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第九十八話 公爵の動き

 アルティマがラナリアへ連絡すると、ラナリアも合流に賛成で、城へこっそり入るためにシャルロットに案内をさせるということで話がついていた。再びエンシェントの透明化になるスキルを使って、アクロシア王城へ向かって行く。


 王城の周辺は騎士や兵士がやけに殺気立っていて、荒々しい足取りで行き来している者の姿も見て取れた。キュウたちは、王城へ行く際に使うことになる跳ね橋と大きな門のある正面ではなく、その反対側に位置する場所へ向かう。


 そこは堀の傍に倉庫のような四角い三階建ての建物が建ち並び、それと城に挟まれているため街からは死角になっている。裏路地とまではいかないが、横幅が狭いので四人が一斉に走り出すのは難しい。


 キュウは何気なく上を見上げる。城の外壁を後ろから見るのは初めてではない。でもそれは天烏に乗った上空からだったので、地上から見るとアクロシア王城の高さがよく分かる。正面から見た場合と違って、飾りも凹凸も少ないので余計にそう感じた。


「この辺りのはずだが」


 誰かに見とがめられることなく王城の敷地内へ入ると、エンシェントが透明化のスキルを解除した。


「アル、ここで合ってますかぁ?」

「たぶん合ってるのじゃ」


 約束の場所にシャルロットの姿が見つからず、辺りを見回していると、キュウの耳が足音を拾う。何度も聞いたシャルロットの足音ではない。人数は十人以上で、訓練された規則正しい音でもなかった。


「シャルロットさんではない誰かが、近付いてます」

「隠れるぞ」


 エンシェントの言葉に従って、四人全員で物陰に潜む。幸い木箱や土嚢がそこら中に積んであって、隠れる場所には事欠かない。キュウはセフェールに手を引かれて、木箱の裏に身を隠した。


 それからエンシェントがスキルを使う。身体が透明にこそならないものの、他の三人の気配が薄らいだ気がする。


 足音の一団はすぐにやってきた。


 一団を先導するのは、身なりの良い青年。金髪碧眼でアクロシア貴族に多い特徴だ。衣服も正に貴族そのもので、チュニックの上に金の刺繍が入ったサーコートを身に着けている。堂々とした足取りで歩きながらも、周囲の警戒を一切怠っていない。その警戒の仕方は、騎士や兵士よりも冒険者に近い。格好は貴族だが、おそらく生まれながらの貴族ではないだろう。


「こちらです。公爵閣下」


 そのすぐ後ろを歩いているのは、宝石の散りばめられた王冠を被り、丸々と太った身体に煌びやかな服を着た中老の男性。アクロシアの食糧事情は他国に比べれば豊かだが、それにしてもあれほど太った者は珍しい。ただ歩いてきただけだろうに、キュウの耳は彼の心音が大きく高鳴って、呼吸が乱れているのが聞いて取れた。


「ふう。王族用の隠し通路か。儂が使うのに相応しいが、狭すぎる。改善点だな」


 その周囲を固めるのは、様々な種類の亜人族たちだった。装備はキュウの使っているそれよりも強力なもので、一目で全員が強者なのだと分かる。


 いや現在キュウの周囲を固めている三人のが、誰がどう見ても上なので“強者”と表現するべきかは迷うが。いや、先頭の貴族の青年を含めて、何人かは三人とどちらが上かは分からない。少なくともキュウが戦ったら一秒もせずに敗北するだろう。


 それにしても純人族が強い権力を持つアクロシア王国で、公爵なんて高い地位を護衛する者が亜人族、というのは違和感がある。だとしたら、彼らは絶対に逆らえない奴隷か。もしくは。


「このような不便を強いてしまい、申し訳ございません」

「許してやる。ヒヌマ、お前の働きは悪くないからな。今後も尽くせ」

「はい。勿体ないお言葉です」


 中老の男性が「今後」という言葉を使った時、貴族の青年の鼓動には怒りが現れた。しかし彼は、それを表に出すことなく一礼をする。


 貴族の青年はただの壁の前へ立つと、何かの呪文を唱えた。すると壁が消えて地下への階段が姿を現す。


 集団が階段を降って行ったのを見送ってから、キュウたち四人は隠れていた場所から出た。貴族の青年が暴いた地下への階段は、壁が消えたまま再び塞がれる様子はない。


「公爵というのは、偉い貴族ではないのか? 何故こそこそ王城へ入ろうとしてるのじゃ?」

「アルはラナリアに今のことを連絡だ。この国の事情は知らないが、何かが起きてる」

「シャルロットさん、鉢合わせフラグですかねぇ」

「どう、しましょう?」

「ピアノさんと挟み撃ちで殲滅するのが早い」


 エンシェントはあっけらかんと効率的な考えを口にした。何か心変わりすることでもあったのか、最初の時に戦いを渋っていたのが嘘のように好戦的だ。


 公爵らしい男を連れた集団は、何らかの目的で王城への隠し通路を進んでいる。そこを前からピアノ、後ろからエンシェントやアルティマに襲われたら一巻の終わりだろう。


 相手の事情を一切考慮しない効率的な作戦だ。公爵の集団に大義があり、何らかの正義があったらなんて考えていない。重要なのは主人の従者であるラナリアの無事、その一点のみ。それが保証されれば、公爵の集団を挟み撃ちで殲滅するのも厭わない。


 恐ろしい考えには違いないのだが、何となく主人も同じことを言い出しそうだな、と思った。


「エン」

「どうした?」

「可能ならシャルロットを助けて欲しいと言われたのじゃ」

「だったら―――」


 エンシェントが言葉を言い切らない内に、状況が動いた。


 キュウたち四人が居る場所へ向かって、スキルが撃ち込まれたのだ。何種類かの魔術と魔技、炎系統が多く周囲の温度が急激に上昇した。


 それらはエンシェントが使った【障壁】に防がれる。キュウの使うそれとは一線を画する力強い光を持つ壁だ。


「向こうには、索敵能力に秀でてるのが居たみたいですねぇ」

「ふん、向こうから攻撃してくるのならば、話は早いのじゃ」


 キュウたちを囲むように、四人の人影と十を超える数の魔物がいた。


 人影は全員が虫型の亜人族、亜人族の中でも特に迫害される傾向の強い種族だ。彼らが連れている従魔たちは、天烏のようなある種の神々しさは感じられないが、どれもキュウが見たことも無い魔物で、かなりの強さを持つ魔物だと窺い知れた。


「こいつらを蹴散らしてラナリアの安全を確保する」

「了解ですよぉ」

「任せるのじゃ!」


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