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第三百四十五話 神戯の勝利者 後編

 フォルティシモの全身が煉獄の炎のようなエフェクトに包まれる。この瞬間発動するのは、VRMMOファーアースオンラインの最強プレイヤーフォルティシモの、正真正銘最後で最強の力。


 【魔王】クラスの仕様、HPがレッドゾーンに達した時、すべての与ダメージを激増させ、被ダメージを激減させる。何よりもスキルのキャストやリキャストがゼロになるなど、まさに最強のバランスブレイカー、物語のラスボスのような状態になるのだ。


 フォルティシモはこの仕様を使い、様々なコンテンツを無理矢理攻略したものだ。特にパーティープレイが前提になっているコンテンツを。


識域(エクステンソ)上昇(アウメンタル)! 飛翔(ボラル)突破(エンベスティダ)! 識域(エクステンソ)爆裂(エクスプロシオン)! 元素(エレメント)渦流(ボルティセ)! 巨人(ヒガンテ)乃剣(エスパーダ)!」

「無駄な、足掻きを」


 フォルティシモの放つ攻撃のことごとくは、クレシェンドに通用しない。クレシェンドは神戯の勝利者へ到達した、だから敗北者たちの攻撃は届かない、とでも言うのだろうか。それは否だ。


「お前は、何も無敵になった訳じゃない。【領域】が異世界ファーアース全土に広がっただけだ。さっきの究極(スプレモ)乃剣(エスパーダ)を防いだのは権能だった。だったら、お前のFPがゼロになるまで、攻撃し続ける」


 フォルティシモは天へ腕を掲げた。


制天(アウトクラシア)太陽(ソル)・光鉾(ランサ)!」




 ◇




 神々が戯れる異世界ファーアースの大空を、二つの閃光が駆け巡った。


 二つの閃光はぶつかり合う度に巨大な衝撃波を産み出し、『浮遊大陸』を、アクロシア大陸を揺らす。そしてその震動は地下世界にまで届いていた。閃光の戦いは異世界ファーアース、すべてを巻き込んだ戦いと見紛うものだ。




 先住民の攻撃を受けたアクロシア大陸の国々は、本来であれば抵抗さえできなかっただろう。それほどまでの差があったはずで、平均レベル数千の先住民に精鋭でも四百である国家が対抗できるはずがない。ほんの一年前までは。今の天空の加護を受けた国々は、先住民の攻撃を文字通り跳ね返した。その理由が空を彩る。




 仲間を助けるために魔王へ魂を売った青年は、助けられた仲間たちと避難先で気まずい雰囲気になっていた。自分たちの失敗、リーダーとしての責任、奴隷となった後に起こしたこと。そんな色々は、空を駆け巡る最強の力に気付き、見上げ、笑いさえ込み上げてきた。




 敵に生命線を握られてしまったデーモンたちは、奪還のためにすべての力を賭して向かっていた。しかし立ち塞がる女戦士は、どれだけ戦い続けても止まることはない。絶望のままにいて、このままでは千年の悲願が水泡に帰すると思われた時、世界そのものが震動した。そして地下を出て空を見る。




 魔王討伐のために神から選ばれた狐たちは、想像以上の魔王の強さの前に完敗を喫した。心を折られるとは、まさにこのことを言うのだと理解させられてしまった。そして狐たちが知る限りにおいて最強の神戯参加者と、恐怖の魔王の戦いが始まる。後者が勝ってくれても良いかな、と思うほどに狐たちは敗北していた。




 魔王によって連れて来られたエルフや元奴隷たち、天空の国の臣民、彼らは帰還した天空の王に歓声を上げる。彼らは詳しいことまでは知らされていないけれど、天空の王を信仰している。大いなる天空の王フォルティシモは、自分たちの人生を変えてくれたように、この戦いの趨勢も軽々と変えてくれるだろう。




 最強の従者たちは性格が異なっていて、それぞれ信じていることが違う。しかしその中で、一つの共通認識があった。コミュニケーション能力が壊滅している癖に格好付けで、理論派を気取っているけれど感情に流され易く、優しくないけれど優しいという人間臭さを持つ、自分たちの主は―――。




 あの最強厨は最強だ。




 ◇




「理解できませんか? 私のFPが尽きるまで攻撃し続けることが、いかに現実的でないか」


 フォルティシモの嵐の如き猛攻を受けてなお、クレシェンドの余裕が崩れることはない。VRMMOファーアースオンラインの最強プレイヤーフォルティシモのすべてを賭けても、クレシェンドへかすり傷一つ付けることが叶わなかった。


「絶対に勝てないって言いたいのだけは分かった」


 フォルティシモは攻撃を停止して、クレシェンドを見つめる。


 今のフォルティシモはあらゆるステータスがカンストの二倍、真のカンストと呼ばれる究極の域まで達し、HPがレッドゾーンになることで最強の域に至っている。


 それはVRMMOファーアースオンラインの限界。最強のフォルティシモの限界だった。


「俺の母親、近衛姫桐へ言いたいことだったか」

「っ! ええ! あるでしょう! 伝えるべき言葉が!」


 フォルティシモは情報ウィンドウを起動する。


 そして異世界ファーアースの大地を見下ろせる遙か天空で思う。


 『浮遊大陸』、エルフやドワーフ、冒険者や技術者たちはフォルティシモに失望しただろうか。信仰心エネルギーFPを溜めるためだけに集めたはずだったけれど、失望されるのは嫌な気分だった。


 アクロシア王国とカリオンドル皇国、前者は異世界ファーアースに来た当初から色々と支援していたし、ラナリアを通してパワーレベリングまでした。それでもフォルティシモの戦いに巻き込んでしまった。


 冒険者ギルド、フィーナ、フィーナの友人、ギルドマスター、カイル、カイルの仲間、大勢の冒険者たちとギルド職員。大陸の国々、フォルティシモは救ってやると約束した。


「安心しろ。俺は、フォルティシモは、最強だ」


 フォルティシモの根底には最強への渇望がある。レベルアップへ異常に固執したし、『浮遊大陸』を手に入れた時は興奮を抑えきれなかった。異世界ファーアースで何をしていても、フォルティシモは最強を目指すのを止めなかったし、ずっとそのために調査し、労力を割き、得られるものは容赦なく手に入れてきた。


 そして分かったのが、ここがプレイヤーとしての限界(カンスト)だと言うこと。


 だからここまでは、VRMMOファーアースオンライン最強のフォルティシモの物語で。


 だからここからは、神々の遊戯に挑む最強のフォルティシモの物語だ。


「クラスチェンジ、【魔王神】」




 魔王神

 Lv9999


> おめでとうございます!

> 参加者【フォルティシモ】

> あなたは神戯の勝利条件を達成しました!




 フォルティシモは神戯の勝利者へ到達する。


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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは、御作を読みました。  いい話なんだ。亡くなった母に、大丈夫。俺はもう一人で生きていけるようになった、と伝えたい心温まる話なんだ。  フォルテがやると胡散臭い(酷  いや、だって…
[良い点] 肉壁仲間に誘った時点で絶対やると思ってましたわw
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