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木の枝の伝説(19)



レオン:今日も質問からなのか?

リンネ:あ~、魔法スキルの単体型と範囲型の違いは何ですか~、って質問がきてたよ~。

レオン:単体型は敵一人・・・一匹? 一頭? に効果があり、そして必中。範囲型は指定範囲内の敵全てに効果がある。

リンネ:うんうん~、そうだね~。範囲型をもう少し詳しく~。

レオン:使用者正面の扇形状となる太陽神系範囲型攻撃魔法をのぞいて、他の系統は使用者の立ち位置からXm以内の指定した地点を中心とする半径Ymの円状に効果を発揮する。フレンドリーファイアには要注意だが、基本的にX>Yなので設定ミスがなければ問題はない。

リンネ:ダメージは~?

レオン:範囲型のダメージはその熟練度によって同等級の単体型の4分の1から2分の1となっている。

リンネ:なるほど~。お兄ちゃんのよくわかんない魔法講座でした~。

レオン:・・・ひどい。

リンネ:じゃあみなさん~、第19話も読んでみてね~!










 おれは先頭を歩いて、クソアスの狩場を離れる。


 おれの後ろにはバルドさん、ゼルハさん、キームさんが続く。


 大人の3人が並ぶと、後ろからは8歳のおれが見えないはずだ。


 おれはさっとすばやく、木の陰に入り、姿を隠す。


「頼むぞ、アイン……」


 歩きながらつぶやいたバルドさんの小さな声が風に消されていく。


 バルドさんたち3人は、そのままクソアスの狩場を離れて村へ帰っていく。


 おれは木の陰でタッパを確認する。


 『Around』の表示色は黄色だ。クソアスと戦っている間は赤で、倒してからしばらくは白のアラホワだったはず。


 ……黄色ってことはノンアクティブモンスター? いや、そもそもフィールドモンスターじゃないよな? ここはクソアスの狩場なワケだし……?


 バルドさんたちの背中がかなり小さくなった。


 もう何か起きたとしてもバルドさんたちを巻き込むような範囲ではない……と思うけど。


 おれは、隠れている木の右側に、身体を斜めに伸ばすようにして、頭と上半身の一部を出して後ろを見た。


 ……女の子?


 さっき白いドレスのスカートのような何かが見えていた木から、おそらく今のおれとまったく同じ姿勢でこっちを見ている女の子がいた。


 女の子がひょいっと木の陰に戻ったので、おれも慌てて木の陰に戻る。


 …………どう見ても女の子だったよな? 幼女……いや、微妙だな? 見た感じ、おれと同じくらいよりは小さいけど、幼女から少女に脱皮しかけの何か、くらいか? あ、いや、今そういうのはどうでもいいけどな! どうでもいいけども!


 でも、やっぱりタッパの表示色は黄色だよな? 一応、あの女の子がモンスター扱い? しかもノンアクティブ? 女の子とはいえ、人間型モンスターってことは…………えっと何だ? 何かいたっけな? レッサーバンパイアとか? でもあんなかわいい感じのアバターじゃなかったよな……。


 座敷童とかモンスター図鑑にあったっけ? いやいや、和装じゃねぇし? ドレスだったよな? そもそもゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』には和風のモンスターはいなかったような気がする?


 さっきのは見間違い……じゃねぇよな?


 おれは隠れている木の左側に、さっきと同じように顔をのぞかせた。


 またしてもおれと同じような姿勢でこっちを見ている白いドレスっぽい服を着た女の子と目が合った。


 ひょいっと木の陰に戻る。


 ……思わず戻ってしまった。


 今、完全に目が合ったよな? 女の子ってのは間違いないけど、ありゃ何モンスターだ? やっぱわかんねぇな……。


 再度タッパを確認するが、やっぱり表示色は黄色。


 タッパの表示の上ではノンアクティブモンスターであることに変化はない。


 …………ということは、現在、敵対的関係ではない、とも言えるわけだよな。


 ……ゲームだったらもう特攻かけてんだけどな。この女の子が呼び水になって面倒なモンスターが出てくるとか、ちょっとなあ? どうすっかな?


 バルドさんたちの背中はもう完全に見えない。


 これで絶対に巻き込むことはない。


 巻き込んではならない。なぜなら、こういう異変に対応できそうな人は、うちの村にはいない。


 ……かろうじておれならできるかも、か。というか、おれにしか対応できなさそうだもんな。


 タッパは黄色で変化なし。


 相手はまだ木の陰なんだろうと思う。


 おれは木の陰から飛び出して、女の子が隠れている木の方へと、たたたっ、たたたっと駆け出した。


 木の右側に顔を出してこっちをのぞいていた女の子が、あっと小さく叫んで目を見開く。


 そして、そこから慌てて逃げ出した。


 走るスピードは……あ、うん。おれの方が速いよな。でも下手に追いついてもな? こっちはペースを落として追いかけるとするか。


 確か、あっちの方はモンスターがいなかったしな。


 女の子との間に一定の距離をおいて追走する。


 女の子は一生懸命に逃げるが、そのままずっと等間隔でおれは追い続ける。


 ……なんか……ろくでもない状況と言えなくもない気がしてくるよな。


 幼女と少女のはざまにある尊い存在を追い詰めるように走る少年という名のケダモノ……みたいな?


 ……いやいやいや、おれ、そっち系はあんま興味はないんだけどさ? ロリとかショタとか? いや、そういう趣味を完全には否定しないけどな? でもフツーはそれはないよな? ないよな? え? そうでもない? まさか! おまわりさーん! あいつですーっ!


 そんなことを考えながら追いかけていると、女の子が木の根につまずいたのか、こてん、と転んだ。


 それはもう見事に転んだ。


 ドレスのスカートがぶわさぁっと一度ふくらんで、下着が見える。


 白くて膝の下くらいまで隠されているふわっとしたアレだ。かぼちゃパンツだな。ズロースだったっけな?


 あー、うん、知ってた。


 色気なんて微塵も感じないかぼパン。


 マジで色気ねぇよな。


 もうホントに色気ねぇし。


 パンツ見えた喜びが微塵もないパンツってある意味ですげぇな?


 うつぶせに転んだ女の子が寝返りを打って仰向けになり、両腕で上半身を起こす。


 そこにちょうどおれが追いつく状態になった。


 ドレスはけっこう汚れてしまったみたいだが、そこはまあしょうがない。


 注目ポイントは、おでこのはしっこ。


 ちっちゃいツノがある。


 いや、ツノはともかく。


 この子、かわいい。


 シャーリーとはまた違う感じで、美幼女? 美少女? どっちでもいいけど、かわいい子だな。


 ……いや、ツノはともかくじゃねぇよな。ツノ、大事だろ。


 ちっちゃくてもツノがあるってことは、鬼系統モンスター。しかも、緑の肌とかのゴブリンみたいなモンスターではないタイプ。けっこうな色白。美白の美幼少女。


 代表的な、魔族。


 人間型モンスターのうち、会話可能な存在のことをひっくるめて魔族と呼ぶけど、鬼系統でもゴブリンみたいなのはゲーム『レオン・ド・バラッドの伝説』の中では会話が成立しないので魔族ではなくただのモンスター扱いだ。


 この子の肌の色からすると、たぶん、会話はできるモンスターのタイプ……のはず。人間に近い要素があればあるほど、その可能性は高い。


 あくまでも、たぶん、だけどな。




「………………たとえ、どのようなはずかしめをうけようとも、わらわはニンゲンにはくっせぬ。どのようにはずかしめられようともいきのび、かならずやふくしゅうしニンゲンどもをほろぼしてくれるわ。さあ、ニンゲンをほろぼすかくごがあるのならば、わらわをいかようにもすきにするがよい」




 ……。


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 …………………………はっ!


 い、いかん。


 びっくりし過ぎて、いろいろとイケないものを妄そ……いや、想像してしまった!


 いやいやいやいや、ないないないない、あり得ねぇ。あり得ません!


 だっておれ、まだ第二次性徴きてねぇしな? 辱しめる? 無理ムリ。絶対ムリ。そもそも、この子みたいな、まだちっぱいとすら呼べねぇちっともふくらんでないおムネさまとか、ぽっこりおなかの幼児体型ぷにもちとか、全然まったくこれっぽっちも興味ねぇし…………ないからな? ないからっ! まったく予想してない想定外も想定外で宇宙の果てくらいのセリフを見た目美幼少女の口から不意打ちでぶつけられてしまってちょっと変な想像しちまっただけだからな! あくまでもあっちがきっかけを与えたから想像しちまっただけだからな! おれ自身の欲望ではない! ではないはず! ではないよな? な?


 ……いやいやいや、そんなことより!


 今、わらわ? わらわって言った?


 えっ? わらわキャラなの? 身分は上、みたいな?


 タッパ、タッパは……ええぇ? ここまでのどぎついセリフでまだ黄色? なんでだ? おれが攻撃してないからか? え? この場合の攻撃って、まさか? そっち系の攻撃なのか……?


「わらわをおそれてなにもできぬか、ちいさきニンゲン? ならばこのばをさるがよい」


 ……いやいや、おいおい、ちょっと待て。ちょっと待ちなさい。おいおい、小さいって、この子、おれとそんなに変わんないよな? というか、はっきり言って、おれの方がちょっと大きいくらいだし? それにこの子にはちっぱいすら存在しねぇしな?


 偉そうな口をきいてっけど、未だに転んで上半身だけを起こしたまんまだしな?




「とく、され!」




 疾く、去れ、かな?


 ……いや、意味はわかる。わかるけどな? わかるんだよ?


 会話できてる……いや、まだ会話してないけどな! してないけども!


 会話できたとしても、なんか、この子とは会話が成立しそうな気がしないんだけど? 難しい言葉を遣うからって意味じゃねぇからな? 言葉の意味は分かるから! 意味は分かるけども!


「…………とりあえず、立ったら?」


「そうやってわらわをはずかしめるつもりか?」


「え? なんで?」


「…………たてぬ」


「はい?」


「だから、たてぬ、といっておる」


「はあ?」


「こしが……ぬけておる……」


 ……腰が抜けた、のか? おれに追いかけられて? ビビッて逃げて? 木の根にひっかかってスッコロンで? そして、腰が抜けて立てぬ、と?


「……しょうがないなあ。はい」


 おれは、美幼少女にすっと手を伸ばす。


 美幼少女は一度目を見開き、それからすっと目を細めておれをにらむ。


「……そうやってゆびさきからじゅんにわらわのぜんしんをはずかしめるつもりか?」


 …………指先から順にどうやって全身を辱しめるんだ???


 そんなもん「ディー」の名を未だ持ち続けるおれには妄想でだって不可能に違いない! いや、興味はあるよ? 興味はあるけども! 知りたいと思う気持ちを止められないけども! 可能ならば手取り足取りどこかの美しいお姉さまに教えて頂きたいとも思うけども!


 そもそもなんでこの子は思考の根本が「辱しめる」なんだよっ!


 そんなに辱しめられたいのかっっ!


「そもそもいちいち辱しめるなんて言うけど、何をされると思ってんのさ?」


「それ、は……いや、そうやって、わらわをことばではずかしめようとしておるのか?」


「しねぇよっ! とにかく! 君に変なことなんかしないから!」


「うそいつわりなく、ほんとうか?」


「しないってば!」


「こころのなかでもか?」


「………………」


「わらわは! わらわはっ! もはやこのニンゲンのこころのなかでけがされ、もてあそばれ、はずかしめられておったのか!」


 美幼少女が自身の身体を両腕で守るように抱きしめて怯えたように叫ぶ。


「……いや、確かに、想像したよ? 想像はしたけどさ! しょうがないじゃん! だってそっちが何回も何回も辱しめるって連呼するから! 連呼したよな? してたよな? そりゃ頭ん中に浮かぶだろ! 浮かぶよな? そんなん止められるワケねぇし? 無理だって!」


 おれも負けじと叫ぶ。


「そのようにひらきなおるとはもはやゆるせぬ。わらわは、わらわはかならず、このうらみをはらし、ニンゲンどもをほろぼしてくれる……」


「待って! ちょっと待って! 何もしてないよな? おれ、いろいろと想像しただけで、実際には手も触れてないよな? なんで滅ぼすの!」


「このうらみはらさでおくべきか……」


「なんかおかしくない? ねえ? なんかおかしいよな? 人間のこと、恨み過ぎだろ? おれ、何もしてねぇのに?」


「おびえてにげるわらわをおいかけてきたではないか!」


「追いかけたよ! いや確かに追いかけたけども! そっちだって、おれたちの方をちらちらのぞき見しながら木の陰に隠れてたじゃねぇーか! ……っていうか、怯えてたのかよ?」


「いや、それは……」


「まあそこはもうどうでもいいや。でもさ~、ノゾキ行為は犯罪ですぅ~、いやらしいことなんですぅ~、いやらしいことやったのはそっちの方が先ですぅ~。先なんですぅ~。うんうん、そうだよな、おれは悪くないな! そういうことだ! うん、悪くない! 悪いのは犯罪であるノゾキ行為を行ったそっちだな! よし、決定!」


 おれは勢いで「決定! 決定! 決定!」と叫んで指差し、美幼少女を言い負かしてみようと試みる。


「う~…………」


 美幼少女が目に涙をためてうるっとなっとる! うるっとなっとる!


 いかん!


 やりすぎたっ!


 泣かしたら負け! 泣かしたら負けだ! 女子を泣かした男子はもはや一方的に先生から怒られると相場が決まってる! まずいっ!


「と、とにかく、そういうワケだから、お互い様ってことで、許し合おうよ、ね? ね?」


「う~……」


「な、泣き止もう? 泣き止んだら、君のノゾキ行為については誰にも言わない。一生言わない。絶対に言わないから、ね? ね?」


「……くぅ」


 ……おおお、美幼少女が懸命に涙をこらえておられるではないか。


 尊い。尊いぞ、みなさん! なぜか尊さを感じる! なぜだ?


 歯を食いしばって、涙をこらえておられる。


 一人称わらわの美幼少女が!


 イイ……。


 なんかイイな? シャーリーとは違った良さがある!


「……そなた、ぜったいにいわぬ、とちかえるか?」


「誓う誓う! もう誓うよ! 絶対に言わないって誓いますとも! 泣きそうになったことも誰にも言わないから!」


「な、なきそうになどなっておらぬ!」


「あー、はいはい、そうだねぇ~。泣いてなんかないよねぇ~、うんうん」


「わらわはないておらぬからの!」


「うんうん、わかったわかった……って、あれ?」


 その時、タッパに赤い光が見えた。


 ……なんで? 今、若い二人は和解したよな? それなのになんで今は赤?


 どう見ても『Around』の表示色はやっぱり赤だ。ついさっきまで黄色だったのは間違いない。


 どちらかといえば、さっきまでの会話の方がいつ赤くなってもおかしくない感じがしたのに?


 何が起きてる?


 どう考えても、やっかいごととしか思えねぇんだけどな?


 で……この子のせいで赤くなったんじゃねぇと、考える、と?


 おれは顔を上げて、周囲を確認する。


 おれの行動にびくっと身体を動かした美幼少女が頭を動かしておれがしたように周囲を確認していく。


 風とは少し異なる音が聞こえる。


 ザザザ、ザザザ、ザザザという、何か、たくさんの何かが動く音が聞こえた。




 タッパの表示が赤である以上、逃げるか戦うか、二つにひとつ。




 ……ま、腰を抜かして動けない女の子がいるのに、逃げるって選択肢は、ないな。




 おれはちらり、と美幼少女を見て、それから前を向き直った。




 …………覚悟はしてたけど、やっぱ、逃げときゃよかったかもな。
















レオン:・・・魔族の美少女? がヒロイン? なのか?

リンネ:幼女と少女の境目だってアインさんは強調してたね~。

レオン:・・・問題は幼女か少女かではないのだが?

リンネ:え~? お兄ちゃんは魔族差別主義者なの~?

レオン:魔族は敵・・・のはずなんだが・・・。

リンネ:それはそうだけどね~。みなさん~、次回もお楽しみに~!

レオン:ではみなさん、↓↓↓↓の評価ポイントを「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしていただけたら! ぜひとも、ぽちっとクリックを! ブクマも、感想も、レビューも、待ってますから! よろしくお願いします!





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[良い点] ボーイミーツガールは鉄板で尊い。 幼なじみと姉の保険も手堅い。やるなぁ
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