その3
タッタッタ。
ドタドタ、ゴロン……、はぁはぁ……。
俺はやれやれ感満載で姫宮達と逃避行を続けていた。
まあ、疲れたし、転んだし、散々な目にあっているからだ。
とは言え、後でよく考えると、不安感満載の筈なのだが、この時は違っていた。
やれやれ感満載とは言え、素直に姫宮達の後を俺は付いて行った。
べっ、別に、美女美少女に囲まれて、ウキウキしてた訳では無いんだからね!
まあ、それはともかく、今回の逃避行は事前に敵の動きが分かっていたので、敵に遭遇する事はなかった。
ただ、俺にとって残念な事は昼から夕方まで歩き通しだった事だった。
無論、途中に何度も休憩を挟んではいたが、日頃の運動不足を痛感する羽目になった。
(ここ1年、研究が面白くて運動していないせいかな?
それにしても、右近の君と左近の君はともかく、女御様と姫宮様は意外に健脚だな。
平安時代の皇族女性って、後宮からあまり出ないはずだよな。
やはり、ここは俺の知らない異世界なのだろうな……)
そんな事を思いながら俺達5人が辿り着いた先は山の上にあるお寺だった。
境内に通じる細い道を一列になって登っている時に何やら動物の気配を感じた。
「白の勇者様、猫達ですわ」
俺のすぐ後ろにいた姫宮は察しがいいのか、気になった事を答えてくれた。
バッ、スタタタタッ!
猫達は俺達が進んでいくと、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出していた。
じぃー……。
ただ、何匹かは俺達から距離を取った後に、こちらを伺うような素振りをしていた。
こちらを警戒しているのだろう。
俺達は境内に入る為に尚も進んだ。
日は沈みかけていて、俺達5人の背後からオレンジ色の光を照らしていた。
猫は境内に続く細道のあちらこちらにいて、俺達が近付く度に逃げ散っていった。
(まあ、猫なんて、近付いてくる方が珍しいからな……)
俺は逃げ惑う(?)猫達を見ながらそう思った。
「ここは猫山寺と呼ばれています。
ご覧の通り、何故か猫達がたむろしております」
姫宮はそう教えてくれた。
「一の姫宮様はここに来た事があるのですかぁ?」
俺は息を切らせながらそう聞いた。
「いいえ。
ここは右近の君と左近の君の縁の寺なんです。
話は二人から聞いていますが、来るのは初めてです」
姫宮は和やかにそう答えてくれた。
(やはり、姫宮様だし、内裏からあまり出た事がないのだろうな。
それは俺の昔の世界と同じという訳か……。
にしても、姫宮様はとても気さくな方なのだな)
俺はそう思いながら前を行く右近と左近の後を必死について行った。
ドタドタ、はぁはぁ……。
永遠と続くと思われた細い上り坂はすぐに終着点を迎えた。
俺達一行は猫山寺の境内に入ったからだ。
(さて、一息付けるぞ!!)
俺はとても嬉しかった。
ただ、境内に入ると、俺以外の4人は止まる事なく、本堂へと歩いて行った。
はぁはぁ……。
俺は休めるとばかり思っていたが当てが大きく外れてしまった。
(えっ、ええっと……)
俺は仕方が無いので、4人に遅れて付いて行く事となった。
4人は本堂の前で横一列になって立ち止まった。
そして、合掌して真言を唱え始めていた。
南無……南無……。
それを見て、俺も慌てて合掌した。
ただ真言は知らなかったので、合掌のみだった。
(そう言えば、昨夜泊まった神社でも祝詞を唱えていたな。
こちらでもあちらと同じ風習なのかな?)
俺はそう思いながら4人の後ろにいた。
「さあ、白の勇者様、行きましょう」
4人が真言を唱えるのが終わったのに気付かなかった俺に姫宮が声を掛けてくれた。
俺は合掌を止めて慌てて4人の後について行った。
今度はどうやら宿坊らしき建物へと向かっているようだった。
(今夜はちゃんと休めるのだろうか?)