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第二百三十三話 竜神の終わり

 フォルティシモは巨大な竜神ディアナ・ルナーリスを見上げて睨み付ける。


 竜神ディアナ・ルナーリスは宇宙を背にして制止しており、微動だにせずただフォルティシモを見下ろしていた。彼女には、つい先ほどまであった炎のように燃え上がる憎悪が綺麗に消えている気がする。


「GA………Ga」


 弱々しい鳴き声がフォルティシモまで届いた。


「あらゆる攻撃が、このフォルティシモには通用しないと理解したか」


 情報ウィンドウから「そんなはずがない」とか「馬鹿じゃねーですか」とか「せっかく終わりそうなのに何やってんですか!」とか聞こえてくる。フォルティシモだって本気でそう思ったのではなく、相手の戦意が無さそうなのを挑発によって確認したのだ。たぶん。


「キュウ、何て言ってるんだ?」

「はい。いえ、その、言葉になっていないみたいで」


 どういう意味か分からず詳しく聞いてみると、竜神ディアナ・ルナーリスは泣き崩れているような状態らしく、口にする内容に意味はないらしい。


 フォルティシモに完封されたから悔しくて泣いているなら、何とも簡単な話なのだけれど、どう考えてもそうではないだろう。


 フォルティシモはオープンチャットを使って竜神ディアナ・ルナーリス―――いや竜神ディアナへ語り掛ける。


「おい、ディアナ。何だか知らないが、お前は女神マリアステラが憎いんだろう? 女神マリアステラは最強の俺が倒してやるから、安心して眠れ」

「GAAAaaa………!」


 竜神ディアナの泣き声は先ほどよりも大きくなった。彼女はそのまま宙を仰ぎ、慟哭する。


 次に聞こえた声は、音声チャットを通したような音だったけれど、きちんと言葉になっていた。


『………ごめん、なさいっ』

「いくら謝罪しても、どんな理由があっても、キュウを攻撃したことは絶対に許さん」

『ごめん、本当に、ごめんなさい………』


 こいつは間違いなく竜神だ。人の話を聞かないところが、自称竜神の最果ての黄金竜にそっくりだった。


「ルナーリス、命令する。身体の主導権を全力で―――」


 奪い返せ、と言おうとしたところで止めた。


『せめて、私に残されたものを、あなたへ渡すから』


 竜神ディアナから発せられる白い光が生き物のように動き出し、フォルティシモへ向かって来る。フォルティシモはその光に心当たりがあった。


 最果ての黄金竜を打倒した時に貰った祝福だ。あの時は、それによって【魔王神】のレベルが上がった。それを思い出したフォルティシモは、ルナーリスへの命令を押し止めた。


 フォルティシモは欲望の腕輪が祝福に反応していたことを思い出し、マジシャンのような早業で情報ウィンドウを操作する。己の装備を欲望の腕輪に付け替え、念のため一定時間経験値アップ効果のある課金専用アイテムも使用、装備以外も効果があるかも知れないと考えて手元にあった真珠の涙をありったけ首から掛けた。


 準備万端で白き光を待ち構え、念願のログが情報ウィンドウに流れた。


> 【魔王神】のレベルがアップしました


「よしっ」


 かつては我慢できたのに今回はガッツポーズをしてしまい、キュウの視線を誤魔化すために咳払いを何度かした。


「一体どんな心変わりだ?」

『………ごめんなさい』

「謝罪の気持ちがあるなら、まずこっちの話を聞け」


 竜神ディアナはフォルティシモの問い掛けにまったく答える気配がなく、謝り続けている。そして竜神ディアナの身体が淡く輝き出した。その光のエフェクトは、レイドボスモンスターを討伐した時のものだった。


 竜神ディアナの身体は消滅しようとしている。


「おい待て! 消えるな!」


 フォルティシモの制止などお構いなしに、竜神ディアナの身体は半透明になっていった。このままルナーリスまで消えてしまったら、キュウの進言を無視することになってしまうと心配する。


 しかしその心配は杞憂に終わった。巨大な白竜が光の粒子になって消え、代わりにその中央付近に人影が現れたからだ。その姿はカリオンドル皇国大使館が襲撃された夜に出会った竜人族のアルビノ少女だった。


 少女の姿に戻ったルナーリスは気を失っているらしく、重力に任せて自由落下を始める。ここで見捨てたらこれまでの苦労が水の泡になってしまうため、天烏に命令してルナーリスを確保した。




 ◇




 フォルティシモによる強力な精神支配攻撃を受けた時、ルナーリス(ディアナ)の耳に、女神の嘲笑が聞こえていた。


> あは、あははは! 滑稽だ

『笑う、なっ! 私たちから彼を奪った、あなたが!』


> あははは! お前に、言われたくないなぁ! 自分が何をして、何を殺そうとしているのか、本当に分からないの? 分からないなら教えてあげようか?

『何をして、何を? マリアステラ、あなたが人々を苦しめる、魔王を作り出した。だから私は、それを滅ぼす』


> 魔王様は魔王だけど魔王じゃないよ。まあ、それはいいや。それよりお前が何をしているのか、理解するためのヒントをあげる。どうして唐突に、初代皇帝の遺産が使えるようになったんだと思う?

『………? それは、真の相続者が現れたから』


> 正解! でも真の相続者は第二皇女ルナーリスじゃない。第二皇女が遺産を受け継ぐ者なら、第二皇女が産まれた時に使えるようになってないとおかしいでしょう? ディアナ(お前)の子孫であるルナーリス(あなた)の父親が、遺産を使えるようになったのはいつ?

『ほんの、数ヶ月、前』


> 正解! じゃあその時、何があった?

『何って、特に何も。………いや、魔王が、この世界に、この神戯に―――』


> ああ、もう、気付いたでしょ? そうだよ。魔王様が神戯に参加した日に、初代皇帝の遺産が使えるようになったんだよ

『そんな、まさか、まさかっ!』


> お前が愛した男、カリオンドル皇国初代皇帝、キャラクター名オウコー、プレイヤー名近衛天翔王光、多くの神々からこの神戯の勝利者に選ばれた人類の偉人


 女神の嘲笑が響く。


> 魔王様こそ、その真なる後継者、お前が愛した男の血を引いた唯一の肉親、キャラクター名フォルティシモ、プレイヤー名近衛翔

『あ、あああ』


> 竜の神ディアナ、分かるかな? お前は、お前が愛した男が孫のために遺したものを勝手に使い果たし、それを使って愛した男の孫と彼の生きる世界を壊そうとしたんだよ

『あああああああああああああああ!』


> まあ、実際、もしも魔王様がチートツールと、近衛天翔王光が溜めに溜めたFPを獲得したら圧倒的だったろうから、賭けをしている私は面白くなったよ。だから褒めてあげよう。やっぱり遊戯(ゲーム)は楽しくないとね


 女神は笑いを止め、少し言葉のトーンを落とす。


> 悪魔に踊らされたね、竜の神、バイバイ


 そうして最後に残っていた(ディアナ)(ルナーリス)に戻る。


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