その1
タッタッタ……。
その後、俺達5人は逃げ続けた。
ドタドタ、ゴロン……。
逃げる途中、何度も俺は躓き、転んでいた。
やはり、暗闇に慣れていないせいだった。
(しっかし、なんでこんな真っ暗な中、進むことができるんだ?)
俺はちょっと恨みがましかった。
タッタッタ……。
ドタドタ、ゴロン……。
軽快に走り抜けていくのは俺以外の4人で、軽快ではないのは俺だけだった。
他の4人は俺がいるせいで逃げるペースが大幅に落ちているのは明白だった。
しかし、諦めたのか、慣れたのか、何も言わずに俺が転ぶ度に待ってくれていた。
何度か休憩した後、夜通し歩き続けて東の空が白みだした頃に神社らしき社殿の中に俺達は入り込んだ。
そこで、寝ることになった。
横になるとすぐに俺以外の4人はすぐに寝付いたようだった。
スヤスヤ……。
だが、俺は当然の如く寝付けなかった。
(さて、どうしたものか……。
状況が全く掴めていない。
ただ、分かっていることはここは俺の住んでいた世界ではないらしい、と言うことだな。
本当、どうしたものか……)
俺は薄暗い社殿の中、仰向けで天井を見て、ずっとそんな事を考えていた。
時間が過ぎていき、隙間から朝日の光が入ってきたので少しは明るくなってきた。
チィッ、チィッ、チュン……。
カァー、カァー……。
外からは鳥の鳴き声が聞こえてきた。
疲れているのに全く寝られる気配がない。
(まあ、こんな状況に置かれて眠れるほど図太くはないからな……。
事情を聞こうにもみんな寝ているからな……)
社殿の奥から女御、姫宮、俺、左近、右近の順で寝ていた。
隣には姫宮がかわいい寝顔でややこちらを向いて寝ていた。
スヤスヤ……。
寝る時には笠を取っていたので、素顔を見ることができた。
長い髪は頭の上で丁寧にまとめられており、心なしか少しウェーブが掛かった髪だった。
その奥に女御が寝ていた。
俺は首をちょっともたげるようにして女御の方を見た。
起き上がってみるのは何だか気が引けたからだ。
女御の方も長い髪を頭の上で丁寧にまとめられていて、すっと伸びたストレートの髪のようだった。
女御と姫宮はそっくりな顔つきをしており、親子だ言うことがすぐに分かった。
ただ、女御はかなり若く見えたので、姉妹と言ってもおかしくない様子だった。
若くは見えたが、幼いという訳ではなく、大人の女性といった感じだった。
首をもたげるのに疲れたので俺はもたげるのを止めて、再び天井を見上げた。
(普段、絶対に内裏からでない女御様と姫宮様が一体どうして追われているのだろう?
女御と言えば、帝の后だし、姫宮は皇女だしね。
まあ、権力争いの末と言うことなんだろうけど……。
うーん、さっぱり分からんな、やっぱり)
俺はそう思いながら何気なく逆隣を見た。
そこには左近が寝ていた。
スヤスヤ……。
完全に横を向いて寝ていて、こちらを見ていた。
いや、寝ているのだから見てはいなかったのだが、こちらを向いていた。
「ムニャムニャ……」
左近は何やら言葉を発していた、と思う……。
寝言だろうか?
逃げている時には一番キツい言葉を言っていたが、寝顔はとても可愛らしかった。
よく見ると、姫宮より幼いのではないかと思うほどだった。
俺は再び首だけをもたげるように左近の奥の右近の方を見た。
首だけというのは何やら言い知れぬ罪悪感を感じだからだ。
やはり、女の子の寝顔を見るというのはそんな感じがするものなのだろう。
右近もかわいい寝顔で寝ていた。
ただ、逃げている時は凜とした大人の女性という感じがしていたが、どうやらそうではなかったらしい。
改めてみると、姫宮と同じか、ちょっと上くらいの少女だった。
意外だなと思いながら首が疲れてきたので、再びもたげるのを止めて視線を天井に戻した。
(しかし、右近の君も左近の君も姫宮様あるいは女御様のお付きの女房と言った所なのだろうか?
ただ身分高い人達にはもうちょっと年長の女房が付くような気がするけど……)
俺はそう思うと、考え込もうと腕組みをした。
(それに女の子が護衛役みたいな事をしているし……。
どういう事なんだろう?)
俺はあれこれ考えてから再び左近の方を向いた。
「スヤスヤ……、ムニャムニャ……」
左近は相変わらず寝言を言っていた。
とても幸せそうだった。
(こんな格好した女性が平安時代にいたのだろうか?
女忍者の走りみたいなものだろうか?)
俺は静かに唸りながら左近の寝顔を見ていた。
(いや、待てよ。
平安時代って言ったけど、タイムスリップした訳ではないよな)
俺は気が付いてハッとした。
(さっきの応龍と言い……。
言霊使いだって言ってたしな。
丸っきり、異世界だよな、ここ……)
俺は更にあれこれか考えながら再び視線を天井に向けた。
(異世界、召喚、来た!!)
俺はそう思って、興奮はしたが、特に嬉しいという訳ではなかった。
なので、テンションが上がったのはほんの一瞬だけだった。
(これは道理に合うことなのだろうか?
パラレルワールドとして解釈するのならありなのか?)
俺はすぐに熱が冷めたように思考を巡らせ始めていた。
(いやいや、パラレルワールドはただの仮説だよな。
現代科学で認められたものではないよな)
俺はあり得ないといった感じで首を横に振った。
(いやいや、現代科学って奴は全てのものを解明した訳ではない。
むしろ、解明できてないことがほとんどだし)
今度は再び俺は興奮しだしていた。
ただ、異世界に召喚された事にではなく、召喚された現象についてだった。
この辺が科学者の卵たる所以だろうか?
ある意味、ピントがずれている。
それはともかく、俺は何とか現状を把握しようと考えを巡らせていた。
だが、思考があちこちに飛んでまとまりが付かなくなっていた。
(頭が混乱する!)
俺は思わず髪の毛を掻きむしった。
まあ、この状況で混乱しない方が無理なのだが……。
そんな時、ふと、俺は今度は逆隣の姫宮の方を見た。
(それにしてもかわいい娘ばかりだな……)
俺は姫宮を見て素直にそう感じた。
もう思考回路が滅茶苦茶だった。
(あれ?これって、人生初のハーレムってやつじゃないか!
え、あれ?どうしよう……)




