第21話 爆熱
「…兄ちゃん、起きてる?お昼御飯出来てるけど…」
「…悪い、食欲ないからいいわ…」
「そっか…兄ちゃんの分はちゃんと残しておくからお腹空いたら食べてね…」
第21話 爆熱
前回の出来事から5日程の日数が経った。
少年を救えなかった事と、フレイの大破。2つの不幸が重なった輝は、自宅の部屋に閉じこもってしまっていた。家に帰る前に雷葉からボルトを借りて男には戻る事が出来たが、その程度では気分が晴れる訳が無かった。楓からは暫くはゆっくりして…と優しく言われ、蓮からは絶対にフレイを直すと誓われていた。家族も何時もより幾分か優しく接してくれていた。しかし目を閉じる度にあの少年が消えていく光景が浮かんできてまともに眠れない夜が続いていた。そして今日も自分の部屋で寝転びながら暗い表情を浮かべ布団に横になっていた。
(…たとえフレイが直ったとしても…また前回みたいな魔獣が現れたら…俺は……駄目だな…暗い考えしか浮かばねぇ…)
「…こんなんじゃお前に怒られちまうな…なぁフレイ…」
「いつまでそうしてるつもりだ?」
輝が自嘲気味に笑った時、突然おっかない顔のおっさんが部屋に入ってきた。
「…親父…何の用だよ…久々の長期休暇なんだ…ほっといてくれよ…」
「…そういう訳にもいかねぇな。部屋に閉じこもってるからいつまで経っても落ち込んだままなんだよ。少し外の空気でも吸ってこい。ほれ、さっさと行った行った」
「お、おい…」
無理矢理持ち上げられて外に放り出された輝は財布と上着を投げ渡されて家から追い出されてしまった。しかし久々に吸う外の空気に若干気分が晴れた輝は少し散歩でもしてくるかと言う気分になった。
(ったく…あのヤクザ顔が…ただまぁ確かにあのまんま居ても気分が沈むだけだかんな…しゃあねぇ…ちょっくら散歩にでも行くかな…)
そう思った輝は適当にぶらぶら歩いていたがその最中に1人の男性とぶつかってしまった。だがそのぶつかった男性は輝にとってもう二度と会う事は無いと思っていた人物であった。
「っと、すいません…あれ、君は…」
「いや、こちらこそ…ってお前は…泰弘か?」
輝がぶつかったのは高校時代の唯一の友人であった増村泰弘であった。
「久しぶりだね…元気だったかい?…なんて僕が言う資格は無いのかもね…」
「…んなこたねぇよ。まぁぼちぼちって所だな…お前の方こそ…えーっと…大学の帰りか?確か進学したんだったよな」
「うん、いまから家に帰ろうとした所だよ…輝くんは仕事帰りかな?」
「いんや…ちょっくら暇になっちまったからな…適当にぶらぶらしてた所だ。…そんじゃ俺はこの辺で失礼するぜ…」
輝はバツが悪そうにその場を立ち去ろうとしたが泰弘に引き止められた。
「待ってくれ‼︎君にはずっと謝りたかったんだ…あの時はすまなかった…君はただ僕を守ってくれただけだったのに…なのに僕は勝手に君を恐れて…逃げてしまった…わかっていた筈なのにね…君が本当は優しい奴だって事を…」
「…違えよ。お前はなんも悪くねぇ…俺は喧嘩ばかりの不良。お前はあの馬鹿学校にたまたま入っちまった優等生。もともと住む世界が違ったんだ…」
「そ、そんな事は…」
「…それなのに泰弘は俺と仲良くしてくれたじゃねぇか…割と感謝してんだぜ?…だから謝んねぇでくれよ。それよりあんがとな、あん時の俺と仲良くしてくれてよ。じゃあな。今度暇な時にでも飲みに行こうぜ」
「そんな…なんなら今からでも付き合うよ!君とは話したい事が沢山あったんだ…だから…」
「おや、いけないなァ…そんな人殺しと仲良くするなんて…」
泰弘と和解しかけた直後、突如として絶望を振り撒く悪魔が顔を出した。
「っ⁉︎てめぇ…性懲りもなくどっから沸いて出た‼︎」
「…あァ…うるさい奴だね君は…そんなだから友人にすら恐れられるんだよォ?…ここで完全に君の心を折ってやろうと思ってね。その為にご友人には少し役に立って貰うよ‼︎」
「誰ですか貴方は…な、何を…うっ…ぐぁぁぁっ⁉︎」
男は瞬時に泰弘に近寄り、彼の体に何かの種を埋め込んだ。
「っ泰弘!てめぇ…こいつに何をしやがった!」
「クククッ…それこそ私が新たに開発した新型の魔獣の種さ…これさえあればたとえどれだけ魔力の低い人間でもたちまち魔獣へと変える事が出来る…これこそ私がこの世界を壊す為に作った最高傑作だ‼︎」
「グゥゥ…グオォォッ》
魔獣の種を埋め込まれた泰弘はたちまちその姿をおぞましい魔獣の姿に変えてしまった。魔獣の種と言う単語を聞いた輝は遂に男の正体を理解した。
「泰弘‼︎…って魔獣の種…⁉︎と言う事はてめえが蓮さんの…」
「そうだよ…私が蓮の父親…東条勉だ…さて火野輝くん?この状況どうするのかな?」
「そんなもん……ちっ…今はこうするしかねぇか…こちら輝!楓さん、聞こえるか⁉︎」
輝は舌打ちしながらも常に持ち歩いている通信機を取り出し楓へ連絡を行なった。その通信は直ぐに楓に繋がった。
『輝くん⁉︎貴方の近くで魔力反応があったんだけどどうなっているの⁉︎』
「詳しい説明は後だ‼︎この間の人を素体にした魔獣が出た、早く他の魔法少女を出撃させてくれ‼︎…頼む、やっと分かり合えたダチをこんな事で失くしたくねぇ…誰でも良い、早く出してくれ‼︎」
『…わかったわ、直ぐに…ってちょっ蓮⁉︎今、通信中だから……輝くん、蓮だよ。直ぐに行くから、少しだけ時間稼ぎお願いね…』
楓の言葉を遮り蓮が落ち着いた様子で通信に割り込んで、輝に言葉をかけた後に通信を切った。蓮が行くと言った事に若干の疑問を抱きながらも時間稼ぎを頼まれた輝はそれに応えるため拳を握りしめた。
「おいおい…唯の人間の姿で魔獣に挑むつもりかい?そんなに死にたいのか?」
「…死なねえよ…そいつには誰も殺させねぇ、行くぜ泰弘…ウオォォォォ‼︎」
覚悟を決め輝は魔獣となってしまった泰弘に立ち向かった。普通の人間であれば何も出来ずに殺されていたが輝は普通ではなかった。魔法少女になってからの訓練で若干ではあるが肉体強化魔法ならば変身せずとも使用出来る様になっていたからである。それは勉の予想を超えた出来事であった。
「オラァッ‼︎…グッ、硬ぇ…だがこんなもんじゃ俺は折れねぇぞ、コンチクショー‼︎」
《グゥゥ…》
「…馬鹿な…何故生身の人間が魔獣とやり合える…やはり貴様は危険だな…ここで死んで貰うぞ…」
「そんな事させないよっ‼︎おりゃぁっ‼︎」
輝を改めて危険と判断した勉は、輝を始末する為に右手に魔力を込めた。が、そうは輝の妹分がさせなかった。雷葉は勉の右手を弾き、大きく後退させた。
「も1つおまけの…雷光…えっと、電止弾!」
さらに雷葉は電気を帯びた魔力弾を即席で作り出しそれを魔獣となった泰弘に向けて放った。魔力弾を受けた泰弘は一時的に動きを止められた。その直後、青い車が止まり中から颯爽と蓮が出てきた。
「神野雷葉か…それに蓮…久しぶりだな」
「…そうだね…本当に……そんな事より輝くん、受け取って!」
蓮は父親を一瞥した後、直ぐに輝に向けて切り札を投げ渡した。
「っと…こいつは…フレイ…⁉︎もう直ったんですか⁉︎」
「うん、殆どの部分はね…ただ、フレイの意識が目覚めなくてね…輝くん。フレイを完全に復活させるには君の声が必要なんだ…今まで過ごしてきたフレイとの日々を思い起こして…語りかけてみて…きっとこれがフレイを目覚めさせる唯一の方法なんだ…」
「蓮さん…わかりました…やってみます…」
輝は目を閉じてフレイと過ごした日々を思い起こした。初めて出会った時の事、美月を強く殴り過ぎて怒られた事、寝ているばかりでちっとも訓練しないのを咎められた事、無茶をして怒鳴られた事…その後心配そうに大丈夫かと聞いてきた事…様々な事を思い起こした輝はいつの間にかフレイに話しかけていた。
「…なんだかこうやって思い出してみっと怒られてばっかだな俺…悪いな駄目で面倒なマスターでよ…ま、お前も大概、面倒くせえけどな!」
輝が笑いながらフレイに言った瞬間、微かにフレイに光が宿った。それに気付かずに輝は話を続けた。
「…だけどよ…そんなお前だからこそ俺の相棒になってくれたんだろうな…どんだけ俺が駄目でも…面倒くさくてもお前は決して見捨てないでいてくれた…何時も心配してくれていた、そして…俺を信じてくれた…頼む…目覚めろ…俺にもう一度戦う力をくれ…フレイ…俺にはお前が必要なんだ…‼︎」
[…私にも貴方が必要なんですよマスター?]
輝の想いが通じたのか、フレイは完全復活を果たした。
「…っ!フ、フレイ‼︎お前…お前‼︎」
[…全く…心配させている自覚があるならもっとちゃんとして下さい。…貴方しか私を使いこなせないんですから…さて、マスター準備はよろしいですね?]
「…だが、俺が戦ったらまた…こないだみたいに…」
フレイの復活に喜ぶ輝であったが、前の戦いを思い出し変身を躊躇してしまった。そんな輝にフレイは優しくも厳しい言葉を掛けた。
[…確かにあの時の事はそんな簡単に流していい事では無いのかも知れません。私がもっと早く気付けばあんな事にはならなかったかもしれません…]
「そんな…お前の責任じゃ…」
[はい、私だけの責任ではありません。私は貴方に警戒しろと言いました。なのにマスターったら直ぐに油断して必殺技を放ちましたよね?もっと慎重に行動すれば良かったかもしれません…少しは反省して下さいね?]
「お、おう…わかった…気をつける…」
フレイに若干怒られた輝は少ししょんぼりしてしまった。そんな彼に構わずフレイは話を続けた。
[過ちは繰り返さなければいいだけです。それにこのままではあの男の思う壺ですよ。私とマスターが心を一つにすればきっとどんな状況だって乗り越えられますよ。…だから私を信じて…]
「…ばーか、お前の事なんざ最初から信じてるっつの…行くぜフレイ…」
完全に闘志を取り戻した輝は、フレイを掲げ絶望を打ち破る聖詠を口にした。
「変…身‼︎」
「させるかァ‼︎」
「しまった…兄ちゃん‼︎」
輝の変身を阻止するべく勉は雷葉の猛攻の間を縫って光弾を放った。光弾は変身途中の輝に直撃し大爆発を起こした。しかし爆炎の中から紅蓮の炎を纏う最強の魔法少女が姿を現しその名を叫んだ。
「…魔法少女…バーニングハート…見参‼︎」
「ふん…変身したか…だが無駄だよ、君には救えないさ誰一人としてねェ!」
「救うさ、必ず救ってみせる‼︎…フレイ、アレを使うぞ‼︎」
[そうですね…私も言われっぱなしは癪ですし…行きますよ。セカンドリミッター解除、mode-sacred‼︎]
「爆熱…大変身‼︎」
輝の掛け声と共にバーニングハートの身体は爆炎に包まれたちまちその姿を変えていた。
身長は大幅に伸び、白をベースに金と赤のラインが走っているロングコート…セイクリッドアーマーを纏った強化形態、セイクリッドモードへと姿を変えた。
「あれが…新形態…か、かっこいい〜…も〜兄ちゃんばっかほんとずるいよな〜‼︎…ってうわぁ‼︎」
[この馬鹿っ、油断しやがってーー‼︎]
「うぅ…兄ちゃん、後は頼んだよ…ガクッ…」
新たな姿となった輝の神々しい姿に思わず見惚れてしまった雷葉は勉に吹っ飛ばされてガックリと気絶してしまった。
「ほう、凄まじい魔力だ…しかし、そんな力ではまた殺してしま」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ…救うっつってんだ…てめぇはそこで黙って寝てろ…」
「グッ…ガハッ…」
一瞬で勉の背後まで移動した輝は一撃で彼を昏倒させた。そして、今度は泰弘が変異した魔獣に向き直り、拳を握り直した。
「…待たせたな…泰弘…直ぐに助けてやっからな…フレイ、泰弘を助ける手立ては浮かんでんだろうな?」
[私を誰だと思っているんですか?…なんて一度言ってみたかったんですよね、こう言うの…はい、マスターのご友人の位置は把握出来ました。後は貴方が上手く魔力だけを消し飛ばすだけです。マスターなら出来ますよね?]
「…ふんっ、あったりまえだろうが!お前こそ俺を誰だと思ってやがんだ!行くぜ泰弘…一撃で楽にしてやる‼︎」
フレイに挑発的に言われた輝は不敵に笑って両腕に魔力を込めた。そして両腕を振るい炎の十字架を作り出し、それを魔獣に向けて思い切り殴り付けた。
「セイクリッド…クロスブレイカー‼︎」
《グォォォォォ‼︎》
炎の十字架は巨大な光の柱となり魔獣を構成していた魔力のみを消し飛ばし、そして泰弘を元の人間の姿に戻した。
あまりにも簡単にいった為か輝は拍子抜けした表情でフレイに尋ねた。
「…なぁ、これって位置とか関係あったのか?」
[それはありますよ。位置を割り出す事でピンポイントで防護フィールドを張ったり出力の調整をしたり…対象の位置さえわかっていれば幾らでも対処が出来るのです]
「そうか…やっぱお前って結構重要なんだな…」
[そうなんですよ?なのにマスターったら私の事を無視して無理矢理バーストモードを使って…あんな事をしてどれだけ体に負担が掛かると思っているんですか?全くいつもいつも…心配するこちらの身になって下さいよね」
「…なんか久々だな、お前に説教されんのは…そうだ言い忘れてたな…おかえり、フレイ」
[っ!……ただいま…マスター…]
突然の輝からの言葉にフレイは少し驚きながらも嬉しそうに返した。
一方、気絶から目覚め自分の目論見が崩された事を悟った勉は明らかな怒りを露わにしていた。
「…おのれ…一度上手くいったくらいでいい気になるなよ…必ず私の手で…この世界から全ての命を奪ってやる…私がされたように…」
「…バカ言ってんじゃねぇよ。俺が…いや俺達がいる限りもう誰も死なせねぇよ。絶対にな…」
「…そうだね、輝くんのいう通り…それに貴方はここで終わりだよ、もう逃がさない…お父さん…いや、東条勉…‼︎」
「蓮よ、お前は悔しく無いのか…私達は奪われたのだぞ。1番大切な者を…この世界に…‼︎…まぁ良い。これで終わると思うなよ、必ず全てを破壊し尽くす…必ずなァ‼︎ハァッ‼︎」
蓮に色々と言い残し勉は黒い影となって消えてしまった。それを止めようとした輝ではあったが一歩遅かった。
「待ちやがれ‼︎…ちっ、逃げたか…」
「…もうあの人には大した事は出来ない筈だよ…さぁ帰ろう?楓達も心配しているし…それに彼の治療もしなきゃ…ね?」
「っと、そうだったな…しょっと…後で色々説明してやっからな…おーい、帰るぞーお前いつまでそこで寝てんだー‼︎」
輝は泰弘を担ぎ、遠くで目を回しながら気絶している雷葉に声を掛けた。その声に反応して雷葉は直ぐに目を覚ました。
「…はっ、ピエロ仮面は?魔獣は⁉︎……あれ〜?」
[…全部終わったんだよ…貴様が寝ている間にな…はぁせっかく飛ばしてきたの全然活躍出来なかったな…]
「あ〜なんかごめんね〜…って兄ちゃんも蓮さんもちょっと待ってよ、置いてかないで〜⁉︎」
そんな雷葉を置いて車に乗り込み帰ろうとする輝達を追って雷葉は慌てて追いかけていった。
その様を笑いながら見る輝の手には大事そうにフレイが握られていた……
新たな年を迎えた輝達はここで一旦、誰が1番魔法少女としてちゃんとやっているかの試験を行われる事になってしまった。
次回 「試験」
「…もうテストなんて懲り懲りだ…ハァ…」




