第二十話 主人と従者の想い
「エルディンとアクロシアの王、ヴォーダン様万歳!」
「万歳!」
そこはキュウが生まれてから一生縁のないと思っていた場所、アクロシア王国の王宮だった。高い天井にキラキラと光る美しいシャンデリアが吊されて、白を基調とした壁と柱に真紅のカーテンと絨毯が色合いを与えている。奥の高い位置に黄金の椅子が三つ用意されており、一目で身分の高い者が座るのだと理解させてくれる。二百人ほどの人間がこの部屋に集まり、一糸乱れず整列をしていた。その中には王国騎士だけではなく、エルディンのエルフと見られる者も居る。
ギルドでキュウたちを出迎えたエルフの青年ヴォーダンが姿を見せると、人々は口々に「万歳」と雄叫びを上げる。キュウが立っているのは彼らから少し離れた場所で、力を入れてもビクともしない縄で後ろ手に縛られていた。この一角には同じような女性が何人か居て、王国騎士が彼女たちに逃走をさせないよう見張っている。フィーナの姿を見かけたので話し掛けたかったが、騎士たちに睨まれているため動けなかった。いや、例え騎士たちが居なくてもキュウは動けなかっただろう。
ヴォーダンという男がレベル四二〇〇を宣言し、それが“かんすと”を超えていると言われ、キュウの主人以上だと知った時、キュウは怖くて何も出来なくなった。ヴォーダンは主人と同じように整った容姿をしていても、主人と違って獣のような瞳をしていて、見つめられるだけで恐怖に身が竦んでしまう。逆らったら何をされるか分からない。
【隷従】を掛けられたラナリアは元より、掛けられていないキュウも、ギルドに入って来た王国騎士たちに捕まえられ、王宮へ連れて来られた。カイルがどうなったのかは分からない。
王冠を被り豪華なマントを着たヴォーダンが、真紅の絨毯を歩き、黄金の王座へと到達する。ヴォーダンが椅子へゆっくり腰掛けると、歓声が一際大きくなった。
「ははっ、楽勝だな」
ヴォーダンは足を組み、頬杖をして笑っている。ヴォーダンに眼鏡を掛けた初老の男性が近づいていく。小声での話だったが、キュウの耳には聞こえる。
「ヴォーダン様、ご報告が」
「なんだ? 祝いに楽しみたいんだ。早くしろ」
「騎士たちの一部が城壁外部で交戦を続けております」
「【隷従】を掛けられなかった連中か。国境付近で足止めしてたんじゃないのか?」
「ケリー=ネッド第三部隊隊長が、独断により部隊を帰還させたようです」
ヴォーダンは身体を起こし、初老の男性を振り返った。
「独断? 王国騎士は頭が固いという話だったが。そいつの部隊はレベルは?」
「先月の調査では平均四〇八となっております」
「ちっ、一次奴隷はまだしも二次以上はまずいな」
ヴォーダンは顎に手を当てて思案し、やがて指示を出した。
「元王、来い」
アクロシア国王デイヴィッド・オブ・デア・プファルツ・アクロシアは跪き、頭を垂れていた。
「奴らを投降させ、ケリー=ネッドとやらを反逆罪で処刑しろ」
「かしこまりました」
アクロシア国王が立ち上がり部屋を出て行く様子を、ヴォーダンは満足そうに眺めていた。立ち並ぶ彼に忠誠を誓っていたはずの王国騎士たちは微動だにせず、敵対していたエルディンのエルフたちも何の反応も見せない。唯一、キュウたちの中から泣き出す者が現れ、逃げようとした少女が王国騎士に捕まった。
「元王が無能だった場合も考えておかないとな。関所を越えられた場合はどうなる?」
「王宮には防御術が幾重にも張り巡らせております」
「馬鹿かお前。そんなものアナライズすれば分かる。俺が聞いているのは、それを越えられるのかと言うことだ」
「大変失礼いたしました。三刻ほどの時間は稼げるかと愚考いたします」
「なら適当な警備で充分だな」
ヴォーダンは手早く指示していく。
「さて、ラナリアを孕ませておくか。国民も納得しやすいだろう」
ヴォーダンは嫌らしい笑みをラナリアへ向けた。その顔を見ただけで怖気が走る。
「ラナリア、来い」
「あなたは、こんなことをしてっ」
ラナリアはしゃべることが許可されていたが、その声に気丈さはなく震えていた。王国の中枢はヴォーダンの奴隷となり、ラナリア自身も【隷従】によって自由は許されない。そしてヴォーダンのレベルは四二〇〇という異常な数字。王族として抵抗していた王女は望みを絶たれたことを理解していたのだろうが、理解したくない一心で口を動かしている。
「ああ、そういえば、お友達と一緒にしてやる約束だったな。安心しろ、俺はこう見えて約束を守る男だ」
ヴォーダンがキュウたちの居る一角に視線をやる。キュウを見つけると、ラナリアへ向けたのと同じ笑みを見せて命令した。
「そこの狐人族を連れて来い」
王国騎士が左右からキュウを掴む。恐怖でうまく歩けないため、引き摺られるように運ばれてしまう。縄を解かれても、キュウは動けない。
「ラナリア、準備しろ」
「準、備?」
「服を脱いで自分で濡らせ」
「こ、ここ、で?」
ラナリアの顔は真っ青になっていた。キュウも同じような顔をしているだろう。ラナリアに降りかかることは、これからキュウにも降りかかるのだから。
「お前は自分の主人の手を煩わせるつもりか?」
「そんっ………。お、お願い致します。ここでは、ご容赦を」
ヴォーダンはラナリアの怯えに加虐的な笑みを見せて、席を立ってラナリアの元へ向かう。
「良い顔だ」
ヴォーダンがラナリアの顔を撫でるが、抵抗はおろか身体を自由に動かすことを許可されていないラナリアはされるがままになっている。
「脱げ」
ラナリアは自分の服に手を掛ける。キュウは震えながらその様子を見ている。
次は自分の番だ。キュウは奴隷として売られる際に、自分が愛玩奴隷であると理解していた。だから身体を汚されることは覚悟しているし、好きな相手と結ばれるなんて夢は見ていない。性の対象として使われるならまだマシだ。どんな酷いことをされるか分からないのが、愛玩奴隷である。消えない傷を刻まれるとか、手足を切られるのではないだけで、安心しなければならない。それが、何も役に立たないキュウができることだ。今から起こることだって、大人しく従っていれば、ラナリアのついでで男に抱かれて、それで終わりだ。ヴォーダンはキュウ自身に興味を抱いておらず、あくまでラナリアの友人として見て、ラナリアを苦しめるためにキュウを使おうというのだ。
壊れてしまうのではないかと思うくらい、時計を強く握りしめた。
「………っ」
「ん?」
「キュウ、さん」
キュウはいつの間にか泣いていた。生来泣き虫で、いつも感情的に喚き泣くキュウだったが今は違う。声にならない涙が流れていた。
役に立たない自分への絶望の嘆きではない。
身に降り注ぐ悲劇への怨嗟の怒りでもない。
ただ、この男に抱かれるのが嫌だった。だってキュウにはもう主人が居るのだ。こんな自分を欲しいと言ってくれた、優しくて凄い主人が居るのに、見知らぬ男になんて触れられたくない。自分の全てはあの主人のモノで、あの主人に捧げたい。こんな男の自由にして良いものではない。
「ははは、いいぞ、泣き叫べ」
ヴォーダンはキュウの泣き声に更に気をよくしていた。
「………ヴォーダン様」
「なんだ、ラナリア?」
「どうか、この子は見逃して頂けませんか? この子と私は友人でも何でもなく、この子は仕事を依頼した、ただの冒険者なのです」
ラナリアの声から震えが消えている。もちろん、服を脱ぐように命令された手の動きは止まっておらず、すでに下着姿になってしまっているが、それでもラナリアの声に一切の揺らぎはなかった。それを詰まらなそうに見ているヴォーダンだったが、ある場所を見た瞬間に声をあげた。
「待て!」
その待てはラナリアへ言ったわけではなかっただろうに、ラナリアの動きが止まる。
「お前、その時計! なんだ、それは!?」
ヴォーダンが見ているのは、キュウの胸元にある手の平サイズの小さな時計だ。
「え?」
「寄越せ!」
ヴォーダンはキュウを突き飛ばし、首から提げていた主人から貰った時計を奪う。主人から貰った大切な時計、どんな服を着てもずっと持っていた時計を奪われて、キュウは大きな喪失感を味わう。返して欲しい、と大声で叫びたいが、ヴォーダンという男のレベルを思い出して口は動いてくれなかった。
「アナライズ!」
男が再び虚空へ手を掲げる。
「刻限の懐中時計、LEGENDの十凸、一日一回死亡時に蘇生完全回復して復活するアイテムだと?」
魔法道具であることは魔力が込められていることから分かっていたが、効果までは聞いていなかったので、キュウも時計の効果を聞くのは初耳だった。主人は目覚まし時計に使えと言ってキュウに渡してくれたので、まさかそんなとてつもない効果を持っているなんて知らなかった。
「死者の蘇生だと、言うのですか?」
ラナリアまで驚いていた。
「こんなもの、ファーアースオンラインに実装されていないぞ! お前、これをどこで手に入れた!?」
「ひっ」
ヴォーダンに胸ぐらを掴まれ詰め寄られると、恐怖で動かなかった口から悲鳴が漏れた。怖い。怖いけれど、主人のことをこの男に話したくない。例え殺されることになっても口にしない。何の役に立たない自分でも、そのくらいはできる。
ヴォーダンの顔が怒りに歪む。
「すぐに【隷従】を掛けてやる」
ヴォーダンが虚空で手を動かすと、何故かラナリアが力が抜けたように倒れた。
「ターゲット・テイミング!」
光がキュウに命中する。キュウは目を瞑って歯を食いしばった。絶対にこの男に従わないという強い意志を持って。そして、少しして自分を確認して思う。痛くないし、身体は動く。
レベル四二〇〇から【隷従】を受けたのだから、失敗するとは思えない。けれど、キュウは今までと同じように考え、自分の意思で身体を動かせた。
「他人の、従者?」
ヴォーダンの顔が驚愕に見開かれる。“従者”というのは、主人がキュウに対して使っていた言葉だ。主人はキュウを奴隷とは呼ばず、必ず“従者”と言う。ヴォーダンの驚きは、キュウが主人の従者だということを証明している。
主人がキュウを守ってくれたのだ。男の言葉が続く前に、今のキュウが世界で一番聞きたい声が聞こえてきた。
「領域・爆裂」
極大の爆発音。巨大な衝撃が王宮へ襲いかかった。感じたことのない震動と何かが崩れる音がした。自分の意思で身体を動かせる者たちがパニックになり騒ぐが、それを【隷従】を受けた騎士たちが押しとどめる。
ヴォーダンはキュウと時計を放り出すと、虚空から槍を取り出して周囲を警戒した。
キュウはそんな中で、ただ一点を見続ける。王宮の建物の一角が、まるでえぐり取られたかのように消滅していた。
そこに飛ぶ巨大な白い鳥から降り、キュウとヴォーダンの間に立ったのは。
「キュウ、怪我はないな?」
「はいっ!」
キュウの主人フォルティシモだ。
◇
時間はフォルティシモが天烏へ乗り込み、キュウを探しているところまで遡る。自分の従者の位置は情報ウィンドウのミニマップに映るが、マップの範囲には限界があるため、空中を旋回しながらキュウのマーカーを探していた。
キュウのステータスに変化がないので無事であることは確信していても、これからも無事である保証はどこにもないし、どこかで怯えて怖がっているのなら颯爽と現れて助けて好感度アップを狙いたい。
「まるで都市防衛戦だな」
騎士たちが必死に戦う姿を、ファーアースオンラインのイベント戦である都市防衛戦に例えたが、本当に命が掛かっていることを考えればこちらが本物で都市防衛戦が似せているのだ。
キュウはギルドにも市場にも居ない。他にキュウの行きそうな場所を考える。よく考えると、キュウは自分のことをほとんどしゃべらない。それは希望を口にしないというのだけではなく、何を考えて何をしたいのか全く分からないということだ。過去については詮索するつもりはなかったが、フォルティシモが言ったことが嫌だったかとか、普段何をしているかくらい聞いておけば良かった。
それにキュウだっていつも掃除洗濯やスキル上げだけをしているわけではないだろう、知り合いが居るかも知れないし、友達も出来たかも知れない。恋人だったら、そいつは念入りに確認した上で抹殺しよう。
まさか戦闘に巻き込まれていないか、壁の近くで行われている戦いの様子を見に行く。マップに映らなかったので安心した。
天烏が近づいていくと、戦闘の音がしなくなった。攻めていた側は呆然と天烏を見上げ、守っていた側は壁の内側へ逃げ出している。奴隷商店の店主から【隷従】の話を聞いているので、どちらが【隷従】を受けた側なのかは予想できる。攻め側は【隷従】を受けておらず、天烏を見て呆然としたのだろう。守り側は【隷従】を受けており、生命の危機を察知して命令を無視して逃げた。
攻め側に居る騎士が、フォルティシモを見て剣を振っている。間抜けな動作だが、気付いて欲しいことくらいは分かる。キュウがどこに居るか検討もつかないので、話くらいは聞いてみるのもいいだろう。
「あの辺りに降りろ」
「くあぁ!」
天烏に命じて開いた場所へ降りると、剣を振っていた騎士がお供を何人か連れてやってきた。
「私はアクロシア王国第三隊隊長ケリー=ネッドであります! 貴公についてお聞かせ願いたい!」
天烏に乗ったままだと高低差がありすぎて、しゃべり辛いため地面に降りて相対する。隊長と名乗った男の背丈はフォルティシモよりも高く、鍛えられた胸板と腕はこの世界に来て見た中では最も立派だった。アクロシア周辺で採取できる中では最高の武器防具を装備しており、いかにもな騎士剣と盾はそのままゲームの広告にも使えそうだ。
「フォルティシモ、冒険者だ」
隊長はフォルティシモを見ているが、お供の騎士たちは明らかに天烏を見ている。
「あのベンヌすらも遙かに上回る魔力、この魔物はいったい?」
「俺の従魔だ。あんな焼き鳥と一緒にするな。俺からも質問だ。狐人族の可愛い女の子、黄金の毛並みで見てると尻尾をモフりたくなる、身長百五十くらいで長髪、首から懐中時計を下げてる、見ていないか?」
隊長のお供たちが「従魔とは?」「焼き鳥、ベンヌが?」などと言っていたが、隊長が一睨みで黙らせる。
「残念ながら見ておりません。虫の良い話でありますが、この魔物を自由に操れるのであれば、是非、王宮奪還に力をお貸し頂きたい!」
「断る。キュウが先だ」
考えるまでもなく断った自分に、少しの驚きを覚えた。名声や称賛を得るには、最高の機会のはずだ。王国騎士の隊長から直接の救援要請であり、この危機を救うことができたら、フォルティシモの名前は英雄として響き渡ることだろう。それに魅力を感じないと言えば嘘になる。
それでも考えるまでもなく断った。きっと、キュウという自分の所有物が手元にないから不安なのだ。自分の物が誰かに理不尽に奪われるのは誰でも嫌だ。キュウが傍に居れば隊長の要請に応えることも考えただろうが、優先順位を間違えてはいけない。まずは自分の物、それから他人の物。瞬時に断ってしまったけれども、今の自己分析で自分は冷静だったと判断できる。
「この状況で冒険者風情が!」
「よせ!」
隊長は剣を抜こうとしたお供を制止し、フォルティシモに頭を下げた。
「失礼した」
「良い。自分たちの街が戦場になっているんだ、冷静になれというのは無理がある」
隊長はなおもフォルティシモの説得を続けようとしたのか、口を開こうとした瞬間、関所の中から飛び出すような勢いで馬が出て来た。
「何事だ!?」
馬は一直線にフォルティシモたちが居る場所まで向かっており、うまく停止できずに乗っていた人間は転がり落ちてしまう。隊長とお供たちは剣と盾を構え、落馬した人間を取り囲もうとする。
「お前、カイルか?」
「フォルティシモ、やっぱ、あの化け物、お前だと思ったぜ」
カイルは酷い怪我を負っていた。頭から血を流し、鎧は砕け、インナーが血まみれになっている。落馬しただけでこうはならない。
カイルは上手く立てないのか這うようにフォルティシモへ近づき、血と砂と涙で汚れた顔をくしゃくしゃに歪めてフォルティシモを見上げた。フォルティシモはインベントリから霧状のポーションを取り出す。キュウが同じ状態だったら迷わずM級ポーションどころか課金回復アイテムであるエリクシールを使うが、ここまで来られたのだから低級のポーションを使えば死にはしないだろう。
「ボロボロじゃないか。どうした?」
「キュウちゃんが王宮に連れて行かれた。王女様も【隷従】を掛けられて。デニスやエイダも………! 頼む………助けてくれ」
「キュウが?」
「王女様が!?」
様子を見ていた隊長が乗り出してくる。フォルティシモにとっては、王女なんて知りもしない奴はどうでもいい。
「エルフの男だ。みんな奴隷にして、キュウちゃんも、このままじゃ」
キュウは既にフォルティシモの従者として設定されているので、他人に奪われることはないが、それでもHPやステータスには現れない傷を負わされる可能性はある。
「あいつ、レベルが四二〇〇とか、言ってやがって、俺はっ」
「カイル………」
カイルは言葉と一緒に血を吐いて、それでもフォルティシモに懇願した。ゲーム時代だけではなく、これまで生きて来て、これほどまでに誰かから何かを頼まれたことはない。元々友達を作るのが苦手なフォルティシモの数少ない友人が、命を賭けて教えてくれたことに不謹慎だが感動を覚える。
そして、そこまでしてくれた友人を傷つけ、キュウを誘拐した奴。レベル四二〇〇、ここまで来ればファーアースオンラインのプレイヤーだろう。
「そいつは、俺がぶち殺す。安心して待ってろ」
王城の上空へ天烏でやってきた。高層ビルなんて建物がないこの世界では、王宮はバロック様式の最も巨大な建造物で豪華な装飾が施されていた。
王城へ近づくと、マップにキュウのマーカーが表示される。他にもその他大勢のマーカーが表示されており、広い空間に大勢が集まっているようだ。プレイヤー同士は【追跡】スキルを使わない限りはマップに映らないため、プレイヤーが居るかどうかまでは分からない。しかし、フォルティシモに引くつもりはない。
フォルティシモは軽い興奮状態にあることを自覚する。キュウが居ることを前提として、友人から仲間を助けて欲しいと言われ、王国騎士から王女を救出してくれと言われたことで、まるで英雄のような気分だ。
そして何より。圧倒的な強い力を使って、悪党から美少女を助け出す。良いシチュエーションだ。
最強の力を振るう場面に相応しい。
「領域・爆裂」
それでも優先順位はキュウの安全確保なので、ゆっくり入り口から入って敵を倒して行くなんてことはしない。【爆魔術】で王城の王座の間までを爆縮させる。
極大の爆発。その破砕音、空気を伝わる振動、広がる光景はゲーム時代のエフェクトが霞んでしまうリアルがある。王城の天井が消え去り、中の様子が見える。
キュウがじっと、フォルティシモを見つめていた。フォルティシモは天烏から飛び降りる。
「飛翔」
そのままでは着地の衝撃で建物を破壊してしまうので、【飛翔】スキルを使って速度を落として落下し、キュウの目の前に降り立った。
「キュウ、怪我はないな?」
「はいっ!」
キュウの心からの笑顔を、初めて見たかも知れない。