第三百七十八話 召喚
フォルティシモは近衛姫桐の運転するヘリコプターで、その島へ向かっていた。ヘリコプターでの移動も色々とツッコミたいけれど、そこから見える光景にも物申したい気分で一杯だ。
眼下には恐竜が元気良く走っている島があり、見知ったコンクリート製の摩天楼があり、空飛ぶ車が行き来する街がある。上には起動エレベータから宇宙ステーションまで、何でも有りだ。
様々な神々が、それぞれの世界をマリアステラの世界へ置いている。こうして見ると実感として湧いて来た。
「まるでゲームのMAPを俯瞰してる気分だ」
「言い得て妙ね。マリアステラ様は、ゲームが好きだから」
昔、VRオープンワールドゲームをユーザーに自由に開拓させたら、こんな光景になった逸話を思い出した。
「これが神の世界なら、神とAIが同じ機能を持っているって言うタマの話も馬鹿にできないな」
「そうかしら? むしろ人間は、VR世界を生み出せるようになった。光あれ、が出来るの。より神へ近付いたとも言えると思わない?」
「指摘したら答えが返って来そうで嫌だが、ビッグバンは光あれだって言うんじゃないだろうな」
「宇宙に夢を見てるの?」
「ロマンは感じる」
混沌とした世界の光景を眺めていたら、やがて汚れ一つないのではないかと思われる青い海と、それに囲まれた島が見えて来た。
「異世界とか、神の世界とかやってたのに、ヘリで領空へ侵入か」
「近付くだけで入れないわ。それから神戯は、ゲームよ。それを理解しなければ戦えないわ」
「俺は最初に出会ったプレイヤーへ言った。俺はあの世界を現実だと思ってる。今はキュウを救出するために来ているが、俺は、あのファーアースに生きる全員を、神戯とか言う馬鹿げたゲームから解放してやる」
操縦席に座っている近衛姫桐が、振り返ってフォルティシモを見ていた。
「今の、格好良いかも。さすが私の息子ね。ハグしたい。しても良い?」
「前を見て操縦しろ―――右へ旋回させろ!」
天の光が、島を貫いた。
遙か彼方の宇宙から、すべてを滅ぼす光が降り注ぐのだ。
異常はそれに留まらない。
地上へ降り注いだ太陽光は、地上の何かに弾かれて角度を変え宇宙へ戻っていった。
「な、何、今の?」
「考えられるのは、太陽神が誰かと戦っている。そしてその誰かは、太陽神の攻撃をはじき返せるほどの力を持ってる」
「あのね、翔。ここはマリアステラ様の世界なの。色んな世界を受け止めてくれるけれど、戦争だけは認められていない。そんなことをしたら、どれだけの神々を敵に回すと思う? マリアステラ様の従属神だけじゃない。その勢力すべてが敵に回るの。文字通り、星の数の神々よ」
フォルティシモは近衛姫桐の言葉を聞きながら、別のことへ意識を集中させていた。
何かが聞こえたからだ。
「翔?」
「呼んだか?」
「呼んだけど?」
「そうじゃない」
呼ばれている。
何かに呼ばれている。
何に。
キュウに。
ある哲学者の言葉に、深淵を見る時は深淵もまたこちらを見ているという主旨のものがある。
その理屈で言えば、キュウが声を聞く時、彼女の声も届く。
フォルティシモは地上を見ていた。聞いていた。
「………おい、母さん」
「翔!? うん、母さんよ!」
「この俺は、最後だろうから言っておく。生き返ってくれたことは嬉しかった」
「そうでしょ!」
「だが、本物の俺も、今は母親を慕うような歳じゃない。今更生き返っても戸惑うだけだ。俺にとったら、つうがアンタよりも長い間暮らした家族だ」
「………………つうも私でしょ?」
「その点については、アンタと分かり合えそうもない。キュウのことだけ礼を言っておく」
フォルティシモはヘリの扉を開けた。強い風が吹き込んで、ヘリ全体が揺れる。近衛姫桐が何か文句を言っていたようだが、風のせいで内容は聞き取れなかった。
そしてフォルティシモは、ヘリから飛び出して降下する。
この女神マリアステラの世界とやらでは、ファーアースオンラインや異世界ファーアースの力は使えない。
けれども、今のフォルティシモには関係ない。
たった今、このフォルティシモは、本物のフォルティシモでも、魂のアルゴリズムで造られたAIフォルティシモでもなくなった。
狐の神タマが女神マリアステラに匹敵すると言わしめた存在―――キュウ。
彼女が望む―――“最強”。
フォルティシモはキュウに異世界召喚された。
「自在・瞬間・移動」
マリアステラの世界で瞬間移動をしたフォルティシモは、光の扉が浮かぶ砂浜でキュウを引き寄せて抱き締めた。
フォルティシモの視線の先、光の扉の前には、それを守るようにして褐色肌の美人が立っている。
「キュウ!」
「申し訳、ありませんっ! でも、でもっ! ありがとう、ございますっ!」
「謝る必要なんかない。キュウの言葉、全部受け取ったぞ。よくやってくれた」
「っ! ―――はいっ!」
腕の中に抱き締めたキュウが、自ら身体を寄せ付けてくる。
フォルティシモは気が緩みそうになるのを叱咤し、目の前の褐色肌の美人と対峙した。
異世界召喚された時点で言葉の壁やある程度の知識を得られるように、キュウの言葉に詰まった情報を得ているため、目の前の存在が太陽神ケペルラーアトゥムだと認識している。
「お前があの事件を起こして、俺の両親………父親を殺して俺の人生を狂わせた太陽神か」
太陽神ケペルラーアトゥムはフォルティシモをじっと見たまま、言葉を発さなかった。
「クレシェンドには大した理由もないだろうって言ったが、予想外だった。世界を救うための行動か。爺さんの技術とか金目当てのクズみたいな理由じゃなくて、良かった、なんてまったく思えないな」
フォルティシモは太陽神ケペルラーアトゥムが話を聞いていないのを分かっていながら続ける。
「世界のためなら、犠牲も仕方がない。俺の大嫌いな悲劇礼賛だ」
そこで初めて、太陽神ケペルラーアトゥムがフォルティシモの言葉へ割り込んだ。
「近衛天翔王光の孫、近衛姫桐の息子、何をした? 何故、我が偉大なる神の世界に存在している? ここは、我が偉大なる神に認められた者だけが暮らす園だ」
「さてな。ちょっとばかり、お前を殺すための兵器を使ってみただけだ」
フォルティシモの言葉は比喩でありハッタリだ。
実のところキュウに異世界召喚されたフォルティシモは、もう少し詳細を情報として把握している。本物のフォルティシモよりも、キュウ本人よりも、今のフォルティシモは情報を得ているかも知れない。
マリアステラの世界に召喚された“最強”だから分かる。
それでも、この強大な太陽の女神には届かない。
「私を殺す兵器か。太古の時代より、多くの者がそれらを用いた。お前も本気のようだ。使え。私を滅ぼせるものなら、やってみるが良い」
「キュウ! この戦い、一つも漏らさず聞け! そしてキュウが見つけた攻略法と一緒に、本物の俺へ届けろ!」




