第20話
シャドウハートツヴァイとの戦いから1週間程の時間が経った。12月に入り気候も本格的に冷え込んできていた。
美月達、学生組はもうすぐ冬休みと言う事もあり休みの間にに何処に遊びに行くかなどの話に花を咲かせていた。しかし、社会人である輝にとってそんな事は関係が無かった。流石に年末年始は家で過ごせる予定だが、魔獣が出た場合輝だけが通常通り出撃する事になっており、他の3人はたとえ魔獣が出たとしても輝に任せる事になっていた。これは輝自身が決めた事であり最初は遠慮していた3人も結局輝に押し切られてしまった。なんでも
「ガキが遠慮するんじゃねぇっての。今の内に遊べる時は遊んどけ」
だそうである。こう言われてしまっては遠慮するのは逆に失礼と、3人のリーダー格である美月が了承し、その後雷葉と風香も渋々了承していった。
最近では魔獣の発生率も低くなり平和な日々が続いていた。が、その平和は突如として壊れ始めた。それは平日の午前中…輝のみが出撃できる時に起こった。
「なんか久々だな、1人の時に魔獣が出んのは…ま、大した事無さそうだがな」
「もぅ…輝くん?油断しちゃ駄目よ。まぁでもいつも通り頼むわね」
「了解っと…んじゃ変…身!」
特に心配される事も無く、通常通りに輝は魔界フィールドへと転送された…しかしそこで待ち受けていたのは思いもよらない事の連続であった。
魔界フィールドに入って直ぐに魔獣を見つけた輝は速攻で片付けようと攻撃を仕掛けようと必殺技を放とうとするがフレイに寸前で止められてしまった。
「お、いたいた…そんじゃ一撃で終わらせてやらぁっ‼︎バーニング…イン」
[…待って下さい、マスター。何か…あの魔獣何処かおかしくないですか?]
「…お前なぁ…人が盛り上がってる時に茶々入れんじゃねぇっての…おかしい所なんざ…いや、お前がそう言うってこたぁなんかあんだな。だが…迷ってばっかじゃ進めねぇだろ?」
[そうですが…いえ、今は戦闘に集中しましょう。…ただ少し警戒して下さい…思い過ごしだと良いのですが…]
「あぁ…とりあえず…おらよっと!まず一撃!」
フレイの警告を受けた輝は、何時もよりは慎重に攻撃を仕掛けた。
輝の打撃は魔獣を的確に捉え確実にダメージを与えていった。
《グガァァァ…》
「なんだ…てんで弱えじゃねぇか。こりゃお前の思い過ごしだなフレイ?…さっさと決めるぞ…よし、折角だから新技でトドメと行こうか。ハァァァァァ…」
輝は最近考えていた新技を使う為に両腕に魔力を溜め、そして溜めた魔力を炎と変え魔獣に放った。そんな輝を余所に最初に感じた違和感の原因を理解したフレイであったがその時には全てが遅かった。
「…食らえ、必殺!バーニングッ…トルネードッ‼︎」
[…っ⁉︎待って下さいあの魔獣の中に人間の反応があります‼︎]
「え?」
既に輝の両腕から発射されていた炎は渦となり魔獣を包み込み焼き尽くしていた。突然の事に輝は思わず唖然としてしまった。
「嘘だろ…そんな…」
[呆けている場合じゃありません‼︎早く消火を…]
「そ、そうだ…速く消火しねぇと‼︎」
「消火か…こうすれば良いのか?」
「⁉︎誰だてめえは…火が消えていく…」
突如、輝の背後に黒ずくめのピエロの仮面をした男が現れた。その男が手をかざすと魔獣を包み込んでいた炎はたちまち消えていき、魔獣がいた場所には小さな少年が倒れていた。それを慌てて抱き起す輝であったが既にその少年の命は消えかかっていた。
「っ!おいっ大丈夫か⁉︎死ぬなよ…にいちゃんがすぐ助けてやっから…」
「…いたいよ…あついよ…いきが…で…き…な…」
「っフレイ‼︎なにか…何か無いのか⁉︎こいつを助ける何かが…なぁ…無いのかよ…」
[…残念ですが…今の私達に回復魔法は使えません…たとえ使えたとしても…ここまで衰弱してしまっている人を助ける事は…クッ、私の性能が足らないばっかりに…]
輝は必死に少年を救う為の方法を考えた。しかし救う手立ては何も浮かばず頼みのフレイもお手上げの状況だった。
「あーあ、せっかく火を消してやったのに…何も出来ないんだなァ魔法少女って奴は…」
「…てめえだな…この子を魔獣にしたのは…」
「おぉっ大正解だ。よくわかったな、そうだ私だよ、その子を魔獣に変えたのはね。しかしトドメを刺したのは君だバーニングハート。残念だねェ、上手く戦えばもしかしたら救えていたかも知れないのに…いやァ残念残念…クククックハハハハッ‼︎」
少年を魔獣に変えたと言う男は輝をからかうように笑い始めた。当然キレて殴りかかろうとした輝であったがその時少年の身に異変が起こり始めた。
「てめえ…ぶっ飛ばして…!」
「あ…あ…まわりが…どんどんくらくなってく…」
「っ⁉︎お、おい…しっかりしろ‼︎クソッ本当になんもねえのかよ…」
「あァ、無いさ。何もね。もう少しすれば面白いものが見れるぞ…ほら、始まった」
男がそう言った途端に、男の子は光の粒子となって消え始めていた。
「な…なんだよこれ…お、おい、駄目だ諦めんじゃねえ‼︎…ふざけんなよコンチクショー‼︎こんな…こんな結末…認めねえぞ…」
「あ…なにも…みえない…こわいよ…おかあ…さ…」
「あ…あ…うわァァァァァァア‼︎」
「どうだい?魔界フィールド内に生身の人間が長時間いるとこうなるんだ…中々綺麗なもんだろ?クククク…」
目の前で本来守るべき筈であった者が消えたあまりにも呆気なく。あまりの出来事に輝は絶叫した。そんな輝に男は様面白そうに男の子の死を嘲笑ってきた。そんな男に対し輝の中に生まれてきた感情は、殺意であった。
「…殺してやる…ぶっ殺してやる‼︎リミッター…フルバースト‼︎」
[いけませんマスター‼︎駄目です…クッ制御権が…駄目…止められない…!]
「グオォォォォォオ‼︎…コロス…カナラズ…コロス…」
フレイの制止を無視して強制的にリミッターを全て解除してしまった輝は、過負荷によって理性が吹き飛んでしまった。
「グォォォォォ‼︎シネ、シネェッ‼︎」
「…凄まじいな…だが所詮は理性なき獣…対処など簡単だ…例えば…そらっ」
「グッ、ガァァア⁉︎」
[マス…ター、落ち…着いて…ウグッ⁉︎しまっ…]
理性を失って暴走気味に男に向かって攻撃を仕掛ける輝であったが、その攻撃は簡単に躱され胸の宝玉を…フレイの本体を撃ち抜かれてしまった。制御システムであるフレイが破損してしまいさらなる負担が輝に襲いかかり終いには気絶してしまった。
「がァァァア⁉︎グッ…頭が…割れる…グ…ァァァ…」
[いケない…こノままでは…変身が解けてマスターが…こウなっタら…]
「そんな壊れ掛けで何をするつもりかな?」
[…こウするんでスよ…転送マ法…発動‼︎]
「ほォ…まだそんな物が…」
フレイは最期の力を振り絞り、緊急用の最終魔法である転送魔法を発動してこの場から離脱した。そして転送されながら気絶した輝に最期の言葉をかけていた。
[…マスター…生きテ下サい…お願…イ]
輝達に逃げられた男であったが余裕の態度は変わらなかった。
「…まァ、これで最強の魔法少女は消えた…これで私の邪魔を出来る者は居ない…ククク…どうする?我が娘よ…この絶望を…乗り越えられるかな?」
「…きらくん…輝くん‼︎しっかりして‼︎」
「…ここは…司令室か…?俺は…」
輝が目を覚ましたのは司令室の転送ゲートの前であった。そこで楓に抱き抱えられながら目を覚ました輝は先程起までの事を思い出し激しい吐き気に襲われた。
「…そうだ…おれは…俺は、ウッ…子供を…助けられなくて…ウグッ……そうだ…フレイッ‼︎…な、何だよ…これ…」
フレイに相当な無理をさせた事も思い出した輝はすぐにその手に握られていた物を見た。しかしそれは、最早フレイとは言えないただの壊れた機械であった。
「う、嘘だろ…おい……なんか言えよ…いつもみたいに…マスターは馬鹿だなとか…もっとしっかりしろとか…おい…なんでそんなになってんだよ…今お前の声が聞きてぇのに…なんでなんも言ってくんねぇんだよ…なぁ…フレイ…くっ…うわぁぁぁぁ‼︎」
輝は泣いた。泣いていた。フレイの声を思い出して。そしてそれが失われた事を思い知らされて。楓は何が起こっているのかわからない様で呆然としていた。
少しして慌てた様子の蓮と美月達3人も来た。しかしそこには泣きじゃくる輝と彼を泣きながらもなだめる楓がいた。初めは何が起こったのか理解出来ない4人であったが輝の手に握られている物を見た瞬間に全てを理解し美月と雷葉は泣き崩れ、風香は悔しそうに地面を叩いた。
第20話 絶望
しかし、蓮だけは違った。
「…まだだよ…こんな結末…絶対に認めない…必ず希望は紡いでみせる…覚悟しておいてねお父さん…輝くん、フレイを借りるね…待ってて…絶対に直して見せるから…ね?」
大切な相棒を失った輝は失意の中、かつての友人と遭遇する。そして訪れる友人の危機に輝は…
次回 「爆熱」
…諦めない…絶対に‼︎




