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第四百十六話 キュウvsオウコー 前編

 キュウは空中で制止する最強の天烏に乗りながら、天空に仁王立ちする少年と向かい合った。灰色の髪に銀の瞳を持つ少年は、外見年齢だけ見ればキュウと同じくらい、身長も低く体型も細身でおよそか弱い少年にしか見えない。


 しかしその存在感は、大氾濫で暴れ回る魔物たちや戦いを繰り広げる悪魔と天使たち、そして巨人をも上回る。


 キュウが抱き留めた褐色の美女、太陽神ケペルラーアトゥムは意識を失っているようで反応がない。この時点で、太陽神ケペルラーアトゥムと共にオウコーと戦うというキュウたちの作戦は遂行できなくなってしまった。


 キュウは彼女の身体を天烏の背中に寝かせる。逃げるにしても戦うにしても、誰かを抱えたまま相対できるような敵ではない。


 そしてキュウは全力でその少年に集中する。


 灰髪銀眼の少年―――オウコーは顔を嘲笑と微笑の中間のような表情に歪めた。


「天烏さん! 横へ!」


 キュウの騎乗する最強の天烏が爆発的な加速をする。天烏の速度は音速を超えるため、あっという間にオウコーの姿が小さくなっていった。


「ほう。勘が良いな」


 けれど、キュウの進行方向にはオウコーがいた。


 たった今、オウコーから距離を取ったのに、前にオウコーがいた。


 オウコーは動いていない。キュウと天烏は動いた。両者の距離は、元のままだ。理解できなかった。


「KAAK!?」

「何が起きたんですか!?」


 キュウの耳はオウコーを捉え続けている。


「かーっ! 初々しい反応じゃのぉ。苛めてやりたくなるわ」

「天烏さん―――え?」


 オウコーの指がキュウの頬へ触れた。


 全身が総毛立つ。


 信じられないことにオウコーは、キュウと一緒に最強の天烏に騎乗していて、キュウへ手が届く距離にいた。先ほどまでキュウとオウコーは空中で睨み合っていたはずなのに。


「あの愛しき娘の子という以外に価値のない孫には勿体ない。ちょっとモフモフを触らせて貰おうかの」

「絶対に、嫌です!」


 キュウはインベントリから刀を抜き放った。抜刀術の要領で、至近距離まで近付いて来たオウコーへ斬り付ける。


「たわけ」


 オウコーが蠅でも叩くように手を振るうと、キュウの刀がバキンと大きな音を立てて砕け散った。


 アクロシア大陸で鍛冶神と呼ばれ、主人たちの神話の武具を作成しているマグナが、大氾濫で戦うキュウのために仕上げてくれた刀は、神々も恐れる天才の前に呆気なく砕かれた。


 しかし刀は砕かれてしまっても、キュウの戦う力が失われた訳ではない。


光尾(こうお)!」


 キュウの尻尾が巨大化する。実際には巨大化したのではなく、魔力で構成されたもう一つの尻尾を出したのだ。


 アルティマはこれを拡大縮小伸縮自在にして、九つの尾を手足のように操れる。操作が困難を極めたものの、たくさん練習した今のキュウなら、その一本分くらいなら同じことができる。


 キュウの尻尾がオウコーを飲み込んだ。


「その程度で儂を止められるはずが………モフモフを敵に巻き付けて倒すだと!? 回避すればモフモフを味わえないというのか!? ぐおおお!? なんという技か!」


 キュウはオウコーの攻撃の邪魔さえできれば良かったのだけれど、何故かオウコーはキュウの攻撃を真正面から受けた。


 巨大化した光の尾がオウコーを包み込む。オウコーは天烏から吹き飛び、まるでそこに地面があるように空中へ着地する。


「人類はモフモフを触りたいと考えるゆえ、回避不可能。防御しようとも思わない。恐るべき戦術と言えよう。この発想。儂の血を引いているだけのことはある。今のは儂のDNAにやられたのであって、ノーカンじゃな。さすわし」


 おそらく多くの人から見たら、このオウコーの行動は理解不能で、隙だらけな無駄に過ぎない。


 けれどキュウは、そこに別のものを見る。


 この感じ。戦闘中でも己の感覚のままに話す行為。それでも圧倒的な力を発揮する。もちろん誰にも負けない。最強の主人とそっくりだと思ってしまった。


 やはりオウコーと主人は祖父と孫なのだ。




 だが、オウコーはキュウの主人ではない。


 キュウは簡単には逃げられないと悟り、覚悟を決めた。本当は太陽神ケペルラーアトゥムと協定を結んでからやるはずだったけれど、対オウコーは想定してある。


 キュウはオウコーへ向かって右手を掲げた。


領域(インテリオル)爆裂(エクスプロシオン)!」


 かつてキュウの絶望を粉々に吹き飛ばした主人の魔術が、キュウのその手から放たれる。オウコーを囲むように周囲の空間が爆発した。


「牽制で隙を作る作戦、と判断したいところだが、ここまで来た者がそんな下らん戦術はとらんだろうな」


 オウコーはキュウの行動を見逃すまいとじっと見つめている。


「今の儂は思惑が叶い気分が良い。お前ではいくら邪魔しても無駄だと分からせ、モフモフをものにするのも悪くない。最後の審判まで、付き合ってやろう。無論、すぐにベッドの上に移行するがな。戦いなど止めて、儂の下で啼け」


 キュウはオウコーの言動に気を配りつつも、爆発に包まれる彼とその周囲の“音”を聞き取った。


 天烏にある方向への突進を願い、その間にインベントリへ手を入れる。キュウは先ほど、マグナがキュウのために作ってくれた刀を砕かれてしまった。だから別の武器が必要になる。


「ある種の指向性を持つ爆発が起こす三次元震動は、四次元にも影響を与えているという俗説がある。仮にそれが事実であり、お前のその“耳”が、それさえも聞き取れるならば―――」


 オウコーはニヤリと笑った。彼の手に握られた“主人の第二廃人器魔王剣”を、キュウと天烏の突進に合わせて構える。


 様々な事象を計算した末に導き出したオウコーの迎撃。


 少し未来の音を聞いて行動したキュウに対して、キュウの未来情報をも計算に入れた因果的決定論(ラプラスの悪魔)がオウコーへ微笑む。


 キュウの爆魔術からの突進攻撃は防がれるどころか、反撃までされてしまう。キュウが突き出した刃は、主人から奪った“第二廃人器魔王剣”と打ち合って粉々に砕かれる。


 それがオウコーが導き出した計算(未来)。キュウの力だけだったら、その未来は確定した。


 しかし現実に現れた現在の結果は違う。


「むむっ!?」


 キュウが天烏の加速に乗せて飛び出した一撃は、オウコーの“第二廃人器魔王剣”と打ち合っても砕かれなかった。主人は魔王剣と打ち合って砕けない武器はないと言っていたけれど、キュウがインベントリから取り出した剣は砕かれていない。


 キュウの手に握られているのは、真っ黒な意匠の禍々しい剣。


 キュウは“第二廃人器魔王剣”を握り締めていた。


「あー、あれじゃな。壊れたら嫌だから、とりあえず二本作っておこうってやつ。儂にも記憶があるわ。いやなかった。儂の孫、馬鹿じゃろ?」


 第一廃人器欲望の腕輪が四つあったように、第二廃人器魔王剣は二本ある。


 その一本は、オウコーの手に。


 その一本は、キュウの手に握られていた。


 主人の装備はすべて奪われたけれど、すべて装備の予備がもう一つずつあるのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ううつらい、キュウが痛めつけられるところは見たくないオウコー腹立つまさに作者の手のひら……!! フォルティシモ何してるか早く知りたい!!です! [一言] あけましておめでとうございます、今…
[一言]  こんばんは、御作を読みました。  やはりオウコーとフォルテは祖父と孫なのだ。  よーくわかりました!!Σ(・□・;)  わざわざ尻尾攻撃を食らいに行ったり、わざわざ壊れることを想定して…
[一言] 予備てw フォルテあたおかだろwww
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