第三百十九話 拠点攻防戦 フォルティシモのやりすぎな迎撃
アクロシア王都はデーモンによる空からの攻撃に晒されようとしていた。
アクロシア大陸の国家は、それぞれが軍隊を保持している。それはアクロシア大陸の大部分を生息領域とする支配者、魔物への対抗手段だ。人類に対して決して歩み寄りを見せない魔物は、大陸各国にとって最大の共通課題である。
そんな中で“空軍”を持つ国家は、ほぼ皆無だった。地上を行く敵に対して空からの攻撃は絶対的なアドバンテージとなる。それを理解していながら、大陸各国のほとんどは空軍を導入していない。
その理由は空が地上以上に魔物の支配圏だからである。アクロシア王国の精鋭を追い詰めるハーピィ、討伐不可能指定だったベンヌを始めとして、空の魔物のレベルは総じて高い。加えて近付けば天罰が下ると呼ばれる雲、空飛ぶ災害最果ての黄金竜など。
だが今は違う。空の支配者と言われて人々が連想するのは、たった一人しかいない。天空の王フォルティシモ、巨大な大陸を大空へ浮かべる神の如き力を持つ魔王。
だから聡明なるアクロシア王女が、アクロシア王国飛行騎士団の結成を貴族や騎士団に認めさせるのは簡単だった。あっという間に強大な空の魔物を一人一匹操る空の騎士団が結成されたのだ。
『敵部隊捕捉。攻撃方法は、投擲型魔法道具と思われます』
「空からの投擲攻撃。単純だが、最も効果的な空挺部隊の使い方か」
このアクロシア王国飛行騎士団の騎士団長を兼任するシャルロットは、部下からの通信に答えた。
敵の空軍に首都上空を襲われたら、それだけで甚大な被害を受ける。そこまで到達されれば防ぐことも難しい。それは二人から教えられた歴史という知識が証明している。
シャルロットは板状の魔法道具を口元へ当てて叫ぶ。
「敵は対地装備だ。対空装備で待ち構えていた我々に勝てるはずがない。一匹残らず落とせ!」
『スワローワン、了解! 一匹も王都には近付かせません!』
『ホークツー、了解! この勝利をフォルティシモ陛下に捧げます!』
『イーグルスリー、了解! ようやくコイツを実戦で使えますね!』
この飛行騎士団を創設するに当たって、彼女たちの教導を買って出てくれたのは天空の王フォルティシモその人なのだけれど、本当に任せて良かったのかは今でも不安である。
飛行騎士団のモデルは、アクロシア王国で神鳥と呼ばれる天空の王フォルティシモが操る天烏という魔物なのだから、彼に教えを請うのは間違っていないのだけれど、何だか想像とは違う方向で飛行騎士団が成長している気がする。
飛行騎士団は編隊飛行で、疎らに空を飛ぶデーモンたちへ立ち向かった。
◇
アクロシア王国の攻撃を任せられた女性デーモンは驚き戸惑っていた。
当初の作戦ではアクロシア王都上空から投擲爆弾で襲い掛かり、王都中が混乱したタイミングでアクロシア王城を攻撃。もし居るようであれば王女ラナリアを人質として確保。いなければ、二度と信仰心エネルギーを集められないくらいに目茶苦茶に破壊する予定だった。
だが今、女性デーモンの率いるデーモンの部隊は、王都上空へ入ることも叶わない。
女性デーモンが率いて来たのは、三十程度。
それに対してアクロシア王国飛行騎士団は、数にしておよそ三千騎。空を埋め尽くす大部隊である。
騎士団の騎士そのものはほとんどがデーモンたち以下のレベルで、地上の直接戦闘であれば百倍の人数差があっても勝利できただろう。
しかしここは空で、アクロシア王国飛行騎士団が騎乗している魔物は、すべてが超高レベルの【隷従】不可能とも思える魔物だらけだった。
プラチナスワロー
Lv8700
ブラックホーク
Lv9100
ホロウイーグル
Lv9999
このすべてがアクロシア王国飛行騎士団が騎乗している従魔だ。最低でもレベル八〇〇〇以上の従魔が、三千匹。
ほとんど事情を知らないのに天空の王の見下すような笑みと、空色髪の対人最強少女のダブルピースがアクロシア王国飛行騎士団の背後に見えた気がした。
◇
<フォルテピアノ>の入り口を守るキメラゾンビを討伐したデーモンの先行部隊は、自分たちの消耗を感じて少しの間身体を休めていた。
「恐ろしい魔物だった。あれほどの魔物を門番として用意しているとは、天空の王フォルティシモの力は、これまで想定されていたもの以上かも知れん」
デーモンの先行部隊の士気は、最初に会敵した強大な魔物を前に折れ掛かっている。死者や重傷者こそいないものの、体力や魔力の消耗は想定以上だ。
「キメラゾンビは<フォルテピアノ>の切り札だ。奴らの【拠点】を守るため、最強の従魔を門番に配置したのだ。キメラゾンビを撃破した今、もはや奴らの【拠点】は裸の城塞でしかない。今こそチャンスだ! 攻め込むぞ!」
デーモンの先行部隊の隊長は部隊に発破をかけ、<フォルテピアノ>の【拠点】へ足を踏み入れた。
<フォルテピアノ> 1/1000階
キメラゾンビAが現れた。
キメラゾンビBが現れた。
キメラゾンビCが現れた。
厳選、という用語が存在する。
現代リアルワールドで最も有名なゲームの一つであり、ゲームがVR主流となってもシリーズが続いているモンスターを捕獲するゲームから生まれたと言われるゲーム用語だ。
そのゲームでは捕獲したモンスターに若干ながら能力値の差異があり、より高い能力値のモンスターを捕獲することが強いモンスターを手にする道だった。何百、何千というモンスターを捕獲して、能力値の高いモンスターを手に入れる作業。
その作業を厳選と呼ぶ。
そのゲームをリスペクトしたのか、VRMMOファーアースオンラインでも、テイムしたモンスターに能力値の差異があった。
当然の話になるが。
最強厨は。
最高の能力値を持つモンスターが捕獲できるまで捕獲し続けた。
その過程で、それはもう大量のモンスターを捕獲したのだ。その大量のモンスターは“一応”【拠点】に保存してあり、拠点攻防戦の時にのみ解き放たれる。
地下千階のダンジョン『魔王城』には、フォルティシモが今まで厳選のために捕獲して来た膨大な数のモンスターが蠢いていた。
「た、退避ぃ!!」




