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第三百五十五話 vs神戯 拠点攻防戦

 フォルティシモは太陽に飲み込まれたMAPが異世界ファーアースから隔離されるのを見届けて、すぐに【転移】を発動した。


 転移先はキュウが待っている『浮遊大陸』の実験区画である。フォルティシモが戦っている間にキュウが狙われる、そんな事はないとキュウが言ったので信じているけれど、心配なのは止められない。


 フォルティシモ的に信じているのと心配するのは背反しないのだ。


「キュウ!」


 クレシェンドを倒し太陽神の干渉をも防いだフォルティシモは、キュウの無事を知ってようやく安堵できる。


 フォルティシモが戻って来ると、狐人族の少女たちが座ってお茶やお茶菓子を食べている中、キュウだけは立ち上がって動いている様子だった。


「ご主人様!」


 そんなキュウはフォルティシモを見て満面の笑みを浮かべて駆け寄って来る。フォルティシモは彼女の行動を迎えるだけで満足感を得られる。


 まずは駆け寄って来てくれたキュウを抱き締め、ちょっとだけ尻尾の感触を楽しむ。キスくらい許されるかと思うが、それは自重しておいた。戦いの昂ぶりのまま女性を抱くような男とは思われたくないし、キュウを大切にしているからこそ、キュウの気持ちを大事にしている。


「セフェが助かったのは、キュウのお陰だ」

「ご主人様とセフェさんがご無事なだけで、嬉しいですっ」


 フォルティシモは心の底から嬉しそうなキュウの笑顔を見て、瞬時に前言撤回ならぬ前考撤回をした。


 このままキュウをフォルティシモとキュウの自室まで連れて行こうか本気で迷う。こういう時のために、フォルティシモの自室はキュウと一緒なのだ。


 しかしその衝動は、まだ拠点攻防戦が終わっていないことを思って何とか抑えた。


「拠点攻防戦を終わらせる。キュウは付いて来い」

「はい! あ、えっと」


 キュウは威勢の良い返事をした後、部屋でお茶を飲んでいる狐人族の少女たちを振り返った。


「クレシェンドは俺が倒した。狐の神タマとは取引が済んでる。お前たちはここで大人しくしていろ」


 狐人族の少女たちは、フォルティシモの言葉を聞いただけでびくりと耳と尻尾を震わせる。


 フォルティシモはもしも彼女たちが逃走したところで大した問題にはならないと思い、彼女たちの返答を聞く前にキュウだけを連れて実験区画を離れた。




 まずやって来たのは魔王城と名付けられたチーム<フォルテピアノ>の【拠点】、クリスタルが安置された最下層である。リースロッテがすぐにフォルティシモの帰還に気が付いて、急いで山積みの漫画を片付けようと無駄な努力をしている。


 しかし、リースロッテの行動がどうでもよくなる事態が魔王城を襲っていた。


 フォルティシモは魔王城の最下層から、上を見上げる。そこにあるのは設定した天井ではなく綺麗な青い空だ。


「………な、なんだ、これ?」


 地下千階まで育て上げたダンジョニングシステムの集大成が、掲示板で攻略不可能だと言われたそれが、まるっと消えていた。チーム<フォルテピアノ>の【拠点】、フォルティシモ手ずから地下千階一つ一つを設定した、最凶ダンジョン魔王城がただの大穴になっている。


 リースロッテは漫画を片付けるのを諦めて、立ち上がって上を見て、フォルティシモに対して口を開いた。


「なんか、やられた。みんな消えた。でもクリスタルは無傷」

「ふざけやがって! クレシェンド! もう倒したが、絶対に許さん! ソロの俺が、チームの【拠点】を育てるのに、どれだけ苦労したと思ってやがる! クリスタルを守ったのは良くやった、さすがリースだ」


 VRMMOファーアースオンラインのチームは、最大百人が所属できるシステムだ。当然、廃課金廃人推奨ゲームのダンジョニングシステムは厳しいものとなる。それを膨大な課金とプレイ時間で最大まで作り上げたのが魔王城なのだ。そんな魔王城が管理者権限で削除されてしまったらしい。冷静でいろというのが無理だ。


 少しの間冷静さを失ったフォルティシモだったが、キュウとリースロッテに見られていることを思い出して落ち着きを取り戻した。


「リース、クリスタルを運ぶ準備をしろ」

「嫌。重い」

「真面目な話だ」

「むー」


 リースロッテはチーム<フォルテピアノ>のクリスタルを両手で掴み、頭の上に掲げた。リースロッテの身長よりも大きいせいで、押し潰されないのが不思議な光景に見える。


 この状態でもリースロッテの戦闘能力は、ほとんど下がっていない。だからリースロッテの最終手段は、クリスタルを掲げて全力移動しながら、インベントリや倉庫から取り出した数万の銃口で敵を粉微塵にする戦法となる。フォルティシモたちがそこまで追い詰められたことはないので、一度もやったことがない戦法だが。


「ピアノ、作戦の最終段階だ。<暗黒の光>のクリスタルを持って来てくれ」

『分かった。だが、セフェはどうする? デーモンたちがセフェを攻撃することはないと思うんだが』


 巨大亜量子コンピュータを乗っ取ったセフェールは、<暗黒の光>の【拠点】に部屋ごと上書きしてしまった。


『まあぁ、クレシェンドが置いていった機能を使えばぁ、デーモンにやられることはないのでぇ、ひとまずは大丈夫ですよぉ。それ以上の問題は電力でぇ、フォルさんは大丈夫ですかぁ?』

「震える勢いでFPが減ってるが、セフェのためにどうにかする」

『最新科学の結晶である亜量子コンピュータがぁ、信仰心で維持されるなんてぇ、何かの皮肉ですかねぇ』


 今のセフェール、つまり巨大亜量子コンピュータとそれを維持するためのコンピュータルームの電力は、フォルティシモの権能【領域制御】で賄われている。途切れさせたらセフェールが死にかねないため、真剣だ。


 ちなみにキュウが目をパチパチと瞬きをして、耳をピクピクと動かしていた。セフェールの声が違うのを不可思議に思っているらしい。


 キュウはセフェールと行動している時間が長かったので、彼女の声が変わっているのが心配なのかも知れない。


「聞いての通りだ。とりあえずセフェは大丈夫だ。ピアノはクリスタルを持って来い」




 『浮遊大陸』の大地の上に、拠点攻防戦の破壊目標であり、破壊した瞬間にチームメンバーが全滅するクリスタルが並べられた。


 二つのクリスタルはまったく同じ大きさと形をしていて、無傷でフォルティシモの目の前にある。これはピアノとリースロッテが、拠点攻防戦の破壊目標であるクリスタルを無傷で守り抜いてくれたお陰と言える。


「拠点攻防戦の勝敗は、クリスタルの破壊で決まる。まず有り得ないが、同時に破壊した場合、最後に与えたダメージの大小で勝者が決まる。ダメージも同じだったら、直前のクリスタルの耐久度で決まる。耐久度が同じなら、攻撃したプレイヤーのレベルで決まる。攻撃プレイヤーのレベルも同じだったら、チームの総合レベルで」


 フォルティシモは最強だから、常に勝利しか目指さなかった。だから“この仕様”は知らなかったし、今になって調べることになった。


「だが、そのすべてが同じだったら。一人のプレイヤーが一つの攻撃で、完璧に同じタイミングで、無傷のクリスタルを破壊すれば、拠点攻防戦のシステムは“引き分け”と判断する」


 引き分け。最強のフォルティシモにとって、敗北と同義の概念だった。


 VRMMOファーアースオンラインの頃だったら、絶対に認めなかった。けれども、今回だけは違う。最強のフォルティシモがすべてを蹂躙して勝利するのではなく、多くの制約を受けながら<フォルテピアノ>の全員で望み通りの結果を勝ち取る、完全なる勝利への一撃。


領域(インテリオル)爆裂(エクスプロシオン)


 フォルティシモは<フォルテピアノ>と<暗黒の光>、二つのクリスタルを同時に破壊した。


> クリスタルが破壊されました

> 拠点攻防戦を終了します

> 結果はDRAWです


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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、御作を読みました。  フォルテは、過去のフォルテ、あるいは自身を縛る自分の呪いに勝利した。  そう考えると、非常に感慨深い引き分けでした。  どこまでも変わらないことを選んで、…
[良い点] 六章の引き分けと七章の引き分けが対比になってるのはうまいと思いました。 [気になる点] 仲間にしなかった女神は何もしなかったんでしょうか? またキュウを連れ出してやらかすかと思ったのにw
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