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終わりは突然に

 ゆらゆらゆら。


 体が揺られるのを感じる。


「あら、また地震。最近多いね」


 地震はまだおさまらず、少しずつ揺れが激しくなっていく。


「でもさ、この地震おかしくない? 結構震度高いと思うんだけど、スマフォのアラート鳴らないどころか、ニュースでも速報流れないんだよ?」


 私の横に座っている幼馴染の少女が首をかしげて言う。

 揺れはまだおさまっていない。


「震度5くらいはありそうだけど……。ネットで調べても地震の情報ないのよね」


 私は目の前に置かれたサンドウィッチに手を伸ばす。

 結構大きな地震だけれど、割と余裕があるのは、この最近よく起こる地震が変だからだ。


「あ、おさまった! 2分くらい? 結構長かったねー」


「叔母さん、やっぱり食器とか落ちたりしてない?」


「もお! お店にいるときはマスターって呼んでっていつも言ってるじゃない瑪瑙(めのう)ちゃん! そうね。落ちるどころかガタガタって音すらしなかったわね。おかしな地震ね」


 瑪瑙(めのう)は私の名前。

 で、ここは叔母さんが経営している喫茶店。

 私と幼馴染で休日にちょこちょこお昼を食べに来ている。


 さて。

 地震がここ最近よく起こるようになって、もう一週間くらいになるだろうか?

 始めはそんなに揺れなかった。

 時間も2分近く揺れることはなかった。

 それが少しずつ長く大きく揺れるようになっていって今に至る。


 この地震のおかしな点。

 一つ目は、まったく情報がでないこと。

 ニュースは勿論、ネットでも震源地やマグニチュード、揺れた地域、震度と、一切情報が出てこない。


 二つ目は、驚くことに、建物自体は揺れていないかもしれないということ。

 これに気づいたのは地震がある程度激しく揺れるようになってからだった。

 ガタガタと言った建物が出すだろう音が一切しないのだ。

 もちろん棚が倒れたり食器が落ちたりと言うことも全くなかった。

 おば……マスターに聞いたのは、そういう理由からだった。

 だから恐怖心や不安感はいつの間にかなくなっていた。

 慣れちゃったのかな?

 なので地震の話は早々と終わりになってしまった。


「ねぇ瑪瑙(めのう)ちゃん? よくその恰好してるけど、何かのコスプレ?」


「ん゛っ! げほっげほっ! ぢがいまず……」


 飲んでたオレンジジュースむせた……。

 私の格好は、白のブラウスに黒のネクタイ、襟付きの黒のベストにショート丈の黒のトレンチコート。

 下はロングの黒のプリーツスカートに白のソックス。

 靴はヒールの高い黒のショートブーツを履いている。


「マスターもっと言ってやってくださいよ! 瑪瑙(めのう)ってば、すっごい美少女なのにおんなじ恰好しかしないんですよ?! しかも白い手袋に親指にリングまでつけて! コスプレって言われたってしょうがないと思う! 何よベストの襟にアクセまでつけて!」


「これラペルピンって言うの! っていうか好きなんだからしょうがないじゃない! それに、そっちが私に着せたいっていって画像みせてくれるけど、ほぼ全部ゴスロリじゃないの!」


「だって瑪瑙(めのう)に絶対似合うと思うんだもん! せめてもっとかわいい服着ようよー」


「そうねー。私も瑪瑙(めのう)ちゃんってすっごく可愛いと思うわー。だからいろんな服をきてるの、見てみたいかしら? そうそう知ってる? 休日のこの時間って少しお客さんが増えるのよ? どうしてだかわかる?」


「もしかして瑪瑙(めのう)目当てとか?」


「せいか~い! さっきも後ろを通ったお客さんが、瑪瑙(めのう)ちゃんのことちらちら見てたわよ? あと、たま~に瑪瑙(めのう)ちゃんのこと聞かれることがあるわよ? 仲いいですね、お知合いですか? って」


「マスター? それ答えてないですよね?」


 私はニッコリ笑顔で言う。

 お口だけニッコリ。


「……瑪瑙(めのう)ちゃん目が笑ってないわ。仲良くなっただけって答えてるわよ!」


「いいなー瑪瑙(めのう)。モテモテじゃん!」


「……はぁ。私が男の人すっごく苦手なの知ってて言ってるでしょ?」


 そう。私は男の人が苦手なのだ。

 たぶん恐怖症って程ではないと思う。

 何かあったって訳ではないのだけれど、指先が触れるのもご勘弁願いたい。

 それくらいに苦手なのだ。

 それなのに、ちらちらでも見られているのなら、ものすごく居心地が悪い気分になってくる。


 よし、そろそろ喫茶店をでることにしよう。


「おばマスター。お会計おねがいしまーす」


瑪瑙(めのう)ちゃんわざとおばマスターって言ったでしょう」



「マスターまたねー!」


 お会計をすませて、店を後にする。


 ただいま午後1時。喫茶店には1時間半くらいいたのかな?

 広い歩道を歩きつつ、幼馴染といつも通りに取り留めのない会話に花を咲かせる。

 気のせいかな?

 通り過ぎる男の人達がさっきからチラチラこっちを見ている気がする。

 叔母さんが変なこと言うから、自意識過剰になってるのかな?

 見られてなーい見られてなーい。

 よし!


 なんて事はない私の日常。


 これからもずっと続くものだと思っていた。


 万が一にもなくなることはないと信じていた。


 だけど、終わりは突然訪れた。



 空が突然暗くなった。

 まるで夜のように。

 私たちも道行く人たちも空を見あげている。

 見上げた空は、太陽も月も星すらも見えない暗闇に覆われていた。


 そして、立っていられないくらいの強烈な地震が私達を襲った。

 暗くなった空に気を取られていた人の何人かは、尻もちをついてしまう程だった。

 私はとっさに地面に手をつきうずくまる。

 幼馴染も私の隣で同じようにうずくまっている。


 揺れはおさまらない。


 右側にコンビニが見えた。

 店内の人はやっぱり立っていられないようで、座ったりうずくまったりしている。

 

 でも、商品は一切棚から落ちていなかった。


瑪瑙(めのう)! やっぱりこの地震おかしいよ!!」


「わかってる! とりあえずおさまるまでじっとしてよう!!」


 幼馴染が私に右手を伸ばす。

 私もその手を取ろうと手を伸ばした。


 瞬間、幼馴染が吹き飛ぶように転がっていく姿が目に映った。


 幼馴染だけじゃなかった。

 私の近くにいた人は、みんな吹き飛んでいた。


 そして、うずくまっている私の下の地面から、指先ほどの大きさの七色の光が現れ、七色の光は私を中心に幾何学模様を描き始めた。


 踊るように滑らかに、光は模様を描いていく。


「めのっ瑪瑙(めのう)! 瑪瑙(めのう)ー! そこから離れてっ!!」


 幼馴染の叫び声が聞こえた。

 良かった、怪我はしていないようだった。

 離れたいけど、揺れはまだおさまってなくて、私は動くことすらできなかった。


 光は私を中心に模様を描き、どんどん広がっていく。

 漫画とかアニメで見た魔法陣かな? ってふいに思った。

 でも、描かれたそれは円形じゃなくて長方形。

 私にはそれが『扉』に見えた。


 ガチャッ


 鍵が開くような音ともに、光の線でできた扉が開き、私はそこへ落ちていった。


 叫び声もあげることができないまま、七色に光る空間に落ちていき、私は意識を手放したのだった。

一話を読んでいただき、ありがとうございます。

引き続き「終わりと始まりは突然に」をお楽しみください。


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