第17話 覚悟 後編
「…良かった、みんなきてくれたね」
「蓮さん、状況はどうなってますか?」
「…え?私に聞かないの?」
第17話 決意 後編
魔獣出現時に流される様になった警報を聞いた輝達一行は司令室に着いてすぐ、味覚以外まともな方の大人に状況の確認を行なった。
「うん。それほど強力な魔力反応では無いね…今回は…」
「それならこいつに行かせてみようぜ」
「へ…?…私ですかっ⁉︎」
誰に行ってもらうかを考える蓮に輝はとんでもない提案をした。
「…輝さん…疲れてるんですよね?ごめんなさい…少しいじり過ぎました…」
「…兄ちゃん…ごめんね…こんなになるまで気付かなかったなんて…」
「お前ら後で覚えてろ…ったく違えよ。さっきも言ったろ?実際に見てみねぇとわかんねぇだろってよ。ちょうど良いタイミングじゃねぇか一応俺も着いてくからよ。どうよ、やってみっか?」
「ちょ…そんなの認める訳がないでしょ⁉︎それにデバイスだって「はい、この子が新しいデバイスだよ」無いんだし…ってあるの⁉︎」
あんまりにも突飛過ぎる提案に美月と雷葉は輝が心配になり、楓は当然止めようとした。が、その思想に賛同する者が1人いた。蓮である。彼女は楓の言葉を遮りながら風香に新型のデバイスを手渡した。だが、いきなり過ぎる展開に風香は戸惑い、そして怖気付いていた。
「そ、そんな…いきなり無理ですよ…私なんかが…戦うなんて…絶対出来ません…」
「…確かに、いきなり戦うとか…意味わかんないよね?恐いよね…?でも…それでも君の力が必要なんだ。無茶な事を言ってるのはわかってる…君みたいな子に戦ってもらうのなんて間違ってるのもわかってる…でも君ならきっと…」
「……私なんて、駄目ですよ…無理ですよ…こんな、なんの取り柄もない役立たずな私なんて…」
「はあ⁉︎それだけの身長もっといて何言って…ムグッ⁉︎」
「はい、雷葉はちょっと黙ってようか…輝さん、ここは男らしくビシッと決めちゃって下さい」
「…え…俺が何とかすんの?しゃあねぇな…ウォッホン‼︎えー、自分なんかとか言ってたらいかんよ?まだまだ若いんだから、自分に自信を」
「持てませんよ…私駄目なんです…何にも出来ないんです…ちょっとでも変われるかも…なんて思うだけ無駄だったんですよ。ごめんなさい、私は…」
「なにがだよ…」
自分には出来ないと一方的に諦め話を終わらせようとする風香に輝は遂にキレた。
「なにが駄目なんだよ……なにが出来ねぇんだよ…!なにが無駄なんだよ‼︎お前なんもやってねえだろ⁉︎……これは俺の勝手な予想だ、違ったら謝る。お前なんかやる前から無理だって決め付けたりなんかやっても直ぐにやめちまう癖とかあんだろ…違うか?」
「っ……癖とかじゃ無いですよ…自分の事は1番わかってるんです…何にも出来ない…誰の為にもならない私自身を…」
「…違うな。何にも出来ないんじゃねぇ…何にもやらねぇんだろ?」
「ち、違います‼︎私だって…変わろうと…誰かの役に立とうと色々と頑張っていたんです‼︎…貴方に何が分かるって言うんですか⁉︎何も知らない癖に…」
「…わかんねぇな…そうだよ、わかんねぇよ。だから話してみろや、お前の頑張りってのを…どんくれぇ頑張ったんだよ。ほれ、言ってみ。言えんだろ?そんだけ頑張ってたって言い張るんならよ」
「…言ったって…わかりませんよ…」
輝の問いかけに風香は下を向いてしまった。
「言えねえだけだろ?一ついい事教えてやるよ。本当に頑張ってる奴ってのはな…てめぇの事を頑張ってます。なんて言わねぇんだよ…いや言う暇がねぇ。そんなん言う暇もなく頑張ってるからな…お前の頑張ってたってのは只の言い逃れだ。それ以上でもそれ以下でもねぇ…はぁ…つまんねぇな、こんなん連れてくんなよ…俺はな…てめぇで頑張ってるって言って、そこで満足してるだけの奴が1番許せねえんだよ‼︎…顔も見たくねえ…さっさと帰れ。俺には仕事が待ってるんでね…今、一生懸命頑張ってる奴等を…そいつらを魔獣とか言う障害から守る為に戦うってぇ仕事がな…ま、お前なんかじゃぜってぇ出来ねえだろうがな…行くぞ…フレイ、変…身‼︎」
言いたい事を一気に吐き出した輝は変身し再び少女の身体になってしまった。しかし纏う雰囲気は全く別の物であり、その目には必ず魔獣を倒すと言う覚悟が宿っていた。
「…じゃあな、自称頑張り屋さん。もう二度と会う事はねぇだろうが精々暗い人生歩むこったな…ふんっ…」
捨て台詞を吐いて輝はさっさと転送ゲートから魔界フィールドに行ってしまった。
男だか少女だかよくわからない奴の思わぬ逆鱗にふれ長々と説教されてしまった風香はその場にへたり込んでしまった。
「……言い過ぎよ、あの馬鹿…風香ちゃん、大丈夫?」
そんな風香に救いの手を差し伸べたのは、今彼女がこんな目に遭っている元凶だった。しかし根が良い子である風香はそんな事は思わず目に涙を浮かべながらポツリポツリと話し始めた。
「…大丈夫…です…あの人の言う通りなんですよね…直ぐに自分には無理だって色々と諦めて…意を決して誰かの為ならなにか出来るかもって思って始めた事も長く続かなくて…それでもやるだけ良いよねって頑張ってたつもりになって…今回だってそう…アイドルになれば勝手に変われると…みんなを笑顔に出来るかもって勝手に妄想して…でもここはそう言う所じゃなくて…色々訳わからなくなって…最終的には…また逃げ出そうと…ははっ…本当に言われた通り…つまんない人間ですね…私…」
「…それじゃこれから面白くなっちゃえば良いじゃない。ほら、せっかくの綺麗な顔がそんなんじゃ勿体無いわよ?…逃げたっていい…泣いたっていい…最後に笑えればなんだっていいのよ。だから笑いましょ?スマイルスマイル♪」
励ましになっているのかわからない励ましをまたもやしている楓に呆れながらも、風香に謝罪を交えた話を聞かせた。
「…ほんと楓は…致命的に空気が読めないね…ごめんね。今回の件は風香ちゃんは何も悪く無いよ。元はと言えばこの子が変な勧誘をしたのがいけないから…でもね、これだけは覚えておいて…君には誰かを守れる力がある…自覚は出来ないかもしれないけど…そう言う可能性もあったって事を…」
「…可能性……その可能性って…まだあるんですか…?私に誰かを守れるんですか…?」
楓の励ましに耳を傾け、蓮の話に何か思う所があった風香は顔を少し上げ蓮に尋ねた。
風香の問いかけに蓮は意外そうに、それと同時に嬉しそうに…でもちょっと厳しい表情で答えた。
「…もちろん…でも、やるからには…途中で逃げだすのは…やめて欲しいかな…これは遊びじゃなくて、誰かの命を…明日を守る為の戦いだから…中途半端な覚悟ではやって欲しくは無い…かな…」
蓮の言葉に続いて魔法少女の先輩達からも、次々と言葉をかけられた。
「私からも良いかな、狩野さん…いや、風香。私達はね…命懸けで戦ってる。あんな事言ったけど最初は憧れの魔法少女になれるって…そんな感じだった。でも魔獣の事を聞いてあんな化け物に今を一生懸命生きてる人が襲われるのなんて、そんなの嫌って…心から思った…多分、雷葉も輝さんもきっと思ってる…そう信じてる。強要はしない…けど、少しでも誰かの為に命は掛けられないって思うんだったら…やめたほうがいいよ…」
美月からは自分の想いと忠告を…
「…兄ちゃんの言い方は酷かったけど、言ってる事は全部間違ってはいないと思うな。やる前から出来ないとか…そんな決め付けやっぱつまんないよ。半端な覚悟でやるのもダメだけど、最初っから出来ないって決め付けるのは面白くないよね…それにあたしに無い物を既に持ってるじゃん…例えば…いや今はやめとく…」
雷葉からは嫉妬も交えた文句を言われた風香はそれでもなかなか踏ん切りがつかなかった。
しかし彼女達の言葉は確かに胸に響いていた。
(面白くなっちゃえば良い…か。なれるかな?いや…なれるとか考えないかな…本当に面白い人って…でも…つまんないなんて言われたままで終わりなんて…嫌…誰かを守れる力があるって…わかったまま見過ごすのは…もっと嫌‼︎…だから…)「やります…私、魔法少女…やります‼︎」
1人の少女が覚悟を決めた。その時、その手のデバイスが光り輝き完全起動を果たした。
それがわかっていたかの様に蓮は優しく新しいデバイスに語りかけた。
「…良かった。無事に目覚めたみたいだね…おはようシルフ、気分はどうかな?」
[…うぅむ…悪くはない…む?そなたが妾を目覚めさせた者か…ふむ…良き眼をしておる…これは期待出来そうじゃ…]
「…おかしいな…こんな設定じゃなかったんだけど…楓、どこに行くつもりかな?」
「い、いや〜ちょっとトイレに…」
[む?おぉ楓殿、久しぶりじゃな。確か…17日ぶりくらいかの?いやはやこの話し方は楽しいのお…教えてくれて感謝しておるぞよ」
「ちょっ、シルフ‼︎」
「楓…後でお話しようね?たっっっぷりと…ね?」
[む?母上は何を怒っておるのじゃ?まあ良い。娘よ、名はなんと申す]
「あ…はい!狩野風香です。よろしくお願いします、シルフさん‼︎」
[ほっほっほ…元気の良い娘よのぅ…よろしい…それでは風香よ妾をかざし叫ぶのじゃ。そなたが思う変身の呪文を…]
「じ、呪文ですか⁉︎え、えっと…」
「シンプルで良いんだよふうちゃん‼︎」
「ふ、ふうちゃん⁉︎…とにかく…シンプルに…うーんと……風…身‼︎…とか…うわっ⁉︎」
そして風香は凄まじい突風を巻き起こしながら変わっていった。自分の弱さを受け入れ新たなる自分になるために……
吹き荒れる風と共に疾風の魔法少女の舞台が幕を上げる。
次回 「疾風」
吹き荒べ、緑の風よ‼︎
その名は…ストームハート‼︎




