第19話 連携 前編
「師匠!今日はどうしますか⁉︎」
「えーと…んじゃグラウンド10周してこい…なーんて…」
「はいっ行ってきます‼︎」
「いや、ちょっと待て冗談…行っちまった…」
第19話 連携 前編
あの後、M.G.S.Cに正式に加入した風香は輝を師匠と呼び慕う様になっていた。そんな風香に最初の方は嬉しそうに構っていた輝であったが段々面倒くさくなってきている今日この頃であった。
[酷いですね。特に何もしていないのにそんな罰みたいな事をさせるなんて]
「…軽い冗談のつもりだったんだがな…まぁ無駄にはならねぇだろ…それよりこれから蓮さんの所に行くんだろ?ほら…新装備を着けるとかで」
[はい。ですので本日は変身出来ませんのでゆっくり休んでいて下さい。どうしますか、今のうちに男性に戻っておきますか?]
「んーいや、別にいいわ。特にこれから用事もねぇし…こっちの方が母さん達の扱いも良いからな…男って辛いな…」
少し遠い目をしながら歩いているといつの間にか研究室の前まで到着していた。そして輝は軽くノックをしてから中に入っていった。
「うーっす、お疲れ様でーす。フレイのお届けにあがりましたよー」
「あ…お疲れ様、輝くん。今、ちょっと手が離せないから少し待ってて」
中に入ると蓮が忙しそうに何かを作っていた。とても手伝えそうでは無いと直ぐに悟った輝はいつもよく座る椅子に腰掛けて待つことにした。
10分くらいしてようやくひと段落ついた蓮は輝の正面の椅子に腰掛けた。
「ふぅ…お待たせ。ごめんね?ちょっと開発の方が遅れてて…」
「いや、大丈夫っすよ…にしても研究員って増やさないんすか?そうすりゃもっと…」
「うん…あまり増やすとかえって動き辛いかなって…それよりフレイの事だよね。今作っていたのもそれ関連なんだよね。今からやって…そうだな、少なくとも2日くらいかかっちゃうかな…でも完成すればきっと今より楽になるからちょっとだけ我慢してね」
[あら…意外とかかりますね…やっぱり戻っておきますか?]
「あぁ…戻るのなら他の子のデバイスでも戻れるから、その点は安心して良いよ。問題は…しばらく輝くんが出撃できない事だね…あ、忘れてた。ちょっと待ってて…確かこの辺に…あった。はい、これ」
そう言って蓮は腕時計の様な物を輝に手渡した。
「これは…なんすかね?時計みたいっすけど…」
「ふっふっふ…それこそ僕が…おほんっ、私が開発したもう1つの新装備…名付けてどこでも転送装置…略してどこ転くんだよ!」
珍しく声を張り上げて新装備を宣言した蓮に輝は少し驚いたが、今手に持っている物についてはもっと驚いていた。
「どこでも転送…ってことはもうここに常駐しなくてもいいんですよね⁉︎」
「そうだよ。これさえあればどんな所からでも魔界フィールドに入る事が出来るよ。ただし、戻る機能はつけられなかったから帰る時はいつも通りの転送ポイントから司令室に戻ってくるしか無いんだけどね…」
「いや、充分っすよ。4つあるって事は、俺の方からあいつらに届けとけばいいっすよね?」
「悪いけどお願いできるかな…何色か作ってみたから好きなの選んでね。あと…説明書も作っておいたから後で読んでおいてね…それじゃフレイをもらおうかな」
「了解。じゃあなフレイ寂しくても泣くなよ?」
[泣きませんよ…マスターも私が居ないからって調子に乗って遊び歩かないで下さいよ。ちゃんと1人の大人として節度を持った生活をして下さいね]
「あーうるせえうるせえ…そんじゃ蓮さん、また…さて久々に酒でも飲むかな…ふふふ」
悪い顔をしながら出ていった輝を見送った蓮は一息ついてから再び作業に戻った。
一方、グラウンドを10周し終わった風香は輝を探していた。そこで訓練を終えて休憩していた美月と雷葉に会って、結果3人で共に探す事になった。
「兄ちゃんったら酷いな〜こんな女の子に10周も走らせるなんて…」
「ま、大方適当に言った事を風香が間に受けちゃったんでしょ…それより風香は休んだりしなくても大丈夫なの?」
「はい、体力だけはそれなりにある方なので…それより師匠はどこに行ったんでしょうか…」
「確か…あ、蓮さんの所に行くって言ってたからもしかしたら…」
「残念だがもう終わったよ…お前ら暇そうだが揃いも揃って何してんだ…」
先に美月達を見つけた輝は少し呆れ気味に、近づいて話しかけてきた。
「ありゃ…危うくすれ違っちゃう所だったね…ってか兄ちゃん?ふうちゃんにあんま酷い事させないでよ可哀想だよ‼︎」
「あ?何が酷い事…したな、うん。悪かったな風香、冗談のつもりだったんだが…」
「へ…?冗談だったんですか?」
「いや、なんもねぇのに突然走ってこいって言われたら少し疑問をもて…お兄さんなんかお前の将来が心配になってきたぞ…」
「は、はい。勉強になります!やっぱり師匠は凄いですね!ね、シルフ?」
[…そうじゃな。お主がそう思うならそれで良いのではないか…輝殿、頼むからこの娘をちゃんと指導しとくれ…妾には無理じゃ…]
「…悪かったよ…ほんと…あ、そうだお前らに蓮さんから贈り物だ」
輝は自分の頼まれ事を思い出し、どこ転くんを美月達に渡した。
「これは…腕時計ですか?」
「あーっと…ほいこれ説明書。ま、簡単に言うとどこでも魔界フィールドに飛べる装置らしい…この3つから好きなのさっさと選べ」
「わかったよ兄ちゃん。そんじゃあたしはこれ‼︎」
雷葉はそう言って水色を取った。
「いや、それ多分私の⁉︎雷葉のは…多分金色がある…あれ、無い…って輝さん⁉︎違うでしょ貴方は赤…って風香⁉︎なんで赤なの⁉︎貴方緑でしょ多分⁉︎」
「だ、だって…緑無いんですよ…それに赤好きですし…」
「え?なんで緑が…白しかない…なんで⁉︎なんで白なの⁉︎ストームハートって緑だったじゃない⁉︎」
「ん?説明書にこんな事が…何々…色は私の趣味だから特にイメージカラーとかは関係無いよ…だってさ良いじゃん白。お前らしくて…うん、すっごく似合ってんぞ」
「…なんでしょう…全然嬉しく無い…」
「後、俺2日くらい変身出来ねぇからそこんとこよろしく」
「え〜?まぁ最近はそこまで出てこないから大丈夫かな…」
「おい、そんな事言ってると…」
雷葉の言葉が引き金になったのかまたもや警報が鳴り響いた。雷葉はやっちったと言う感じの顔をし、輝も同じ様な顔をした。この2人は段々似てきていた。
「ほら、馬鹿な事やって無いでさっさと行こ。風香も行けるよね?」
「はい、いつでも行けます‼︎」
「よし、行ってこい…俺は帰って寝るから…」
「兄ちゃんも司令室ぐらいは行くんだよ?」
「ですよねー…なんて冗談だ。行くぞお前達‼︎」
輝の号令にうなづき4人は司令室に急いだ。
しかし、これから予想以上の敵が待ち受けている事に今はまだ知る由もなかった。
後編に続く




