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第八十九話 最大の警告音

 フォルティシモはマウロを見つけたという連絡を受けて、『浮遊大陸』の攻略に失敗した苛立ちを遠慮無く発散しようと、意気揚々とブルスラの森へ向かって行った。


 天烏のダメージは課金アイテムを使って回復してある。天烏は泣きそうな表情の気もしたが、鳥の表情を読めるはずもないので気のせいだ。飛んでる途中でかぁかぁとうるさかったので頭を小突いて黙らせる。


『主殿、ミヤマシジミとか言うのは、前衛を見捨てて逃走したのじゃ。………って、誰なのじゃぁー!?』

「どうした? 新手か!?」


 アルティマの焦った口調にフォルティシモまでつられて声を上げる。


『わ、妾の【解析】が無効化されたのじゃ! それにあの装備っ! ピアノ殿と同レベルかそれ以上! 妾でも勝てぬやも知れないのじゃ!』

『同レベルも何も、私なんだが』

「ああ、そいつピアノだから」


 そういえばアルティマはピアノのアバター、イケメンの金髪男としか会ったことがない。先に説明をしておけば良かったと反省する。


『主殿がご乱心をしてるのじゃ!? こういう時は、エン! エン! 返事をしてくれ!』

「乱心してるのはお前だ。よく見ろ。本物だ」

『ピアノ殿は、女性だったのか?』

『まあ、色々あって、今は女なんだ。って声で何だと思ってたんだよ』

『コラボアイテムの変声機とか言うのを使っているのかと思っていたのじゃ。それにしても種族や年齢以外に、性別まで変えられたのじゃな』


 ファーアースオンラインではアバターを課金アイテムで変更できたが、性別の変更機能はなかったので、アルティマはその仕様を言っている。


「とにかく、マウロだけになったんだな?」

『ああ』


 フォルティシモの戦意が萎む。ミヤマシジミという奴が逃げ出したのであれば、残ったマウロはピアノとアルティマの二人を相手にすることになり、未覚醒のレベル六〇〇〇程度では相手にもならないだろう。もはやどこを見ても最強のフォルティシモの出番はない。


「ピアノお前、城の中に居たのに到着すんの早すぎだろ」

『城………? いや、城の中に居たぞ、うん。気にするな』


 また逃げ出したらしい。


 活躍の場を奪われたような気分になりつつ、ブルスラの森の上空までやって来る。


 森が一部抉れており、ゲームの頃では地形が変わるほどの攻撃をしても問題なかったことが、異世界では酷いことになるのを再度この目で確認できた。


 その中央付近にピアノとアルティマが立っている。傍に人一人が入りそうなほど大きなずた袋が転がっている。おそらく袋の中にマウロが入っていると考えられた。


 詳しい話を聞こうと思って近づいて、フォルティシモは立ち止まる。


 情報ウィンドウが最大音量の警告音を鳴らしたからだ。今のフォルティシモが最大に設定している警告は、たった一つしかない。


 フォルティシモはその警告音を耳にし、マウロのことが頭から吹き飛んだ。


 キュウのHPが半分以上減っている。


 キュウのHPは一ポイントでも減少したら警告が鳴るようにしてある。つまりこの一瞬で、キュウのHPがここまで減った。


「おい」

「うるさかったから、気絶させて袋に詰めた」

「どうでもいい。キュウは?」


 キュウの姿が見えない。


「私が来た時は居なかったぞ」

「………つ、付いて来ていないのじゃ!?」


 その間にも情報ウィンドウからキュウの状態を把握し、音声コールをする。フォルティシモの心臓がうるさい。


「さっきまでアクティブだったってのに」


 ミヤマシジミとマウロの間にどの程度の仲間意識があるかは分からないが、ピアノの増援で勝てないと悟ったミヤマシジミがキュウを狙う可能性は高い。


 人質。


 フォルティシモの胸がざわめく。人質となって目の前で殺された、近衛翔の両親の顔が頭の中を過ぎった。


 もしもそれをするのであれば、フォルティシモはそいつらを皆殺しにする。


 ―――それを許した世界ものとも。


「アル、来い」

「う、うむ」

「おい!?」


 フォルティシモに続いて、アルティマが天烏へ飛び乗る。


 天烏に速度バフのスキルをありったけ掛けてアクロシア王都へと急ぐ。アルティマにキュウと別れた場所まで案内させると、その場には王国騎士たちが集まっており、天烏を見て驚きの声をあげていた。


 アルティマと一緒に地上へ降りる。




 ◇




 ある騎士の述懐。


 最近は非番なんて無くて忙しい毎日だった。


 エルディンの糞エルフ共との戦いに駆り出されたと思ったら、隊長が独断で王都へ逆戻り、王様を取り抑えろなんて命令を出すから、正直トチ狂ったのかと思ったよ。


 それでも、俺にとっては憧れの人で、遠くから見るだけの王様よりは隊長の言葉のが大切だ。あとになって、その行動で勲章まで貰って、さすが隊長だって思ったしな。


 けど。


 あの日、隊長に言われて街中の喧嘩の様子を確認へ行く任務、その時、俺は初めて隊長を恨んだと思う。


 珍しい事件じゃない。高ランク冒険者同士が街中で小競り合いをしてるって話で、いつものように鎮圧すれば良いだけだ。一緒に現場へ向かった先輩も気楽なものだった。高ランクって言っても冒険者平均レベル八〇、騎士団は平均三〇〇で、俺たちの隊はその中でも精鋭って言われるほどレベルが高いしな。


 でもよ、想像以上に壊された街並みに、何があったのか冷や汗を掻いたよ。屋台を壊したとか、部屋を荒らしたとか、そういうレベルじゃあなかった。まるでその場所だけ暴風が発生したかのような後だった。


 その近くで四、五人くらいの冒険者が争ってた。いや不気味な風体の男が冒険者たちに襲い掛かって執拗に嬲っていた。そうしたら高そうな服を着た狐人族と神官の女の子が割り込んで、戦いを始めたんだ。


 俺たちはもちろん止めようとはした。だけど、不気味な風体の男以外にも変な連中が集まってきて、俺たちはそいつらを止めようとした。そいつらはとんでもない強さで、武器をほんの一振りしただけで先輩も俺も吹き飛ばされた。死ぬかと思ったよ。いや、実際先輩は死んでた。首が変な方向に曲がってた。俺も自分の身体から内臓が飛び出てるのが分かって、ここで死ぬんだって思った。


 けど、俺たちは助けられた。誰にだって? 聖女様にだよ。


 とんでもない美人の護衛を連れた聖女様が祈りを捧げると、死んだはずの先輩が動き出して、俺も何事もなかったかのように動けたんだ。街並みだってそうだ。あれだけ壊されてたはずなのに、気付いた時には綺麗なものに戻ってた。


 信じられないだろ? 俺だって、夢でも見てるのかと思ったさ。だけど本物だ。後光が差してて顔までは見えなかったけど、本物って居たんだよ。


 それから聖女様が悪魔払いを始めるのかと思ったら、美人の護衛が狐人族の女の子を荷物を持つみたいに担いだんだ。二人はすぐにその場から駆けだして、その連中はそいつらを追い掛けて行ったよ。


 どっちに行ったか? 知るか。そんなこと。そんなの些細な問題だ。


 本当の恐怖は、その後だったんだ。


 国を救った神鳥が頭上に現れた。聖女様が乗り込んでたんだって、呑気に考えてた自分が憎い。


 降りて来たのは、二人の化け物だ。


 二人って、数えて良いのかもわかんねぇ。狐人族は真っ赤な血のようなとんでもねぇ量の魔力を放出してて、近づかれただけで吐きそうだった。一目でこいつが噂になってる魔王だって分かった。


 男のほうは、どす黒い、まるで俺たちを皆殺しにするかのような、全身から生命に対する憎悪を漲らせているようだった。そいつが居るだけで、生きた心地がしなかったよ。


 なんでか、そいつらは最初に目の合った俺に近づいて来た。きっと王国騎士の鎧を着てたからだろうな。


 何があったかって聞かれたから、ここで見たことを洗いざらいしゃべった。


 俺からは何かしなかったのかって? できるわけないだろうがっ。あんなもんに関わるんなら、騎士なんか目指さなかった。ちょっと魔技ができるからなんて、意味ないんだよ。


 ちくしょうっ、アクロシアは終わりだ! いや、この大陸は、あの魔王に滅ぼされるんだ!



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