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第二百十七話 ラナリアと兄

 司令本部を任された形のラナリアは、斥候からの報告を聞いていた。


 フォルティシモがアクロシア王国の東に敷いていた陣から出撃し、強大無比な魔術を用いて敵主力部隊を壊滅。遠方から様子を窺っていた斥候によれば、フォルティシモはカリオンドル皇帝をも圧倒したものの、謎の魔物が二人の戦いに介入した。フォルティシモが魔物に敗北するなど考えられないため、心配する必要はないだろう。


 敵主力部隊撃破の報を以てカリオンドル皇国制圧作戦に移行するべきかどうか迷う。王族として最低限度の教育は受けているが、軍事は得意ではない。ましてこれほどの強者が入り乱れる戦場では、部隊運用の常識に沿って動かせば手ひどいしっぺ返しを喰らう可能性もあった。


 連合軍各国の将軍たちはフォルティシモを褒め称えるための語句が尽きたのか、ラナリアの判断を待っている様子だった。


 ダアトを呼んでカリオンドル皇国首都とこの陣を繋ぐ巨大ポータルを作って貰い、奇襲的に首都を制圧しよう、そう考えた矢先、ラナリアの板状の魔法道具が鳴り出した。


 そしてラナリアもその報を耳にする。女神マリアステラがキュウを連れて出掛けて行ったらしい。


「キュウさんが?」


 ここで女神マリアステラが乱入してくるなど、予想外も良いところだ。さらに絶対安全であったはずの、『浮遊大陸』にあるフォルティシモの【拠点】へ侵入して来たのだと言う。


 フォルティシモは間違いなく女神マリアステラを追い掛ける。大陸東部同盟との戦争など放り出すに違いない。それは困る。ラナリアも困るし、天空の国フォルテピアノの将来や評判が大変なことになってしまう。


 ラナリアは心の中で、女神マリアステラへの罵詈雑言を吐く。


 ラナリアにとって唯一の友人を連れ去った点にも、憤りを感じていた。彼女はラナリアにとって初めての対等な友人なのだ。もしキュウに何かあったら、ラナリアだってフォルティシモと一緒に女神マリアステラを倒そうと声高に叫ぶだろう。


 だけど、今はタイミングが悪い。ラナリアが悩んでいると、また別の斥候から緊急連絡が入ってきた。


「どうして次々と問題が起きるの」


 思わず愚痴を零し、斥候からの報告を受ける。


 カリオンドル皇国首都に巨大な白竜が現れて、暴れ回っている。首都の防衛隊や滞在している冒険者たちが立ち向かっているものの、白竜が止まる様子はないという話だ。


 ひとまずはポータルを開いて制圧部隊を送り込まなくて良かったと安堵。


 それから斥候へ白竜は一体何なのか、何故カリオンドル皇国で暴れているのか、調べられる限り情報が欲しいと命令した。


 もしかしてフォルティシモかキャロルの新しい従魔なのではとも思うけれど、そんなもので首都を攻撃するなら、ラナリアへ一言くらいあっても良いはずだ。


「ラナリア様! ま、魔力の渦が!」


 ラナリアの目の前に、突如としてポータルが開いた。将軍たちが浮き足立ち、シャルロットを始めとした護衛たちがラナリアを庇うように前へ出る。


「問題ありません。この魔力は、エンさんです」


 ラナリアは何度も見ているため、これがエンシェントの作ったポータルだとすぐに気が付いた。ラナリアは少し肩が軽くなったと感じる。


 エンシェントはフォルティシモの従者の中でも群を抜いた識者だ。彼女が来るならすべて取り計らってくれる。決して大きな声では言えないけれど、この状況ならフォルティシモより頼りになる。


 ラナリアはエンシェントがポータルから出て来るのを待っていたが、なかなか現れず痺れを切らした頃、ポータルから人影が飛び出して来た。


 全身を簀巻きにされた、人影が。簀巻きは暴れているが、地面をゴロゴロ転がるだけで拘束が解かれる様子はない。


 間を置かず、エンシェントの姿も現れた。


「エンさん、状況はお聞きに?」

「聞いた。マグとキャロには、『浮遊大陸』カリオンドル皇国間の空路、陸路、海路をローラーさせる。私たちは発見できなかった場合に備えて、女神が向かっているらしいカリオンドル皇国の安全を確保する」

「承知しました。私の推測になりますが、キュウさんはおそらく誘拐されたのではありません」

「キュウは自らの意思で女神マリアステラへ付いて行ったんだろう」


 冷静に状況を把握しているエンシェントの言葉に、頼もしさを感じる。


 女神マリアステラは、キュウ個人を攻撃するとは思えない。だってキュウと女神マリアステラはゲームの真っ最中なのだ。チェスをしていて、対戦相手を殴り殺してチェスに勝った、楽しかったと言う者はいない。女神マリアステラの対戦相手キュウは絶対に無事だ。


「だが関係ない。この状況では、主は何を犠牲にしてでも助けに行く。どんな理由があろうとも、祖父と同じ行動は取れない。優先はキュウだ。そのついでで、カリオンドル皇国へ人道的救援措置と、白竜への対処は行うがな」

「はい、ついで、にですね。各国への通達を急がせます」

「待って欲しい、麗しの君!」


 簀巻きに話を割り込まれた。よく見ると簀巻きから頭部が出ていて、その頭はアーサーと同じ赤毛をしている。


「僕はカリオンドル皇国へ戻り、あの竜を止めなければならない!」

「だから理由を言え」

「それは言えない!」


 アーサーはフォルティシモへ神戯に関しては知る限りのことを話したはずなのだけれど、これはそれとは無関係な事柄だから言えないのだと言う。


「助けてくれたことに礼はしよう! 戻ったら麗しの君を楽しませる約束をする!」

「するな」

「だから行かせてくれ!」

「死ぬなら主に殺されろ」


 エンシェントがアーサーを助けたのは、アーサーが気に入っているとか、何か情報を握っているから、という理由ではない。膨大なFPを持っているアーサーが誰かに殺されたら、そのプレイヤーの神クラスのレベルが急上昇しかねないからだ。


 だったら先にフォルティシモがアーサーを殺してしまえば良いのだが、フォルティシモは己に直接挑んだ者は殺さないとしているため、彼は殺されていない。


アーサー(これ)はこちらで処理いたしましょうか?」

「ラナは怒っているのかい!? すまない! ルナを助けられなかった!」


 ラナリアは簀巻きに対して困ったような表情を作る。ルナーリスの行方は気に掛けていて、フォルティシモたちの手を借りる以外は八方手を尽くして探したのだけれど、未だに発見されていない。


「そうだ! まず彼は、フォルティシモはどこだ!? カリオンドル皇帝は、恐ろしく強かった。彼を倒すには僕とフォルティシモがタッグを組むしかない!」

「カリオンドル皇帝ならば、フォルティシモ様の御力の前に為す術もなく逃げ出しました」

「ほ、本当なのかい!? い、いや、さすが僕が認めた二人目のライバルだ」


 笑顔でフォルティシモ様はあなたをライバルなどと思っていません、と返してやりたい気持ちになる。


 しかし、そこでふと思い出した。気にする必要もない小さな言葉を。


「二人目………そういえば、フォルティシモ様と初めて会った時も、近い内容を口にしていましたね」


 ラナリアは今聞くような状況でない話をしている。その自覚があるのに、思わず口にしたのは思い至ってしまったからだった。


「もしかして、アーサー様の言うライバルとは、ラムテイルお兄様なのでしょうか?」


 ラムテイル、ラナリアが慕っていた兄の名前だ。


 いつも言葉足らずで社交界では嫌われていたけれど、ラナリアには優しかった。兄にはレベルを上げるように口を酸っぱくして言われて、その小言はラナリアの人生を変える時、いつも役に立ってくれた。母と弟を助けられた時、侍女からの【隷従】を受けずに王城を脱出してキュウに出会えた時、その他小さい事柄を含めれば無数にある。


 十年前の大氾濫で、高貴なる義務を果たすため兄が死んだ時には、感情のままに涙した。


 暴れていた簀巻きが突然大人しくなり、小刻みに震えているような気がした。


「アーサー様が英雄と言われる前、お兄様との間に、接点があったのですか?」


 ラナリア兄が死んだ十年前の大氾濫では、アーサーは無名だったはず。大陸最大のアクロシア王国の王位継承権第一位のラナリア兄と、無名の男アーサーに接点があったとは思えない。


「………いえ、まさか。何百年も前から大陸にはプレイヤーが居たのに、アクロシア王国が誰かに支配された記録はない。しかし、お兄様が死した後に制圧されかけられた………」


 ラナリアは簀巻きアーサーを見つめる。


「神戯。神々はいくらでも介入してくるという黄金竜の言葉。ヒヌマ卿はリアルワールドへ帰るため、アクロシア王国を制圧しようとしていた」


 思わず息を呑んだ。


「ラナリア、何か心当たりがあるのか?」

「………引っ掛かることだけです。すいません、エンさん、カリオンドル皇国に現れた白竜への対処は如何しますか?」

「カリオンドル皇国の兵士が攻撃するのを観察したが、倒すのは困難だ。ひとまずカリオンドル皇国から引き剥がすのが目標になる」

「でしたら、アーサー様が買って出てくれているのですから、利用しない手はありません」


 エンシェントがアーサーを行かせることに難色を示しているのは、アーサーと白竜が戦えば、アーサーは無事では済まないからだろう。


 フォルティシモたちに聞いた限り、アーサーは権能は非常に強力で、装備も課金アイテムという特殊な魔法武具で固められているけれど、レベルやステータスと言われる数値はあまり高くない。


 それでもラナリアは、兄ラムテイルと接点を持つアーサーの行動を後押ししてみたいと思う。


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[一言] 狐娘誘拐されすぎでは?
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