11話 カリキュラム設定
入学式はその後のクラスで集まっての無駄話までふくめてつつがなく終了しました。
ひとクラス約三十名、いち学年五クラスなので、ガートルード様と別なクラスになる可能性もそう低くはないはずなのですが、なぜか同じクラスに配属され、座席を隣にされてしまいました。
ここはいわゆる『基礎教養』を学ぶためのクラスで、基本的には六年間変わらず、どのような学部に所属していようとも、朝や授業終了時にはこの集団集まり、イベントなどもこの集団を一つの単位にしておこないます。
もちろんこの中には聖剣学部も魔導学部も奇跡学部もいますから、学部ごとのカリキュラムもあって、そういった時に違う学部の生徒は別行動となります。
しかし私も彼女も腕章の数が一緒なので、本気で逃げ場がありません。
私は別にガートルード様を嫌っているわけではないのでした。
ただ、ああいう『なにもかも持ってる上に人に優しく、集団の和を好むしリーダーシップも発揮しそう』なタイプが全般的に苦手なのです。
ああいうタイプのそばにいると、私はいたく疲弊するのでした。
しかも彼女はなにかと私にからんできます。
腕章三つ、腕章三つ、というのが彼女にとって仲間意識を誘発するトリガーのようでした。
しかし、彼女の腕章三つが受験により実力で手にしたものなのに対し、私の腕章三つはコネの力で手に入れた偽りの腕章なので、仲間意識を持たれることがいっそう申し訳なく、私に申し訳なさを感じさせる彼女の存在がめちゃくちゃうとましいです。
私はどうにかして一人きりの時間を捻出できないものかと頭をひねります。
というかまず、授業に出たくありません。
学園から支給された『魔導板』に入っている教科書のデータを見るに、基礎教養で学ぶ範囲は、すでに履修済みなのでした。
これは私の生まれたド田舎が座学だけやたらと進んでいるとかそんなわけはなく、王都のどこかで教師か家庭教師をしているはずのパパから個人的に教わったことがある、という理由なのです。
私の趣味は怠けることではあるのですが、『怠ける』というのは娯楽もなにもない田舎では難しいところがあります。
私は虚無の時間を好むわけではないのです。
ただ『ぼんやりとしたい』と口にしたとして、それは、夜ごとに響きまくる虫とカエルの声に耳をすませて身じろぎ一つせず過ごしたい、という意味ではないのです。
適度な娯楽が、いるのです。
しかし田舎の山奥といえば虫をとったり走り回ったりという娯楽ばかりが多く、私はそういう娯楽を全然楽しめないタイプですから、娯楽としてパパから勉強を教わり、それを繰り返し反芻することにより、血肉としたのでした。
都会に出て『音信魔導器』の存在を知った今となっては、それは娯楽にはとうてい思えないただのお勉強だったのですが、当時の私は都会と比べてざっと百年(※個人の感想)ほど文明が進んでいない世界にいたので、それでも充分に娯楽だったのです。
そんなわけで教科書を見ても『これ、パパとやったところだ』という感動はあれど、これから先六年間かけてこれを再び履修するのは憂鬱そのものなのでした。
しかし妹の病気が発覚し、パパが都会で教職に戻ってから二年ほど経っているので、色々情報の更新があったかもしれません。
そのことに期待しつつ教師の話を聞き流し、私の入学式は終了となったのでした。
学部ごとに教室移動とかカリキュラムの組み方とかあるようですが、私にはガートルード様という頼れる友人がいますし、彼女は私につきまとうのが趣味のようなのでどうせ逃れられないのですから、自分で決める時間割は全部彼女の丸写しでいいと考えています。
そうして退屈きわまりない学園生活を予感したところで、とつじょ、私の『音信魔導器』に連絡が来ました。
『もう一人のお孫さんとの面会許可が出ましたよ』
女騎士様からの福音に、私は小躍りしそうなのをこらえるのが大変でした。
ようやく妹と会える!




