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第百四十一話 神業と魔王

 ハンマーを持ったマグナが鉄火場に現れると、鍛冶師たちは早速騒ぎ出す。


「あんたがあの武具を作ったのか!?」

「頼む! 弟子にしてくれ!」

「お願いだ! この通り!」


 ここまでの話は何だったのだろうというくらい、鍛冶師たちの何人かが席を飛び出して、マグナへ対して土下座を敢行してみせた。


 マグナは容赦なく、そいつら全員の頭をハンマーで叩いて気絶させた。死んでも良いくらいの気持ちで頭を叩いたため、本当に死んでしまった者も居るかも知れないが、マグナの知ったことではない。あとでセフェールが蘇生してくれるはずだ。


 ハンマーを背負いながら鍛冶師たちを睨み付ける。


「他に用事のある奴は?」


 鉄火場が静まり返った。


 たしかにマグナは生産に特化したクラスだ。しかし戦闘力がまったくないわけではない。レベルは当然の九九九九で【覚醒】済、戦闘系のスキルこそ弱いものの、ステータスのSTRやVITは下手な前衛職よりも高いし、武具アイテム使用のボーナスもある。ファーアースオンラインの全従者で一対一の総当たり戦でもやれば、上位に食い込むだろう。


「よし。まあ、こいつらを可哀想とか思う必要はない。何せ、私からあんたらに教えることなんか、最初からないからだ。何故なら、あんたらには強力な武具を作るための前提が足りてない。未熟者共に教えることなんかないってことだ」


 鍛冶師たちへ向けて二本の指を立てるマグナ。本当は細かく言えば【拠点】のアシストとか、究極的には課金アイテムとかあるが、今回は分かり易く行く。


「それはスキルと素材だ。私はスキルを最高レベルまで上げて、最高の素材で千年の研鑽を積んで来てる。私に教えを請いたい? 百年早いんだよ、ひよっこ共!」


 この教導の寸前に、若いと舐められるのでマグナは千歳を超えているという設定になった。ドワーフの最上位種ハイエストドワーフであるため、見た目などから怪しまれる心配はない。それにマグナというAIの学習データを考えれば、千年はあながち嘘ではないどころか、万年と言っても過言ではないだろう。


 そんなマグナの言い分に対して、誇り高い騎士や自負のある商人であれば怒りを覚えて席を立つだろうが、彼らは頑固で偏屈な技術屋だ。自分たちよりも遙か高みに座し、そのために腕を長い間磨いてきた大先輩に対しての敬意は強い。


 鍛冶師たちはマグナの言い分に、むしろ目をギラつかせていた。


「よし」


 あと彼らの目の前で剣や盾など、いくつか作ってやれば満足するはずだと考える。


「ヘファイストスの炎」


 マグナが炉に炎を入れた。フォルティシモの【拠点】にあるマグナのためにカンストまで成長させてくれた鉄火場ではないため、火力が弱い上にMPの減りが早い。とは言え、レベル一〇〇〇以下用の装備品を作るのであれば充分だ。


「ほ、炎も魔術なのか。凄い火力だぞ」

「いや、炎を自在に操れるなら、完璧な温度で作業出来る」


 インベントリから取り出したのは、赤魔石と白魔石だ。このアイテムは様々な素材になる汎用アイテムで、基本的には採掘によって入手となる。【料理】スキルにとっての水や小麦粉みたいなものだ。


 レア度の高い魔石を使うつもりはなかったので、今回使う赤魔石と白魔石のレア度は採掘してもその場で捨てるようなスーパーレア等級である。


「錬金」


 錬金時に声を出す必要はないけれど、鍛冶師たちの手前だったので説明のために口にする。


 赤魔石と白魔石が一つとなり、赤みがかったミスリルとなった。マグナであってもレア度を上げる手段はないため、錬金して作成されたアイテムのレア度もスーパーレアのままだ。


 ただ素材にはレア度の他に品質という項目があり、その数値は最高の二五五を示している。


「赤い、ミスリルだと? 何という、美しいミスリルだ」

「ミスリルを、作った?」


 マグナが赤いミスリルを火に掛け、作業に入る。


 愛用のハンマーにMPとSPを流し込み、流す量を調整しながらミスリルを叩いていく。


 きんっきんっという音が流れ、鍛冶師たちは一瞬も見逃すまいと血走った目で全身に力を入れていた。


 形が整った辺りでタイミングを見計らって魔粉を振り掛け、慎重にハンマーの力を調節して馴染ませる。それを冷やす。【鑑定】でここまでの工程に問題のない事を確認。焼き入れの作業を繰り返す。一本の剣と成り、鑢を掛けて最後の仕上げをして完成だ。


 完成した剣を観覧席へ放る。作られたばかりの剣がカラカラと音を立てて床を滑る。鍛冶師たちは絶句していて、誰も言葉を発しないどころか動こうとすらしなかった。


 代わりにフォルティシモがその剣を拾う。


「目の前で見ると鍛冶ってのは、意外と迫力があるな。けど、これって最低限の工程じゃないか?」

「レベルの低い奴らに合わせただけだよ。このくらい、フォルさんだってできたでしょう?」


 昔からフォルティシモは、煽るのが上手い。というか、天然で煽る。


「まあな。こんなゴミなら“鍛冶師”じゃなくても作れるからな」


 フォルティシモは目の前で情報ウィンドウを操作して、今マグナが作った剣とほぼ同じ剣を作って見せた。アイテムを作り出すには技術を使わずスキルだけで行う方法もあるが、完成した武器の性能に差が出てしまう。しかしその差は、低レベルの頃はほとんど気にならない差である。


 この程度の剣は【鍛治師】クラスでなくても作成できる。言っては悪いが、アクロシアの鍛冶師たちは、少し鍛冶関連のスキルを学んだ騎士や冒険者のが良い武具を作れそうなレベルでしかないのだ。


 フォルティシモは両手で持った剣をそれぞれ振り、溜息を一つ。


「ほらな」


 フォルティシモは自分だってできるという言葉を証明したかったのだろうけれど、この場でわざわざ同じ剣を作るのは、喧嘩を売っているとしか思えない。


 マグナにはアクロシアの鍛冶師たちが呆気にとられたのが分かる。フォルティシモは全く気が付いておらず、代わりにキュウがぶるぶる震えていた。


「くくっ、いやフォルさん、私が目の前で作ったのをゴミって言うのはどうなの?」

「ゴミはゴミだろ。こんなもん、俺がレベル三〇〇だったとしても作り直せって言うぞ」

「納得いくまで何千何万回でも作り直させるのがフォルさんだからね」


 マグナは少しだけ自慢する気持ちで発言する。妥協を知らないフォルティシモの専属鍛冶師をしてきたという意味を、アクロシアの鍛冶師たちに知らしめてやりたい。


「さて、もういくつか作るところを見せてやる。ああ、今日作ったのはラナリアにやるから、訓練用の装備にでもして使ってくれ」

「有り難く頂戴致します、マグナさん」


 今回の目的を果たせたという意味を多分に含んだラナリアのお辞儀を見て、マグナはとりあえずの満足を得た。


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