第四百十七話 キュウvsオウコー 後編
つうから主人の【拠点】の管理権限を与えて貰ったキュウは、予備に保管されていた、もう一本の第二廃人器魔王剣を取り出してきた。
後で主人とマグナにめちゃくちゃ怒られそうだけれど、今は、今だけは、早く怒られたい。
空中でキュウとオウコーの魔王剣がつばぜり合いを繰り広げる。絶対に相手の武具を破壊する最強の神具は、お互いの存在を否定するかのように火花を散らしていた。
「ますます魅力的に映るわ。どうじゃ? 儂のペットになれば楽しませてやろう。この案件が終わった後ならば、あの半分愛している孫と一緒に飼ってやるぞ」
主人との再会をほのめかされて心が動いたけれど、ここでオウコーの愛玩動物になることを了承してしまったら、二度と主人の前で胸を張れなくなる。
「私は、ご主人様のものです!」
つばぜり合いはオウコーに軍配が上がった。キュウはつうの力を受け継いでいるとは言え、主人を乗っ取ったオウコーに力比べで勝てるはずがない。
「残念じゃな。だが儂が愛する娘のお気に入りのペット。儂も殺処分はしたくない。ならば強制するしかなかろう。システムアクティベート【隷従上書】」
【隷従】スキルは既に他の者の奴隷には効果がない。それがキュウの常識だったけれど、嫌な予感は止まらなかった。オウコーは【隷従】を上書きして、キュウを主人の奴隷からオウコーの奴隷に変えようとしている。
絶対に嫌だ。キュウは主人以外の主人なんて要らない。
「負け、ませんっ!」
「………ん?」
キュウは全力で抵抗しようと思ったけれど、予想外にオウコーの動きが止まった。オウコーは情報ウィンドウの前で首を傾げている。
キュウは自分の心と体を確認する。何も変わりが無いようだった。
「どうやら、もうモフモフには【隷従】の効果がないようじゃな」
「光尾!」
「ぐおおおっ!」
【隷従】はファーアースの住人や魔物、NPCやモンスターを強制的に従わせるための魔術なので、プレイヤーとなったキュウには通用しない。
キュウがプレイヤーになるなんて、つう以外は誰も予測もできなかった事象だ。いやそうではない。つうの行動だけは、オウコーの予測も才能も曇る。大きすぎる愛、故に。
「ならばこれじゃ、【世界制御】! 儂はモフモフを飼うぞぉぉぉ!」
主人の使う神の力、権能【領域制御】。主人曰く全知全能に限りなく近い力。世界をデータベースのように参照し、更新できる力。
それに対してオウコーの力は、権能【世界制御】と言うらしい。おそらくは同じように全知全能な力に違いない。祖父と孫が同じような神へ到達する才能を持ったとしても不思議ではないだろう。
何が違うのか、という点についてキュウが気にするつもりはない。
ただ重要なのは、キュウの【神殺し】にはどんな権能も無効化される事実だ。主人やアーサーの力は、その一切合切がキュウには効果がない。
それどころか、権能【世界制御】の力を逆流する。
キュウの黄金の耳は、オウコーが使った権能【世界制御】の大元を辿る。
主人とキュウ、二人で毎日練習して、ようやく造り出した合体魔技。完成した日には、主人が本当に嬉しそうにしていて、キュウも本当に喜んだ。
今、その合体魔技はキュウ一人で扱えるようになった。それでもその技に込められた想いは変わらない。これは主人と二人だから完成したのだ。
「理斬り!」
キュウは主人との合体魔技で、オウコーの権能を切り裂いた。
何も知らない誰かから見れば、キュウは何も無い空中を切り裂いたように見えただろう。しかし見る者が見れば、神の者が見れば、神戯の根幹を揺るがすような一撃が、究極の天才の力を一刀両断したのだと分かる。
「がっ、ぐあぁっ!?」
オウコーが初めて痛みからの絶叫を上げた。
「これが、我が愛する娘が選んだ者か。タマだけなら馬鹿にしたが、なるほど、これほどならば、さすがは我が愛する娘。これは儂のDNAではなく、娘の力。さすむすじゃ」
オウコーはキュウの攻撃でダメージを負っているけれど、ニヤニヤしてどこか嬉しそうだ。
「いや楽しかった。愛する娘の成長を感じられた上、やはり若いモフモフは最高じゃ。余った時間でタマの尻拭いくらいの気持ちではあったが、存外に楽しめた。安心しろ。すべての星の神を滅ぼした後も、お前は残してやろう。儂は理解ある父親だ。娘が気に入ったペットの一匹くらいは面倒を見てやる」
「そこまでして、マリアステラ様を倒そうと言うのですか?」
唐突に、オウコーの雰囲気が変わった。これまでは時間つぶしの遊びだったという言葉に偽りはなく、ここからが本番だと言うべきだろうか。
「タマが裏切ったか。所詮は自分しか愛せぬ畜生よ」
「そんなことはありません! それだけは、絶対に!」
里長タマはキュウたちの敵である。それでも彼女は自分以外も愛せたし、オウコーと違って自分の愛する人以外を省みないこともない。ずっとデーモンたちの暮らしに協力していたし、キュウたちとは敵だったけれどクレシェンドとの約束も破らなかった。コピーした狐人族たちだって大切にして、主人と交渉までしたのだ。
更に反論を口にしようとした時、キュウの情報ウィンドウから通知が鳴る。
> System Update
「ようやく読み込みが終わったようじゃ」
それは主人が体験した最後のアップデートの、更に先のアップデート。
最強が最強だったのは、あの日のアップデートまで。その後は―――。
> ベースレベル上限解放のお知らせ
> クラスレベル上限解放のお知らせ
> スキルレベル上限解放のお知らせ
> 新ピックアップガチャ開催のお知らせ
> 新たな【従魔】のお知らせ
> 新たな【覚醒】のお知らせ