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第四百三十九話 従属神の戦い 後編

> 従者マグナが従属神マグナに進化しました

> クラスアップ【鍛冶神】


 五番目の従者マグナの戦場は考えるまでもない。


 『浮遊大陸』フォルテピアノ国にある鉄火場だ。


 元々従者マグナが作成された理由は、フォルティシモの装備を用意するためであり、最高の装備を作ることが至上命題である。


 今のマグナは従属神ながら神としての権能を扱える。


 またマグナは神に到達する前からドワーフたちを中心に鍛冶神と呼ばれていた。ドワーフを初めとした鍛冶師たちは今も鍛冶神マグナへの信仰を捧げていて、マグナ自身が使える信仰心エネルギーが流れ込んでくるのだ。


 神としてのマグナが、その腕を振るえば―――。


「お、お師匠おおおぉぉぉ、どこいっていたのけぇぇぇ!」


 鉄火場へ戻って来た途端、一番弟子エイルギャヴァが泣きながら抱きついて来た。この鉄火場で働く大勢の鍛冶師たちも、一斉に手を止めてマグナを注視する。彼らは大氾濫で消費されるアイテムの製造と修復を引き受けていて、大氾濫が始まってからずっと鉄火場へ詰めてくれていた。


 だからエイルギャヴァは突然姿を消したマグナを心配していた、のではない。彼女たちは神戯の詳しいことなど分からないし、理解しようともしない。彼女たちが目指すのは最高の武具を作ることだけ。


「もう、三日! 三日、寝ずに世界中から届けられる武具を修復しているのけ! 限界、限界なのけ! そんななのに、どうしてお師匠がいなくなるのけ!?」

「あー、まあ悪かった。ちょっとフォルさんの用事が」

「そんなの断れば良いのけ!」

「逞しくなったな」


 弟子は師に似るというべきか。エイルギャヴァはすっかりマグナに似てきた気がする。


 マグナはお気に入りのバンダナを頭に巻き、愛用の槌を手に持った。


「あ、そうだ、エイルギャヴァ」

「なんなのけ?」

「私と初めて会った時、エイルギャヴァが言った言葉、覚えてる?」

「お師匠との出会いを忘れるはずがないのけ」


 マグナは表情に笑みを作る。


 マグナがエイルギャヴァと初めて出会ったのは、キュウと一緒に鍵盤商会を訪れてダアトと喧嘩をしていた時だった。


 あの時、エイルギャヴァはたしかに言った。


「夢見た先、私にもあった」


 本物の神へ到達した鍛冶神マグナは、その日、伝説になった。


 一番弟子エイルギャヴァを始めとして、幾人もの鍛冶師の心を再びへし折ってしまい、復帰するのに時間が掛かったのはまた別の話だ。




 ◇




> 従者ダアトが従属神ダアトに進化しました

> クラスアップ【財福神】


 四番目の従者ダアトは、この最高最低の状況を何とかしなければと燃え上がった。


 大氾濫で様々な装備や薬を用意し、完全バックアップ体制をしていた鍵盤商会だが、予想外の事態の連発に加え、フォルティシモと会長ダアトの行方不明が重なり混乱を極めている。後輩キュウとラナリアがフォローをしてくれたのが、ギリギリで持ちこたえている理由だろう。


 しかし、そのせいで戦場に必要な物資が届いていない。


 商売において最も価値のある商品は、信頼だ。


 鍵盤商会は信頼という商品を、発足当初から大安売りで売り続けていた。一部の王侯貴族や同業他社から蛇蝎の如く嫌われようとも、フォルティシモとラナリアを盾にして売り続けた。


 だから冒険者の中には鍵盤商会製以外購入しない者もいるし、各国の軍隊へ卸しているし、最近は戦後を見据えて日常生活に役立つアイテムまで手を伸ばしている。買収なんて当たり前、応じない相手がいればフォルティシモがガチャしたアイテムやマグナが作ったアイテムを安価で売り捌き、時には相場操作を行い、独占禁止法がない世界で好き勝手やった。


 しかしこの信頼という商品が厄介なところは、開封後の消費期限が生鮮食品並みの点である。こんな危機的状況で物が届かないなど、あってはならない。


 そして何よりも優先するべき問題がある。


 今、売らなければ大量の不良在庫を抱えることになってしまう。


「従業員共! ここが分水嶺だ! 世界の人間すべてがプレイヤーになった今、すべての取引をログに残せる! 口約束でも良い! 在庫をすべて吐き出すつもりで動け!」

『『『承知しました会長!』』』


 フォルティシモはこれから<時>の神々や近衛天翔王光と戦うのだろう。他の従者たちはそのために各地を補佐し、フォルティシモが守ると約束したものを守るはずだ。


 だがダアトは違う。フォルティシモを踏み台にして鍵盤商会のために動く。


 この世界において最高の富豪(最強)はダアトだ。


 そんなダアトは誰よりもフォルティシモの従者らしいと言えるかも知れない。


「このフォルさんが頭のおかしい行動の果てに得た神の力、私が、有効活用しますよ!」


 ダアトは世界中に無数の【転移】ポータルを出現させた。情報ウィンドウで調べればどこがどこへ繋がっているのか、今のNPCたちなら理解できるだろう。


「まずは移動と流通を抑える」


 そしてダアトは自らの従者、孫従者、曾孫従者、子孫従者たちとネットワークを構築していく。鍵盤商会の全情報を集める基幹システムの役割を、神となったダアトが行うのだ。


「あ、あああ! あったま痛い!? くっそ、神に成ったら何でもできるんじゃないの!? フォルさん! 聞こえますか! 緊急じゃないけど緊急事態です! 私のスペックをもっと上げてください!」




 ◇




> 従者セフェールが従属神セフェールに進化しました

> クラスアップ【救世神】


 三番目の従者セフェールは、またえらく掛け離れた名称を付けられたものだと思った。


 そもそもセフェールという名前も、ラテン語における書物、特に聖書の意味で名付けられている。何とも不相応この上ない名前である。


 救世、聖書なんて意味を自作のハッキングAIに付けるフォルティシモの感性は、どうかしているに違いない。AIこそが世界を救い、新たな教えになるとでも思っているのだろうか。


 今のセフェールは一つの魂で二つの身体を操作している。一つはこの救世神セフェールという少女、もう一つは地下にある量子コンピューターセフェールだ。


「はてさて何をしましょうかねぇ」


 セフェールはキュウの護衛が役割のほとんどで、人付き合いは最低限だった。今のキュウはセフェールの護衛が必要な状態ではないだろう。ならここで助けに行くような人物はいないし、守りたい場所も特にない。


 それに今のNPC、デーモン、エンジェルたちは死んでもセーブポイントへ戻るだけなので、無理にヒーラー役をやる必要もなかった。


「相変わらず、最強な人の便利ヒーラーは、とっても暇な役割ですねぇ」


 そう言えばキュウと出会った頃、自分こそ従者の中で一番の暇人だと自己紹介した気がする。最近は異世界ファーアースの状況のせいで忙しかったけれど、元へ戻ったのだ。


 ならせめてこの戦いを見届けて、最強神の聖書(セフェール)に記録するとしようか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] イエスマンばかりを周囲に置かないのは、日本の政治家にも見習って欲しいですわ
[一言]  こんにちは、御作を読みました。  サポート担当だと侮るなかれ、大規模戦闘ではむしろ本領発揮なのよとばかりに、マグナさん、ダァトさんが活躍しましたね!  そしてセフェールさん(≧∇≦)オチに…
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