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第18話 疾風

「んぅ…うわぁ…綺麗な服、それに身体の底から力が溢れてくる…これが私の…」


第18話 疾風


変身が完了した風香の姿に、美月達は各々の感想を口にしていた。


「…随分と和な感じだね」

「か、かっこいい〜…いいな〜なんかお侍さんみたい‼︎」

「…ここも設定していたのと違うな…か・え・で?なにをしたのかな?」

「いや、これは違うわよ!…シルフ、違うよわよね、ね⁉︎」


蓮に余計なことをしたと思われた楓は誤解を解いてもらう為、シルフに泣きついた。


[うむ。この装備は妾の趣味と風香の戦闘イメージを合わせた物じゃ。風香よ、お主何か剣を扱う武術をやっておったろう?]

「は、はい。小学生の頃に3年程剣道を…人をぶったりするのが嫌で結局辞めてしまいましたけど…」

「へ〜強かったの?」

「いえ…なかなか一本が取れなくて…ほとんど防御しかしなかったので延長戦ばかりでした…最終的になんとか勝ててましたけど…強くは無かったと思います…」

「…いや、強かったよね?」

「そんな事ないですよ…お前の試合は長すぎるって怒られてばかりでしたから…」

「長すぎるってどれくらい長いの?」

「えっと…確か平均で30分くらいでしょうか?その中でも1時間超えた時もあって…相手の方がふらついてきた所をなんとか決められましたけどあの試合が1番厳しかったですね」

「…あ、なんか前に新聞に書いてあったわ。小学生の女の子が剣道の最長試合時間を更新したって…それって…」

「あぁ…それ多分私です。でも次の試合に行くのが嫌になっちゃって…そこで辞めちゃったんですよね…」

「…確かあれ準決勝とか書いてあったんだけど…」

「よくそんな事覚えてるね…本当に無駄な所ばっかり優れてるよね楓は」

「あんまそんな事ばっかり言われたら泣くわよ?全力で…なんか印象に残ってただけよ。と言うかあるじゃないの、人に誇れる長所が…」

「…でもこれは親に無理矢理やらされてただけだったんです…あの時の私の剣では誰の役にも立てませんから…でも、今は違うんですよね…」

[そうじゃ。ほれ、これがお主の新たなる剣じゃ…魔導兵装、疾風斬…着装]


シルフの言葉と共に、魔導兵装、疾風斬を装備した風香はその重みを噛み締めながら決意を固めた。


「…それでは…行ってきます…あの人に認めてもらう為にも…」

「行ってらっしゃい。危なくなったら、すぐに撤退しなさいね。命さえ無事ならいくらでもやり直せるから…」

「…はい‼︎必ず生きて帰ってきます‼︎」


楓の言葉に最初の自己紹介とは打って変わって元気に答えた風香は転送ゲートから魔界フィールドへと飛び立った。


一方その頃先に行っていた輝は流石に言い過ぎたと頭を抱えていた。


「…あーっ大人気ねぇ…あんな子供にアホみたいに言い過ぎちまった…はぁ…嫌な役回りだよ…ほんと…」

[全くですよマスター…いくらお母様に言われたからってもう少し限度という物があるでしょう…」


実はあの時輝は、フレイを介して蓮から頼まれていたのだ。思いっきり叱ってみてくれと。


「あぁ…それにしてもどういうつもりなんだ蓮さんは…いきなり念話であいつを思いっきり叱れって…まぁあの人の事だからな…なんか考えがあんだろうけど…にしてもあいつ本当にくっかな?だいぶ厳しく言っちまったけど…そろそろ魔獣の奴も動きそうだな…ん?この魔力反応は…おっ、来たみてえだな」

「…あっ…えっと…その…ご、ごめんな」

「すまなかったぁぁぁあ‼︎」


土下座した。見た目は小学生だが、中身は成人してる大人が中学生の少女に思いっきり土下座した。余りの事に風香は固まってしまった。


「いくらなんでも言い過ぎちまったな…すまねぇ…お前の事なんも知らねえのにな…だがな…言葉の中身自体は割と本気で言わせてもらった…だから今から見さしてくれ…お前の覚悟と頑張ってる姿をよ」

「…わかりました…元はと言えば私の弱さが招いた事です。えっと…火野さんは悪くありません…でも見て欲しいんです…私の覚悟と新しい力を…1番最初に…お願い…出来ますか…?」


輝の謝罪を受け入れ、そして新しい自分を見てもらいたいと風香は頭を下げた。そんな健気な願いを輝が無下にする訳が無かった。


「…おう、じっくり見させて貰うぜ。へっ…いい顔する様になったじゃねぇか。危なくなったらいつでも言え。この最強の魔法少女が手伝ってやる…ただしトドメはお前にやって貰うぜ。何が何でもな…いいな?」

「…はい‼︎…それでは、狩野風香…魔法少女ストームハート、参ります‼︎」

[共に参るぞ、風香よ‼︎]

「…お前のデバイス…なんか喋り方が古風だな…なんか良いな、そう言うの」

[私もやりましょうか?主人殿]

「いや別にいい…それよりも始まるぜ…お前の妹と、新しい魔法少女の戦いがよ…」


風香は疾風斬を抜き、魔獣に斬りかかった。が、無策で斬りかかって黙って斬られる程魔獣は甘くは無かった。


「っ⁉︎躱された…きゃぁっ‼︎」

《クォォォォーン‼︎》


斬撃を躱した魔獣は雄叫びを上げながら巨大な腕で風香を突き飛ばした。幸い大きなダメージにはならなかったが、攻撃された痛みから乗り越えた…いや乗り越えた気になっていた恐怖心が再び蘇ってしまった。


(痛い…それに恐い…あんなに勝てるの…私なんかが…やっぱり無理なんじゃ…)

[無理ではないぞよ、風香よ]


恐怖心に負けそうになっていた風香を救ったのは変な喋り方の相棒だった。


「で、ですが…斬撃も躱されちゃいますし…あんな攻撃、何度も受けたら…」

[なに、次は当てれば良い。攻撃も大した物ではないぞよ。…汝の力を信じるのじゃ…妾は信じとる。必ず風香ならやれるとな]

「…何故そんなに信じてくれるんですか…?まだ会ってからそんな時間も経ってないのに…」

[む?そんなもの汝が妾を目覚めさせたからじゃ。汝の人を守りたいと言う強き想いに呼応して妾は目覚めた。こんな理由では不満かの?それでも妾は信じとるぞ。汝が…風香が出来る奴であると]

「っ……シルフ…さん…⁉︎きゃっ…え?」


シルフとの会話に夢中になり魔獣からの攻撃に気付かなかった風香は危うく攻撃されそうになった。しかし、そうは最強の魔法少女がさせなかった。 間一髪で輝が魔獣を思いっきり殴り飛ばしたのである。


「ほれ、泣いてる暇なんざねぇぞ。それだけ期待されてんだ。応えてやんのが筋ってもんだろ。行けよ、ストームハート…行って誰かの明日を守ってこい‼︎そして見せてくれ、お前が出来る奴だって所を、俺と…お前の相棒によぉっ‼︎」


そして暑っ苦しく激励を送った。それを受けた風香の魂に火が灯った。


「わかりました…見ていてください…私の…戦いを‼︎行きましょう、シルフさん‼︎」

[さんなど付けなくて良い。参るぞ風香‼︎]

「了解、シルフ‼︎」


風香は疾風斬を構えた。しかし、今度は無作為に斬りかからずに落ち着き、そして魔獣を強く睨みつけた。


(…落ち着いて…相手の動きを良く見て………)「…来たっ、はぁっ‼︎」


再び襲いかかって来た魔獣であったが、それは愚策であった。鋭い斬撃が魔獣を頭から真っ二つに斬り裂いて居た。これで終わったと思い気が抜けた風香であったが、まだ終わりでは無かった。そしてそれは輝も気付いていた。


「まだ終わってねぇぞ、油断すんな‼︎」

「へ?…あれぇっ⁉︎増えてる‼︎」


斬り裂かれた魔獣は信じられない事にまだ動いていた。それどころか斬られた箇所から分裂までしだしており、既に完全体に近い姿になってしまっていた。


「…なるほど、そう言う感じか…ま、ちっと相手が悪かったな…よし、今回はここまでにしとくか…」

「待って下さい、まだやれます‼︎だから…」

「違えよ。別にお前を見限ったとかじゃねえ。むしろ逆だ、初めてでここまで良くやったな。本来ならあれで決まりなんだが…あいつはちょっと特殊っぽいからな。そうだろフレイ?」

[そうですね。おそらく分裂能力があるタイプですね…経験を積めば対処法もその内わかりますが…今回は私達に任せて下さい」

「まぁ、そう言うこった。手本を見せてやっからしっかり見てな…」


風香に優しく言った輝は、魔獣に向かって飛び掛かり必殺の拳を撃ち放った。その一撃で片割れは一瞬で焼き尽くされ跡形も無く消滅した。


「オラァッ、バーニング…インパクト‼︎まずは1匹…さぁて、次はてめぇの番だぜ…」

《クォォォ…》

「す、凄い…たった一発で倒しちゃうなんて…」

[お主にも出来るぞよ?もし、姉上とその相棒殿良かったら風香に残りをやらせてくれんかの?]

「…シルフ…ありがとう、お願いします…もう一度チャンスを下さい‼︎」

「ほぅ…わかった。やるだけやってみろ…期待してんぞ?」

「はい!」


風香のやる気に満ち溢れた顔を見た輝は、嬉しそうに獲物を譲った。絶対的な敵が引っ込んだからか再び威勢が良くなった魔獣は雄叫びを上げながら襲いかかってきた。その攻撃を華麗に躱し、体制を整えた風香はシルフにその方法を訪ねた。


「それでシルフ?どうすればさっき見たいな攻撃が出来るの?」

[なに、簡単じゃ。全開の魔力を込めてその剣を振り下ろせばよい。そうじゃな…あの者がやった様に何か名前を叫びながら放てば良いのではないかの?]

「…何か…うん、やって見る…はぁぁ…」


疾風斬に魔力を込めながら、技の名前を考え、そして浮かんだ瞬間再び魔獣が攻撃して来た。しかし、今度は躱さずに全力で叫びながら剣を振り下ろした。


「いっけぇぇぇ‼︎風神滅殺斬‼︎」


疾風斬に込めた魔力は一筋の光となり魔獣を消し去った。そして今度こそ戦いは幕を閉じた。


「やっ…たの…?」

「あぁ…お疲れさん。良いもん見させてもらったぜ…で、どうするよこれから。魔法少女を続けるか…それともやめて別の道を進むか…好きな方を選べ。お前自身の意思でな」


戦いを終え少し放心していた風香に輝は労いの言葉と同時にこれからの事を訪ねた。

風香は少し考え、そして強い眼差しで輝を見つめながら決意を告げた。


「…続けます。正直、今もまだ恐くて震えが止まらなくなりそうですけど…でも、もっと恐い思いをするかもしれない人がいるんですよね…私にその人達を守れる力があるって…今回の戦いでわかりましたから…わからせて貰いましたから、だから続けます…いや、やらせて下さい‼︎」

「…言っとくが、そう言うからには逃げるのは許さねぇぞ…いいな?」

「もう逃げません…二度と弱い自分に負けません!だから…よろしくお願いします‼︎」

「…おう、こちらこそよろしくな風香‼︎」


そして2人は固く握手を交わした。

そしてここにM.G.S.C所属の魔法少女がまた1人増えたのであった。


[…まあ、よろしくされるのはこちらだと思いますがね。この人はすぐに無茶をしますからいざと言う時はよろしくお願いしますね、風香]

[ふむ…確かにそんな感じがするの…気を付けろよ風香、この手の者は熱くなると周りが見えなくなる…らしいからの…]

「…いい感じに締まってたんだから余計な事言わなくて良いんだよ…」


せっかく良い感じにカッコつけられそうだった輝は2人?のデバイスに茶々を入れられて締まらない感じで終わってしまうのであった………

なぜ魔法少女が3人になったのか…それを明かす蓮。そして再び現れる厄介な敵に3人の魔法少女が立ち向かう‼︎


次回 「連携」


3つの力を合わせて悪を砕け‼︎

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