その2
俺達は北側から内裏へ近付く事とした。
すぃーん、パタパタ……。
内裏の近くまで飛ぶと、一旦降りた。
ストン、すうっ。
そして、徒歩で京の町を歩いた。
北側は他の方角より、町並みが発展してはいなかったが、それでも建物はあった。
にもかかわらず、人っ子一人いなかった。
何か、ちょっと異様な光景だと俺は感じた。
黒はそんな事をお構い無いかのように、先頭を切って内裏に小走りで近寄っていった。
サッサッサ……。
それを慌てて黒以外の人間が続いていくと言った感じだった。
タッタッタ……、へぇ、へぇ……。
内裏に近付けば近付くほど、何やか不思議な力が強く感じられるようになってきた。
「黒、そろそろじゃないか?」
俺は嫌な予感がしていたので、黒にそう声を掛けた。
それと共に、この力は感じた覚えのあるという感覚も同時に感じていた。
俺に声を掛けられた事で、黒は急停止した。
そのお陰で、真後ろにいた左近が黒にぶつかりそうになっていたのを慌てて避けていた。
「うーん、もうちょっと先じゃない?」
黒は首を傾げながらそう言った。
黒も俺と同じ感覚を感じ取っている雰囲気はあった。
黒の方が、こっちの世界は長い。
恐らくではなく、言霊の術を感じ取る能力は完全に黒の方が上だろう。
だから、黒の言った事に、俺は特に反論する気にはなれなかった。
「大丈夫よ、ちゃんと感じ取れているのよ」
黒は笑顔でそう言うと、再び歩き出した。
タンタンタン。
歩みの速度は遅くなったものの、俺は任せていいものかと感じ始めていた。
何だか、術の心配より黒への心配の方が大きくなっていった。
黒、左近、俺、姫宮、右近の順で続いていったのだが、どう見ても5人の中で、黒の歩みの軽快さは一番のような気がしていた。
(どうも、慎重さに欠ける気がする……)
俺は黒に対して大いに不安を感じていた。
こんな時に敵の術より味方の行動の方が不安になるとは、何て事なのだろうか?
「おいおい、黒、それ以上はダメだぞ!」
俺は術の気配が一気に高まってきた地点で黒にそう声を掛けた。
(間違いない、これは師匠の術を同じ類いのものだ!)
少ない経験から俺はそう確信した。
まあ、今までの8回の突入でそれは分かりきった事なのだが。
黒は立ち止まると、不満そうな表情で俺の方を見た。
「大丈夫よ、まだ行ける!」
黒は呆れたような表情に変わってそう言った。
「いや、だけど……」
今度の俺は黒に食い下がった。
どう考えても、もう限界だと感じたからだ。
「いや、もうちょっと行ける!」
黒は向きになってそう断言した。
「まだ」が「もうちょっと」に変わっただけ、進歩したのだろうか?
「いや、だけど……」
だが、嫌な予感しかしなかった俺は尚も食い下がった。
俺と黒の間に挟まれた左近が発言者の方へ頭を一々振り向けていたので、当惑しているのが周辺視野で見えた。
「いい!あたしの方が、言霊に関しては経験が豊富なのよ!」
黒は伝家の宝刀を抜くような言葉を発した。
(あ、でも、それって、お約束のフラグだよね……)
俺の脳裏にはそう浮かんだ。
フラグが立ってしまったので、分岐したその先はお約束になる他ないと思えた。
やっぱり、嫌な予感しかしなかった。
「いや、だけど……」
俺は気を取り直して更に食い下がろうとした。
「大丈夫、あたしの後に続いて!」
黒はそう言うと、再び歩き出した。
この会話では俺は「いや、だけど……」しか言えなかった。
(言葉でダメなら、行動で止めるまでだ!)
俺は一世一代の大決心をした。
黒はすでに一歩目を歩き出し、二歩目が着地する所だった。
(あ、それ以上は!)
俺はそう思うと、黒を制止しようと飛び出そうとした。
スルッ……。
だが、間に合わず、お約束通り、黒は消えてしまった。
その後に続こうとしていた左近はびっくりして後ろに飛び退いていた。
(やっぱり……)
俺は俺で頭を抱える他なかった。
……。
……。
……。
お約束通りの展開に残された俺達4人は沈黙してしまった。
「黒様が消えてしまいましたね」
姫宮はいつもの和やかな口調で沈黙を破った。
(そう説明されましても……)
俺は姫宮の言葉に対して、口に出して返答できなかった。
そう、事実を今更説明されても、どうしようもなかった。
「で、どうなさいます?白様」
姫宮は今度は次の行動を促すようにそう聞いてきた。
(やはり、姫宮様なのだな。
何事にも動じない)
俺はやれやれと感じながらも現実に引き戻された。
そして、姫宮の方を振り返ると、
「ここは黒を追いましょう。
そして、その後、再び内裏に近付く事に致しましょう」
と前向きな発言(?)をした。
「分かりました」
姫宮は一層和やかな口調でそう返してきた。
俺は先頭に立ち、黒が飲み込まれた地点に立った。
そして、深呼吸をすると、突入した。
ひっ、ひゃーん、スルッ。
(あ、この感覚、師匠のものとはちょっと違うな……)
空から突入した時には瞬時で分からなかったが、歩いて突入すると、その感覚はよく感じられた。
それと同時に、どう、この術をどう攻略するかの考えがまとまった。
(決戦を目の前にして、どこまで引っ張られ続けるのだろうか?)




