入部
念願叶っての小説投稿です。
とりあえず頑張っています。
春。
初めて袖を通す制服に胸を弾ませ、桜散る校門を通る。体育館の中に張り出された紙を見て、クラスを確認する。周りでは友達と同じクラスではしゃぐ同級生。
教室にも廊下にも、知った顔はない。話しかけてくる人も、こちらを見る人も、いない。
そう思っていた。
「はじめましてー。どこ小の人?」
驚いて横を見ると、細身の男子がニコニコ笑っていた。話しかけてもらえた喜びと、何か言わなくちゃと言う焦りが混ざる。
「・・・北小。でも、色々あって一回も学校行ってない。君は?」
「俺は神咲小。小柳春翔が名前。そっちは」
「宮藤幸音。・・・よろしく?」
「嫌なんで疑問形?」
この出会いが、私の暗い人生を変えたのだった。
部活。
憧れだったのに、私は入学二週間にしてどこにも体験に行けていない。誘ってくれる子もいないし、まずできるものが少なすぎた。入れるのは文化部のみ。しかし、わざわざ部活に入ってまで極めたい文化的趣味もなかった。趣味といえば、病室で極めたゲームしかない。けれど、高校でもないのにゲーム部だの同好会だのがあるはずがない。
「へぇ〜?宮藤ゲーム好きなんだ?何やってるの?」
入学して唯一私語を交わしている小柳と、気づけばべったりになった。他に友達もいないし、ありがたいかぎりだ。
「んー・・・RPGとか。シューティングもリズゲーもパズルも好きだよ。うまいかはわからないけどね。ランキングもたまに上位入りするし、今までの時間のほとんどを費やしてるなぁ」
「対戦は?バトル系やる?」
「やるやるー。でも本人目の前にしてはやらないから、多少のタイムラグがあってそんなに得意じゃないな」
「女子なのに、いいね。女子とこうゆう系の話ししたことないから意外だわ。・・・そういえば部活決めた?体験来週で終わるけど」
嫌な話が始まった。
「・・・うーん。決めちゃいたいんだけどね。なかなか」
「じゃあさ、ゲーム好きなんだし、IT部に行くといいんじゃん?あそこオタクの溜まり場らしいよ。俺もそこにしようかなと思って体験行ったら、気の合う先輩結構いてさあ。女子の先輩もいたよ」
オタクの溜まり場。女子の先輩。小柳の入部先。
「・・・そこ、活動何してるの?」
「知ってるかな・・・?・・・ロボコンやってるんだって。」
ロボットコンテスト、通称ロボコン。毎年冬に日本中のロボットマニアをわかせる、学生のロボットバトルだ。NHKロボコン、高専ロボコン、中学生ロボコンが存在し、ルールやテーマは毎年春頃発表される。
創造アイディアロボットコンテスト全国中学生大会、中学生ロボコンの場合、いくつかの部門に分けられており、部門ごとにルールやロボットの規格、台数も変わってくる。また、高専や大学とは違い、年によって粘着物や空気圧の使用は禁止され、部門によっては無線機の使用も禁止。テレビ中継もないし、とてもじゃないが、他の二つのように知名度があるとはいえないものだった。
もちろん、私も小柳からロボコンと聞いても「は?」という返ししかできなかった。そういうと思ったと言われて、小柳に説明されても全く理解できなかった。しかし、ロボットを作るのは楽しそうではあったし、百聞は一見にしかず、体験しに行くことにした。
着いたのは、随分奥まったところにある技術室。ドアもスライド式ではなく、窓もついていない。第一印象は「得体が知れない」だった。
「しつれいしまぁす」
暢気な声を出しながら、小柳がドアを開けた。
技術室はかなり広かった。普通の教室の二倍ほどある。小学校の図工室を連想させる木製の大きなテーブルが九個並べられ、後ろには色々な機械が置いてあった。横の棚には工具が乱雑に並べられている。生徒は二十人ほどいたが、女子は二人しかいなかった。その中の一人がこちらにくる。
「おっ、小柳来たね。あー・・・君は体験?」
背の高い男子の先輩に聞かれ、少し戸惑ってから答える。
「体験です。二組の宮藤と言います・・・」
「そう。初だよね?じゃあ、あの先輩のとこ行って。バッグ適当にロッカーに突っ込んでね。小柳は東んとこね。・・・五十嵐ぃ!その子よろしく」
呼ばれた先輩がこちらを振り返る。ショートカットの女子の先輩で少し安心した。そちらに走って行き、先輩に会釈する。
「やったあ、女子の後輩ゲットー!二年の五十嵐だよ、よろしく」
「宮藤です。よろしくお願いします」
五十嵐先輩が弾けるような笑みを向けてくれた。そっと後ろを見ると、小柳は違う先輩と一緒に何かをしていた。
「んじゃあ、部活の説明ざっと説明します。ここの活動内容知ってる?」
「ロボコンに出ているんですよね?クラスメイトから教えてもらいました」
「流石。一応ロボコンについて詳しく説明するね。うちの学校は、毎年中学生ロボコンの応用、活用、基礎の三つの部門に出場してて、大体応用は五人か四人、活用は四人か三人、基礎は二人でチームを組んでる。人数と競技の難易度が比例してると考えていいよ。ロボコンは参加チームがめちゃくちゃ少ないから、県大会からスタートして、ブロック大会、全国大会で終了。ロボコンの競技内容は、大体何かを運ぶ系。運んで、ビンゴ作ったり、相手のロボットの邪魔したり。コートがあって、多くの部門だと真ん中にしきりがあって、ロボットは自分陣地からでちゃダメ。相手のロボットとの接触もアウト。ここまでは大体OK?」
「・・・何とか」
「ふふ、わかった。じゃあ続きはまた来てくれたらにしよっか。今日は工具の使い方説明するよ」
「あ、はい」
そこにいてと言ってから、五十嵐先輩が棚の方に走っていった。平べったい箱を手に戻ってくる。
「はい、これ。見たことはあるよね?」
箱には蓋がなく、型取りされたスポンジの中に工具が七本入っていた。どれも見たことはあるけど名前は知らないものばかりだ。答えに迷っていると、五十嵐先輩が気を遣って話を進めてくれた。
「右から順に、モンキーレンチ、ドライバー、ソケットドライバー、ニッパー、ラジオペンチ、ペンチ、カッター。モンキーレンチはボルトを締めるもの、ドライバーは知ってるよね。ソケットドライバーはナットをはめて締めるの。ニッパーはコードを切る物、ペンチは先っちょで物をねじったり加工して、付け根で切断。カッターもいいよね?何か質問は?」
「あー・・・・・・」
「まあ、使ってれば慣れてくる。大丈夫、部長いまだにレンチとペンチ覚えてないから」
「へえ・・・部長ってどの人ですか?」
五十嵐先輩が指をさす。
「あいつ。川崎裕翔」
見ると、さっき話した男子の先輩が笑いながら体験の生徒を捌いていた。本当に男子しかこない。五十嵐先輩ともう一人の先輩がいてくれて良かった。
「因みに、ロボコン期間外はほとんどゲームしてるよ」
予想外の情報に驚く。
「本当だよ。流石にスマホは持ってこれないからパソコンだけどね。3Dサバイバルゲームとか、リズゲーとかをやるの。会員登録しちゃダメだし過激なのできないからそんなに面白くないけどね。ゲームは好き?」
「はいっ」
「ならきっとここ楽しいよ。保証する」
その一言で、私の気持ちは決まったも同然だった。
家に着き、駆け足で二階に駆け上がる。すぐに息が切れたが気にせず自分の部屋に入った。バックを置き、中から一枚のプリントを取り出す。入部届だ。既に部活名と入部希望者名とクラスは書いてある。後は親に相談し、印をもらうだけだ。
しかし、問題はそこだった。親の許可が下りるかどうか、全く予想がつかない。運動部ではないから全く問題はないと思うが、部活動自体に反対の可能性もある。受験のために塾に入れられたら多分入れないだろうし、もしかしたら病院の先生に禁止されるかもしれない。
それでも、入りたい。
プリントを新品の机に置いてから、部屋を出てリビングに向かう。リビングでは母さんがパソコンを使っていた。レコーダーが横にあるため、仕事中だろう。
「母さん、今いい?」
「んー?何、急ぎじゃないなら後にして」
手を止めずに冷たくそう言われる。いつものことだが、ある程度話せば止めずに聞いてくれるのもいつものことだった。
「実は部活に入りたいんだけど」
手が止まった。少し迷っているような間が空いた。
「・・・何部?」
「IT部。ロボコンっていう大会に出るの。みんなでロボット作って、得点稼いで全国目指す部活」
「ロボコン・・・あぁ、あれ中学生のもあるの」
「ロボコン知ってるの?」
「一応。何度か手伝いで記事を書いたから。・・・ロボコンねぇ。体験には行ったの?」
ようやくこちらに向かい直った。
「行ったよ」
「女子の部員、少なかったでしょう。小学校に行ってればまだいいかもしれないけれど、あなた男子しかいない中で上手くやっていける自信あるの?」
「・・・女子部員だって二人いたよ」
母さんが人に聞かせるためのため息を吐いた。呆れているのではないことぐらい分かった。
「その二人と同じチームになるの?絶対に?同じになれたとしても、その二人と仲が悪くなったら?悪いけど何があっても辞めない部活にしか入れる気は無いわよ。入ったらどれだけ泣いても辞めさせないからね」
「・・・辞めない。絶対。約束する」
「それに、入ったらいろんな人から好奇の目で見られる。元々小学校にも来ず、体育には参加しないし、女子のくせにゲームやらロボットやらが好きで、いっつも男子とばかりつるんでいる。オタクという烙印が押されたら女子は生きにくいわよ。いじめられはしないかもしれないけれど、嫌味は言われるだろうし友達もできないかもしれない。そこまでちゃんと考えてる?」
「考えたよ。考えて言ってるの。友達できないっていうけど、私既に友達はいるし、母さんの言ってるような友達は欲しく無いから。女子がこう、男子がこうとか言ってるような人、好きになれる気がしない」
睨まれたので睨み返すと、諦めたように首を振った。パソコンに向き直る。
「好きにすればいいんじゃない。父さんがなんて言うかはわからないけどね。少なくとも私は印鑑を押さないから」
回れ右をしてリビングを出る。階段を今度は一段飛ばしで駆け上がり、部屋に戻った。ベットにダイブし、少しジタバタしてみる。予想範囲以内の結果となったが、それでもすごくイライラした。昔は二人の言うことに反抗しようとしたことないのに。これが反抗期だろうか。
一時間ほどゲームをしていると、玄関からドアの開く音がした。父さんが帰ってきた。すぐに部活について言おうと思ったが、やめた。いわなくてもどうせ母さんから説明してくれるだろう。わざわざこっちから言ってまたイライラする必要はない。
しばらくしてドアに誰かがノックをした。
「はぁい」
「はいるぞー」
父さんがスーツのまま入ってきた。ニヤニヤしている。机の上にあるプリントを見て、さらに口角が上がった。近くの椅子を引き寄せて座った。
「母さんとやりあったんだって?」
「別に・・・」
「俺はいいと思うぞ、ロボコン。昔はそういうのなかったからなあ、少し羨ましいよ。母さんは女子が男子がって色々言ったらしいけど、文明や技術に性別関係ないもんな。本当にやりたいんなら俺は協力するし応援する」
嬉しさが喉のあたりから全身に流れ、それは声になった。
「いやったああああ!ありがとう父さんっ。じゃあ早速そこに捺印して」
「はいはい」
父さんが印鑑を持ってきて、入部届の上に強く押し当てる。すぐにそれをカバンにしまい、父さんにありったけの感謝を込めてありがとうを言う。どういたしましてと言って、父さんは部屋を出て行った。
「おお、宮藤さんいらっしゃい!」
「こんにちわ先輩。あ、これお願いします」
最後の体験入部の日、そう言って五十嵐先輩に入部届けを差し出すと、頭をわしゃわしゃと撫でられた。なんで撫でられたかは不明だが、とりあえず嬉しかった。
「ようこそ、IT部へ!宮藤さんの入部を歓迎しますっ!」
ロボコンを小説にしたかったので、書けてとても嬉しいです。
ぜひ多くの人にロボコンを知ってもらいたいなあ。
創造アイディアロボットコンテスト全国中学生大会、通称中学生ロボコンは、私の中学生時代のいい青春でした。先輩後輩同級生との関係に悩んで、技術を磨いて、何とか全国に出ようと毎日頑張って。あの日々を多くの人に体験してもらいたいです。