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廃課金最強厨が挑む神々の遊戯  作者: 葉簀絵 河馬
アフターストーリー
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第四百九十七話 周章狼狽

 フォルティシモは敵対した者を容赦なく排除して来た。しかしサイの召使いが何を言っているのか理解できず、巨大黒剣をもう一振りしてサイごと召使いを叩き斬るのは思い留まる。


 サイの召使いが敵か味方か、加害者か被害者か分からない。共に後者であれば、今のフォルティシモは基本的に助ける方針の掲げ中だった。


「この世界を守るって、たった今、俺が守りに来てるはずだが」


 フォルティシモはゼノフォーブフィリアと共に、この世界を最果ての黄金竜から守るためにこの場に居る。


 現代リアルワールドの神ゼノフォーブフィリアと協力関係にある。この世界において、これ以上の大衆的正義は存在しないだろう。


『フォルティシモ、其方や神戯に関する記事が、世界中に拡散してる』

「何で今、そんな情報を………」


 フォルティシモが戸惑っていると、ゼノフォーブフィリアから場違いな話を聞かされた。ネット記事が戦場でどんな意味があるのかを考え、しかし他ならない世界の神様からの情報のため、内容を確認してみることにした。


『エン、その記事とやらを要約して送ってくれ」

『記事を書いたのは、主の目の前に居る人物だ。調査内容と共に送った』




 フォルティシモはサポートAIエンシェントから送られて来た中で、まずは自分に関する記事の要約を読む。


 その記事は、現代リアルワールドで起きた行方不明事件や不可思議な出来事、その中で神戯に関連したものを的確に扱っていた。


 かなりの取材を行ったようで、多くの事件とその証拠を提示しており、捜査能力は現代の警察以上かも知れない。ただ推論部分がガバガバで、何がなんでもフォルティシモが悪、と締めくくっている。社説やコラムを書かせてはならないタイプなのだろう。


 フォルティシモは反射的にコメント欄で反論しようとしたが、記事にコメント欄がなかったので諦めた。


 次にサイの召使いが何者なのか。


 まずサイの召使いは、今日オーケストラコンサート会場で出会った新聞記者らしい。フォルティシモが思い出せるのは、キュウと一緒に歩いている時に「美男美女の恋人」としてインタビューされたのと、勝手に写真を撮影されたことくらいで、顔も容姿もほとんど思い出せなかった。


 文屋(ふみや)一心(ピュア)。今時珍しい紙の新聞を発行している新聞社ルー・タイムズの新人記者。それだけなら一風変わった会社へ就職しただけの社会人だが、彼女の事情は多少異なっている。


 文屋一心は幼い頃から神戯に召喚されてもおかしくない才能の片鱗を見せていた。


 彼女は中学校卒業時点で世界の主要言語をネイティブと変わらない会話ができるほどに習熟し、高校から大学在学中に数百の文字言語で論文を書いた、世界で取材をするために産まれたような才女だった。


 ただしこの才能は、現代ではあまり評価されないタイプである。性質は時に忘れられた神々(トッキーたち)に近い。


 それは現代の人間に寄り添うサポートAIが、地球上に存在する二千の文字言語をネイティブ以上に理解し、七千の音声言語を完璧に話せるためである。


 己の才能が現代の価値にそぐわない。文屋一心はそれに腐らず努力して、一流企業へ就職できるはずだった。


 それができなかったのは、おそらく彼女の家族が原因だろう。


 兄が事件事故か駆け落ちか、ストーカー被害に遭った後に失踪。忘れられる権利を行使したのか、極端に情報が少ない。


 両親もなかなかのもので、父親は詐欺紛いの商法で財を築いたせいで、結審したものだけでも自己破産確実、今でも複数の裁判が行われていた。母親は外の男へ金を貢ぎ、多額の負債を背負っている。それらが兄の稼ぎで豪遊していた末なのか、元々そうだったのかは分からない。




 文屋一心に関する調査報告を斜め読みしただけで、フォルティシモの顔が歪んだのは言うまでもない。


 こういうのがあるから、ゼノフォーブフィリアの創世した世界は嫌いなのだ。現代リアルワールドの神様はクソ野郎だ。マリアステラは殴ったから、次はゼノフォーブフィリアを殴ろうかと迷う。単なる八つ当たりだが。


「サイの召使い」

『な、なんですか、魔王フォルティシモ! もう私の記事は取り下げません! そうしたところで手遅れなのは、この世界出身らしいあなたならご存知でしょう!』

『フォルティシモ! 誇り高き最強の竜神である我の召使いを恐れたか! だが召使いは、フォルティシモよりも誇り高き最強の竜神である我へ平伏した!』


 サイも何か言っていたが、それは無視した。


 フォルティシモは相手が興奮状態にあると察し、できるだけ言葉を選ぶ。目的はサイの召使いにサイの頭の上から穏便に移動して貰うこと。分かり易く、相手が理解できる言葉で、事実とこちらの立場を説明し、要望に答えさせる。


「お前、サイに騙されてるぞ。俺が正しい」

『あはははははは! あっ、ははは! 選んだ言葉がそれ! 酷すぎる! 涙で“目”が視えない! 魔王様は私を殺す気!? 今なら殺されても良いかも!』


 反応してくれたのはマリアステラだけで、エンシェントやセフェールなどは絶句したのか何も言って来なかった。何人かがフォローしてくれたような声もしたが、マリアステラの笑い声が大きくて掻き消された。


「いや、待った。今のは無しだ」


 フォルティシモがコミュ障と呼ばれる最大の理由。それはきっと、本当に大切なコミュニケーションにトライアンドエラーが通用しないからだ。


 出した言葉は戻らない。


 失った信頼を取り戻すのは、ゼロから信頼を得ることの数倍は困難である。


 千回酷い言葉を投げ掛けた後、一回だけ良い言葉を口にしても、誰も信頼してくれない。


『ふざ、けるな』


 案の定、文屋一心はもうフォルティシモの言葉を聞かないだろう。


『あなたが、神戯に人を巻き込んだから! 私の家族はっ!』

「俺が神戯に巻き込んだ奴なんて、ただの一人も―――」


 フォルティシモ自身、騙された形で神戯に参加させられた。何も分からず状況を推測して必死だった中、たった一人だけ、相手の意志を無視して巻き込んだ人がいる。


「あれ、だ。まあ、俺はあくまで被害者側だが、フォルティシモを最強にするために、敵を倒してきた。だが俺は、俺に敵対しない者たちを殺したことは一度も無い」

『話を逸らさないで! あなたは人の意志を無視して神戯とか言う、死ぬかも知れない戦いに人を巻き込んでいる! “私には分かる”!』


 文屋一心にフォルティシモの言い訳は通用しない、と言わんばかりに叫ばれた。


「たしかに、巻き、込んだ、が」

『ほら認めた! そうやって、不幸を撒き散らしてる!』

「きゅ、キュウだけは、特別だった。俺も冷静じゃなかったが、悪かったと思ってる。金で買ったのは、やり直したい。やり直す時は、もっと颯爽と救い出すような形にしたい」

『人を買った! え、キュウ、九? 人を番号で呼ぶなんてっ! それで特別だなんて、よく言える!』

「ち、違うぞ。キュウが本名を教えてくれなかったから、今は知ってるけど、とにかくキュウはあれだ」


 フォルティシモがしどろもどろになっているせいで、文屋一心が益々勢いづいていった。


 フォルティシモも別に文屋一心に責められて狼狽えているのではない。フォルティシモの言葉をキュウがどう思うか想像してしまい、上手く考えがまとまらないのだ。


 この会話を聞いているキュウに悪く思われたくない。だからフォルティシモはキュウへ向けて話していた。


 そんなフォルティシモの状況を聞いて、最高の援護射撃が入る。


『ピュアさん、私はご主人様を愛しています。私はご主人様と一緒で幸せです。それに、ご主人様は私たちの世界で大勢を救ってくれました。だから大勢を不幸にしているということはありません』

『あなたは騙されているの! 本当にあなたを尊重しているのなら、“ご主人様”なんて呼ばせない!』

『い、いえ、これは私がそう呼びたいと言っただけで、皆さんみたいに呼ぶのが恥ずかしいというのも、ありまして。お名前を呼ぶのが嫌、という訳では、決してなくて』


 キュウもフォルティシモと同じようにしどろもどろになった。


 余談だが、フォルティシモはキュウへ「ご主人様」呼びを変えないかと話題にしたことがある。


 ちょっとした機会に「フォルティシモと呼んでくれ」とキュウへ伝えたところ、キュウが耳と尻尾をパタパタさせて、困っていたので「ご主人様」呼びの継続となったのだ。


 フォルティシモはいつの日か、キュウから「フォルティシモ」か「あなた」と呼ばせようと心に誓っている。


『フォルティシモ、そうやって他人を不幸にし続ける!』

「他の奴らがどうなろうと知ったことじゃないが―――」

『やっぱり!』

「だから、人の話は最後まで聞け」

『私は、負けない。そして、アサ兄の仇を取る!』


 話が繋がっているように見えるのに、ここまでズレた言葉の応酬には身に覚えがあった。しかし具体的に思い出す前に、文屋一心が動き出す。


『竜神サイ様、聞いてください! 私が今から、世界中へ呼び掛けて、竜神サイ教へ勧誘します! だから、フォルティシモを倒してください!』




 神思うが故に神在り。


 その言葉をフォルティシモが聞いたのはピアノからだったけれど、神々の世界の根幹を示していると言えた。


 神という存在にとって信仰は非常に重要な要素であり、信仰は人間にとっての食事で空気で血液で筋肉で兵器で電気でインターネットだった。


 信仰、信仰心エネルギーについては、フォルティシモも異世界で可能な限りの調査をした。カイルがリーダーを務める<青翼の弓とオモダカ>に実験して貰った結果は有用で、中でも聖マリア教の信徒フィーナの言葉はフォルティシモが信仰を解析するための指針にもなっている。


 信仰とは想うこと。


 そこに善悪や好嫌は関係ない。


 思う者が大勢いれば、神は強大になる。


 ここで、神戯の舞台となった異世界ファーアースを考えて見る。異世界ファーアースは現代リアルワールドどころか、地球に比べても狭い世界だ。さらに人類の生存圏がモンスターに脅かされている設定で、異世界ファーアースの人口は中世ヨーロッパの約七千万人に届くかも怪しい。


 対して、現代リアルワールドの地球、今の人口は約百億人。二十一世紀前半に八十億を突破してから、戦争、食糧問題、疫病など色々あったものの人類は増え続けている。


 つまりサイの召使い文屋一心の使った力によって地球人類百億の人間が、最果ての黄金竜というニュースを知った。


 それによって何が起きたのか。


 百億の信仰が、“黄金の竜神のコピー”だった最果ての黄金竜を、真の竜神へ到達させようとしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、御作を読みました。  ワロタw フォルテが惚気半分で全速力で地雷を踏みまくってるww  過去を振り返れば、コミュニケーションだと馴染みのピアノや最愛のキュウちゃん相手ですら失敗…
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