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第百十八話 全員集合

 ポータルを抜けた先は山頂だった。ダアトが作ったポータルへおっかなびっくり踏み入れるキュウと待ちきれないという表情で飛び込んだラナリアを見てから、フォルティシモもポータルを使った後、眼前に広がった光景に息を呑む。


 『浮遊大陸』はマップ上の北西の位置に大きな山があり、そこの頂上では『浮遊大陸』全体とそれを囲む雲や地上を見渡せる三百六十度大パノラマを体験できる。ダアトは何を考えたのか、わざわざモンスターを蹴散らしながら山頂へ登ってポータルを作り、フォルティシモたちを迎えに来たらしい。


 ダアトの考えが分からないと思ったのも一瞬のことで、積乱雲を抜けて初めて異世界の『浮遊大陸』を見た時の感動を思い出し、それを少しでも彼女たちに体験させてくれたダアトのお持て成し精神に心の中で感謝を述べる。


「これが」

「『浮遊大陸』なのですね」

「ようこそ、キュウ、ラナリア! ここが私たちの『浮遊大陸』ですよ! あそこに建物が何棟か見えますか? あれがフォルさんの、私たちの、そしてあなたたちの【拠点】です。色々建物があるように見えますが、ほとんどがアイテム生産用の施設なのでまともに住めるのは真ん中にあるお屋敷だけですけどね! それでも快適に過ごせること間違いなしです!」


 ぱんっぱんっぱんっとクラッカーが鳴り響き、紙テープと紙吹雪が風に飛ばされてキュウとラナリアの頭にくっついてしまった。


「あれれ!? 想定外の事態が!?」

「い、いえ、大丈夫です」


 キュウが自分の髪に絡まったテープを取ろうと懸命に足掻いていたので、フォルティシモもキュウの耳に付いた紙テープを取ってやる。


「ありがとうございます、ご主人様」

「計画通り。フォルさんの手櫛。キュウに嬉しいサプライズです」

「嘘付け」


 この光景に感動を覚えそうな最後の一人であるピアノへ目をやると、ピアノは情報ウィンドウを操作していて、景色に興味を持っていなかった。寂しいようなピアノらしくて安心するような複雑な感情が浮かぶ。


「場所は登録されたか?」

「ああ、『浮遊大陸』への移動はできるようになった。あとは【拠点】だな。どこに置くか迷ってる。少し見て回るつもりだ」

「お前のレベルならソロでも余裕だろうけど、ポーション要るか? なんならセフェを連れてっても良いぞ」

「『浮遊大陸』のモンスターのレベルは四〇〇〇前後だろ。そんなんで心配するな」


 ピアノは笑いながらフォルティシモの肩を叩く。ファーアースオンラインの頃と異世界では、モンスターの行動パターンも異なっているので、心配し過ぎることはないというのがフォルティシモの持論だったが、彼女はまったく気にしない様子だった。


 ピアノはエルフたちが移住してくる場所も見て回るらしいので、用事が済んだら連絡をくれと言ってピアノを見送る。


 フォルティシモたちはそのまま歩いて下山すると時間が掛かるため、ダアトが再びポータルを作り、今度こそ【拠点】へと帰還した。




 ダアトが次にポータルを開いたのは【拠点】の入り口にあたる門扉で、石畳に着地したじゃりという音が人数分響く。その場には、先に帰還したエンシェントたちを含めたフォルティシモの従者が集まっていた。


「おかえりなさい。そして、いらっしゃい」


 穏やかに笑う着物姿のつう。


「は、はじめまして」

「お初にお目にかかります」

「自己紹介は部屋に入ってからにするぞ」


 ラナリアが木製の門を見上げている。修練の迷宮の時も建物を見ていたので、こういったものに興味があるのかも知れない。


「あまり見ない建築様式ですが、どなたかの創作でしょうか?」

「俺の故郷だ」

「フォルティシモ様の故郷ですか。私の住む大陸では見ないはずですね」


 門を開くと、桜の花びらが目の前を通り過ぎたため、家に入る足が止まった。


「綺麗です………」


 道にあるのは満開の桜並木で、それを見たキュウが感想を漏らす。あれは万年吉野という枯れることもなく桜吹雪を出し続ける家具アイテムで、それを大量に設置して桜並木と花びらの絨毯を形作っているのだ。左右に大きな満開の桜が何本も集まっている光景は圧巻で、万年吉野はとても人気のあるアイテムだ。


「なんだこれ?」

「二人を歓迎するために引っ張ってきてみたの」


 マナダイトの件があったので、フォルティシモの倉庫は従者全員が使えるように設定を変更してある。そこからアイテムを出して来たらしい。


「これが、桜なんですか?」

「そうですよぉ。キュウは良く知ってましたねぇ」

「前に、ご主人様がセフェさんの髪の色を桜色だって仰っていたので」

「あぁ、なるほどぉ」

「すごく綺麗な花なんですね」

「いやぁ、自分が褒められているみたいで嬉しいですねぇ」


 キュウに自慢する機会を奪われて、フォルティシモは不満を発散するように歩き出した。




 フォルティシモの【拠点】で大広間と銘打っている約百畳の畳の間の一画に、フォルティシモとその従者たち合わせて十一名が座布団に座っていた。


 広い部屋で空白地帯が寂しいため、木目調の柄が入ったパーティションという家具アイテムを設置してみた。ガチャの外れアイテムな上に柄の違う類似アイテムが数十種類存在しており、売っても二束三文にしかならず、【拠点】の倉庫に眠っていたものだ。アイテム名、パーティション(木目)。


 右隣にキュウ、左隣にラナリアを座らせて、従者たちに紹介しようと考える。


 ただ、冷静に考えると二人と会ったことのない従者はフォルティシモが最初に作ったつうと、主に武器防具アイテムの生産を担っているマグナの二人だけで、話し合いの前にさらりと済ませても良かった。


「まあ、ほとんどの奴は知ってるが、こっちがキュウだ」

「きゅ、キュウです。よ、よろしくお願いいたします」

「こっちがラナリア」

「ラナリアと申します。どうぞよしなに」

「二人共よろしく。私はつう。この家のことで分からないこととか、不便だと思うことがあれば何でも言ってね。フォルへの不満なんかも私で大丈夫だから」


 二人静色に白い花柄が入った着尺模様の着物に、精緻な金細工の髪留めを付けた和風美人なつうが、だいぶ失礼な挨拶をする。何か文句でも言いたいが、この【拠点】の所有権を持つのがフォルティシモであるのなら、管理権を持つのが彼女とも言えるほど、ここのことは彼女に任せているため当たらずとも遠からずだ。


 作成した順番だとこの後にエンシェント、セフェール、ダアトと続くが、三人とも今更紹介もしないのでマグナに視線を向ける。


「マグナ。まあ鍛冶とか製鉄系担当って感じかな? そのレベルなら嫌でも何度も顔を合わせることになるから、今は覚えなくても良いよ」


 バンダナを頭につけて、ジャンパーを肩掛けして胸にはさらしを巻いているのがハイエストドワーフのマグナだ。外見年齢はキュウよりも少し上程度で、つうやエンシェントよりも下。座り方も一人だけ膝を立て、膝の上に肘を載せて頬杖をついていた。言葉の内容も相まって、二人を歓迎していないようにも見える。


「マグナはぶっきらぼうに見えるが、熱い奴だから安心して良い」

「そういうことは口に出して言わないで欲しいな、フォルさん」

「皆様の持つ素晴らしい武具の数々を拝見すれば、マグナさんがどんな想いをお持ちの方なのか見て取れますので」

「新しいのは、口が上手そうだな」


 マグナが肩をすくめ、ラナリアが口許に手を当てて微笑んでいた。


「さて」


 フォルティシモは従者たちを見回した。

 つう。

 エンシェント。

 セフェール。

 ダアト。

 マグナ。

 アルティマ。

 キャロル。

 リースロッテ。

 ラナリア。

 そして、キュウ。


 フォルティシモは、自分の従者たちを信じている。彼女たちと共にフォルティシモを最強の神にする。だから、この異世界で行動を起こす前に話しておくことにした。


「これまでのことと、これからのことを話す」


 リアルワールド、ファーアースオンライン、異世界ファーアースの話だ。



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