その3
その日の昼すぎ、洞窟で休憩となった。
洞窟と表現したが、窪みより深い穴がいくつも開いているような場所だった。
その一つに俺は入った。
中は大きな岩だらけで、とても横になれる状況ではなかった。
しかし、俺はよっぽど疲れていたのか、壁にもたれかかるように座りながら寝入ってしまった。
スヤスヤ……、ん?……、スヤスヤ……。
浅い睡眠と短い覚醒を何度も繰り返しながら俺は眠りに眠った。
途中、右近と左近が相談している様子や、姫宮や女御の話し声などが聞こえた。
それらの声が耳に入ってきてはいたが、俺は体の体勢を変えながら眠り続けた。
そして、ハッとして目が覚めた頃には辺りは完全に真っ暗だった。
その真っ暗さに俺は不安になった。
(手、足、顔……、全部付いているな!)
俺は真っ暗闇の中、手で自分の体をあちこち触って、襲われていない事を確かめた。
尤も、真っ暗なんで今危機的な状況ですと言われても判別ができなかったが……。
(……)
耳を澄ませて辺りを伺ったが大丈夫なようだった。
(今、何時だろう?
って、時計がないから何時でもないか……)
俺は自分が思った事がおかしかった。
こっちに来て、間もないというのに、慣れてしまったというか、何と言うか、不思議な感覚だった。
(それにしても体中が痛い……)
俺はそう思いながら寝ていた洞窟からゆっくりと出た。
グカグカ、ゴキゴキ……。
あっちこっち痛くて急な動きができなかったからだ。
体のバランスがうまく取れないのでフラつきながら外に出た。
「よいしょっと……」
俺は何とか体のバランスを取って立ち上がると、ストレッチを始めた。
(痛気持ちいい!)
俺はそう思いながらストレッチを続けた。
「ふぁあああ……」
確かに体の調子は徐々に取り戻せたが、欠伸が出るほど体の芯は何だか重かった。
(結構寝たけど、やっぱり疲れが取れていないな……)
そんな事をしていると、急に背後に人の気配がした。
(やばい……のか?)
血の気が引いていくのを俺は感じた。
「やっと起きたのね!」
声の主は左近だった。
そして、口調はいつもながら少々不機嫌だった。
「はぁぁぁ……」
俺は背後の人間が左近だと知ると、安心から大きな溜息をついた。
しかし、そんな俺の行動を左近は気にも留めなかった。
「今日は霊山に登るからね」
左近は短い言葉で俺に今日の予定を伝えた。
「もうすぐ夜が明けます。
そしたら、出発します」
右近がいつの間にか俺の後ろに立っていた。
ビック!!!
俺はまたびっくりしながら、さっき向いていた方に振り向いた。
(気配を消して忍び寄るのは止めて欲しい……)
俺の心臓はドキドキしていた。
「白の勇者様、よく眠れましたか?」
右近は振り向いた俺ににこやかな口調で聞いてきた。
ただ暗くて右近の表情まで読み取れなかった。
「寝た事は寝られたのだけど、やっぱりまだ疲れが取れないというか、寝たりないというか……」
俺は素直に今の気持ちを話した。
「呆れた。
まだ、寝たりないなんて!
あんた、半日以上、寝ていたのよ!」
左近は相変わらず俺には厳しい口調で言った。
「まあまあ、左近の君。
白の勇者様、まだお慣れになっていないのだから」
右近はそう取りなしてくれたが、そう言うと、俺のそばから離れていった。
ただ左近もそれ以上は俺に何も言わずに右近の後を付いていった。
俺はそんな二人が暗闇に消えていくのを見送った。
とは言え、十メートルぐらい離れただけなんだが……。
右近はすぐに夜が明けると言っていたが、すぐに明ける様子はなかった。
俺は手持ち無沙汰だったので、2人の所へ行き、何か手伝おうとした。
ピリピリ!!
ギスギス!!
しかし、左近の只ならぬ雰囲気にたじろいでしまった。
暗くて左近の表情まではよく分からなかったが、分からなかったので異様に怖かった。
俺は仕方がなく、先程まで寝ていた洞窟の方に行った。
(もう一眠りできるかな?)
俺はそう思って洞窟の中に入ったが、起きたばっかりだったので寝る事はできなかった。
そうこうしているうちに、姫宮と女御が起き出してきた。
そして、同時に左近が洞窟の方にやってきた。
「朝餉の支度が調っております。どうぞこちらへ」
左近は姫宮と女御にそう言った。
(何か、凄くタイミングがいいな)
俺は妙な感心をしてしまった。
左近に言われたので、姫宮と女御は洞窟から出てきて、右近の方へと向かった。
ギロリ!!
左近は今度は俺の方を見て、無言で睨み付けながら来るように顔で指示してきた。
少し明るくなったので今度は左近の表情が割とよく分かった。
恐らく俺が二度寝していたと思ったのだろう。
先程に増して機嫌が悪そうだった。
俺はビビりながらも洞窟から出て、朝食に向かう左近の後を付いていった。
洞窟に居続けると、余計睨まれるからだ。
(やっぱり、嫌われているな……)




