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木の枝の伝説(7)





レオン:今回こそ、今回こそ戦いが起きる!

リンネ:どうしてそう思うの~?

レオン:前回の終わりにアインが村を出たからだ!

リンネ:(なんだ~、お兄ちゃんのことだから~、『はるかなる永劫の未来を見通すおれの光の右目が!』とか言い出すかと思ったけど~)

レオン:・・・? どうした? リンネ?

リンネ:ん~、お兄ちゃんがちゃんと読んでるみたいで安心したよ~。

レオン:まるでぼくがちゃんと読んでないみたいに言わないでもらいたい。

リンネ:それじゃあ~、みんなもお兄ちゃんみたいに~、ちゃんと第7話を読もうね~。









 村と森との間のでっかい境界線でもある草原をてけてけ歩く。


 今日は朝からずっとタッチパネルは開いている。さっと触ってステ確認。SP3/3だ。朝は2/3だったから時間経過による自動回復。レべ1で1時間1ポイントはゲームと同じらしいな。


 気を抜かず画面を初期に。左下を確認。『Around』の表示色は白。アラホワだ。プレーヤーの半径20mにモンスター扱いの存在はいない。こういう小さな部分でも、タッチパネルは重要。朝タッパ開いて一日中出しっぱで行動してないプレーヤーたちは本当の意味での安全マージンなんか意識してないと思うな、おれは。


 まあ、ゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』は初心者にも優しいから徹底してレベル上げに励めば最終的にはクリアできるんだけどな。アラホワとかも初心者に優しいだろ?


 今のおれにはこういうのが大事。ビビりと言われても大事。


 少なくとも、ここには今、隠蔽能力が設定されているモンスター以外は絶対にいないってことだからな。隠蔽能力、ステルス性能、すげーよな、かっけー。なんでプレーヤーにはないかな? このゲーム、シーフ的なとか、ニンジャ的なとかは職業設定がないんだよ。


 まあ、だからダンジョン探索とかも罠感知、罠解除みたいな手間が必要ない仕様で初心者もやれたんだろうけどな。ロープレとしちゃ、ロールは少ねぇーよな。


 職業名はいっぱいあるけど、聖女も聖者も司祭も神官も、基本は僧侶と同じことをちょっと有利にできるだけだしな。ま、それは今はいいけど。


 草原の森近くを歩く。半径20mがぎりぎり森に届かないくらいの距離をイメージして。


 まずは草原。大好き草原。頼むぜ草原。


 ……ターゲットの最有力候補、最弱モンスターとされるランスラビト、通称ツノうさ、HP10は草原が主な生息地となっているノンアクティブモンスターだ。某攻略サイトによる初心者安全マージンがLv1なんだからもう最弱モンスターでいいだろうと思うな。


 おれはツノうさを求めて、てけてけ歩く。とにかく歩く。ツノうさ訪ねて三千里。


 ……いや、三千里は歩けんよな。そりゃわかってる。わかってんだけどな。わかってんだけど、2時間歩いて、0! 0だよ! 0! 気分はアルゼンチンまで行っちまうって!


 ツノうさいないの? はじまりの村の周りだったらレベル1から始めてもう20匹以上狩ってレベルいくつか上がってると思うな? 2時間だぞ? え? まさか、うちの村ってはじまりの村より設定上安全なの? そんなの究極のセーフゾーンじゃん? HP3で死にたくても死ねないよな? いやいやいや、そうじゃないだろ、おれ!


 ツノうさいねぇんじゃレベル上げができねぇっっ!


 あんな決意まで心から捧げたってのに今ここでレベル上げできねぇっっ!


 うちの村の猟師さんたち、毎日毎日飽きずにじじいんとこまで肉持ってくんじゃん! あれ何の肉だよ! ツノうさじゃねーのかよ? えっ? ひょっとして猟師さんたちめっちゃレベル高かったりすんのかな? そういうこと? そういうことなの? 誰か教えて?


 いやいや待て待て。慌てるな、おれ。落ち着け、おれ。


 ツノうさはいちおー森も生息地だ。森にいるという可能性もある。あるはずだ。ただし、森だとツノうさは二匹以上で行動している可能性もあるので避けてたんだけどな。二匹以上で行動してるモンスターはノンアクティブでもどっちか一匹にタゲ取りしたら同時にアクティブになるんだよな。HP3という今ん状態で二匹同時は厳し過ぎだな。


 それに、森にはそれ以上のモンスターがフツーにいる可能性が高い。そっちの方が危険。超危険。スーパーウルトラ危険。極大危険デンガラデンゲラテラデンジャラス。




 ……おれ、HP3、だからな! 自慢じゃないけどな! マジで自慢にならないけども!




 ……危険、とは言ってもノーリスクのまんまじゃノーリターンも当然のこと。


 おれは一度ごくりとつばを飲み込んで、少しずつ森へと近づく。タッチパネルのモンスターお知らせ範囲が5mくらいは森の端にかかるようにして、草原と森との境界をてけてけ歩く。


 5分も経たずに、『Around』の表示色が黄色に。


 そこでおれは足を止めた。


 黄色は、プレーヤーの半径20mにノンアクティブモンスターがいることを示す。ちなみに赤色だとアクティブモンスターがいる。


 草原ではいっこも反応がなかったんだから、森の中で間違いない。しかも今は黄色でノンアクティブだ。森の端から5m、しかもおれを中心とする円状の範囲内なら、ひょっとすると見つけられるかもしれない。


 ツノうさ、カモン!


 じっと止まったまま見るともなく森全体を見る。


 1分、2分……と時間が過ぎていくが、表示色は黄色のまま。


 我慢比べになるかな、と思ったところで、がさっという物音。


 そっちに視線を集中。


 木の枝トリプルオー・オリジンはアイテムストレージに入ったまま。何かの間違いでノンアクティブモンスターのヘイトを取ったんじゃ、HP3では命が足りない。万が一戦闘になっても装備については心配いらない。装備変更ファンクションキーをタッチするだけだからな。それでも一応、左手の人差し指が一瞬でファンクションキーに触れるようにはしてるけど。


 物音がした方では、2、3m級のサイズの鹿が森の奥へと飛び跳ねるように駆けていくのが見えた。


 ……フォルテバンビ、通称バンビ。あのサイズで小鹿扱いなのはサギとしか言いようがないが、その上位モンスターとして4m以上のサイズのフォルテディアーというノンアクティブモンスターがいるからな。


 いや待て。待て待て待て。ちょっと待て~い。ちょっとこら待て~い。


 上位モンスターの話はどうでもいい。


 おい、バンビだぜ。おい、バンビがいたぜ。バンビだぜ、はあビバノンノン! バンビがいるのにツノうさいない? なんでここにはツノうさいない? おれはいったいどうすりゃいい? ヘイ! 何これ? 何ここ? どういうこった?


 ……思わずノリノリで節つきにしてから頭ん中で不平不満をフル回転させちまったけどな! 余裕じゃないよ? パニくってんだ? 文句ありますか~? ないよな? ねぇ、ないよな?


 バンビはHP20クラス。某攻略サイトによる初心者安全マージンはLv5……。


 ……レベル5って!


 レベル5ってなんだよーっ! 叫ぶわっ!


 HP50?


 はぁ? 安全マージンが?


 いや、初心者じゃねーよ、おれはプレーヤーとしては初心者じゃねーけど! とりあえずHP3なんですけど何か問題でも? …………って問題ありまくりだろっ! 取り過ぎとはいえ安マーレベル5の相手だぞ? あんまーって沖縄の母ちゃんじゃねーよ、安全マージンだよ!


 おれが低いのはHPだけじゃねーんだ。ステ全部が3だよ、3!


 おまえレベル5っつったら、そりゃツノうさでレべ上げできる限界値だろーがっっ!


 ステ値は期待値7の乱数で、行動による補正を抜きにして考えても初期値10+(7×4)だから38前後はあんだろ? レベル5ならな! 筋力38なら武器補正2の木の枝トリプルオー・オリジンでも攻撃力40になんよ? カッターなら80だよっっ! それがHP20の敵に対する安全マージンって初心者どんだけプレーヤースキル下手なんだっつーの!


 カッター使おうとして予備動作ミスって発動しませんってか?


 それとも何か? タッパ使って自動スキルでクールタイム3倍のカッターを二、三回使うからダメージ計算込みなんかな?


 いや、そりゃバンビの攻撃力も物理防御もツノうさよりもずっと高いんだろうけどな。それでもカッターで80ならうまくやれば通常攻撃からのカッターで仕留めておしまいって感じ? おれならレベル3で十分狩れるけどな!? 狩れるけれども! レベル2でもなんとかできるわっっ! 筋力とSPとHPが足りてればなっっっ!! 足―りーてーれーばーなーっっっ!!!


 はっはっはーっっ! 3だっつーの! 足りてねぇーっっっ! 厳しぃーっっっっ!




 ………………………………次、探すか。ツノうさ、探そっと。ちくせう。いつか高レベルになった時は、ヒャッハーしてやるからな。覚えてろよ、バンビめ。


 そうしておれはバンビにまったく責任のない一方的な逆恨みを抱きながら、偵察を続けたのだ。













 そうして2時間。


 森には入らず、境界線沿いをうろうろし続けて。


 タッチパネルの反応は17回。全てノンアクティブの黄色。


 確認できたモンスターは9頭。匹か? ま、どっちでもいいけどな。バンビが4で、フォレボが5。フォレボってのはフォルテボア、猪のノンアクティブモンスターだ。フォレボは通称ね。上位種のイビルボアはけっこーおいしいんだけどな、経験値的に。倒し方はフォレボとそんなに変わんないしな。あ、いや、ステ3ではなんも言えねぇ。


 フォレボもHP20クラス……。


 なんでツノうさいねぇんだ?


 ………………いや、もうこのくだりはバンビでやったな。


 2時間で17ってのは、ほどよくありがたいエンカ率だけどな。


 根本的な問題がなあ……。


 もう2時間ほど余裕はあるけど、今はもう無理はしない。かなり精神的に疲れた。HP3だとストレスマックスだな、こりゃ。森には一歩も入ってないってのに。


 実際に狩りに挑戦するのは6時間ちょいが限界かな。それで精神が持てばいいな。


 今日はもう村へ戻る。


 てけてけ、てけてけと村へと歩く。


 ツノうさの情報がいる。あの肉がまず何か、じじいんとこで確認。それがツノうさなら狩場の情報がほしい。


 ツノうさがいないならどうする?


 ………………あきらめるって選択肢はない。おれは逃げないって決めた。


 バンビとフォレボか。


 どっちにせよ、木の枝トリプルオー・オリジンでのカッターじゃ今のステでは到底無理だな。


 ……となるとソルマしかない。結局ソルマ一択か。プレーヤースキルがあるから詠唱で使えるしな。あ、いや、物理攻撃スキルのカッター以外はなんも確認してねぇな、そういえば。魔法も使えるってのは思い込みでしかない。使えない可能性だって考えておかないと。


 でも、詠唱でタゲ取りしてノンアクティブを刺激したら危険が危ない。間違えた。命が危ない。


 偵察が目的の今日、試す必要はない。危険すぎる。でもやってみなくちゃわかんねぇから難しいところだな。


 …………いちおー、ソルマが使えると仮定して考えたら、バンビよりフォレボだな。


 フォレボの方が攻撃力と物理防御は上だけど、すばやさはバンビに一票。


 あと、動きがジグザグなバンビを直線しかないソルマで狙うのは無理。フォレボは通くんみたいなまっすぐ突進一直線だからな。まっすぐ東大目指して勝手に突き進んでくれ。


 しかも、ソルマでのダメージで倒すんじゃなくて、即死効果に期待。ダメージじゃまず無理だな。ソルマ一発でMP2とSP2をもってかれちまうから、使えたとしてもソルマは二時間に一回しか使えないってとこもかなり面倒な。


 くぅ~っ、ステ3しばりはめっちゃハードモードだ。しかも最初のモンスターがHP20クラスで、初期装備が木の枝の武器補正2だろ? ウルトラスーパーハードモードやないですか! どうなってるんですか総理! 総理! もうこれは緊急事態を宣言するっきゃナイトですが何か問題でも?


 …………落ち着け、おれ。クールだ、クールに行くんだ。冷静と情熱の間を行かないとHP3ではデスペナなしのただのデスに一直線デス…………って落ち着けねぇ~。


 ふぅ、深呼吸。


 ……それと、カッターとちがって、何かの条件でソルマが発動しなかった場合の防衛手段がいる。ソルマは実験してないし、実験できないし、そんな状態だからな! HP3だから取れる安全マージンはたくさん考えとかねぇと。


 そんでソルマが使えねぇーってなったら、狩りは当分お預けで、ひたすら素振りしてカッターの熟練度をダメ+40になる4か、+80になる5まで上げてから、だな。素振りで熟練度をそこまで上げんのはそーとー厳しぃーだろーけどな。効率も悪いし。


 それでもタッパ、タッチパネルがあるから、ステのSPが下がるとこまで素振りをやれば効果の確認はできるからずいぶんマシなんだろうけど。


 どんな技の素振りでも正しく100回行えばSP1消費。その効果はそのスキルをモンスターに一度使ったのと同じだけ。つまりはほとんど効果がないのが素振り。


 逆に言えば、レベルが上がって経験値が取れないモンスターでも、スキルの熟練度を上げるのには使える。ま、そういうのはレベルが上がってからだけどな……………………。






 とまあ、いろいろと考えながら歩いているうちにじじいん家についたから、さっそく情報収集開始。


 んで、残念な事実判明。


 いつもの肉は、確かにツノうさのものがほとんどだった。


 よっしゃ、ツノうさいるんじゃん! HP10だぜ! ひゃっほーぅっ!


 ……と思ってどこにいるのか聞いたら、知らないって。


 使えねぇー。このじじい使えねぇ~な。


 ま、じじいによると、ツノうさの狩場はそれぞれの猟師の秘匿情報とのこと。猟師が安定した生活を送るために絶対に守る秘密。跡継ぎにしか教えないし、ツノうさ狙いの猟師の跡をつけるなんてことしたら村で殺人事件が発生してもおかしくないらしい。


 そんな風におれみたいな純真な好奇心をもつ少年にじじいはめっちゃ釘刺してきやがった。


 まあ、納得できたけどな! 納得できたけども! 利権は大事だけども! ゲームなら効率のいい狩場情報は出回るけども! あ、MMOじゃ秘匿するのもあるか、確かに。いや、そもそもここはゲームのようでゲームじゃねぇしな。


 ツノうさはいねぇんじゃなくて、猟師のおっさんたちが狩り尽してんじゃん!


 聞いたらフォレボなんか猟師さんたち5人がかりでもなかなかうまく狩れないって! せいぜい年に2、3頭だって! なんか難易度勝手に最高ランクまで上げられちゃってんですけど? このじじい、おれに恨みでもあんのかな? あんなに仕事手伝ってんのに恨んでんのかな?


 こん時おれにまとわりついてるシャーリーの頭なでてなかったらクールじゃいられなかったな。


 ま、村のみんなの生活壊してたら本末転倒だからやんないけどな! やんないけど!


 おれはおれなりにフォレボ対策立てるしかねぇーけどな!






 家に帰って、夕食済ませて、すぐに部屋で素振り開始。数値が見やすい位置にタッパを動かして、ただひたすらに木の枝トリプルオー・オリジンでカッターを繰り返す。木の枝トリプルオー・オリジンを振り回せるくらい部屋が広くてよかった。田舎サイコー! ド・イナカいいねぇー! 建物が当たり前のように広いからな!


 2段ベッドの2階から、姉ちゃんがなんだか優しげでありながらも上からの目線で、うんうんアインも男の子らしくなったね、みたいな感じの空気出してっけど、ガン無視してひたすら素振りしてたらいつの間にか寝てやんの。


 そんでおれはとことん素振り。


 そうして300回ぴったりで。


 おれは意識を失った。




 それは、おれが完璧にカッターの素振りができていたということでもあった。


 朝、床で寝るなって姉ちゃんに怒られて拳骨もらったけど。


 あれ、床じゃなくて地面だよな?
















リンネ:ねえお兄ちゃん~、『極大危険デンガラデンゲラテラデンジャラス』って何かな~?

レオン:・・・それは地獄級ダンジョン72階のフロアボスの隠された二つ名だ。

リンネ:(普通にしゃべるとおもしろくないから~、お兄ちゃんにはテキトーに中二っぽくなりそうなネタをふるといいね~、勝手に妄想で口が動くんだよ~)どんなモンスターなのかな~?

レオン:二種類の極大天候魔法を操る。轟雷雨デンガラと暴風雷デンゲラだ。あれは厳しい戦いだったな・・・。

リンネ:お兄ちゃんはすごいね~。

レオン:何を言ってるんだ、リンネ? あの戦いはリンネの回復が決め手だっだのに?

リンネ:(えええ~、わたしを中二に巻き込まないでほしいな~)ん~ 記憶にないな~?

レオン:ま、まさか、リンネは記憶を・・・・・・・・・・・・。

リンネ:お兄ちゃんはフリーズしたけど~、みなさん次回もお楽しみに~。あと~、↓↓↓↓の評価ポイントを「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしてください~! ぜひとも~、ぽちっとクリックを~! ブクマも~、感想も~、レビューも~、待ってます~! よろしくお願いします~!




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[良い点] 倒しやすいモンスターの住処が利権になってるのは見ない設定で面白い
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