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第百二十八話 最強の王国騎士?

 フォルティシモはカイルたちを連れて待ち合わせの場所へ向かう。シャルロットとの待ち合わせ場所は、他に場所が思い浮かばなかったため王城近くの公園になった。


「冒険者がみんな見てるぞ………」

「王国騎士が道を開けるんだけど」

「本当に大丈夫なのか、これ?」

「お、落ち着け、フォルティシモを見てるだけで俺たちを見てるわけじゃないはずだ」


 公園は王国騎士が封鎖していたが、フォルティシモの姿を見ると敬礼をしてから「こちらでお待ちです」と園内へ案内される。


 ラナリアがベンチから立ち上がって優雅に手を振っていた。シャルロットはお辞儀で出迎えている。


「ちょ、王女様じゃ!?」

「フォルティシモさんが王女と親交が深いのは国の発表通りだから、何も不思議じゃないでしょ」

「そういう問題じゃないからっ!」


 王制の国家で目の前に王女が現れるというのは重大なことであり、サリスとノーラのような少女たちでも焦っていた。


「ラナリア、どうした?」

「フォルティシモ様が依頼された者たちへ、ご挨拶をしておこうと思いまして」


 ラナリアは口許に手を当てて上品に微笑む仕草を見せた。


「良い加減、お前のアクロシアでの立場は大丈夫なのか? 俺はそこまでお前の都合を考慮しないぞ?」

「構いません。ふふっ」

「おい、なんで笑った」

「嬉しかったからです。フォルティシモ様が私のことを考えてくださったことが。それに、私の立場は。ふふ、ふふふ」


 完璧な笑顔を見せられて、面白くない気分になるのはラナリアが相手だからかも知れない。


「お前が俺の従者になる時に言った言葉は忘れてないだろうな?」

「忘れておりません。むしろいつになるのか、胸を高鳴らせております」

「お、おい、フォルティシモ、なんかヤバイなら俺たちは一旦帰るぜ?」


 空気を読まず、ある意味で空気を読んだカイルが、フォルティシモに対して大声で話し掛ける。


「カイルさん、あの時は本当にお世話になりました。改めて自己紹介をさせてください。私はフォルティシモ様の婚約者のラナリアです。以後お見知りおきを」

「………よ、よろしくおねがいいたします」


 カイルは不自然なほど姿勢を正し、下げ過ぎなほど頭を下げてお辞儀をした。


 ラナリアのことはおいおい対処するとして、今は目先の問題を解決する。


「こいつはラナリアの護衛のシャルロットだ。依頼はこいつにも手伝って貰うから、仲良くする必要はないが協力はしてくれ」


 ラナリアは知っていても、さすがにシャルロットのことは知らないだろうと思って紹介したのだが、その配慮は不要だった。


「しゃ、シャルロットって最強の王国騎士じゃ」

「王女の護衛だから間違いないぜ」


 最強の王国騎士なんて称号は初めて聞いた。


「ほう、最強ね」


 フォルティシモはシャルロットを見る。ラナリアの護衛ではなく、最強の騎士シャルロットとしてその姿を観察した。最強たるフォルティシモの前に立ち塞がる存在を。


「ご主人様、シャルロットさんはご主人様にレベルを上げて頂いたため、王国騎士の中でも最高レベルになったらしいです」

「そうなのか。まあ、そうだと思ったがな」


 決して嘘ではない。


「キュウ様、何故かは分からないのですが、たった今キュウ様に助けて頂いた気がします。感謝いたします」

「い、いいえ」


 フォルティシモはカイルたちが自己紹介をしている間に、【転移】を使わせるためにダアトを呼び出す。フォルティシモとエンシェントも同じことが可能ではあるものの、【転移】には触媒が必要である。ただし専門職に就いているダアトは、触媒の消費なしで【転移】を使えるのだ。


「ダア、そろそろ時間だ」

『分かってますって。もうすぐ行きますよっと』


 ダアトはポータルではなく、徒歩で公園内に現れた。【拠点】に残っているのはつうだけで、他の従者たちはフォルティシモの目的を達成するため、それぞれ行動を起こしている。ダアトは今朝からアクロシアの商店に顔を出しつつ、情報収集をしていたらしい。


「こんにちはー! 私がフォルさんの従者のダアト。儲け話があったら相談に乗るよ、冒険者諸君!」


 ダアトがカイルたち一人一人との握手を終え、彼女が【転移】のポータルを出現させると驚きの声が上がる。


「なんだこれ? なんかすげぇ魔力だけど」

「これに入ると、すぐに目的の場所へ着く」

「文献で離れた場所を一瞬で移動するスキルがあるって読んだことがあります。これがそうですか?」


 ノーラはスキルに興味があるようで、フォルティシモに問い掛けてくる。


「そうだ。ダアトにはそれを覚えさせてる」

「えー! 私神鳥に乗れるかと思って楽しみにしてたんですよ!」

「こ、こらっサリス!」

「フォルティシモさん! 今度、神鳥に乗せてください!」


 フィーナがサリスの腕を引っ張っても、サリスは遠慮せずに要望を口にする。一方的なお願いは好きではないものの、可愛い女の子からの他愛も無いお願いであれば話は別。


「依頼が上手くいったらな」

「本当ですか! 俄然やる気が出て来ました!」


 握り拳を作って振り上げる姿に苦笑が漏れた。信仰心エネルギーを集めるためには、フォルティシモの言葉でやる気を出してくれることが重要になると思われるので、サリスには期待できるかも知れない。


「じゃあ、まずは一人ずつ頼む」

「何!? 全員一緒じゃないのか!?」


 フォルティシモの言葉にカイルが反応し、カイルの仲間たちも驚いていた。


「まず一人ずつだ。それが終わったら全員で移動する」

「どうしたんだカイル? 別に戦うわけじゃねぇんだろ? 一人ずつだって問題ないぜ」

「ま、まあな」


 カイルの幼馴染の男デニスの言葉に、カイルが一応の肯定の返事をする。しかし何かを心配しているように、フォルティシモの傍に寄って声を潜めた。


「二人きりでお前を崇め奉るって、変なことするつもりじゃないよな?」

「分からんが、エイダにだけは何もしないと誓ってやるぞ」

「え、エイダは関係ねぇだろ!」

「声が大きい」

「お、おう、そうだな。俺はパーティのリーダーとしてメンバーの心配をしてるんだ」

「俺にも嘘だと分かる」


 カイルがどう言おうと譲るつもりはない。一人の信仰でどの程度のエネルギーが回復するのか、エネルギーの回復量に違いはあるのか、あるとしたらその違いは何なのか、時間が長ければ良いのか、複数人で同時にやったら回復量は加算なのか乗算なのか、試すべきことが色々あるのだ。


「そうそう。待ち時間に退屈しないように、お茶とお菓子をつうさんから貰って来てるから、食べながら待てるよ。対価として情報をしゃべって貰うけどね」


 ダアトがピクニックシートを広げて、インベントリから食べ物を取り出している。早速ラナリアがキュウの手を引いて、座った後にお菓子を口にし始めた。


「とても美味しいですね、キュウさん」

「はい、甘くて美味しいです」

「皆さんもいかがでしょう? つうさんという方はとても料理の上手な方で、王城に招いて料理長を務めて頂きたいくらいなのですよ」


 お菓子を口にするキュウとラナリアに、シャルロット以外の女性陣も続いていった。


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