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ホントは転生してないんですけど!?  作者: 稲荷竜
二章 学園生活の始まり
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8話 入学式前の学園生活

 寮に入ってからの日々は意外とやることが多く、私は毎日のように女騎士さんに連れ出されて、王都をまわることになりました。


 新生活を始めるというのは大変なのでした。

 制服とかいうのがこの学園で授業を受けるには必要なのです。

 そして都会を出歩くのに田舎の山奥で過ごしていたままの服装は少々都合が悪い(遠慮した表現)らしく、私は女騎士さんに上着から下着まで一式見立てられることになってしまったのでした。


「グレン様はあまり頓着(とんちゃく)なさらないかもしれませんが、このたび、尊い犠牲によりその魂を神の御許(みもと)へ捧げたあなたのお孫さんは、まだ未来もある十歳の少女なのです。そのようにふるまってほしいとは申せませんが、せめて、オシャレを楽しむぐらいは、してあげるべきだと思います」


 私は全然まだまだ生きているので、故人のように語られると反応が遅れてしまいます。

 しかし十歳の少女アンは、世界のために犠牲になったのでした。その幼い肉体を祖父に差し出して、『人類の脅威』との戦いに備えるべく生け贄となったのでした。


 そう考えるとアンという女の子は、かつてのエリザベート様をしのぐほどの聖女なのではないかという気がしてきます。なんてすばらしい子なのでしょう。


 ちなみに女騎士さんの買ってくれた服は王家の支払いになるということだったので、私はこれからも亡き孫娘アンに女の子なりのオシャレをさせてあげることを固く誓い、そのけなげな自己犠牲の精神に報いるべく、必ずや人生を謳歌することを決めたのでした。


 最後に新しい服を着て女騎士さんとツーショットで自撮りをしてから別れ、たくさんの服を持って部屋に帰りました。


 そろそろ暖かい季節なので本日購入した服も薄手のものが多いのですが、またシーズンごとに王家のお金で服を買ってもらえるのだと思うと、とても嬉しく思います。


 国民の尊い血税でするオシャレは本当に心地いいもので、なにより『生きているだけでちやほやしてもらっている』という実感が、私の心を満たして、幸福な気持ちにさせてくれました。


 買ってもらった服をかき抱いて、ずっとふかふかのベッドでごろごろしていたい気持ちでしたが、なにぶん寮生活はもう開始しているので、そうもいきません。

 決まった時間に決まった場所に行かないと食事にありつけず、私のお腹はぺこぺこなのでした。


 校則によると学園内は基本的に制服着用のうえ行動のこと、という話ですから、私は買ってもらったばかりの制服に袖を通すことにしました。


 それは(あお)を基調としたワンピースタイプの服です。


 蒼はエイヴァロン国のイメージカラーで、胸ポケットに刺繍されているのは『書物の上で杖と聖剣が交差した紋章』であり、これはこの学園のシンボルマークなのでした。


 左上腕にはベルトを通すような穴があり、ここに入学した学部ごとの旗章(きしょう)の縫い込まれた腕章を通すのです。


 私は三学部すべてに合格したことになっているので(学部ごとに他の学部が入れない空間があるようで、自由にどこでも行き来するには全学部合格しているほうが便利だそうです)、腕には三つのベルト穴があります。


 そうして制服を身につけた私は、鏡の前でくるりと回って着心地をたしかめます。

 どこからどう見ても美少女なのでした。


 回転に合わせてなびくスカート。きらめく長い銀髪。

 青みがかった銀色の瞳はあどけなさの中にどことなく色香があり、小首をかしげて頬に手を当てるポーズをすれば、どこの令嬢かと思うほどです。


 思わず恋してしまいそうな美少女なのですが、それはなんと、私なのでした。


 すごい私。お母さんに見せてあげたい。

 しかしあの田舎の山奥は文明がまだ進んでいないので、『音信魔導器(フォン)』なんていう未来道具を持っている人もおらず、私の写した画像がたまるばかりで、送り先はないのでした。


 なんとなく悔しいので女騎士さんに画像付きメッセージを送ると、女騎士さんはすぐさまメッセージを送り返してきました。


『どこからどう見ても、かわいらしい女の子ですね』


 まあどこからどう見てもかわいらしい女の子なので、他にもっと言いようなかったのかって感じなのですが、とりあえず褒めてもらったので『孫娘は喜ぶかな』と絵文字多めで送り返しました。

 おじさんロールプレイです。おじさんは絵文字顔文字が大好きだそうです。


 かくして自撮りに満足した私は、いよいよ食堂に出向くことにしました。


 あっ、髪型……うーん、まあ、ストレートヘアでもいいか。素材がいいからね。


 しかし色々な髪型も試してみたいものです。

 私の住んでいた田舎ではそんなオシャレをするほどの文明がなかったのですが、王都の子たちはみんな様々な髪型をしていて、どれでも私に似合いそうだったので、今度、女騎士さんと相談して『髪型どれが似合うかなショー』とかこぢんまりと開催したいです。

 二人きりでの開催は『人が増えると面倒』という理由です。


 その後食堂に行ったら大騒ぎになったので、私は私のかわいらしさは都会でも通じるのだと確信しました。


 なぜかみんな遠巻きに見てくるだけで、会話の必要性がなかったのも、とてもよくって、学園生活にはおおむね満足しています。

 こんな生活がずっと続けばいいのに。

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