第二百三十二話 魔王のコード
VRMMOファーアースオンラインにおいて、フォルティシモが最強のプレイヤーだった理由はいくつかある。
最初に上がるのは誰にも追随を許さない課金だ。この時点で、ほとんどのプレイヤーはフォルティシモの足下にも及ばない。あのゲームは一億課金したプレイヤーと無課金プレイヤーが戦えるなんてゲームバランスで作られていない。
次にプレイ時間だ。廃人プレイ推奨ゲームとして銘打たれていたこともあり、プレイすればするだけ強くなっていく仕様だった。プレイ時間においてはフォルティシモを上回る者もいるが、そういうプレイヤーは総じて課金額が低いのでフォルティシモに並ぶことはない。
そしてフォルティシモが“魔王様”なんて揶揄され嫌われた最強のプレイヤーだった理由は、課金とプレイ時間だけではない。
それはVRMMOファーアースオンラインの魔術、即ち【コード設定】が魔王のように巧みだったからだ。掲示板ではフォルティシモが作ったスキルの【コード設定】を魔王のコードなどと呼ばれるに至っている。
そして今、魔王のコードは異世界ファーアースを蹂躙する。
大陸中を見回せる天高くで制止した天烏の上で、フォルティシモは情報ウィンドウに両手を掛けていた。
「【解析】」
ヒヌマイトトンボを見つけ出した時のように、視界のある一定の範囲内へ向けて【解析】スキルを撃ち込む。その範囲内のモンスターだけでなく、【解析】スキルで取得可能な情報のすべてがフォルティシモの情報ウィンドウへ表示された。
その範囲は、天高くまで上昇したフォルティシモの視界、大陸全土だ。
「【転移】」
フォルティシモは【解析】で見つけ出したモンスターの座標に対して、【転移】スキルによるポータルを作り出す。ポータルの大きさは片手を入れられる程度の大きさ。
「制天・太陽・光鉾」
フォルティシモはポータルの先に、モンスターを消滅させ続ける魔王の太陽を召喚する。
【解析】したモンスターすべてが一斉に砕け散るのを確認。
すぐに次の地域に【解析】を撃ち込む。
フォルティシモのやっていることを要約すれば、一定の範囲内のモンスターを探し出し、そのモンスターを倒すためのスキルを使うだけだ。それだけであれば、大なり小なり可能とするプレイヤーは存在する。
フォルティシモのそれが異色なのは、その規模と威力。フォルティシモは大陸のすべてのモンスターを捕捉し、片っ端からモンスターを葬っていた。
攻撃範囲は大陸全土。
この大陸のどこに居ようとも、フォルティシモの攻撃から逃れることはできない。
否、攻撃だけではない。
「蘇生と治癒も必要だったか。【解析】【転移】蘇生、【解析】【転移】最大・回復」
生き死にさえもフォルティシモの手の中にある。
フォルティシモの眼下に広がる大陸には、いくつもの光の球体が浮かんでいた。あの球体はすべてフォルティシモが作り出したもので、今でも出現するモンスターを消滅させ続けている。
魔王の太陽の光が届く限り、あらゆるモンスターが消滅する人間にとって安全な場所となる。
このスキル設定は、本当は大氾濫で大陸中に見せ付けて、大陸中に最強のフォルティシモの力を知らしめる予定だった。だが今は緊急事態なので大陸中にその太陽を産み出したのだ。
フォルティシモの片手には、課金回復アイテムが握られている。缶ジュースのような飲み物のアイテムで、これを飲むとMPが大量に回復するのだが、現実だと何本も飲むのが辛くなって来た。
ちなみに、このアクロシア大陸全土を攻撃範囲とする魔王のコードの一つは、それはもう掲示板で叩かれた。
何せこの魔王のコードは、すべての狩り場をフォルティシモが独占しているのに等しいからだ。
まるでこの世の地獄かという無数の太陽に包まれたアクロシア大陸は、魔王様による『審判の日』と呼ばれた。
叩かれに叩かれて、それでもフォルティシモは稼ぎの良い狩り場を一日の間独占し続け、運営開発によって超長距離スキルが封じられるに至る。同一マップ以外からのスキル攻撃に制限を掛けたのだ。
VRMMOファーアースオンラインには、【マップ】や【フィールド】といった区画の考え方があるからこそできた。つまり異世界ファーアースでは関係ない。
再び『審判の日』が顕現する。
「取り巻きドラゴンの討伐完了」
フォルティシモの情報ウィンドウには、従者やエルフ、子孫従者たちからの賞賛が送られている。普段はフォルティシモへの直接の連絡を控えている者たちからの言葉だ。それほど危機的状況だったのだろう。
フォルティシモは一緒に天烏に乗っているキュウの様子を横目で窺った。キュウはフォルティシモが大陸中のドラゴンを一掃している間も、天烏から眼下の大陸を見回していた。空気も薄くなっている、宇宙との境目の論争になりそうな超高々度にありながら、キュウは大陸中の音を聞き回していたようだった。
すべてが終わり、キュウがフォルティシモを振り向く。
その瞳は大きく見開かれていて、少し潤んでいる。
「す、凄い、ですっ、ご主人様、は、凄くて!」
「実はな」
フォルティシモが神妙な顔つきを作ったせいか、キュウが緊張した様子を見せる。キュウの耳と尻尾の毛が逆立っているので、緊張しているのは間違いない。フォルティシモの次の言葉でその毛並みがどうなるのか楽しみだ。
「キュウの前で格好付けたかった。キュウに俺の力を見て、感動して欲しかった」
「は、はいっ! 感動しました!」
焦って言い放たれる言葉は、キュウ以外から聞かされたら嘘だと思って不快になっただろうけれど、キュウだったら違う。なにせキュウの可愛くて触り心地最高の尻尾が嬉しそうに動いているのだから、彼女が本心からそう言っているのは間違いない。
「あとは竜神を―――」
マリアステラは何とも言えないが一応は撤退させ、竜神ディアナ・ルナーリスは殺さずに制圧、大陸中に降り立ったドラゴンたちは全滅させた。
これ以上ない完璧な成果だと思いキュウとの会話を楽しんでいた時、フォルティシモの全身に寒気が走る。
その正体はすぐに明らかになった。天烏の行ける最高高度まで昇ったフォルティシモたちの、更に上に、竜神ディアナ・ルナーリスが浮かんでいた。
そこはもう完全に宇宙空間で、暗黒の中に瞬く星々を背にした竜神ディアナ・ルナーリスがフォルティシモとキュウを見下ろしている。
フォルティシモはトロイの木馬による【隷従】スキル攻撃で、竜神ディアナ・ルナーリスの動きを止めたはずだった。キュウの説得により揺らいでいた竜神ディアナ・ルナーリスは、フォルティシモの力の前に屈服したのを確認した。
それが間違いだったのを悟る。フォルティシモとキュウが従わせたのは、第二皇女ルナーリスで初代皇妃ディアナではない。むしろ第二皇女ルナーリスの意識を無理矢理従わせてしまったことで、初代皇妃ディアナの意識が前面へ出て来てしまったのかも知れない。




