第百七十六話 課金アイテムの使い方
使い方その一。
『浮遊大陸』に招待した者の中で、特にフォルティシモへの信仰心が強く芽生えた者に対して、【隷従】を使う。その後、経験値十倍になる課金アイテムを使用し、パワーレベリングを行う。そして【隷従】から解放し、再びフォルティシモへ祈れば同じようにレベルが上がるのだと教える。それを複数人に対して行い、フォルティシモへ強い祈りを捧げれば大きな祝福が与えられるという認識を浸透させる。
使い方その二。
生産系のクラスの者には、【睡眠】を使って寝ている間に【隷従】を掛け、自動で生産スキルを使ってくれる課金アイテムを使用する。起きるまでには【隷従】から解放するが、本人は知らない間にスキルレベルが上がっている。これは表立って行うのではなく、フォルティシモに選ばれたのだと噂を流すのがポイントである。
使い方その三。
自らの容姿にコンプレックスのある者を集める。フォルティシモに祈りを捧げさせ、ある程度の成果を出した者には、アバター変更の課金アイテムを使う。目の前で本人の望む姿―――ほとんどが美男美女―――になるのを目撃させる。
使い方その四。
選んだ冒険者や騎士には、仕事の出発前に見込みがあるとか何とかそれらしい事を言って、ステータスアップの課金アイテムを使い、仕事中に大きな活躍をさせる。大きな活躍を続けさせ、フォルティシモの課金アイテムがなければ、仕事が立ちゆかない状態まで持って行ければ、嫌でもフォルティシモに祈りを捧げるだろう。
等々。
「足りなそうだったら拷問作戦と監獄作戦と強制労働作戦をするつもりだったが、その必要はなさそうだ」
フォルティシモは情報ウィンドウに表示されて、今もどんどん上昇していくFPの数字を見て満足を覚えた。
「ひでぇな。私はここまで合理的になれない。お前に勝てる気がしないわ」
ピアノがどこかの誰かが、どこかの誰かに言った感想を口にしていた。
『いや、驚くところはそこだけじゃないよ。あのさ、全部課金アイテムなんだよ? あんなに大勢に使って、なんで無くなる気配がないのさ』
テディベアが恐ろしいものを見るかのように、フォルティシモを見つめていた。
フォルティシモの【拠点】のリビングルームには、ピアノとテディベアの姿がある。
チームメンバーは出入り可能な設定にしているため、ピアノがフォルティシモの【拠点】へ入れるのは設定通りだ。
テディベアも入れるのは、どうやらテディベアの肉体であるぬいぐるみは、システム的にはフォルティシモのアイテム扱いらしい。そのため彼も自由にフォルティシモの【拠点】に出入りできるようになってしまった。
トレード機能でテディベアの所有権をエルミアに渡してしまいたかったが、彼女は情報ウィンドウを使えないのでそうもいかない。
「ピアノとテディベアも呼んだのは、理由がある」
「理由もなしに会いたいとか言われたらビビる」
『クレシェンドのことかい?』
フォルティシモは首を振って、情報ウィンドウを可視化させて二人に見せた。見せるのは先日に流れたログだ。
> ***に勝利しました
> 【魔王神】のレベルがアップしました
ピアノとテディベアはそれぞれ覗き込んで、驚いた顔をする。特にピアノは何度も何度も見返していた。
「殺す必要があるんじゃなかったのか?」
『い、いや、待って欲しい。僕も知らなかった。それに殺すのは確実な方法であって、他にも方法はあるんだって言っただろう?』
今の状況でテディベアが情報を秘匿する理由もない。知らなかったという言葉は本当だろう。しかし知らなかったで済ませるには、余りにも大きな要素だった。
勝利するだけで良いならば、これから先のフォルティシモの神戯の戦い方が大きく変わってくる。誰彼構わず殺戮するのはフォルティシモ的に悪いことだが、誰彼構わず襲い掛かって勝利するのは、フォルティシモ的に肯定される。
次にプレイヤーと出会った時は、試さなければならないだろう。ピアノにももし機会があれば確認をするように頼んでおいた。
フォルティシモはテディベアの首根っこを掴んでぶらぶらとさせながら、フォルテピアノの冒険者ギルドへやって来た。
そこには疎らにギルド職員や冒険者の姿がある。アクロシア王都の冒険者ギルドに比べたらまだまだ活気がないし、人も少ないものの、フォルテピアノの冒険者ギルドも営業を開始したのだ。
今のところ、ほとんどエルフの自助組織になってしまっているが、今後は【転移】などを使いこなす職員を増やして世界中の依頼や素材を集めるようにしていきたい。
『肩に乗せて欲しいとは言わないけど、もう少し丁寧に運んで欲しいんだけど』
「インベントリに入れないだけありがたがれ」
『あそこに入ると真っ暗で何も聞こえなくて、気が狂いそうだよ。声も届かなくなるし』
フォルティシモがやって来るだけで、冒険者ギルドはちょっとした騒ぎになる。アクロシア王都の冒険者ギルドでも騒がしくなるのだけれど、フォルテピアノのそれは質が違っていて、大企業の社長が来た時のような緊張した様子が伝わって来た。
こういう行動でもFPが回復するため、来た甲斐があるというものだ。
その騒ぎに気が付いた待ち合わせの相手エルミアは、廊下を走ってフォルティシモの下までやってくると、すぐにテディベアを引ったくった。
「ちょっと! テディさんの首が取れちゃうじゃない!?」
「取れても大丈夫だろ。たぶん」
首と胴体が別れた時にどちらにテディベアの意識が残るのかは知らないが、枯れ木になっても大丈夫だったのだから首が取れるくらい平気なはずだ。
エルミアはテディベアの身体が千切れていないか真剣にチェックしていた。そんなに心配であれば戦闘に持って行くのを止めろと言いたい。
「そう言えば、あなたに手紙を預かってるわよ」
「手紙?」
エルミアの懐から出された手紙には、アクロシア冒険者ギルドの印が押されていた。
冒険者ギルドでは冒険者への伝言や手紙を預かる場合もある。伝言自体はよくあることで、フォルティシモの直接の知り合い以外の伝言は冒険者ギルド側で処理してくれているはずだが、わざわざ伝えて来たため、また聖マリア教からのものかと思った。
聖マリア教は、マリアステラのことで信頼ならない。フォルティシモは何が仕掛けられているのかと警戒し、エルミアから差し出された手紙をじっと見つめる。
「なんで受け取らないのよ? ちゃんとギルドからギルドへ回された手紙よ」
「開けてみてくれ」
「は? 私が?」
「爆弾かも知れない」
「そしたら私が爆発するじゃない!?」
『フォルティシモ、見てくれ』
テディベアが手紙の差出人の箇所を示す。フォルティシモも確認してみると、その手紙は聖マリア教からのものではなかった。しかしそれ以上に驚くべき名前が書かれている。
それはクレシェンドからの手紙だった。




