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第九十九話 vs敵性プレイヤーの従者

「キュウには一撃も通せない。私も防御に回る。アル、単独前衛。暴れて引き付けろ」

「当然なのじゃ」


 マウロと向かい合った時のように、アルティマの全身から紅い魔力が吹き出す。九本の紅い渦が尻尾のように揺れる。炎の尻尾が、暴れる機会を与えられて今か今かと疼いているのだ。


 それだけで取り囲んでいる者たちが狼狽えたのが分かった。


「汝らよ、妾たちの行く手を阻むのであれば、命を代償とした教訓を得ることになろう! 覚悟ができておるか!」


 アルティマの大声と魔力放出に合わせて、エンシェントが「隠蔽、反射鏡、身代わり、風盾」と小さく呟いたのがキュウの耳へ届く。セフェールもその瞬間にアルティマとエンシェントへ向けて、何かの魔術を使っていた。


 僅か一言の間に十以上の魔術が飛び交って、キュウは目を回しそうだ。


「威勢が良いな。だが、貴様らはここで大人しくしていて貰おうか」


 アルティマの言葉に応えたのは、身長がフレアと同等かそれ以上の大柄の男で、キュウの身長よりも長い大剣を背中に背負っている。短く刈り上げられた髪の下には鋭い眼光があり、それはこのところ立て続けに出会っているガルバロスやギルバートという強面の男たち以上で、見られただけで竦み上がりそうだった。


「なんじゃ? 死ぬのが怖くなったかの?」


 アルティマが男の顔も態度も意に介さず、さらに上から目線で見下した発言をする。しかし、その言葉と一緒に全長数メートルまで巨大化した炎の尾の一つが地面を叩き、土を溶かし火花を撒き散らせば、それが本当に上位者から下位者へ向けた言葉なのだと分かる。かなり離れているのに、ここまで熱いくらいだ。


「貴様らは主の願いを叶えたいとは思わないのか? 我らが主は元の世界へ帰還する方法を長い時間追い求めている。我々に従うことが、主の願いに沿うことだと知れ」


 キュウは元の世界へ帰還と聞いて、主人のことを思い出さずにはいられなかった。主人は本当に別世界から来た人だったから、いつの日か元の世界へ帰ってしまうのではないか。


 そう思うと、そんな場合ではないはずなのに、キュウの心臓が締め付けられた。主人が居なくなる。それはあまりにも恐ろしい想像だった。


「そうか。じゃあ用件は終わりか? 終わりならお前たちを蹴散らして、こちらは予定通りの行動に戻るが」

「滅殺なのじゃ」

「愚かな。神の力で作られた人形であることに疑問を持たないとは」

「自己定義についての相互理解は難しいだろうな。私は生まれた時から馬鹿主より出自について色々と問い掛けられていたから揺らぐことはない。特に私やセフェについて言えば、ファーアースオンラインの従者専用AIではない。おそらくお前たちよりも多くの情報を持っているだろう。そして一つ加えさせて貰えば、私はあの主に付き合うことが楽しいし、あいつが好きだ」


 大柄の男が背中の大剣を引き抜き、構えを取った。


「我が主には、使えぬ連中だったと報告しよう」

「私の馬鹿主は名前を覚えるのが苦手だから、お前の名前を報告するつもりもない」


 大柄の男の言葉へそう返答したエンシェントに、相手の名前を聞いていませんと突っ込むべきなのか迷った。




 キュウは息を呑み、全身を緊張させる。敵に取り囲まれている上に、数的有利は相手側にある。そしてアルティマの放出する強大な魔力を目にしても、狼狽えはしても後退や戦力補充を考えていない。キュウの主人が一緒であれば、そんなこと知ったことかと心の中で強がって、主人の傍に寄るところだ。


 アルティマが炎を揺らめかせ、残光を走らせながら男に迫った。

 エンシェントはその場から動いていないが、何かをするつもりだ。

 敵の狙いは後衛となっている回復魔術使いのセフェールと足手まといのキュウ。


 せめて邪魔にならないよう遠くまで逃げるべきか迷う。しかしセフェールに手をしっかり握られているため、それはできなかった。


 複数の魔術が一斉にセフェールとキュウへ飛来する。


「パリエス」


 セフェールの魔術が発動する。目の前に彼女の髪の色と同じ薄桃色の魔方陣が現れた。それがキュウたちに向けて放たれた魔術を完全に遮断している。


 最高の回復魔術を操るクラスに就いているとの話だったが、他の魔術も使えるようだ。それもあれだけの魔術を完全に遮断できるレベルの魔術を。


 やがて敵の魔術の効果が消え、アルティマとエンシェントが見えてきた。


 二人は無事だろうか、と目を凝らす。


「はっはっはっ! その程度なのかの! 弱い、弱すぎなのじゃーっ!」


 九本の炎の尾が敵を蹂躙していた。いや、炎の尾と言うよりも獲物に喰らいつく蛇だ。炎の蛇が物凄い勢いで次々に向かい、追いつかれたら最後塵となるまで焼き尽くされる。大型の魔物の一匹が燃え滓となって消えていった。


 アルティマ自身の身体は、大柄の男と剣で打ち合っている。その手にはインベントリから取りだしたらしい、片側にしか刃がない不思議な形をした真紅の剣が握られていた。


「くっ、この攻撃力! これではまるでプレイヤーだっ! 従者が覚醒しているのか!?」


 最強の主人の従者であるアルティマ、エンシェント、セフェールの三人はキュウの想像以上に強かった。いや、エンシェントが見せた力から予想してしかるべきだったのかも知れない。


 最初の集中砲火を除いてキュウとセフェールの元へ攻撃が届くことはなく、キュウたちと取り囲んでいた敵たちは、ひたすら暴れ回るアルティマを止めようと必死になっている。




 程なくして、キュウを取り囲んでいた敵たちは、魔物は全滅。生きている者も半死半生といった具合だった。


「【隠蔽】や戦術的に攻めて来る奴が居ると思っていたが、そうでもなかったな。AIの設定レベルが低いまま異世界へ来たか」

「エンは心配し過ぎなのじゃ。レベルをいくらも上げていない連中など、敵ではないのじゃ」


 アルティマは地に伏せた大柄の男の頭に足を乗っけるという、どちらが襲ってきたのか分からない行動を取っている。


「これは心配し過ぎではなく当然の警戒だ。従者のレベルは参考にしかならないが、プレイヤーのレベルは三倍以上あるはず。油断は禁物だぞ」


 アルティマは不満そうに尻尾を振り回した。


「しかし、ラナリアの傍にはピアノ殿がいるのじゃ。今頃、敵プレイヤーを全滅させているかも知れないのじゃ」


 キュウにはピアノが強いイメージが湧かない。主人が友人と断言しているから弱いとはまったく思っていないけれども、彼女が戦っているところを見たことがないし、近づいても魔力を感じないのだ。


 それに先日のことがあって、「王家まじ怖い」と言ってキュウを抱きしめながら寝ているシーンばかりが想起される。抱きしめる力が強くて、ちょっと寝苦しかった。


「こやつらはトドメを刺すか?」

「主の意向が不明だ。気絶させて縛り上げる。こいつらの主であるプレイヤーは従魔の死亡と従者のHPの減少は把握しているだろう。多少の時間は稼げる」

「こんなことであれば、マウロを氷漬けにした魔術を覚えさせて貰えば良かったのじゃ」


 アルティマは敵に一人一人に近づき殴って昏倒させて、エンシェントが取り出した縄を使って縛っていく。大火傷を負って苦しんでいる者たちを、更に殴って縛るのはトドメを刺していることに当たらないようだ。放って置いたらたぶん死ぬ。しかしもし彼らの主が助けにくれば大丈夫なので、だからこその時間稼ぎになる。きっと。


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