その1
初対面で面倒くさそうな表情をしていた長老は、俺の停戦交渉に対して熱心になった。
ロリ巫女が完全に無力化された事もあり、この話に乗っからない手はないと踏んだのだろう。
いや、ただの本当の面倒くさがりなのかも知れない。
もしくは、単に戦嫌いなのかも知れない。
様々な思惑はあるにしろ、停戦交渉はすぐにまとまる事になった。
ただ、交渉の最中、ロリ巫女だけは交渉を破綻させようとしていた。
「うげっ……」
その度に、俺は真名の拘束術を使って、ロリ巫女を黙らせていた。
普段だったら、こんな事をやらないが、もううんざりしていたし、早く交渉をまとめたかったので、使ってしまった。
「ぃ……」
使う度に、黒からは白い目、いや、犯罪者や汚物を見るような軽蔑の視線を向けられていた。
思い付きで始めてしまった交渉だったが、話はあれよあれよと言った感じで進んでしまった。
越権行為である事は認識していたが、ある意味霞宮の意向に沿った動きでもあった。
(まあ、霞宮様も口には出せないだろうけど、停戦を望んでいる事は明らかだしね)
とんでもない事をしている自覚はなくはなかった。
だが、まあ、もう、やってしまえといった感じを持っていた。
事ここに至っては、手を拱いて事態が動くのを待つのを止めるべきだという認識だ。
(ロリ巫女との戦いで大いに足を引っ張ってくれた事もあるし……)
これはある種の意趣返しでもあった。
とは言え、どちらかと言うと、「イケメン、○○べし」の方が大いに勝っていた。
(それに、停戦が成立すれば、外堀どころか、内堀も埋め立てる事になるしね。
そして、一気に本丸だ!!)
俺はそう思いながら不敵な笑みを浮かべていた。
そう、これによって、霞宮は姫宮に協力せざるを得ない状況を作り出せる筈だ。
そして、あのイケメン笑顔が引きつるのを見られると思うと、自然に笑顔になっていった。
でへへへぇぇぇ……。
え?何とも言えない嫌な笑顔だって?
それは余計なお世話なのだ。
そんな状況下とは言え、交渉は意外と簡単にまとまってしまった。
まとまってしまったので、俺と黒はすぐに帰路に就いた。
「白、あんたって、意外と鬼畜よね」
帰途の途中、黒は箒に跨がりながら俺を見ずに何とも言えない表情をしていた。
まあ、黒の表情は俺としては説明をしたくないようなものだった。
「……」
俺の方は黒の横を例のぱちもんを使って飛んでいたのだが、その表情を見て何とも言えなくなっていた。
タケタケタケ……、すぃーん……。
そのせいで、そのまま重い沈黙が流れていった。
ずしぃーん……。
だが、その沈黙は俺を責めいているように感じられたので、俺はついにはそれに耐えられなくなった。
(あれ?もしかして、交渉中の俺の素敵な笑顔はロリ巫女に向けられていると思われていた?)
俺は黒が何でそんな表情をしているかをようやく悟った。
(いや、それは誤解だって!)
俺は口に出さずに、心の中でそう叫んだ。
口に出さずではなく、口に出せなかったのだ。
言い訳に聞こえて、ドツボに嵌まると悟ったからだ。
まずいぞ!!
好青年としての俺のイメージに傷が付いてしまう!!
(話題を変えねば!!)
タラリ……。
俺は冷や汗が出てきていた。
「真名……、実名を知られる事って、こっちではかなりヤバい事なんだな……」
俺はこの場の空気をガラッと変えようとして、そう口にした。
しかし、これはよく考えると最悪手というものだった。
いや、よく考えるまでもなかったのだが。
何でこんな事を口走ったのだろうか……。
黒の方は俺の言葉を聞くと、先程まで俺を見ないようにしていた視線がこちらに向いた。
ぞあぁぁぁ……。
黒と目が合うまでもなく、俺は震撼していた。
ぎょきぃぃぃ!!!
まともに目を合わせる事ができないくらい恐ろしい目で俺を睨んでいた。
俺は周辺視野で黒を見ながら、怖くてそちらを向けなかった。
ぎょぃーん!!
「あんた、あたしにあれをやったらどうなるか分かっているよね?」
黒の口調はあくまでも静かだった。
ふるふる、ブルブル……。
俺は全身が震えだしてしまった。
女性を本気に怒らせると、やはり怖いという事が身に染みて分かる事象だった。
「やりません、やりません」
俺は体を震わせながらとても丁寧にそう答えた。
「……」
黒はその言葉を聞くと、再び視線を俺から外して、無言でジッと前を向いた。
無反応だった。
それが俺には怖かった。
ずひぃーん……。
怖かったので、この後の会話は完全に無くなり、先程より重い嫌な沈黙が流れていた。
チクチク、グサグサ……。
剣山が上からのし掛かっているような、もしくは、針のむしろに座らされているような感じだった。
いや、同時にそれらが起きているのだろう。
ピキィーン……。
俺は硬直したまま黒の横を飛び続けた。
タケタケタケ……、すぃーん……。
ぴゅう、ぴゅう……。
しばらくそのまま飛び続けると、霞宮達の陣が見えてきた。
俺がロリ巫女と戦っている時に、霞宮には陣を引き払うように言ったのだが、そのまま陣を維持していた。
そんな事も忘れるぐらいに、俺は陣を見つけると、安心した。
本来なら、危険を冒している霞宮達を咎めるべきである。
俺と黒はそのまま並んで陣に近付いていった。
すると、陣にいる人達もこちらに気が付いたのか、次々とこちらを向いて手を振り出していた。
わぁわぁ!
俺を見て、俺は更に安心した。
勿論、この耐え難い空気から解放されると思ったからだ。
更に俺と黒は陣に近付くと、陣の中心に霞宮がいるのが分かった。
そして、その隣にむしのたれ衣を被った姫宮がいるのに気が付いた。
それを見て、俺が拉致された事がとても大事になっている事に気が付いた。
しまったなと思いながら、俺と黒は陣の中央に降り立った。
どっわぁぁぁ!!!
大きな歓声が沸き起こった。
それに対して、俺はちょっと照れたように頭をかいた。
ただ、黒は対照的にずっと能面のように無表情だった。
(……これは今後のやばさを案じているな……)




