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第百八十五話 大使館の襲撃者 凍る館

 フォルティシモが大使館を丸ごと氷漬けにした次の瞬間、忍者たちから煙が立ち上った。通称ドロンと言われる【変わり身】スキルで、アイテム取り出し、回避、移動の効果を同時に発動できる。


 フォルティシモのスキルを見て、何よりも先に逃走を選択したらしい。


「逃がすか。アルは奥へ行った奴、リースは二階の、俺は庭に出たのを追う」


 アルティマが九本の尾を振り回しながら、大使館の通路を駆けて行く。リースロッテはふわりと空中へ浮くと、階段を使わずに二階へ消えた。


 【忍者】のAGIは高いものの、フォルティシモに勝てるはずがない。


 氷の床を蹴り上げ、一足で庭へ出る。


 庭を走る忍者たちの姿を捕らえ、回り込んだ。


峰打(ミニモ)打撃(ペガル)


 そして先頭を行く忍者の脳天に拳を叩き込む。先頭の忍者は煙になって消えた。【分身】スキルを使っているのは想定通りなので驚きはない。


「俺はここを襲ったのを咎めようなんて気はない。話がしたいんだ。連絡コードを交換しないか?」


 先に【氷魔術】を使い、今は複合スキルで攻撃を仕掛けたフォルティシモは、クレシェンドの真似をして右手を差し出して笑みを作ってみた。このプレイヤーか従者が、カリオンドル皇国を攻撃した理由を知りたい。


 忍者たちの表情は覆面に隠れているので分からないが、顔を見合わせて頷いたのが分かる。


「貴様、フォルティシモか?」

「そうだ」

「なるほど、そういうことか。皇女は既に。ならばここに用はない」

「逃げたいなら連絡コードを置いていけ」


 炎の館から氷の館になったせいか、外の騒ぎが大きくなっている。野次馬が更に集まって来たのだろう。紛れて逃げられたら見つけ出すのは困難かもしれない。


 とりあえず話を聞く前に全員気絶させてしまおうと決めた時、フォルティシモの情報ウィンドウからアラートが鳴り響いた。フォルティシモはかつてキュウのHPが激減したことを思い出して、目の前よりも情報ウィンドウに意識が行ってしまう。


 その隙を突いた忍者たちが、再びドロンを使ってフォルティシモの前から姿を消した。


 フォルティシモは追い掛けるよりも先にアラートの内容を確認する。


 キュウは今も【拠点】でつうと一緒に食事の後片付けをしているので、HPが減るような事態に陥るはずがない。だからキュウではなかった。


 それに安堵したのも束の間、HPが一定以上減少したのは、純粋なステータスであればプレイヤーにも劣らないアルティマだった。たった今送り出したアルティマのHPが、この短時間で十パーセント以上減っている。


 フォルティシモは忍者たちを追い掛けるのを忘れて、アルティマの居る場所へ【転移】を使用した。




「アル!」

「主殿!」


 裏門と思われる場所でも、やはりいくつもの死体が転がっている。そんな中でアルティマは五体満足で立っているものの、左肩がざっくりと切り裂かれ大量の血を流していた。


 周囲を確認するが、敵の姿はない。


「誰にやられた!?」

「デーモンの女だったのじゃ。おそらく【武者】で、いきなり【居合】スキルが飛んで来たのじゃ」


 急いでアルティマにエリクシールを使う。彼女の傷はあっという間に塞がった。


 詳しく話を聞くと、アルティマは忍者を一度は捕まえた。しかしそこにデーモンの女武者が現れて、忍者を殺そうとしたのだ。助けに来たのではなく、殺しに来た。


 それに気が付いたアルティマは、急いで忍者たちを庇おうとしたが、デーモンの女武者の攻撃力が想像以上に高く、大ダメージを負ってしまった。更に返す刀で忍者を殺されてしまったのだと言う。


 たったの一撃でアルティマにこれだけのダメージを与えたデーモンの女武者は、間違いなく強敵だ。


 いやもう相手のことはどうでも良い。


「絶対に、見つけ出してPKしてやる」

「妾もリベンジするのじゃ!」

「いや、アルは【拠点】へ戻ってセフェの治療を受けろ。それからは俺が戻るまで、【拠点】で防衛に当たれ」

「なんでなのじゃあぁー!? さっきの回復アイテムで、もう怪我は治ったのじゃ!」


 ファーアースオンラインだったら、とりあえず新実装のボスの強さを試すため、アルティマへ死んで来いという命令を出したこともある。けど傷付いた彼女を見てこれ以上は傷付いて欲しくないと思ってしまった。アルティマはキュウではない。レベルも高いし戦闘経験も豊富だ。しかもバリバリの戦闘特化の彼女を置いて行くなんて有り得ない。それは分かっている。


「俺は、思った以上に動揺してる。次からは絶対に連れて行く。この約束で動揺を抑え込むから、今日は戻ってくれ」

「むむ、分かったのじゃ」




 フォルティシモは索敵能力に秀でたキャロルを呼び、夜の街へ飛び出した。


「いいか、狙いはデーモンだ。もう誰でも良いから、デーモンを見つけたら俺に言え」

「アルをやっちまうなんて半端じゃねーですからね。最大限警戒しますよ」


 キャロルは次々と従魔を街へ解き放つ。小型から中型まで、その数は百にも上る。フォルティシモはマグナ謹製のゴーレムを起動してばらまいていく。


 ファーアースオンラインはゲームだから、ストーカー防止のために見ず知らずのプレイヤー同士を見つける手段に乏しい。異世界ファーアースに来てからと言うもの、その仕様に苛立たせられる回数が増えてきた。


 十分経って、三十分経って、一時間経って、その間にもキャロルと一緒にアクロシア王都を歩き回った。


 十中八九、デーモンの女武者は【転移】か望郷の鍵を使ってとっくにアクロシア王都から消えているだろう。


「どーします?」


 キャロルは既に発見を諦めているようで、虎の耳と尻尾をだらりと下げていた。キュウのそれとは感触が違いそうだなと思う程度には、フォルティシモの集中力も途切れ欠けている。


 だからドレスを破かれ今にも襲われそうになっている少女を見つけた時、フォルティシモは相手の男へ八つ当たりすることにした。


「その辺にしておけ。それ以上やるなら、最強の俺が代わりに相手になるぞ」


 少女は竜人族で、驚くほどに整った容姿をしていた。格好良く助けて感謝されて、この苛立ちを少しでも解消しようと思ったのだが、不思議なことに気が付く。


 竜人族の少女は、暴漢よりもフォルティシモを恐れている気がする。彼女の前で何かをした覚えはないし、怯えさせるような姿をしてる訳でもないのに、彼女はフォルティシモに殺されるのを確信しているような、そんな予測が頭を過ぎってしまう。


 馬鹿な話だ。フォルティシモは殺戮を楽しむような人間ではない。美女や美少女には下心ありで優しくする。


 怯えられたことで一気に頭が冷えた。キャロルに竜人族の少女を助けるように言ってから、自分はもう少しだけ街の捜索をして【拠点】へ戻る。


 第二皇女の行方不明が知らされるのは【拠点】へ帰ってからで、大使館を襲撃した賊に拉致されたというのが大方の見解だった。氷漬けになって死んでいた、なんて話だったら困るので一安心と言ったところである。


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