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第三百五十四話 ファイアウォール 後編

 フォルティシモが【転移】のポータルを抜けた先は、光に包まれたMAPの直前だった。天烏の飛行高度、地上一万メートル上空で『ユニティバベル』のあった太陽に飲み込まれたMAPが見えている。


 平面距離的には百メートルという場所なので、太陽までの距離を考えたら光量だけでも目が潰れて、熱量ならば肉体が蒸発するのが当然だ。


 しかしMAPの概念は絶対で、区分けされたMAPの外からは内部の様子が窺えるものの、それで痛みや怪我を負うことはない。太陽神もこのルールには縛られている、というよりも、自分で創ったルールは自分で破れないのかも知れない。


「最強のフォルティシモとしては、このままMAPの中へ突入して、先ほどの礼をしてやりたいところだが」


 フォルティシモの呟きに、天烏が「俺はご免だね」とでも言うように鳴いた。フォルティシモと一緒に異世界ファーアースへやって来た天烏は、すっかりフォルティシモたちの言葉を理解しているような気がする。


 フォルティシモがさっさとMAPを封じ込もうとした瞬間だ。


 悪寒と呼べるものがフォルティシモの全身を駆け巡った。


 光。


 どこかで覚えのあるあの時と同じように、天烏の翼が千切れ飛ぶ。フォルティシモは天烏が絶命する前に収納し、防御スキルを発動していた。


閃光(ルス)防御(ディフェンサ)!」


 光。


 フォルティシモの腕から発された光の盾が、その光を受け止める。


 それは『浮遊大陸』への侵入を拒む光速レーザー攻撃で、フォルティシモの知る限りMAP外を攻撃するための唯一のギミックだった。


 VRMMOファーアースオンラインで攻略不可能と言われ、フォルティシモが運営に唾を吐きながら何度も何度も挑戦して何度も死亡した極悪ギミック。


 異世界ファーアースへ来た後も挑戦してみたけれど、その難易度は変わっておらずフォルティシモ一人では攻略できなかった。


「近付かせることも許さない気か」


 フォルティシモは異世界ファーアースでは最果ての黄金竜を肉盾として使い、無理矢理攻略したギミックを前に、思わず笑みが漏れてしまう。


 何故なら、フォルティシモが最強の先へ進んだ証明を用意してくれたのだから。


光速(ライオ)飛翔(ボラル)!」


 気持ち的に光速へ達する新しい【飛翔】を使う。フォルティシモの身体が光り輝き、有り得ないほどの加速で太陽に飲み込まれたMAPへ飛んだ。


 光。


迎撃(レアクシオン)光速(ライオ)打撃(ペガル)


 フォルティシモの拳が光を迎撃し、砕く。フォルティシモが頭で考えて迎撃した訳でも、人体の反射反応に頼った訳でもない。そんなもので間に合うなら光速ではない。


 迎撃(レアクシオン)、このスキル設定は、どんな攻撃が来ても自動で発動して迎撃する。たとえそれが光速のレーザーでもだ。


 光。光。光。


迎撃(レアクシオン)光速(ライオ)乱打(ペガル・トルメンタ)!」


 スキルの効果だけを後で発動させる遅延起動(デスペルタドール)、その起動を他人に渡して発声で誰でもフォルティシモのスキル効果を発動させられる発動(イグニシオン)


 そしてあらかじめ使っておいたスキルの効果の起動を、攻撃が着弾した瞬間に発動するよう設定したのが迎撃(レアクシオン)だ。


 どれだけ速かろうが物理法則(システム)によって自動迎撃される。


 光速だって物理法則の一部には違いない。もはやフォルティシモに光速攻撃は通用しない。


 フォルティシモは真正面から光速レーザー攻撃をねじ伏せ、太陽に飲み込まれたMAPへ手の届く距離まで進んだ。そして太陽に飲み込まれたMAPとの境目に手を触れる。


「太陽神、お前を倒す準備はしてる。少し大人しく待っていろ」


 フォルティシモの権能【領域制御】の本分は、領域内の情報を変更することだ。それは現実世界をVR空間と捉えて、自在に書き換える行為に等しい。


 神戯の勝利条件を達成した今のフォルティシモは、この異世界ファーアースの全土を【領域】として扱える。


魔王(サタナス)拒絶防壁コルタフェオゴス


 フォルティシモは【領域制御】へ多くの信仰心エネルギーFPを注ぎ込み、異世界ファーアース(領域)から太陽に飲み込まれたMAPと他のMAPの間に防壁を築いた。太陽の女神に蹂躙された世界の一部を封じ込めたのだ。




 ◇




 ピアノはその光景を、老人デーモングラーヴェを含めた大勢のデーモンたちと共に目撃した。


「あいつもう、PvPとか拠点攻防戦って次元じゃないな」

「女神を、あの太陽の女神を、消し去ったというのか?」


 ピアノの呟きに対して、すぐ横に立っていた老人デーモングラーヴェから驚愕と歓喜の入り交じった声が聞こえてきた。老人デーモングラーヴェは文字通り目玉が飛び出るのではと心配になるほどに目を見開いていて、腰に下げた刀をカチャカチャと鳴らすほどに震えている。


「消し去った訳じゃない。あれは、太陽神が攻撃したMAPに、こっちに出て来られないように結界を張った、って感じのはずだ」


 ピアノがフォルティシモの行動を予想でも把握しているのは他でもない。フォルティシモはあの技を拠点攻防戦、というよりも対クレシェンドのために準備していたのだ。


 もしも拠点攻防戦でクレシェンドに追い詰められたら、最後の罠としてフォルティシモの【領域】『浮遊大陸』へクレシェンドを封じ込める作戦もあった。


「これが、天空の王フォルティシモ、最強のプレイヤー………」

「勝てる、のか? あの女神に」


 老人デーモングラーヴェとその周囲のデーモンたちの表情を、何と例えれば良いのか分からない。それでも彼らの興奮が伝わって来る。


 千年前、フォルティシモが今やって見せた女神の干渉を防ぐ力があれば、異世界の原住民デーモンたちは大地を奪われずに済んだかも知れない。


 それほどの強者が、フォルティシモが現れた。


 フォルティシモの行使した力は、もはや神にも等しいのではないだろうか。


 VRMMOファーアースオンライン、VR空間、異世界ファーアース、神戯、様々なものから意図的に距離を置いていたピアノには、フォルティシモと太陽神、どちらがこの“異世界”への影響力が上回っているのか全く分からなかった。


 ただしフォルティシモと太陽神で絶対に違う点がある。


 それはフォルティシモが異世界ファーアースの人々を守るという点。


 元々フォルティシモは家族や仲間、友人と言った者を大切にする。VRMMOファーアースオンラインの頃のフォルティシモは、いくらでも復活できる従者をNPKされただけで怒り狂って復讐したし、ピアノを含めて数えられる程度のフレンドに甘いことは知られていた。


 あの頃のフォルティシモは、従者たちと少しのフレンドだけが世界のすべてだったのだろう。


 そんなフォルティシモを、おそらくキュウとの出会いが変えた。彼女との出会いで、異世界ファーアースとそこで出会った者たちを大切に思うようになった。


 そして最強は彼女と世界を守るため、世界を書き換える神の如き力を手にする。


「私も最強厨のコミュ障って思ってたし、いつも揶揄してたが、ここまでくれば、何て言うんだろうな」


 ピアノは思わず笑ってしまった。


 一念岩をも通すならば、最強厨は神をも穿つ。


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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、葉簀絵様。御作を読みました。太陽神も無事完封、ですね。  フォルテの強さもインパクトありましたが、ピアノの独白も心にしみました。  もしフォルテが初期のヤンチャ、は今も変わらな…
[良い点] 一旦は落ち着くのかな、そうもいかないような不安もあるけれど 今回はフォルテシモよりもピアノの気持ちになってなんだか温かい気持ちで笑顔になりました グラーヴェ老が面白リアクションポジに… […
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