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第四百二十一話 最強再会 前編

 VRMMOファーアースオンラインのホーム画面、星空の元で最強(フォルティシモ)母なる星の女神(マリアステラ)は三度目の邂逅を果たした。


 一度目はキュウを誘拐した―――マリアステラの主張によれば、玄関から入ってキュウに挨拶した上、マグナにも断ってから連れ出した―――から問答無用で叩き切った。キュウはフォルティシモのもので、フォルティシモに無断でキュウを誘い出したのだから、叩き切った決断に何の後悔もない。


「魔王様は愛が重いなぁ。キュウの愛も重いけどね」

「そうなのか? 軽すぎて気が付かなかった」

「キュウの愛が足りなかった?」

「そんな訳があるか! キュウの愛なら、どんな重量だろうが軽々と受け止めてやるって意味だ!」


 二度目はピアノが連れて来た。ピアノはマリアステラによって難病で寝たきりだった前世を救われているから、彼女へ好感を抱くのも理解できるし、頼みを拒否できないだろう。フォルティシモも親友(ピアノ)を生き返らせてくれた点には感謝していたから、真面目に交渉の話し合いをして、追い返した。


「魔王様に冷たいって言われて傷付いちゃったよ」

「あの程度で傷付くならインターネットを止めろ」

「私、魔王様の親友を救ってるんだよ?」

「そうか。それが善意だったら感謝して、友人になりたいくらいだ」


 そして三度目は、フォルティシモ自身が望んだ。ただし、これを望んだのはフォルティシモであってフォルティシモではない。


「招待されたって言ったな? 俺がお前を招待した覚えなんてないぞ」

「もちろん本物の魔王様じゃないよ」


 マリアステラは首から下げていた懐中時計を外して、フォルティシモの目の前へ掲げて見せた。


 VRMMOファーアースオンラインのガチャアイテム、刻限の懐中時計。一日一回デスペナを回避できるアイテムで、異世界ファーアースでは自称竜神最果ての黄金竜さえも蘇生させる効果を持っていた。フォルティシモが初めてキュウにあげたプレゼントでもあり、元々気に入っていたデザインが一層輝いて見える。


「刻限の懐中時計なんて貰っても、いくらでも倉庫に―――」


 フォルティシモはマリアステラに掲げたそれを見て、驚きに目を見開いた。


 この刻限の懐中時計は、他には二つと無いフォルティシモがキュウにプレゼントした刻限の懐中時計だったからだ。VRMMOファーアースオンラインでは、使わないアイテムが汚れたり壊れることはない。けれど異世界ファーアースではアルティマが望郷の鍵を壊したように、持ち続ければ汚れるし傷も付く。


 キュウはフォルティシモがプレゼントした刻限の懐中時計をとても大切にしていたけれど、いつも持ち歩いているから傷や汚れはどうしても溜まっていく。キュウは気にして頻繁に掃除をしたり布に包んだりしていたけれど、フォルティシモにはその傷や汚れが、フォルティシモとキュウが積み重ねた時間のようで、嬉しかった。


「なんで、お前が、持ってるんだ………?」


 キュウが死んで、その遺品をマリアステラが持ってきた。最悪の想像がフォルティシモの脳内を駆け巡る前に、その声が聞こえてくる。


 聞き覚えのありすぎる声。誰であろうフォルティシモの声だった。


『おい、本体の俺! キュウを放って置いて、何してんだ! PKするぞ!』


 VR空間でアバターを動かす際、現実の身体を動かすのと最も違うのは、自らの“声の聞こえ方”だろう。自分の声を録音して聞いたことのある人ならば経験があるだろうが、声というのはしゃべっている本人に聞こえる音質とはまったく違っている。


 その点、VR空間では自分も他人も同じ声が聞こえるようになっていた。キュウだったらどう聞こえてるのか気になるので、いつかキュウにVRダイバーを使わせてみたい。


「お前、『マリアステラの世界』に送った、俺か?」


 フォルティシモはキュウがマリアステラとケペルラーアトゥムに連れ去られた時、自分を魂のアルゴリズムでコピーしてAIフォルティシモを造り出した。そのAIフォルティシモへ信仰心エネルギーを与えて、『マリアステラの世界』へ送ったのだ。


 キュウの話によれば、AIフォルティシモは己の役割であるキュウの救出を完遂して、太陽神ケペルラーアトゥムの神威の前に殺されたはずだった。


『ああ、そうだ。だが、ようやく同期できるのかと思えば、キュウを置いて、自分だけ安全地帯か! クソだな!』

「そんな訳あるか! 爺さんの策略に嵌められたんだよ! 戻る算段も付けてた。だが、爺さんと、トッキーの準備は想像以上だった。このまま戻っても、フォルティシモは最強じゃない」


 フォルティシモはAIフォルティシモと戦うという、あまりにも不毛なやりとりをすぐに中断する。


「お前こそ、なんでマリアステラと一緒にいる? 俺の癖に裏切りか」

「私は魔王様たちの敵じゃないよ。ファンだよ」

『俺はキュウに、最強のプレイヤーとして異世界召喚された』

「自慢か。PKするぞ」

「無視されるのは、なかなか無い経験だね」


 不毛なやりとりが中断していなかったことに気が付いて、目の前の情報ウィンドウからガチャを引いた。落ち着くまで引き続けて、落ち着いた。


『その後、太陽神を攻撃したが、そこで力尽きた。そこに』

(救いの女神)が現れた」

マリアステラ(クソ野郎)が弱ったところに付け込んできた』


 マリアステラとAIフォルティシモが真逆の感想を述べる。フォルティシモは迷うことなく後者を支持した。


「消えるくらいなら、マリアステラ(クソ野郎)と取引して生き存えたのか。俺なら酷く不利な取引はしなかっただろうから、この近衛翔のホームに招待することが取引内容か?」


 AIフォルティシモは刻限の懐中時計に宿っている。


 フォルティシモが最初の神戯参加者セルヴァンスを魂のアルゴリズムでコピーして、テディベアというぬいぐるみに納めたように、マリアステラはAIフォルティシモを刻限の懐中時計へ書き込んだのだ。


『いや、それだけじゃない』

「それ以外にも取引したのか? マリアステラ(こいつ)はクソ野郎だぞ? 俺が分かっていないはずがないだろう?」

マリアステラ(こいつ)はクソ野郎ってのは、俺だから分かってる。だが俺たちには、もっと大切なものがある。キュウのためだ。本体の俺には、キュウの悲鳴が聞こえないのか!』


 フォルティシモはAIフォルティシモに言われて、後悔が浮かぶのを止められなかった。


 気付いていた。気付いていて、あえて目を逸らしていた事実。


 キュウは今頃、泣いているに違いない。


 キュウのような耳がなくても、キュウの泣き声が今にも聞こえてきそうだった。きっと【拠点】の片隅で隠れながら、襲われることへ恐怖し、最強のフォルティシモを待ち望んでいるはずだ。今すぐ駆けつけてキュウの涙を拭いてやりたいけれど、彼女が望んでいるのは最強のフォルティシモであって、今のフォルティシモではない。


 キュウを泣かせたこと、キュウの望む最強のフォルティシモでいられなかったこと、すべてが後悔に繋がっていく。AIフォルティシモへ言い返せなかった。


「まあまあ、本物の魔王様、AIの魔王様、私がクソ野郎なのはその通りだよ。でも、私たちはキュウのためって目的で協力できる。そうでしょう?」

「お前、かなり高位の神で、太陽神を始めとして大勢の神々を従えてるんだろ。自分をクソ野郎だとか言って良いのか」

「私は直接人間への恩恵を与えるような神でもないからね。人間から見たら、私はクソ野郎に違いない」


 マリアステラのその発言は、あまりにも重大な真実を告げている。


 マリアステラは信仰心エネルギーを求めていない。おそらく“偉大なる神々”にとっては、信仰心は重要ではないのだ。太陽神や勝利の女神、竜神などが最重要と位置づけている信仰が不要。


 だとすると、色々な前提が覆る。


 最強(フォルティシモ)にとって都合の良い方向へ。


「おい、AIの俺」

『なんだ、本体の俺』

「俺はフォルティシモを最強にする」

『時間が必要なんだな?』

「キュウを頼む」

『頼まれるまでもない』


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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、御作を読みました。  フォルテ 対 フォルテ  fight!  た、確かに不毛だ。  千日手で焼け野原を作りそうw  マリアステラの真意はわかりませんが、aiフォルテとの合流…
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