一品目 命を救う梅肉炒飯
題名の意味が解ると思います。
暗闇の中で私は息を潜める。今まで走ってきた分の疲労がどっと流れて髪から汗が滴り着衣が濡れる。ビショビショになったドレスが気持ち悪い。直ぐにでも着替えたい気分だが、
「あの姫は居たか」
「いや、宮にはいなかった」
自分を狙う追っ手がいるため動くに動けない。
私を狙う者は命だけでなく身体も狙っている節があり、余計捕まりたくないという気持ちが高ぶり焦りそうなのを必死に抑える。
追っ手はあさっての方向向いているため、私は音を起てぬようその場を離れることにした。追っ手が見えなくなったところで私はまた走り出す。休憩を挟んでいるとはいえ、こう走り続けていると息が苦しくなる。楽になりたい。でも楽になってしまえば二度と走れなくなるかも知れない。そうなったが最後、死を待つのみだ。こんなことになるなら親に内緒で離宮に来るんじゃなかったと後悔する。
まさか刺客が二十何人も束になって襲って来るなど思いもよらなかったのだ。兵も侍女もみんな殺され、私は侍女の機転により逃げることができた。殺されるわけにはいかない。もし殺されたら犠牲になった侍女に申し訳がたたない。だから私は走る。枝で切った手の痛みを、追われる恐怖を飲み込み走り続ける。
根を飛び越え、枝の上を疾駆する。しかし音は起たない。
「くっ ここも・・」だめだった。姫にとっては予想外に違いない。まさか包囲網がこんなところまで迫っているとは、まるで出口のない迷路を走り続けるような感覚に嫌悪感を覚える。
「あれ?」
出口のない迷路?
このフレーズが頭から離れない。
その時彼女の頭の中で一つの推測がよぎった。
「遊ばれているのか?」
「ゲハハっお姫さん気付きやがったか」
ジェインは下品に笑う。先ほど連絡が彼を楽しくしていたからだ。「フェルムアーデが我らの遊びに気付いた模様」
この連絡を受けたとき思った。気付いた姫はプライドが壊れ絶望し悲愴な面をしていることだろう。考えただけでも笑いが止まらない。
「もっと追い立てろ。この世の地獄を見せつけろ」
心が壊れるまでな と姫にとって残酷なことになるだろう命令を部下に下し、自身は壊れた姫を更に絶望させてから殺す為に笑いながら姫の追い立てに歩き出した。
フェルムアーデはまだ走っていた。それも楽しそうに
「フフ ウフフフ 」
遂には笑い始めてしまう。笑い方は普通なのに笑っている顔がなんかこう放送禁止コードに引っ掛かりそうな黒い笑顔だった。
「遊びならフフ 余計に負けられないな」
フェルムアーデ・C・セントブラッド
セントブラッド王国の第三王女
彼女は第三王女ゆえに家督を継ぐことができない。しかし、王妃の愛情を一身に受けた為フェルムアーデは母の為により一層勉学や稽古に励み遂には密偵隊長の任を(一時的にではあるが)賜る程の腕をもつ。が自らが生きた15年のほとんどを勉学や稽古に使ってしまい、遊びに耐性がなく遊び始めてしまうと止まらなくなってしまうため彼女には遊び禁止令が出ている。そんな彼女にジェインは“遊び”を実行し遊ばれているフェルムアーデは遊びに気付いた。
多少、彼女の中で葛藤があったようだが遊んで良いだろ的な考えに達し今の状態に入ってしまったのだ。
「ジェインさん四班がやられました」
「なにぃ!」
どうゆうことだぁ?ジェインは訳が分からなかった。追い詰めていたのは此方のはずだろ?不精ヒゲをいじりながら考える。姫さん遊ばれていたことに絶望したはずだ。現に膝を抱え顔を伏せていたという連絡を受けている。何故?
「ジェインさん」
一人が声を張り上げジェインを呼ぶ。ジェインがああ?とそちらを向くと恐怖に取り付かれた団員が叫んだ。
「何ですかあの姫は!初めは逃げ回っていたのに今は逆にこちらがヤられてる!逃げるのを楽しんでいたという報告もある!もしかしたら遊んでいる俺たちが遊ばれていた可能性も!!?」
彼はそれ以上喋れなかった。何故なら彼は唐竹に割られて絶命していたからだ。ジェインは剣についた血を払い、部下だったものに唾を吐き捨てると憎悪を込めて笑いながら王女の下へと駆けていった。
「はぁっ!」
ナイフで肉を切り裂く音が響く。辺りに血が飛び散り悲鳴と共に鉄の匂いが広がる。私の嫌いな匂いだ。せっかく楽しく逃げていたのに襲いかかって来るようになってからは武器を使って対応しなければならないことに嫌気が差す。一人なら武器無しでもできるのにスリーマンセルで行動しているから余計にだ。
それに5〜6組ぐらい潰したから残りはそんないないはず。
そう考えながら彼女は着衣を正し始めることにした。
激しく動き周り汗をたっぷり吸ったドレスはあちこちが破れ、擦りきれ、色あせて、元の姿が想像できないくらい汚ならしかったが我慢するしかない。着替え等無いためどうしようもなかった。葉っぱに気が付き、葉っぱ3枚あればという結論に達するが色々まずいため却下することにした。だれだって露出姫などと言われたくない。葉っぱをたくさん使えば!?いやいや緑色のモッコリもどきにはなりたくは・・等と葛藤していると
パキッ
小枝が折れる音がして即座に振り向いた。ナイフを構えることも忘れない。
「ゲハハ 見つけたぜぃお姫さん」
振り向いた先にいたのは下劣な笑い方をする男だった。密偵隊長であった時の経験から何か仕掛けているのは明白だった。そのため月並みの台詞で様子を見ることにした。
「貴方が親玉かな?」
「あぁ そうだ アモゥローレイ傭兵団のジェイン・ド・メシアだ」
「言ってもいいのか?」
「あぁ これで俺の団の名が売れる お前を殺してな!」
ゲハハと笑いながら抜いた剣を私に突き付ける。このままでは命が危ない。私の危機感知能力が知識が体が訴えて来る。絶対に勝てないと。逃げなければ死ぬ。 しかし奴の凶き眼に捕らえられ動くことができなかった。 嫌な汗が吹き出して止まらない。
「ゲハハ 動けないのか? まるでカエルだなぁ ゲハハハハハ」奴は一歩ずつ近づいて来る。私に自分の寿命を確認させるように。
「鬼ごっこ楽しかったぜ 2度目はネェがな」
奴は私の前に立ち、ゲハハと笑いながら剣を振り上げた。私は恐怖で動けない身体を呪い、静かに目を瞑った。もっと生きたい。こんなところで死ねない。そんな思いが彼女を駆け巡り、涙となって頬に一筋の跡を残し落ちていった。
すぃぃぃぃぃぃぃん
ドォガァッ!!!
えっ?
強烈な衝突音が自分の目の前で起きたため咄嗟に目を開いた。目の前に居たのは剣を振り上げたジェインではなく、あっやべって顔をした妙齢の女性(屋台付き)であった。
女性は私に気付くと やべって顔から、ゲッ目撃者という顔になり焦った様子で木々の向こうと私を交互に見た。そして何を思ったのか屋台に置いてあった皿を手に取り、私に差し出しこう言った。
「疲れた時には梅肉チャーハン さぁどうぞ」
私はどう反応すればいいのだろうか?
梅肉チャーハンの作り方
種を取り除いた梅ぼしをすりつぶし適量の醤油と混ぜ合わせ梅肉醤油を作ります。
熱したフライパンに油をひきフライパンに火が通ったら茶碗1杯分のご飯を中火で炒め梅肉醤油を加えさらに炒めれば完成です。