6品目 とある酒場でWho are you?
今回長く書きました。
評価下さい。
「はぁ。でれた〜」
ん〜と背伸びをし、久しぶりの陽の暖かさに元気がみなぎってくる。
長い長いトンネルを抜け青々と陽光に照らされる山々の景色に身体と心が癒される。
美しい自然は様々な苦難に耐えた旅人に美しい景色を見せてその苦難に傷んだ身体を労る。
旅人は様々な苦難の末に手にいれた自然の優しさにふれ、また頑張ろうと新たな目標に向かってまた歩きだす。
それが旅の醍醐味であり人が旅人に憧れる本当の理由なのだ。
後ろでげっそりしていたフェルミも、疲れた身体に自然の優しさが染み渡り、だんだん精気が蘇って健康的な肌に元通り。
ただ、彼女がげっそりと窶れていた理由は旅人が背負うそれとまったく違っていたが。
ディバ曰く
「ミルキーワーム……嫌ミルキーワーム嫌………」と、かすれた声が後ろからトンネルを出るまで延々と続いて怖かったらしい。
ミルキーワーム料理はしばらく食べられないわねーとディバは溜め息をはくと、彼女がいる間はミルキーワーム料理を封印すること心に硬く誓った。
「こ…ここはどの辺りだ?」
とてつもなく長いベリーベルトンネルを走破し、様々な魔物の巣と成り果てたトンネル内での大立ち回り、更に心の暴力とも言えるほどにダメージを受け、ショッキングだったミルキーワームの正体とそれオンリーの食事。
流石に苦労に苦労を重ね、苦労漬けとなった身体には自然の優しさでも回復仕切れなかったのか、少し言葉がこもってしまうフェルミ。
そんなフェルミの姿を見て笑ってしまいそうになるが、笑ったら後が怖い。
すかさず笑いかけた顔を誤魔化すために地図を広げる。
「ん〜…っとね。ここはベリーベルトンネル5番出口だから……イナテウ領とハヤエム領の間よ。もっと詳しく言うならフォーラム山脈の真ん中らへんね」
「もうザフキエル領とイナテウ領を越えたのか?余り実感がなかったが」
「いいところに気が付いた!それには二つ理由があるの。一つはトンネル内に外の光が全然差さないこと。トンネルには魔力ランプが等間隔に並んでいるからとても明るいわ。でもそのせいで身体の体内時計が狂ってしまうのよ。そのまま朝も夜もわからない空間を延々と歩き続けることで意図せずに寝る時間を短縮することに成功したわけ。まあ、身体が壊れるのも時間の問題だったけどね」
「オイッ!」
自分たちがやばい状況になりかけていたことにツッコミを入れる。
「まあまあ、怒らないでよ。で、もうひとつの理由はね。ザフキエル領とハヤエム領の間にイナテウ領の領地の細長ーいはしっこが食い込んでいることなの。イナテウ領のはしっこは2キロメートルしかないから、ザフキエル領からハヤエム領へはすぐ行けるのよ。ついでに言っとくけどもうすぐ街が見えるから安心してね」
「本当か!!!!!!」
「嬉しくって涙が出るくらい本当よ。ベリーベルトンネルに比べたら楽だし。あの山を2つ越えたところにある国境の街よ。いざいかん。スラヤンの街へ!!」
この言葉の後、フェルミの目の前は真っ白になった。ついでに別の意味で涙が止まらなかった様だった。
「ふぁぁ。疲れた。眠いわ」
ふかふかのベッドの上に寝転がる。フェルミは我先にとベッドに潜り込みすでに寝息をたてていた。
ベリーベルトンネルでは一週間まるまる寝ずに歩きとおしたため溜まった疲労がどっと溢れたのだろう。
それに彼女は一応王女さま。ここまで過酷な旅に慣れていないのかもしれない。
実はディバはベリーベルトンネル内での時間の経過を把握していた(胸の谷間に懐中時計がしまってある)がトンネル内のランプの灯りのため魔物は光に対し耐性が出来ていた。
光に耐性が出来た魔物には松明など無意味だと知っていた彼女はトンネル内で寝るのは危険だと判断し、歩き続けることを選択したのだった。
その甲斐があって本来なら二週間かかるはずの道を一週間で抜けることが出来た。
この余った一週間は王都への道のりの貴重な貯金となるとディバは確信する。
脱衣室で汚くなった服を旧文明の遺産である“洗濯機”なる物へ入れ、慣れた手付きで操作する。
ウィン!ウィン!ウィン!ウィン!
と動作したのを確認し屋台から引っ張り出してきたスポーツバッグから新たな服を取り出し、着替え始める。
シュルシュル…と布が擦れ、新しく出した服を大切に着込んでいく。
シュルリ…と服を整え、脱衣室から出てくる。
一見誰か分からなくなるほどに見違える。
美しい…五人に一人はそう呟くほどの美麗さ。
屋台で料理をする彼女とはまた違った可憐さが溢れている。
一週間という長い旅の間にボサボサになった長髪はストレートに整えられ、服は赤を基本色とし戦闘に支障がないように肩部と脚部にスリットがはいったデザインの神官服。
極度に抑えられた化粧は神官服が醸し出す神聖さに妖艶さをプラスさせ、
麗人としての格を底上げしている。
「…やばい。ちょっときついかな?」
しかし、本人はちょっとだけ焦っていた。
どんなに美しくても、細かくダメ出しをすることが華麗さを維持する秘訣。
きつくなったのは胸周りだったのだがそこら辺、乙女心は複雑なのだ。
それから一時間ずっと身だしなみやスタイルバランスを調整し続けていた。
バーリトィの酒場はいつも様々な人種で溢れている。
真ん中の5番テーブルで宴会してるのは普通の町人だったり、旅の疲れをものともせず久しぶりの酒やまともな料理をこれでもかとジャンジャン頼む冒険者一行の座る7番テーブル。
9番テーブルには山賊っぽい人たちが我が物顔で酒を食らい、その隣の13番テーブルの傭兵ギルドの皆さんは怒りの視線を向けていた。騒ぐのは構わないが店を壊さないでほしいなと思う今日この頃。
ケンカ御法度と書いた貼り紙を貼ったのに無駄みたいだ。
ていうかケンカで壊れたものは店の責任じゃないじゃんか!
保険下りろよ!ケンカした奴、修繕費払えよコノヤローーーー!!!!!
ハアハア…。
とりあえず自己紹介だね。
私はドレイク。
バーリトィ酒場の親父さ。
でも見た目も実年齢も12歳のなんだよね私。
まあ、それがウケて酒場に足を運んで来る人が多くなったんだからバンバンザイさ。
一部の人にはなめられてるけどね。
文句?言わないよ。
だって怖いからね。
殴られたら嫌だもん。
…師匠だったら殺るかも知れないけどね。
だって料理に命賭けて旅までしちゃうんだもん。
さっすが師匠、料理人の鏡だね。
そのうち
「行くぞ、ドレイク。気を合わせるのだ!」
「はい!師匠」「二人お鍋が真っ赤に燃える」
「具材(の味)を掴めと轟叫ぶ」
『中華!!!究極!!!!広東メーン!!!!!!!』
みたいな感じで某〇武闘伝っぽくキアイダマとかツーハイケンとかで師匠とのコラボをやってみたいなと思う今日この頃。
「何見てんだよ。ゴラァ!」
ガシャン!
ノオオオオォォォ…。
先週買ったばっかの皿があああぁぁぁぁ。
ヤバいよ。気付いたら山賊たちと傭兵たちがケンカしてる。
これじゃあ、店が壊れてしまう。
「みんな。貼り紙見て。貼り紙!」
私の声にみんなが私の後ろの貼り紙に視線を合わせる。
貼り紙には
ケンカ御法度だぜ。ビッチども。
と書いてある。
きっとケンカも止まるよね。
「てめえ。ふざけてんじゃねぇぞ。ガキ」
「店主。仲裁する気があるなら口で言え。まぁ言われたところでケンカを売られたんだ。やめるつもりはないがな」
はい止まりませんでした。
しかもさっきより酷くなって…。
ガシャン!
パリーン!
バキバキ!
あぁ…店が…店が…壊れていく……修理費がかさんでいくよぅ。
助けを求めようにも5番テーブルの皆さんはケンカをネタにトトカルチョやってるし、7番テーブルの冒険者一行は仲間の一人が酒にやられて倒れたのでそちらを見ているご様子。
一人でもいいから誰か助けてよ。
て5番テーブルの人たちケンカを煽るな。
「って、うわぁ」
危ないよ。
魔法が飛んできたよ。
しかも火属性だし。
普通より弱めだけど火属性だしー!
店が燃えるー!
ギィィィ
そんな中一人の女性が修羅場な酒場に入ってきた。
その女性はまだ20に満たない容姿で赤を基本色とした戦闘用にあしらわれた神官服を来ていた。
彼女はケンカを気にも留めずに私がいるバーカウンターまで歩いてくる。
私は彼女を知っている。
私の酒場が軌道に乗るまで一生懸命手伝ってくれたひとだ。
件の彼女は私の目の前に座るとこう一言。
「ウォッカをショットグラスでお願いねドレイク」
「はい、師匠」
久しぶりに会った師匠はまた一段と美しくなっていた。
「ふう。やっぱり強いお酒は良いわねぇ」
彼女、ディバイン・グローリーは酒場の中で浮いていた。彼女が来た時にはすでにケンカが起こっていたのに堂々とバーカウンターの親父の前に座る。
ケンカなど気にも留めず、何事も起こってないかのように親父に酒を注文。
そのまま酒盛りを始めてしまった。
「師匠、あれ止めてくれません?」
酒場の親父に見えない親父ドレイクは彼女に頼むが
「いいの。ここは酒場でしょ?酒を飲んで、ケンカして、はっちゃける場所なんだから。気にしないの」
酒場の親父たちが聞いたら怒りだすだろう台詞にドレイクは顔をひきつらせる。
「私の酒場はケンカ厳禁なんですけど」
「ああいうのは関わらない方が身のためよ。ああいう奴等に関わると結構な確率でドデカイ犯罪やトラブルに巻き込まれるのよ。経験上ね。それにナントカのケンカは犬も喰わないって言うじゃない」
「でも私の酒場が壊されて……」
「私もお金出してあげるから…ねっ。バカにはさわらぬが吉よ」
「…師匠。完っっ全に他人事ですね」
バーカウンターでの会話はのほほんとかほんわかとかそんな空気がただよい中。
9番テーブルと13番テーブルの殺伐とした空気に負けた人たちが安らぎを求めてやって来る。
一人また一人とカウンターに座っていき、席がなくなっても近くから椅子を持ってきてカウンター近くに座る。
しかもケンカが視界に入らないように座っているからすごい。
7番テーブルの冒険者一行もカウンター近くに避難してきている。
倒れた仲間が巻き込まれないように配慮したのだろう。
酒場は大抵はとてもカオスな空間だ。
酒が入り、酔いつぶれ、自分の知らぬ間に自分自身をさらけ出していく。
周り人はそれ理解し差別し共感し怒り号泣しそして笑い飛ばす。
様々な感情が介入しお互いの秘密が混沌のように渦巻く。
しかし、バーリトィ酒場は別の意味でカオスだ。
どうしてカオスなのかは誰もわからない。
でも確実に
あれ?この酒場メチャクチャカオスじゃね?
的な空気が漂っている。
全体的にカオスなのか際どいところがカオスなのかそれは作者にもわからないがカオスだ。
「おい、そこなネーチャンよう」
割れた酒瓶を持った大柄の男がディバに近づいてくる。
「はい、なんでしょうか?」
屋台で培った営業スマイルと敬語とで彼の方を向く。
男の顔は山賊っぽい顔をしていた。
ぐしゃぐしゃの痛んだ髪。
無造作に伸びまくりの無精髭。
ゴツゴツした顔を縦横無尽にはしる刃物傷。
ぼろっぼろの衣服に長い間研がれてはいないだろうトマホーク。
と、もろ見た目山賊。
ディバはケンカしてる方に目を向けると大柄の男と同じ山賊ルックがいたため、ちょっと警戒をする。
「おいネーチャンよう。そんなに警戒すんなよ。別に取って食おうっつうわけじゃねえからよう」
「それでは、何をご所望なのですか?」
笑顔と敬語を崩さず質問する。
「いや何、ちょっくら応援してぇのよ。あの傭兵ども意外につよくてよ。ちいとばかし劣勢でな。何、俺と美人のアンタが元気に声上げて応援すりゃあ。うちらだけとも言わず酒場の男はみぃんな元気になっちまうだろうよ」
下品な笑いを浮かべディバのグラスをひったくりウォッカを飲み干す。
けれどディバは気にしない。
なぜならこの男の根底に有るものが見えていたから。
応援と称し麗しい女の肢体を弄くるのがこの男目的。
「私は酒をのみにきたの。遠慮しておくわ」
ディバは他人に身体を弄くらせるつもりは毛頭なく。
しっかりと拒絶の意思を告げる。
しかし男はこんな上玉を諦めきれず“応援”に協力して貰おうと
「応援手伝ってくれよ。きっとイイコトがあるぜ。あんたにとっても身体にとってもな」
胸をわしづかんだ。
ドレイクや近くの客は凍りつく。
もちろん男も凍りつく。
ディバからものすごい殺気が溢れ
「な…ゴフゥ」
刹那、男放物線を描きちょうどケンカ現場に落ちた。
あまりに突然のことでケンカをしていた山賊ルックと傭兵はケンカをやめ、男が飛んできた先を見る。
其処にはキックしたため左脚を右上に上げたディバがいた。
「なっ神官が!?」
傭兵たちは驚いていた。
飛んできた男は大柄で少なくとも体重90キロは越えてそうだ。
その大男を目の前の神官服を着た女性が蹴り飛ばしたのだ。
普通神官は近接戦闘はおこなわず、神の力を借り神子之加護と呼ばれる神通力を使い戦う対魔戦闘のスペシャリスト達だ。
しかし、あの女性神官は神子之加護も使わずに蹴り一撃で男蹴り飛ばした。
その以上さと彼女の得たいのしれなさに傭兵たちは恐怖し戦慄した。
「コノアマァァァァァァアァァアアァ」
傭兵たちは戦場で鍛えた第六感により危険を感じていたが、弱き者から搾取するだけの山賊の格好の輩はそんなもの感じない。
「何してやがるこのアマ」
山賊ルックの一人がディバに対し捲し立てる。
他の山賊ルックは倒れた男に集まり
「兄者しっかりしろ。兄者ぁぁぁぁぁ」
「ラムサス戻ってこい。ソッチはダメだ!」
「ひでぇ。顎砕けてるよ。ひでぇ」
必死に介抱していた。
そんな山賊ルックにディバは喧嘩腰に告げる。
「人の胸を触った罰だ山賊」
その言葉に山賊はキレる。
「む…胸触っただけで顎を蹴り砕くのかよ」
「触るだけじゃなくもんだのよ。こいつ」
「知るか。胸なんか飾りです。偉い人にはそれが分からんのです!!!!」
「お前のほうがワケわからないわよ!」
ゴスッ
とディバは数多の女性が気にしていることを飾りと称した男に鉄拳制裁を下す。
それをかわぎりに残りの山賊たちも突っ込んで来たため、構えをとる。
「栄光戦闘技巧」
いや、構えといって良いのだろうか。
ただ、普通に立っているだけ。
そのまま右足を軸にまわしげりを放つ。
しかし山賊たちは射程外なため、あたらない。
代わりに横に一閃、光の軌跡が出来ていた。
ディバは蹴りの勢いを殺さずに軌跡に交わるよう踵落とし。
空中に綺麗な十字架ができる。
また、回転を殺さずに身体を回し十字架の中心に蹴りを放つ。
ディバの蹴りで撃ち抜かれた十字架は銀色の衝撃波となって山賊を飲み込んでいった。
「銀十字衝脚」
それが彼女の放った技の名前だった。
みんなが驚く中一人だけ冷静な人が一人いた。
7番テーブルにいた冒険者一行の一人だ。
その人はディバに近寄り一番気になった事柄を質問する。
そう、貴女は何者です? という質問を。
評価下さい。