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第三十八話 疎遠な親友 後編

「ピアノさん、こいつは?」


 自称ピアノのパーティメンバーらしい取り巻きモンスターと戦っていた五人の内の一人が、フォルティシモを見て口にした。眼鏡を掛けている長身のイケメンで、敵意の混じった視線だ。


「恋人ですか? 美男美女でお似合いですよ!」


 こちらは自称ピアノと同じくらいの体格の女性で、髪型まで同じにしている剣士。眼鏡の男とは違って、好奇心が見て取れるような表情をしている。


「こいつはフォルティシモ、私の、なんだ? 友達でいいのか? 恥ずかしいな」


 自称ピアノは友達の紹介に頬を掻いて恥ずかしがっていた。ゲームの頃の男ピアノであればフォルティシモは「親友でいいぞ」と訂正しただろうが、今は黙って見守るだけに留めていた。


「こいつ煽り耐性ないから、あんまり怒らせないでくれよ。やり合ったら私でも勝てないし」

「ピアノさんでも!?」

「嬢ちゃん以上だと?」

「じょ、冗談でしょう?」

「誰が煽り耐性がないだ。俺は常に冷静だ」


 この異世界に来てすぐだって、混乱して取り乱す奴のが多いと思われる状況で、戸惑いはあったものの冷静に必要なものを把握し、生活基盤の確保のため行動しているのだ。


「ほらな。あと、こいつは自分の物に手を出されるの大嫌いだから、そっちのパーティメンバーと仲良くとは言わないが、揉め事は起こさないように。美人だからって手を出すなよ」

「出しませんよ。ピアノさんでも勝てないという彼と競うには、まだまだ足りませんから」


 こちらもイケメンの金髪。


 フォルティシモを見て何かを言いたそうにしているメンバーたちは、背後からボスを一人で葬った大男が近づいて来ると道を開けた。


「フォルティシモ様、お久しぶりでございます」


 大男はフォルティシモの前で深々とお辞儀をした。


「ああ。顔を見るのは、半年くらい振りか」


 筋骨隆々の大男は、腕は丸太のように太く、胸板の筋肉が盛り上がっている。鋭い眼光の頭の上には二本の角が生えていた。


 鬼人族の進化型【酒呑童子】。


 ピアノがゲームの時に使っていた従者フレア・ツーは当然のことながらフォルティシモの顔見知りだ。フレア・ツーが頭を下げたことで、自称ピアノのパーティメンバーのフォルティシモの見る目が変わった。少しの感心と、自称ピアノの言葉が冗談ではないと分かった恐怖が浮かんでいる。


「よし、どうせなかなか覚えられないだろうから、私が覚えやすいように特徴付きでメンバーを紹介しておこう」


 暗くなりかけた空気を読んで自称ピアノが冗談めかして発言する。フォルティシモのことをよく理解した言葉に、思わず反論した。


「舐めるなよ。頼むぞ」


 ついでに頼んでおいた。


「まったく舐めないでお前の性格を完璧に把握した紹介をしてやる。紹介順で喧嘩にならないように五十音な。オーギュスト=エマニュエル、【ウィザード】のインテリ眼鏡。キンケル=メラー、【ランサー】のチャラいイケメン。フランソワ=グザヴィエ、【グラディエーター】で私に憧れて付いて来てくれてるから優しく頼む。マルツィオ、【ハイプリースト】のイケメンエルフ。ルーカス=ミゲル、【レンジャー】のおっさん。うちはルーカスがサブリーダーだ」


 自称ピアノは分かりやすい自己紹介をしてくれた。ウィザード眼鏡、ランサーチャラ男、グラ娘、ハイプリエルフ、おっさん。これならギリギリで半分くらいは覚えられそうだ。


「ピアノさんみたいになりたいって思ってます!」

「そこはかとない悪意を感じますが」

「誰がおっさんだ。紹介にもなってないだろ」

「いや、コイツ絶対覚えないから。頭の中で、さらに縮まってるはずだ」


 自称ピアノのパーティメンバーが口々に文句を言っている。失敬なとは思ったが、その通りだったので反論をしないでおく。

 ふと、フォルティシモに視線が集まっていることに気付く。話していた自称ピアノは元より、キュウやラナリアを始め、フレア・ツーたちもフォルティシモに注目している。


「どうした?」

「お前のパーティメンバーを紹介してくれよ」

「ああ、そうだな」


 こういったことは苦手なので得意そうなラナリアに任せてしまおうか迷ってから、自称ピアノに負けない程度には分かりやすい紹介をしなければならないと心を落ち着けた


 フォルティシモは顎に手を当てて紹介文を考える。


「この子はキュウだ。特筆するべきはこの尻尾―――」

「あ、すまん。やっぱ、本人から自己紹介してもらっていいか?」


 特徴を掴んだ自己紹介をしようとしたはずだったが、周囲の反応を見ると失敗だったらしい。


 しかし本人からと言われてキュウはビクッと反応していた。何を言えば良いか分からないから困ったのだろう。フォルティシモは視線をラナリアへやると、その視線を感じ取ったのかラナリアは一歩前へ出た。


「私はラナリア=プファルツと申します。オーギュストさんと同じ【ウィザード】です。フォルティシモ様とご一緒させて頂いております」

「シャルロット=イニエスタ、【ハイナイト】。ラナリア様の護衛として同道しています」

「きゅ、キュウです。【グラディエーター】です」


 メンバーたちが口々に「よろしく」という意味の言葉を交わす。キュウのところでフレアが首を傾げていたが何かを納得したように頷いた。


「フォルティシモ」

「なんだ」

「趣味全開だな」

「お前もな」


 自称であってもピアノに会えたのならば、神様のゲームについての情報交換を行っておくべきだろうとは思っていた。しかし“体調が優れず部屋で休養をとっている”ラナリアのレベル上げができるのは、せいぜいが明日までであるため、この機会は逃さないでおきたい。


 それに大きな問題がある。自称ピアノが自称か本物かだ。


 フォルティシモは自称ピアノを見た。


 ニッと笑うところは、ファーアースオンラインのピアノそっくりだ。今のは誰かに見られたら格好付けなければならないという謎の使命感による行為だと知っている。


 フォルティシモと同じくらいの身長で、近衛翔と同じ国出身と分かる黒髪と黒眼、果たして彼女が本当にピアノかどうかという問題が解決しない限り、彼女の言葉を鵜呑みには出来ない。


「ピアノ、フレリスはどうなっている?」


 フォルティシモのフレンドリストは、この世界に来た時点でマップなどと同様に初期化されており、白紙のリストになってしまっている。試しにキュウにフレンド申請を送ってみたりしたのだが、情報ウィンドウを開けないキュウはフレンド申請を受諾することが出来ていなかった。


「空っぽだ。送っていいか?」


 送っていいかと言い終わる前に、自称ピアノからフレンド申請が送られて来た。そこには確かに“ピアノ”と表示されており、フレンド申請相手へ公開しているコメントなどの情報群もフォルティシモが知っているピアノのものだった。


 自称ピアノと情報交換をするためにフレンド登録をしておきたかったので迷わず承諾をした。


「こっちでも、初フレだ」

「お前、そういうタイプだったか?」


 初めてのこととか記念品とかを大切にするのはフォルティシモの性格であって、ピアノはそう言ったことに執着しないどちらかと言えばサバサバした性格だった気がする。

 フォルティシモが指摘すると照れた笑いを浮かべた。


「友達は別だ」

「あれ? ピアノさん照れてます? やっぱり彼氏の前だと違うんですね」

「いや、だからこいつは友達だよ」


 グラ娘が自称ピアノをからかっており、仲が良さそうな様子を見せる。


 フォルティシモはすぐ傍に立っているキュウとラナリアを確認した。


「さっさと行くぞ」

「はぁ!? おい、そこは私と一杯引っかけに行くところだろ!」

「ピアノ様とのお話はよろしいのですか?」


 自称ピアノが驚いた声を出し、ラナリアが気を遣った言葉を投げかけてくる。


「ラナリアが明日には帰らなきゃならない。だから、また後日、『最果ての村』で待ち合わせでどうだ?」


 ネトゲではよくあることで、仕事だから明日という約束だ。もちろんフォルティシモとピアノの間でも、同じような約束は何度もしている。「明日は一日ガチャ引くから無理」とか「今日はボスに張り付くから明日な」とか、理由は大きく異なるが。


 心無しか、ピアノパーティーの視線の温度が下がった気がする。


「いや、お前な。こんな時に………」


 自称ピアノは反論をしようとして止めた。


「トーラスブルスでお前の奢りなら許してやる」


 フォルティシモはトーラスブルスという街の地理を思い浮かべながら、「わかった」と言って応じ、キュウたちを連れて第二階層への階段を降りていった。



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