第10話 オズワルド③
社交界デビューが近づくにつれ、体調不良を訴えることが多くなったキャロルを心配したエミリアは、世間話としてグレースに相談したことがあるという。彼女が以前、昔身体が弱かったと話していたからだそうだ。
その後何があったのか詳しくは教えてくれなかったが、キャロルは半年ほどで驚くほど元気になった。姿勢も良くなったし、朗らかな笑顔をよく見せるようになった。そのことで、姉はグレースにとても感謝している。
そのせいか。オズワルドが仄かに彼女に想いを寄せ始めたことにもすぐに気づき、度々こうしてからかいの種にしてくるようになった。
はっきり言って、非常にめんどくさい。
「なあ、オズワルド。まだ告白はしないのか?」
なぜか真面目な顔になり、姉は何度目かの同じ質問を繰り返す。
「しませんよ。彼女にとって僕は、父親みたいなものですよ」
自分がまわりから相当年上に見られていることは知っている。グレースが今日のように二人での食事に応じてくれたのも、オズワルドを亡くなった父親に重ねて安心しているからだろう。これが他の男なら即引き離すところだ。
我ながら身勝手だとは思うが、そんなオズワルドの前でエミリアは不思議そうな顔をした。
「父親ねぇ。おまえのその色付き眼鏡をやめて髪を整えればいいじゃないか? 年だって七つしか離れてないんだから、さすがに父親は無理があるだろう」
無邪気に首を傾げられてイラッとする。
たしかに身だしなみを整えれば年相応になる。なりはするが、オズワルドのアイスブルーの目は女性や子どもを怯えさせるのだ。濃い色に染めている髪も、元に戻せば白っぽい金髪でさらに冷たい印象を深める。
甥のマークはまだましだったが、姪のキャロルにだって昔何度泣かれたことか……。
オズワルドの風貌は睨みをきかせるには恐ろしく役に立つ。剣を持って対峙すれば、相手が一瞬ひるむ程度には。だが、女性を口説いて泣かれるのは御免だ。
昔親同士の話で婚約寸前だった令嬢にも怯えられ、さすがに無理だろうと話を白紙にしたことさえあるのだ。あのグレースにまで泣かれたら立ち直れない気がする。いや、立ち直れる気がみじんもしない……。
そこまで考えて、オズワルドは大きく息をついた。
(まいったな。思っていた以上にベタぼれじゃないか)
胸を締め付ける苦しさに軽く目を閉じると、エミリアが軽く息をついた。
「身分も歳も問題ないのになぁ。今度の舞踏会に誘ってドレスを贈れば喜ぶんじゃないか? ミズリー公爵?」
最近受けた爵位で姉に呼ばれ、オズワルドは肩をすくめる。
姉は次期国王で、来年戴冠式を控えている。彼女のサポートに当たるため、オズワルドは公爵位を授与されたばかりだ。
まだ二十八歳のオズワルドだが、妻がいないことで周りは少し渋い顔だった。
しかし今の立場なら、そう、立場だけなら、妻になりたいと望んでくれる女性が多いらしく、周りが少しうるさい。オズワルド本人を見れば、老けた姿であろうと素の姿であろうと、決して良い印象を持ってないのが分かるだけにおかしなものだ。
今度の舞踏会は王宮で開かれる。グレースは参加したことがないだろうし、きっと目を輝かせて楽しんでくれることは容易に想像がついた。だが……
「彼女にはきっと婚約者なり恋人がいますよ」
そううそぶいてみせたのに、自分の言葉に胸が痛む。
グレースが時々実家に帰るのは、その男に会うためだろう。こちらに戻るたびに物思いにふけるような様子を見せるのは、結婚を急かされているからかもしれない。
「本人がそう言ったのか?」
「いえ。それは」
エミリアはため息をつくと「言おうかどうか悩んだんだが」と、グレースの実家について話し始めた。




