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第百三十五話 孫従者

 フォルティシモやピアノの【拠点】でもエルフたちの居住地でもない場所に、見通しの良い広野を作っておいた。そこに休憩や会議ができる家屋を設置し、モンスターが寄りつかないようにしたのは、信仰心エネルギーの無駄遣いをするためではない。


 フォルティシモは【拠点】の入場制限を全開放しておらず、フォルティシモの【拠点】へ入れるのはフォルティシモ自身とその従者、そして唯一のチームメンバーであるピアノだけだ。なので、これから色々な実験をするのに誰でも招き入れられる場所が必要だった。


 そして早速、これからシャルロットが買って出てくれた実験をする。


「ラナリア、シャルロット、準備は良いか?」


 実験の内容は、ゲームの時には無かった要素、フォルティシモの従者の従者、孫従者に対する様々な仕様確認だ。従者に対して情報ウィンドウによる情報取得やスキルの【コード設定】ができるのか、孫従者がフォルティシモの【拠点】に入れるのか、従者と孫従者の関係はどうなるのか。


「それは良いのですが、レベルダウン状態というのはどのような状態なのでしょうか?」


 そのままではラナリアがシャルロットに【隷従】を使ってもレベル差が少なすぎて成功率がゼロ。そのためリースロッテがシャルロットに【位階変異】というスキルを使用した。


「【位階変異】スキルを受けた時の状態異常で、今のシャルロットのレベルは一だ」


 とてつもないバランスブレイカースキルに聞こえるが、ボスには無効だし、雑魚狩りに使うには消費が大きすぎて攻撃スキルを使ったほう効率が良く、PvPでは隙が大きくて当たらないというほとんど使い道がない、ように見えるスキル。


 しかもリースロッテとシャルロットのレベル差が開いていたため一まで下げることができただけで、リースロッテがピアノに掛けて成功しても九九九八になるだけ。


 ただし、リースロッテの装備やデュアルクラスと組み合わせるとPvPの最適解とまで言われる戦術が完成し、リースロッテはそのためだけの従者と言って過言ではない。


「レベルリセットとは違うのですよね? シャルロットのレベルは元に戻りますか?」

「ちゃんと戻る」


 ファーアースオンラインにはビルドに失敗した場合の救済処置として、レベルリセット機能が設けられていた。もちろん廃人推奨ゲームでそんな機能を使う者はほとんどおらず、まだレベルキャップが低かった頃に少し使われただけの機能の一つである。


「それでシャルロット、覚悟は良い?」

「お手を煩わせてしまい申し訳ありません。よろしくお願いいたします、ラナリア様」

「ターゲット・テイミング!」


 ラナリアからシャルロットへ【隷従】が発動すると、シャルロットの全身から力が抜け、表情も消えた。


「シャルロット命令よ、私はあなたの一切を制限しない。これから先、私が何を言ってもあなたはあなたの心と信念に従って行動しなさい」

「ありがとうございます、ラナリア様」


 フォルティシモは二人の遣り取りを聞きながら、情報ウィンドウを見つめていた。ログと呼ばれる一覧には何も表示がなかったので、フォルティシモ自身に何かの変化が起きていないと思われる。


 従者の項目を見る。この異世界で現れたタブに表示されているのは相変わらず二人で、ラナリアよりも下には誰も居ない。

 少しの落胆を覚えながらラナリアの情報を表示させて、触ってみたところ。


「ラナリアから従者の小窓が開ける」

「本当か? 見せてくれ」


 この中では唯一情報ウィンドウを見ることができるピアノが立ち上がり、フォルティシモの情報ウィンドウを覗き込んだ。


 ラナリアの名前から小窓を表示させてシャルロットの項目を表示できたのだ。もちろん設定もいじれたので、シャルロットをラナリアの【近衛】に選択すると、従者システムのステータスボーナスがラナリアのステータスに加わった。


「身体が軽くなった、いえ、魔力の上昇でしょうか。不思議な感覚があります」

「それでは、フォルティシモ様」

「ああ、シャルロットの設定なんかをいじれる。たぶん三次へのクラスアップも可能だろう」

「感謝いたしますっ」


 シャルロットは心底の安堵の笑みを浮かべ、深くお辞儀をした。




 結果として、孫従者シャルロットはフォルティシモの【拠点】へ入れなかった。見えない壁があって、それ以上進むことができないと申告されたのだ。他の従者がシャルロットを担いで入れるかどうかも試したが、やはりシャルロットはフォルティシモの【拠点】へ入れない。


 安心したような不便なような気持ちになりながら、今日のところシャルロットはエルフの集落に宿泊している。独りにしてしまうのは可哀想だが、フォルティシモの【拠点】の入場制限を緩めるのは有り得ない。彼女自身、ラナリアの安全が脅かされるくらいならば野宿すると言っていた。


「私から【隷従】を受ければ、フォルティシモ様の加護を得られる可能性があるということを交渉材料に使ってもよろしいでしょうか?」


 【拠点】での夕食の席、ラナリアが右手にすっかり慣れた箸を持ちながら尋ねてくる。


「俺が見ず知らずの奴を気に掛けるように見えるか?」

「まったく思っておりません。ですからあくまで交渉材料です。私からはフォルティシモ様へお伝えするだけです。私は約束を果たします」


 何の悪びれもなく答えるラナリア。それは詐欺と変わらない気がするのは、フォルティシモが高度文明社会で生きていたからだろうか。


「それなら良い。ただ、お前がイケメンやショタを奴隷にする性癖があるなら、かなり微妙な気持ちになる」

「それは私が男性を奴隷とするという意味ですか? ご安心を。私の心はフォルティシモ様一色です。ですがフォルティシモ様には一欠片の不満も抱かせられません。ですから男性であればシャルロットを前面に出しましょう。シャルロットからの【隷従】がどうなるかも確認できます」


「曾孫従者は試すつもりだ」


 無限連鎖講であれば、それだけで一大勢力を作れる。ヴォーダンがそれを使ってアクロシアを支配しようとしていたことから、ほぼ確実に可能な手段だ。


「それにしても、奴隷にしなきゃならないとは言え、孫従者が作れるのはデカイな」


 ピアノはバニラ、苺、チョコの三色アイスクリームを突いていた。まるで自宅に居るようなラフな格好で、少し目のやり場に困る。


「お前は特にな」

「まあな。昔から従者を増やしていく奴らが羨ましかった」


 ファーアースオンラインは俗に言う公式RMT、ガチャ産アイテムの取引や課金ショップアイテムの取引が可能だったため、究極廃人ピアノは一銭も出さずにそこそこの大金を払っているプレイヤーと大差ないアイテムを所持していた。しかし、取引不可能なアイテムも存在しているし、最高クラスのアイテムは滅多に市場へ出回らない。


 何よりもファーアースオンラインのセールスポイントである高性能AIを搭載した従者を増やす際には月額課金が必要だ。従者の設定値―――指標としての知能指数や記憶容量など―――によって金額が異なるものの、他のゲームに比べて高額だった。もちろんフォルティシモの従者は、すべてにおいて最高値を選んでいる。


 コーヒーのお替りを待ちながら情報ウィンドウでラナリアを選び、そこからシャルロットの項目を開いた。夜中にも関わらずMPとSPがかなり減っている。こんな夜中まで新クラスの試しをしているらしい。見た目以上に真面目な女性だ。


「それで、【領域制御】を冒険者やエルフと色々試したわけだが、どう思う?」

「一言で表せば、かなり面倒だ。とてもじゃないが戦闘中に使えるもんじゃない」


 ピアノが食べ終えた皿の上にスプーンを置くと、からんという音がした。今日は泊まっていかないらしく、これからアクロシアへ戻るそうだ。


「ピアノ、権能ってのが【領域制御】だけとは限らない。マウロは格上のプレイヤーを倒してた。油断せず、何かあったらすぐ連絡しろ」

「お前こそな。あと、出掛けるつもりなら、キュウちゃんに上手い言い訳を考えとけよ。今のお前、浮気を隠している夫みたいだぞ」


 ピアノの言う通り、孫従者について知ったフォルティシモはこれから出掛けるつもりだ。


 奴隷屋へ。


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