その3
自室と言っても、一人部屋ではなかった。
他の修行僧と同じ部屋で、雑魚寝をしていた。
とは言っても、言霊の修行をしているのは俺だけで、他は仏門の修行僧だった。
人がいるので、夜は明かりを簡単には灯す事ができなかった。
したがって、日が完全に落ちると部屋では何もできなかった。
なので、すぐに寝た。
まあ、完全に寝るだけの部屋だった。
大概は昼の修行で疲れているので、すぐに眠ってしまう。
しかし、流石に10時間以上は寝ていられないので、夜明け前に目が覚めてしまっていた。
ただ、俺の場合は紙コップが空から降ってくる事で起こされていた。
原因の主は黒の勇者だった。
夜明け前から黒の勇者の愚痴を聞かされながら目が覚めていく。
でも、まあ、俺もただ愚痴を聞いているだけではなかった。
何か有益な情報が得られるのではないかという考えがあった。
やれやれと思いながらも俺は人気のない場所へと移動した。
マナー違反と言うより、紙コップ通信はどう見ても怪しい行動だったからだ。
その間にも黒の勇者からの愚痴が続いていた。
ぐちぐちぐち……。
「ところで、新しい皇帝が即位したようだけど」
俺は黒の勇者の愚痴を一通り聞いた後に、話題をスッと切り替えた。
もうこの辺は慣れっこになっていた。
黒の勇者の愚痴が途切れる時を逃す事はなかった。
そして、もう一つ情報源から情報を引き出しに掛かった。
「上達部達だけが参加していたから私はよく知らないけど、そうみたいね。
大々的な儀式はまた後日にやるらしいけど」
黒の勇者はあっさりと切り替えた話題に乗ってきた。
愚痴を言ってスッキリしたのだろう。
黒の勇者は扱いにくそうで、その実は、単純なのだろう。
「ふーん、そうなんだ。
皇族は参加していなかったの?」
「皇帝のご子息、権中納言……、いや、今は東宮様だっけ?
その人が参加していたらしく、同時にその東宮に即位したみたいよ」
(東宮と言えば、皇太子だよな……。
それに息子の中納言が……?)
俺は黒の勇者の言葉に驚いたと共に、何やら変な引っ掛かりを覚えた。
とは言え、後で考えてみると、当たり前の事で流れ的にはそうなる。
だが、何故かここではそれが気になっていた。
「そう言えば、他に、子供はいるのかい?」
俺は気になったのでそう聞いた。
「ええっと、確かまだ成人していない娘さん達が2人、いたはずよ」
黒の勇者はあまり関心が無いようだった。
もっと子供がいるかと思ったが、意外だった。
そうなると、中納言が東宮になるのは自然の流れだった。
「他の皇族は?」
俺は次の質問をした。
「たぶん、いない訳ではないと思うけど……。
とは言え、私もよくは知らないんだけどね」
これは、黒の勇者だって、宮廷の隅から隅まで知っている訳ではないだろうから妥当な答えだろう。
まあ、いたとしても自分の長子を東宮にするのは当然の流れだった。
何度も確認しているが、流れ的にはおかしな事はなかった。
(まあ、詳しくは後で姫宮様達に聞いてみれば分かる事なのだが……)
俺は腕組みをしながら考え込んだ。
ただし、事態は俺が思った以上にやばいのかも知れないと感じ続けていた。
その理由は自分でもよく分からなかった。
左大臣が即位した時点で既に崖っぷちだった。
だから、誰が東宮になろうが、あまり関係ない筈だった。
「まあ、何にしてもこれで私の状況も国の状況も良くなるわよ」
黒の勇者は俺の思惑とは無縁に安堵の言葉を発した。
「果たしてそうなのだろうか?」
俺は思わずそう言ってしまった。
これは特に言う必要はなかった言葉だった。
「何よ、私の言っている事が間違っているとでも言うの?」
黒の勇者は好戦的になった。
「さあ、俺には分からないよ。
ただ、状況の変化には気を付けないとね」
俺はしまったと思いながら、言ってしまったので、とりあえずアドバイスするようにそう言った。
「そんな事、分かっているわよ!」
と言いながら黒の勇者はかなり不機嫌そうになり、
「用がないなら、これで切るね」
と言って一方的に会話を終了した。
(用があったのはそっちじゃないのかな……)
俺は唖然としてしまった。
(だけど、俺の方もそうだけど、彼女の方も大丈夫なんだろうか?)
朝廷での黒の勇者の扱いは俺には分からなかったので、ふとそう思った。
よく考えると、黒の勇者は敵なので、敵の心配を俺はしていた。
変な話である。
だが、俺はどうしても黒の勇者が敵とは思えないでいた。
べっ、別に彼女も美少女だから気になっている訳ではないからね!
(まあ、それはともかく、チョロいそうだし……、大丈夫なのかな……?)




