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19話 身体測定・後編

 下着姿の女の子たちが一つの部屋に押し込まれています。


 田舎ではこうして子供が裸かそれに近い格好で密室に放り込まれるのは珍しい光景ではありません。

 けれど身分を問わずに次代の英雄を選ぶ、すなわち貴族も平民もまじったこの学園においてこういった光景を目にするのは、『生徒の扱いを平等にしなければ』という、外部の圧力を感じます。


 私は女の子たちの下着チェックをしました。


 普段はみな、例の蒼いワンピースタイプの制服を着ているので、小物などからしかオシャレへの意識格差(そこには当然、経済格差もふくまれています)を見るしかないのです。


 しかしこうして下着姿になれば、下着そのものや、肌の綺麗さ、傷などからオシャレへの意識がわかります。


 そうしてグルリと見回して、私は私以上の者がいないのを認めると、満足し、周囲への興味をすっかりなくしました。


「アン、あなた、かわいらしい下着を身につけているわね」


 こういう時に話しかけてくるのはたいていガートルード様でした。


 深紅の御髪(おぐし)と同じ色の、年齢よりも大人びた下着を身につけたガートルード様は、あまりに堂々と歩いてくるので側近同級生のマリーさんに「恥じらい……! 恥じらいを……!」と言われていました。


 私などは慎みがあるものですから、本当は同級生たちの真ん中に躍り出てこの完璧な肉体と下着のチョイスを自慢したいのをこらえつつ、恥ずかしがり屋な田舎の庶民っぽさを装い、部屋の隅っこでうつむいて『話しかけてこないでオーラ』を出していたところなのでした。


「ええ、この下着は」少し悩みましたが、女騎士さんに恩を売る方針にします。「……マルヴィナ様に選んでいただいたのですよ」


 本当は私が選んで、マルヴィナ様(というか王家)はお金だけ出してくださったのです。


「ふぅん? ずいぶん仲がいいのね? ひょっとしてあなたに出資しているのは、マルヴィナのおうちなのかしら」


 あの人、貴族なのか。


 私は女騎士さんについて、なんにも知らないのでした。


 しかし秘された出資者についてカマをかけるようなマネは、どうやら学園生徒としてだいぶルールから外れたおこないであるようで、年齢にしては成熟したプロポーションを恥ずかしげに隠す側近同級生マリーさんが「ガートルード様、それは……」とたしなめていました。


「ああ、そうね。失礼したわ。ともかく、今日の結果が出れば、お父様からあなたへの出資をする手はずになっているのだから、身体測定、がんばってね」


 今この段階でがんばれることは、なにもないのです。


 身体測定を始めとしたイベントで、よく『本番になってからがんばる』というような人を見かけるのですが、それはまったくの無駄だと思います。

 こういった催しは、当日までに積み上げたものを問われるのです。

 当日までに長い時間をかけて努力を重ねてきた者を、当日ちょっとがんばっただけの者が超えられる道理など、ありはしないのです。私ほど素材がよければ、別でしょうけれど。


 ガートルード様は、診察準備を終えた係員に、真っ先に呼び出され、マリーさんとともに、カーテンで仕切られた検査場に消えていきました。

 名前でも身長でもガートルード様が最初に呼ばれる道理はないので、王族特権なのでしょう。


 そうしてガートルード様とマリーさんがいなくなると、私に近づいてくる者がいました。


 それはクラスメイトの女子で、名前をハンナと言ったと思います。


 彼女は私より頭一つ身長が高く、取り巻きを連れて正面に立たれると、なかなか威圧感があります。


 ハンナさんは私の正面に立つと、短い茶髪を手ですいたり、自分の細長い体を見下ろしたり、私の下着姿をじろじろ見たりしていました。


 話しかけないのか……


 取り巻きの一人が「ハンナ、ハンナ、彼女困ってるよ」と沈黙に耐えきれないように進言し、ハンナさんは「わ、わかってる」と焦ったように応じてから、私をキッとにらみました。


「あんたさあ、その下着、どこで買ったの?」


 私はマルヴィナ様と行ったお店の名前を告げて、番地を覚えている範囲で答えます。


「うわ、一等地じゃん……ねえ、いくらぐらい?」


 こういう時、素直に値段を答えるのはよろしくないなと感じたので、私は『とても高い』という旨を実際の値段をぼかして告げました。


「そっか……触っていい?」


 彼女の目的がわからない私はこのあたりでけっこう恐怖を覚え始めます。


 私はこういう、敵対かどうかわからない行動に、めっぽう弱いのです。

 反撃の口実がない範囲の、加害なんだかコミュニケーションなんだかわからない働きかけをされると、固まってしまうのでした。


 ハンナさんは私の無言を肯定ととらえたのか、私の肌着を触って、そのさらさらした感触におどろいたり、デザインにため息をついたりしました。


 そうこうしているうちに、ハンナさんは検査場に呼び出されます。


「あ、呼ばれた。……あの、あたし、ハンナね。クラスメイトだから知ってるか。はは……うん、じゃ、あの、聖剣学部だから。……うん、そんだけ。じゃ、じゃあな!」


 ハンナさんはなぜか足早に去って行き、取り巻きたちもそれに続きました。


 私はこの一連の行動の意味がまったくわからないのでひどく恐怖し、のちほどハンナの目的を探らねばならぬという強い意思を抱きます。


 それ以外は大きな事件もなく、私の身体測定は終了しました。


 のちほど渡された私の身体測定結果は、身長がやはりクラス平均より低く、体重はそこそこで、そして待望のパークについては、『アン』としてのパークだけが記されていました。

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