったけれど、ハルルも暴力を振るったからと酷く怒られた。


 それからしばらくしてから、ハルルは無性にお腹がすくようになり始めた。

 食べてもお腹いっぱいにはならず、常に空腹だった。

 そのくせ、体は素早く動けるようになり、力も凄く強くなっている事に気がついた。


 空腹に耐えかねて、先生の一人に事情を話した。

 話しを聞いた先生はとても辛そうな顔をして、もうしばらく我慢して欲しいとだけ言って、何処かへ行ってしまった。


 次の日の朝早く、ハルルは雨の中、院長先生に馬に乗せられ、二人だけで何処かへ行くことに。

 朝食も食べられず、空腹で元気がなかったハルルは、大人しく言う事を聞くしかなかった。


 どれだけ馬に乗っていたのかわからないけれど、森の奥深くに差し掛かった時、突然ハルルは院長先生に馬から突き落とされ、地面を転がった。


 ふらふらと起き上がり、ハルルを馬の上から見下ろしている院長先生を見る。


「……どうして?」


「恨むなら、あなたの生まれを恨みなさい」


 一言院長先生はそう吐き捨てると馬を翻し、ハルルの前から去って行った。


 しばらく呆然と立つ尽くしていたけれど、ハルルは元来た道と思しき方向へ歩き出す。


 帰るために。


 お腹がすいて元気がなくても、歩き続けた。


 雨は降り続け、もうとっくに体はずぶ濡れ。

 それでも歩く。


 寒くてお腹がすいて、頭がぼーっとしてくる。

 まだまだ歩く。


 歩く。

 ……歩く。

 ……歩……く……。


 どれだけ歩いたかもわからないくらいに歩いたのに、森からは抜けられない。


 急に寒さや空腹を感じなくなった。

 だけど今度は酷い眠気が襲ってきた。

 もう、体は動かなくなっていた。


 ハルルはその場で蹲り、目を閉じた……。


「お嬢様っ!!!! 見つけましたっ!!!! まだ息はありますっ!!」


「良かった!! ニグリ、そのままその子を起こしておいて。薬と、食べるものを出すわ! みんなはここで野営の準備をして!」


『はいっ!』


 ハルルは、知らないお家の中で目が覚めた。


「あら、目が覚めた?」


「……ここ……どこ?」


「ユークレースお嬢様のお屋敷だよ。あなたのお名前はハルルちゃんで合ってるよね?」


「……ん」


「私はニグリ。お腹すいてるでしょう?」


「……ぺこぺこ」


「うん、今からニッケに準備してもらうから、もうちょっとだけ待っててね」


 ニグリと名乗ったお姉さんは、ハルルにそう言うと笑顔で部屋から出て行った。


 起き上がろうとしたけれどハルルはふらふらで、全く起き上がれなかった。


 しばらくして、ニグリさんともう一人、別のお姉さんが部屋にやって来た。


「ハルルちゃんお待たせ。パン粥だよ。起きれる?」


 ニグリさんにそう言われるけれど、ハルルは首を横に振る。


「ニグリ、体を起こしてあげて。私が食べさせてあげるから」


「はい、お嬢様」


 ニグリさんに体を起こされて、もう一人のお姉さんが、スプーンにすくった白くてトロッとしたものに、息を吹きかけて冷ましている。


「はい、あーん」


 言われた通り、口を開く。


 今まで感じた事のない、温かさと甘さが口の中に広がっていく。


「……おいしい」


「そう、それはよかったわ」


 お姉さんは、ハルルのために次をスプーンによそって冷ましている。

 その顔は、ずっと優しい笑顔のままだった。


「……うぅっ……うえぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」


「あらっ?! 熱かった?!」


 暖かくて美味しい食べ物を口にできたせいか、お姉さんの優しい笑顔を見てほっとしたのか。

 ハルルはたまらず声をあげて泣いてしまった。


 ずっと、ずうっと、ずううっと我慢していた何かが、溢れだしたようだった。


 お姉さん達は嫌な表情を一つも見せず、ハルルが落ち着くまで、優しく抱きしめてくれたのだった。


「落ち着いた?」


「ん」


 ハルルはコクンと頷く。


「それじゃあ、食事の続きをしましょう」


「ありがとう」


 それから、お皿によそわれた一杯を全部食べさせてもらった。


「ごちそうさまでした」


 ハルルがそう言うと、お姉さん二人は目をぱちぱちと瞬かせている。


「あなた、もっと食べられるんじゃない?」


 その一言にハルルはビクっとする。


「あ、ハルルちゃん、さては遠慮してるなー?」


 ハルルを起こしてくれているニグリさんが、ほっぺをプニプニと突いてくる。


「ハルル? まだお鍋に沢山あるの。あなたは、満足するまで食べる事。いい?」


「……いいの?」


「もちろんよ」


 新たによそわれたお皿を渡され、ハルルはいつ振りかわからない程久しぶりに、お腹がいっぱいになるまで食べることが出来たのだった。


 その日の夜、お夕食もお腹いっぱい食べさせてもらった後に、ハルルが置かれた状況を話してくれた。


 まず、ハルルのこの力と素早さは、魔力(まりょく)纏繞症(てんじょうしょう)という特異体質によるものらしい。

 人並外れた力を得られる代わりに、常に魔力を体に纏い、魔力が消耗していく。

 治す方法はなく、体が成長すると共に纏っていく魔力も増え、魔力の消耗も激しくなっていく。

 食事を大量に食べるか、特殊な薬を飲むことで、魔力の回復を促す必要があるらしく、それが出来ないと、下手をすれば衰弱して死んでしまうのだとか。


 そして、その魔力(まりょく)纏繞症(てんじょうしょう)が原因で、ハルルは孤児院から捨てられてしまったらしい。

 経営状態があまり良くなかったらしく、ハルルを食べさせるだけの資金を捻出できないということだそうだ。


「どうして、ハルルは今生きてるの?」


「先生の一人がね、私に相談しに来てくれていたの。魔力(まりょく)纏繞症(てんじょうしょう)と思わしき症状の女の子がいる。どうしたらいいのかって。私も魔力(まりょく)纏繞症(てんじょうしょう)なの」


「……」


「どんな子か、後日見に行くって約束していたんだけどね。その先生が慌ててウチまでやって来たの。院長が森の奥であなたを捨てたって。それで私達が慌てて捜索したの。見つかって本当に良かったわ」


「見つけてもらっても、ハルルもう帰る場所がない。生きれない」


 どんどんハルルの中の何かが冷たくなっていく。


「あら。あなたはこれから私達と一緒に暮らすのよ?」


「……え?」


「元々そのつもりだったの。あなたはいい子みたいだから」


「……いいの?」


「あなたが嫌じゃなければね?」


「居たい! ハルル、もうあそこヤダ! ここに居たいっ!」


 涙を流しながらハルルは命一杯叫んだ。


「じゃあ決まりね。これからよろしく、ハルル」


 こうしてハルルは、温かい居場所と、ハルルの事を大切にしてくれる家族を手に入れることが出来たのだった。




「……うーん」


「あ、目が覚めた?」


「ここどこ?」


「ホノレンの宿屋。体の調子はどう?」


「ぼーっとする」


「まだちょっと顔赤いね」


 私は前髪をかきあげ、おでこを合わせる。


「んー、まだちょっと熱があるか――わっとと。どうしたのハルル?」


 熱を測っていると、ハルルがぎゅうっと抱き着いてきた。


「ハルルがね、孤児院にいた時の夢を見たの」


 ハルルが孤児院で暮らしていたという話しは聞いていたし、口減らしに捨てられてしまった事も知っている。

 きっとハルルにとって辛い思い出なのだろう。


「風邪を引いたせいで、夢見が悪かったのね。よしよし」


 優しく頭を撫でてあげると、ハルルは気持ちよさそうに目を閉じる。


「何かして欲しい事はある?」


「うーん、甘いのが食べたい」


「甘いのかー」


「……ダメ?」


 しょぼんとするハルル。


「ううん。何が良いかなって考えてたの。食欲はあるのね?」


「あるー」


「わかった。じゃあちょっと買い物してくるから、大人しく待ってる事。いい?」


「ハルルも行きたい……寂しい……」


 体調が悪い時は、すごく心細くなる。

 きっとハルルもそうなんだろう。

 でも、熱があるハルルを連れて行くのは避けたかった。


「妾がハルルと留守番をしておこう。お前さん達は行ってくるがよい」


「私もハルルとお留守番してるよ。瑪瑙とルーリ二人で行って来て」


「リステルお姉ちゃんもサフィーアもいいの?」


「かまわんよ。今はお前さんが心配じゃ」


「私も」


「じゃあすぐに戻ってくるから」


「ハルルのこと、お願いするわね」


 二人にお礼を言い、私とルーリは買い物に出かけた。


 サーキスの冒険者ギルドでの依頼が終わった後、私達はすぐに次の街へ向かった。

 その街で、ホノレンの街へ向かう馬車を手配しようとしたのだけれど、運悪くできず、ホノレンまで歩いて行くことにした。


 宿場町までは何事も無く進んだのだけれど、ホノレンに向かう途中で大雨に振られた。

 何とかホノレンに到着して宿をとった次の日に、ハルルが熱を出してダウンしてしまったのだ。


 宿の主人の御厚意でお医者さんを呼んで診てもらい、ただの風邪だと診断された。


 それが昨日の事。


「食事どうしよう。宿の人にキッチンを使っても良いって言って貰ってるから、何か作ってあげたいんだけど」


「何か困ったことでもあるの?」


 バザールで食材を眺めながらあれやこれやと考えていると、ルーリが首を傾げて聞いてくる。


「パッと思いついたのは、お粥とか、おじやなんだけど、お米を食べ慣れてないから避けようかなって」


「お米も病気の時に食べる料理ってあるのね? お粥ってパン粥とは違うの?」


「それだ」


「どれ?」


「パン粥だと食べ慣れているよね?」


「慣れているかどうかは別として、クラネットの時に瑪瑙が作ってくれたじゃない」


「そうだね。あの時ハルルも美味しいって言ってたし。じゃあ後は何か甘い物かー」


 私達はきょろきょろと良い物がないかと、バザールを見てまわる。


「あ、もうこれが出回る季節かー。すみませーん!」


 私は、赤くて可愛い果物を沢山買い込んで、宿屋に急いで戻った。


 宿のキッチンを借りて、ルーリと一緒にミルクパン粥を作る横で並行して、ハルルのために甘い物を作る。


 先ずは買ってきたイチゴを綺麗に洗い、ヘタをとる。

 水分を綺麗にふき取って、イチゴを四分の一にカットしてお鍋にいれ、そこに砂糖を入れる。

 しばらく放っておくとイチゴから水分が出るので、絞ったレモン果汁を入れて火にかける。

 ピンク色の灰汁が出るので、しっかりと綺麗にとる。

 とろみが出たら、器に移して急冷させて、イチゴソースの完成。


「真っ赤で凄く綺麗ね」


「でしょ? しかも、甘くて美味しいよ?」


 スプーンにすくって、ルーリの口へ。


「わっ! すごい! イチゴの香りが口の中にいっぱい! ジャムとはまた違うのね」


 さて、ここからは体力勝負!


 ボウルに卵白と砂糖をいれ、泡だて器で混ぜる。


「あ、メレンゲを作るのね?」


「正解! 頑張ろうね!」


「任せて!」


 二人で必死にカシャカシャと泡立てる。


「腕が―!」


「何のこれしき―!」


 ……手動は大変。


 砂糖を別けて入れ、その都度しっかり混ぜる。

 そうするとメレンゲに艶が出て、角がしっかり立つようになる。

 これをスプーンですくい、天板に小さく丸くなるように落としていくつも並べ、石窯に入れて焼く。


 メレンゲを焼いている間に、ヨーグルトを麻の布で包み、重しを乗せてしっかりと水分を切る。

 さらに水を切っている間に、牛乳を大きな瓶に入れて蓋をして、しっかりと振る。


 振る!


 バシャバシャバシャバシャ。


「ル、ルーリ交代」


「う、うん」


 バシャバシャバシャ。

 ひたすら振る。


「ね、ねえ瑪瑙。これは何を作っているの?」


「バターだよ」


「……えっ?! 普通に売ってるのに?!」


「売っているのは全部塩が入ってるからね。塩が入ってないのが欲しいの。あと、今作ってるのは結構味が違うよ」


「そうなのね。美味しいの?」


「んー? あんまり?」


「瑪瑙?!」


 ルーリはお口をあんぐりと開けて驚いている。


「まあできてからのお楽しみだよ。頑張ってね?」


 ルーリにパチンとウインクして見せる。

 ちょっとだけ頬を膨らませて、


「……もう。頑張る!」


 またシャカシャカと瓶を振り出した。


 しばらくすると振っている音が、バシャバシャと言う音から、べちゃべちゃと言うさっきより少し粘着質な音に変わる。


「あら? 音が変わった?」


「うん、バターができ始めてるから、もうちょっと頑張ってね?」


「はーい」


 私はその間にメレンゲの焼け具合を確認する。


「……よし。綺麗なメレンゲクッキーが出来た」


「凄い、真っ白で綺麗ね」


「これをしばらく放置して乾燥させるっと。はい、ルーリ交代」


「腕が痛いわ……」


 振って出来たバターを瓶から取り出し、水を切ったヨーグルトと砂糖を混ぜる。

 ヨーグルトバタークリームの完成。


「本当は生クリームを使うんだけど、無いからね。それの代用」


 透明な器を取り出して、作っておいたイチゴソース、メレンゲクッキー、ヨーグルトバタークリーム、イチゴを入れて……。


「イートンメスの完成!」


「白に赤色が映えるわね! 凄く綺麗」


「味も美味しいよ。さ、ミルク粥もできたし、持って行ってあげよう」


「そういえば、バターとか水切りヨーグルト作った時に出た水分ってどうするの? 捨てずにとってたよね?」


「それで飲み物を作るからだよ。これは後のお楽しみ」


「ふふ、了解」


 泊まっている部屋に入ると、旅行記を呼んでいたらしいリステルが出迎えてくれた。


「お帰り。ハルルお腹すかせてまってたよ?」


「ごめんね。色々作ってたらちょっと時間かかっちゃった。ハルルはどうしてる?」


「サフィーアと一緒に寝てるよ」


 三人でベッドを覗いて見ると、サフィーアに腕枕をしてもらっているハルルが、サフィーアにしがみついて、穏やかな寝顔を浮かべている。


「んん。おお、戻ったか。ふあ~ぁ」


「んにゅー。良い匂い」


 私とルーリが戻ったことに気づいたのか、サフィーアもハルルも目を覚ます。


「二人とも、ハルルを見てくれてありがとう。ハルル、パン粥作ってきたけど食べれそう?」


「!!! 食べる―っ!」


 嬉しそうに体をガバっと起こす。

 もうだいぶん元気にはなっているようだ。


 お皿にパン粥をよそってハルルに渡すと、私をじーっと見てくる。


「もう、甘えん坊ね?」


 何となく意図がわかってしまったので、ハルルからお皿を返してもらい、スプーンにすくってふーふーと冷ます。


「はい、あーん」


「あーん!」


 嬉しそうに口を開けるハルル。


「美味しい?」


「ん! 美味しいっ! ハルル、パン粥好き!」


「それは作って良かったわ」


「みんなの分もあるから食べてね?」


 ルーリがみんなの分をよそって渡す。


 綺麗に全部食べ終わったところで、デザートを出す。


「うわ! なんか凄く綺麗なのが出て来た」


「ほう? これは何とも鮮やかじゃのう?」


「イチゴが売ってたからね。イートンメスを作ってみたの」


「イートンメス?」


「うん。私の世界のイギリスっていう外国の伝統的なお菓子だったかな?」


「このまま食べても良いの?」


 ハルルが目を輝かせながら聞いてくる。


「えっとね、ぐちゃぐちゃに混ぜて食べるの」


「え?! こんなに綺麗なのにもったいない!」


 リステルが驚いてる横で、ハルルが言われた通りガシガシと混ぜている。


「はっはっは。お前さん容赦ないのう!」


「早く食べたいもん!」


「まあ別に好きに食べてくれていいよ」


「うむ、そうさせてもらおう」


 みんながイートンメスを口に運んでいる間に、私は飲み物を用意する。


 バターを作った後にできたバターミルクと、水切りヨーグルトを作った時に出たホエイを合わせ、レモン汁、ハチミツを混ぜ合わせ、味を調える。

 魔法で作った氷を入れたグラスに注ぎ、完成。


「イチゴの甘さと酸味が、濃厚でコクのあるクリームに凄く合う!」


「この白いクッキーのようなものを口に入れると、サクッとした食感の後、溶けるように無くなっていくのも新鮮なのじゃ」


「あまーい! 美味しい!」


「お口の中が甘くなったら、この飲み物でリセットしてね?」


「うわ、少し甘いけどさっぱりしてる!」


「このドリンクは体にも良いからね」


「瑪瑙お姉ちゃんありがとう!」


「満足してもらえた?」


「んっ! ハルル幸せ!」


 すっかり顔色が良くなったハルル。

 まだ数日はゆっくりした方が良いだろうけど、元気になってよかった。


 私はもう一度、おでこを合わせてハルルの熱を測る。


「瑪瑙お姉ちゃん」


「どうしたの?」


「大好き!」


 ちゅっ!


「むぐっ?!」


 ハルルの唇が、私の唇にしっかりと重なった。


「あああああああああああああああっ?!」


 リステルが絶叫する。


「え?! ええっ?!」


 ルーリは口をパクパクして、呆然としている。


「ハルルも中々やるものよ――むぐぐっ!」


 次にサフィーアとちゅーをするハルル。


「サフィーアも傍にいてくれてありがとう!」


 サフィーアは顔を真っ赤にして固まってしまった。


 リステルとルーリの唇も奪っていくハルル。


「リステルお姉ちゃん、ルーリお姉ちゃんもありがとう! だーい好き!」


 その幸せそうなハルルの笑顔に、私達も幸せな気分になるのだった。

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