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第三百八話 フォルティシモの支持者たち

 <暗黒の光>はデーモン百人を擁するチームであり、従者を合わせれば九百人近い人数が予測される。そして<暗黒の光>に参加していないデーモンもいるだろうから、実際の敵兵力は高レベル数千人規模になるに違いない。


 今までのアクロシア大陸の国々では、一人で軍隊を相手取れる高レベル兵士の軍団だ。


 加えて子孫従者という仕様がある。奴隷をネズミ講的に増やす手法は、フォルティシモが異世界で初めて出会ったプレイヤー両手槍の男が使って来た、異世界ファーアースにしかない仕様だ。


 だが両手槍の男はフォルティシモのレベルに驚いていたことから、仕様を積極的に調べるような性格でないと窺える。だとしたら両手槍の男は、誰かに子孫従者の仕様を教えられたはずだ。


 その相手は誰であろうクレシェンドではないだろうか。奴隷屋を営んでいたクレシェンドが、子孫従者の仕様を知らないはずがない。


 だとしたらクレシェンドは子孫従者の仕様を使って、千人以上、下手したら万に届く奴隷を持っているかも知れない。


 サンタ・エズレル神殿の時のような各所同時攻撃に備えて、フォルティシモ側にも人数が必要だ。




 天空の国フォルテピアノの冒険者ギルドの一室には、様々な者たちが集まっていた。天空の国フォルテピアノには王城がないため、大勢が集まれる建物は冒険者ギルドになってしまう。


 冒険者ギルドに集まったのは、カリオンドル皇国の女皇ルナーリスとそのお付き、エルフの長老スーリオン、冒険者パーティ<リョースアールヴァル>、鍵盤商会の役員、名前は忘れたがラナリア祖父、ラナリア派の貴族、マグナの弟子のドワーフとその仲間、アクロシア王国冒険者ギルドの職員など。


 時間がないので集まれる者だけ集まるように伝えたところ、ほぼ全員が集まってくれた。


 これから始まる拠点攻防戦、その仕様と敵<暗黒の光>の戦力、その対応について説明する。ラナリアが。


 フォルティシモが説明すると言ったら、キュウ以外の従者全員から猛反対を受けたのでラナリアに任せた。フォルティシモだって超一流の技術者として仕様の説明を―――した記憶がないので、大人しく従者たちの意見を取り入れたのだ。


「以上が、予測される敵戦力、敵の破壊対象、そして<フォルテピアノ>の採る対応策となります。皆様はご自分の所属する場所が狙われる可能性について、充分に理解されたかと思います。それを守るため、どうかフォルティシモ様のご提案を受諾してくださいますよう、お願い申し上げます」


 フォルティシモの提案とは、サンタ・エズレル神殿での戦いの反省を生かしたもの。フォルティシモが戦っている間に、フォルティシモの気にしている場所を襲われた際、その場所を防衛するため、フォルティシモの戦力を常駐させたいという提案だ。


 簡単に言えば、フォルティシモの奴隷を各所に配置したいというものと、協力者(奴隷)を募りたいというもの。


「え? ラナ? 全員がレベル九九九九の軍隊が、攻めて来るかも知れないって、聞こえるんだけど?」

「ルナ、私はそう言っているでしょう?」


 クレシェンドは前カリオンドル皇帝が使っていたチート【レベル変更】を自らの従者へ使用できる。それはキュウが確認してくれた通りだ。


 つまりクレシェンドは従者、孫従者、曾孫従者と、子孫従者すべてのレベルを九九九九まで上昇させて強大な軍隊を作っている可能性がある。少なくともフォルティシモならやる。


「敵はレベル九九九九の軍隊を以て、あなたたちを皆殺しにする可能性があるの」


 ラナリアが言い切ったことで部屋に少しの沈黙が生まれる。それを破ったのはラナリアの祖父だった。


「ふむ。状況は理解したよ、愛しい孫ラナリア。そちらの対応策も、時間が惜しいことも。ならば私は彼からの提案を、今すぐにすべて受け入れよう」

「ありがとうございます、お祖父様」

「我々エルフは元よりフォルティシモ陛下の庇護下へ入った者。全力で準備を整え、迎え撃ちましょう」

「ああ、お前たちが壊滅的被害を受けても俺の負けだ。頼むぞスーリオン」

「会長がそれで良いのであれば従います」

「良くないって言いたいですけどね。フォルさんとの打ち合わせは済んでいるので、鍵盤商会の対応は追って連絡しますよ」


 ラナリア祖父、エルフ、鍵盤商会が無条件でフォルティシモの提案を受け入れてくれることは想定通りである。エルフと鍵盤商会はそもそもフォルティシモの傘下であるし、ラナリア祖父はフォルティシモの祖父とは違って孫思いの好々爺なのだ。


「私たちだけでは決められないのけ。でも、師匠が直接言えば、みんな絶対に頷くはずなのけ」

「この後行く。集められるだけの鍛冶師を集めておいて」


 ドワーフたちはマグナのことを鍛冶神として崇めているので、マグナが出て行けば問題ない。


「や、やるけど、その、フォルティシモ陛下のお名前を出してもよろしいでしょうか?」

「俺からの勅命だって言え。証明が必要なら用意する」


 ルナーリスには後ろ盾をちらつかせて無理を押し通して貰う必要があるけれど、何とかなるだろう。


「ま、まずは、その、持ち帰って検討を。それを通すのには、時間が」

「ラナリア様は、そんな遙か昔に絶滅したデーモンが、我々に攻撃を仕掛けるとお考えなのでしょうか?」


 アクロシア王国のギルド職員とラナリア派の貴族は渋い顔をした。それはラナリアが説明したフォルティシモの話を信じていない訳ではない。


 元々フォルティシモに友好的な者たちにしか声を掛けていない。敵対している者が狙われることはないだろうからだ。


 ギルド職員も貴族もフォルティシモからの提案を拒否したいのではない。


 単純に時間がなさ過ぎるのだ。


 拠点攻防戦の開始猶予は一週間。たった一週間で組織の方針を浸透させるなんて、本来なら不可能に近い。


「信じない奴、従わない奴はそれで良い。俺は声を掛けた。俺に従うなら守ってやる。判断は任せる」


 ちなみにこのフォルティシモの発言は、ラナリアの仕込みである。元々フォルティシモの支援者だから呼び寄せたのだ。信仰心エネルギーFPのためにも、可能な限り守り抜きたい。


「これがフォルティシモ様のご判断です。お父様の説得は、これから私が直接出向きます。あなた方にはアルさんが同行しますので、説明しに回ってください。説得する必要はありません。これは勅命です。頷かなければ捨て置き、邪魔立てするようであれば力で排除します」


 ラナリアが独裁国家のような命令をすると、貴族たちはそれ以上は意見を言うことなく承諾した。ラナリアが認めてフォルティシモへの直接の謁見を許したくらいだから、この場のラナリア派の貴族たちは味方のはずだ。




「それで、私たちは何をするのよ。時間がないって言うから、私が綺麗に整えてるテディさんの毛並みがぐちゃぐちゃになってたことは後回しにしてあげるわよ」


 サンタ・エズレル神殿でのフォルティシモとクレシェンドの戦いは、クレシェンドのかつての仲間テディベアからの情報によって有利に進められた面もある。何の情報もなくクレシェンドと対峙していたら、今以上の大きな損害を被っていたかも知れない。


 けれどもクレシェンドの力はテディベアからの情報を遙かに超えるものだった。特に他人の情報ウィンドウを操り、拠点攻防戦を成立させてしまった力など、何よりも大事な情報だ。


 フォルティシモはテディベアへ文句を言って、テディベアのぬいぐるみの毛並みをかき回した上で、キュウと違って心地よくないと駄目出ししてやった。


「エルミア、実はお前に謝罪しなきゃならないことがある」

「何よ、改まって」

「お前の冒険者パーティ<リョースアールヴァル>へ、俺の孫従者を潜ませてた」

「知ってるわよ。それで?」


 エルミアが余りにもあっさり返答したので、フォルティシモは言葉が通じていないのか不安になった。エルミアはエルフたちを奴隷から解放するために長い間戦って来たはずだ。


「お前の冒険者パーティ<リョースアールヴァル>へ、俺の孫従者を潜ませてた」

「なんで繰り返したの? だから知ってたわよ。本人から嬉しそうに聞いたわ」

「怒るだろ?」

「何に怒るのよ?」


 フォルティシモにはエルミアの気持ちが分からないけれど、エルミアの表情や態度を見る限り本当に怒っていないらしい。エルミアはエルフたちの中でも特に感情が出やすいので間違いない。


「つまり、孫従者の位置も筒抜けになって、お前たちが狙われるかも知れないって話をしたい」


 フォルティシモの孫従者、曾孫従者のような子孫従者はもっともっと数がいる。


 その中でエルミアたちだけへ伝えたのは、エルミアとテディベアの存在が大きい。テディベアは言わずもがなだが、エルミアもフォルティシモにとって非常に重要なサンプルなのである。


 何せエルミアはプレイヤーの子孫だ。


 フォルティシモがキュウとの間に子供を作ったら、どうなるか。最も近いサンプルがエルミアなのである。


 キュウとの色々を考えると、エルミアにも死んで貰ったら困る。


「そ、そうなの? 別に、心配されなくたって、私たちは私たちで対応するわよ」

「いや、エルミアたちには特別に支援をする。奴らが襲って来たら、絶対に生き延びろ。最悪、エルミアだけでもだ」

「………そ、そん、そんなことする訳ないでしょ! 私はみんなのために最後まで戦うわよ!」


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